*第25話 セットの花嫁

この世界には結婚式を行う習慣がない。

誓いを立てるべき“神”の概念が無いからだ。


但し披露宴は大々的に行う。

大貴族ともなれば5日間に渡り

宴会を執り行うのが通例である。


***


「まさかカルアン叔父様とサーシアが結婚するとはねぇ~」


一通り挨拶を済ませて別室で休憩していましたら、

同じく休憩しに来たチャーミィが隣に座り、

やや顎を上げた下目使いで絡んで来ましたわ。


「それ10回は聞きましてよ。

妬いていますの?」

まさかチャーミィも狙っていましたの?


「あはっ!そんな訳ありませんわよ。

身内から犯罪者が出なくてほっとしているだけですわ」

ですわよねぇ~


「叔父様のサーシアを見る目は尋常じんじょうでは

ありませんでしたもの。

いつかやらかしてダモンの叔父様に

成敗せいばいされると思っていましたの」


十二分に有り得る話でしたわね。


「チャーミィも何かされましたの?カルアンに」

触られたり揉まれたり舐められたり?


「私には見向きもしませんでしたわ。

やはりサーシアは何かされていましたのね」


あら?私だけ?


「えぇ、少し愛情表現が強かったかしら」

案外一途でしたのね・・・私だけ・・・

悪い気はしませんわね。


「何をにやけていますの?気持ち悪いですわ~」


「そう言えばチャーミィも年明けから精霊院に通いますの?」

お父様とイリアム叔父様のお話で聞きましたわ。


「えぇどうせならサーシアと一緒の方が良いでしょう?

他所よそも同じように考えている家門が多いみたいですわ。

史上初の聖女様とよしみを結びたいのでしょうね」


ナウなヤングにモテモテですわ!


「あぁサーシアここに居たんだね!大丈夫かい?

疲れたのなら退席しても良いよ?」


まぁ!ホストが席を離れてはいけませんわ!


「いいえ平気ですわカルアン、もう戻ります。

一緒に参りましょう」


“一緒に”の所で喜色きしょくが顔に出ましたわ。

分かりやすいですわぁ。


「でも大切な体なのだから大事にしないといけないよ」

それは妊婦に言う言葉ですわ!

使い処を間違えていますわよ。


「うわぁ~気持ち悪い~」

聞こえていましてよチャーミィ。

去勢きょせいしましょうか?」

お願い止めて!もう少し優しくしてあげてねルルナ。


1日目が終わり湯あみを済ませて寝間着に着替えましたの。

少しだけ薄手の生地で僅かに透けていますの。

お部屋は母屋の正室に替わりましたのよ。

今日から私はこのお屋敷の女主人ですの。


そして今夜は初夜ですわぁ~

思っていた以上にドキドキしますわねっ!

同衾どうきんは致しませんけれど。


「お休みのご挨拶に参りました。

本日はお疲れ様でしたわねカルアン」

ポカ~ンと呆けた顔で私を節穴の様な目で見ていますわ。


「あ・・・あ・・・あぁ・・・サーシア・・・

奇麗だよ、お疲れ様、疲れただろう?

お休み・・・少し話さないかい?」


支離滅裂しりめつれつですわぁ~


「御免なさいね、やはり疲れたみたいですの。

もうお休みさせて下さいましな」

可愛らしく頬に手を添え小首を傾げて、

小悪魔の様に上目遣いでお願いしますの。


「ぅふっ!・・・そぉ・・・そうだね!

うん判ったよ、お休みサーシア」


破壊力バッツグ~ンですわ!


「披露宴が終わって落ち着いたら、

二人でゆっくりお話し致しましょうね」

今度は左手を後ろに廻し、

右手で指を2本立てて少し背中を逸らしますの。


「はぁっ!サーシア!・・・サーシア!」

「お休みなさいませ~」


限界寸前の所で部屋を出ましたの。

あおり過ぎではないのですか?」

少しあきれ顔でルルナにたしなめられましたわ。


「あの情けない顔が見たくて結婚しましたのよ!」

やめられませんわぁ~

「趣味が悪いですよ」


寝室に戻り暫くすると、隣の寝室と繋がる

ドアのノブがゆっくりと回転しましたの。

残念でしたわねカルアン!

鍵は内緒で取り替えて置きましたのよ!

思った通りの展開が愉快ですわぁ~


心底しんそこから気持ち悪いですね」

コソコソと動くドアノブにルルナが指先から

バチッと電撃を放ちましたわ!

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330658226787776


「あっ!つぁ~いっ!」

叫び声と共にガッタ~ンと何かが倒れる音がしましたわ。

お部屋で暴れてはいけませんことよカルアン。


諦めなさいなカルアン。

私を妻にすると言う事は、

ルルナも一緒にめとると言う事ですの。


まぁルルナを抱くのは無理ですけれど・・・

穴が在りませんものね。


さぁ明日からも宴会は続きますわ。

寝不足で草臥くたびれた顔など御見せしたら

お客様に失礼ですもの。

十分な睡眠を取らなければいけませんわね。


「お休みなさいルルナ」

「お休みなさいサーシア」

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