*第24話 ユメ星殿下

「楽しかったなぁ~可愛かったなぁ~」


エルサーシアが王都に戻ってしまってから

3日経ってもまだフリーデルの心は

夢の中に居る様に揺らめいていた。


唇に触れた細く温かい指先の感触を思い出すと、

何故か切なく不思議な刺激が体の中を巡った。


王族としての教育を受けてはいたが、

同年代の男子に比べて

フリーデルは幼さの残る少年だった。


時折遊び相手として連れて来られるのは、

やや年上の男子であったり、

物言わぬ人形の様な女子ばかりであった。


友達になろうとするのだが、

皆一様におどおどと気を遣うばかりで

楽しさよりも悲しさだけが思い出になった。


ところがエルサーシアは違った。

礼儀正しくは有ったが、いざ遊ぶとなったら

本気で相手をして呉れた。


飛び跳ね、走り廻り、大声で笑い、

仕舞いにはおもちゃの剣での一騎打ちとなった。

囚われの姫君と勇者が戦うなど訳が判らなかったが、

とんでもなく愉快だった。


「お友達になれましたか?」

そう何時もの様にアナマリアに聞かれて、

何時もとは違う本心からの歓喜を込めて


「はい母上!とても仲良くなりました!」

と誇らしく答えられる幸せを感じた。


彼女の笑顔が瞼に焼き付き、

あの声が耳から離れない。

この苦しくも甘い感情を初恋と呼ぶ事を

フリーデルは知らなかった。


我が子のきらめく瞳にきしむ心を隠しながら

アナマリアは思った。

この出会いはこの子を傷つけるだけなのではないか?


会ってみてはっきりと分かった、

ダモンは格が違う。

パトラシアからはダモンの一族を率いる者としての

覚悟がうかがえた。


彼女は開口一番に、こう言い放ったのだ。


「我らに弓引ゆみひくお積りですの?

ならば受けて立ちますわよ」と。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330658097287948


さすがに言葉を失い答えあぐねていると更に告げた。

「ですが友人として手を取り合うのなら

ダモンは決して裏切りませんわ」

勝てる相手では無いと頭より先に心が理解してしまった。


彼を裏切る事など出来ない、

しかしその野望がついえた時に

フリーデルはどうなるのだろうかと

アナマリアは怯えた。


「パトラシア様は・・・

ダモンは御存じなのですね・・・

出来る事であるのなら、

ただ静かに暮らしたいのです。

ですがもうそれは許され無いでしょう」


「我らは中立を通します。

どちらにも肩入れしませんわ」

エルサーシアを利用するなとの最後通牒さいごつうちょうであった。


「公女様の事は承知致しました。

ただフリーデルは悲しむでしょうね・・・」

楽しそうな笑い声がここまで届いてくる。


「あら!殿下とサーシアはもうお友達ですわ!

それとこれとは別ですわよ」


「今後もお付き合い頂けるのですか?」

色々と差し障りがあるのではないだろうか。


「もちろん貴方もですわよアナマリア様。

子供達が友人であるならば当然ですわ」


アナマリアもまた友人と呼べる者が居ない。

「私もですか・・・」


「先々の事など誰にも分かりませんけれど、

もし我らの助けが必要な時は、

王都のカルアンを御尋ね下さいな。

私の弟ですの!とっても優秀ですのよ!」


素行に問題の有る人物だと彼は言っていたが、

実際は違うのだろうかと思った。

「もし・・・もしもの時は本当におすがりしても?」


「ダモンの誇りに賭けてお約束致しますわ!」

この瞬間アナマリアは覚悟を決めた。


この命が散る事になる時は

フリーデルをこの人達に託そうと。

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