第三章 学生時代

*第26話 テッカテッカの新入生

中央教会の広大な敷地の中に精霊院本院は在る。


完全な治外法権が守られ、例え敵国の人間であっても

院生はその身分と安全が保障される。


同じ敷地内に各国の大使館が設置されていて

留学生はそこから通学する。

平民が入る一般寮は各国混成と成る。


一般精霊師を育成する初等科、

下級・中級精霊師を養成する上等科、

上級精霊師を錬成する特等科が在る。


今年の初等科は聖女の入学と留学生の多さで、

何かとざわめいていた。


***


蔦の絡まる教会で朝の御祈りをするのが、

聖女としての私のお勤めですの。

これから始まる学生時代で

夢多かりし日々を過ごすのですわ!


秋の日には図書館でノートと鉛筆の匂いに囲まれますの。

そして枯葉の散る窓辺でこう言いますのよ・・・


松茸ごはんが食べたい!

と。


「エルサーシア!同じクラスだね!嬉しいな!

あっ!レイサン夫人と呼ばないと駄目なのかな?」


相変わらず元気一杯のフリーデル殿下が

ハスキースマイルで懐いて来ますわ。


「エルサーシアで宜しゅう御座いますわ殿下。

私達はお友達ですもの」


そうお友達ですわ!殿下は一切空気を読まない

お方ですので制御が大変ですの。


披露宴の場で

「結婚したんだねエルサーシア!

僕とも結婚しようよ!

そうしたら一緒に住めるよね!」

と大声で言い出した時には、

さすがに焦りましたわ。


殴り掛かろうとするカルアンを止めるのが、

それはもう大変でしたの。

「後でご褒美を差し上げますから良い子にして下さいましな」

と言い聞かせて漸く大人しくさせましたのよ。


約束ですからその夜は少し長めの抱擁と

接吻を許して差し上げましたの。


頃合いを見計らってルルナがカルアンの首筋に

ビリッと軽く電撃を飛ばして気を失わせましたの。


「『はい!そこま~でぇ~よぉ~』」

植木流精霊式スタンガンですわね!

容赦ないですわぁ~


そうそう!カルアンは元老院直参に取り立てられましたの。

憲兵隊中尉に昇進しましたのよ!


かなりの僻地ですけれど領地を拝領し

レイサン子爵を叙爵されましたの。


もう公女ではありませんわ!

レイサン子爵夫人ですわよ!

人妻ですの!


幼妻・・・卑猥ですわぁ~


「殿下、ご紹介致しますわ。

こちらはタチアーナ・チャーフ、

チャーフ公爵家公女で私の従妹ですの」


「チャーフ公爵家嫡男イリアムが娘、

タチアーナに御座います。

お初にお目に掛かります。

フリーデル殿下に置かれましてはご機嫌麗しゅう存じます。

以後お見知り置きの程を。

私の事はタチアーナとお呼び下さいませ」

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330658303940229


あらぁ?お顔が赤いですわよ!チャーミィ。


「よろしくねタチアーナ!そうだ!

今度一緒に遊びにおいでよ!

父上が馬を呉れたんだよ!

まだ上手く乗れないけど楽しいよ!」


「馬で御座いますか?

乗馬は嗜んだ事が御座いませんけれど、

殿下がお誘い下さるのであれば是非に!」


おやぁ?

随分と積極的ですわね!チャーミィ。

恋の予感が駆け抜けて行くのかしら?


「失礼しますわ。宜しいかしら?殿下にご挨拶を」


南国エキゾチックな麗人が話しかけて来られましたわ。

バルドー帝国のラミア皇女殿下ですわね。


「え?僕に?君は誰?」

それを今からご挨拶なされますのよ殿下・・・


「バルドー帝国皇帝エリトールが娘、

ラミアに御座います。

フリーデル殿下に置かれましてはご機嫌麗しゅう存じます。

こちらはオレリナ・ライランスとマイロ・ダンクスに御座います」


「ライランス公爵家嫡男モアリーが娘、

オレリナに御座います。お見知り置きを」

「ダンクス伯爵家嫡男エルビスが息子、

マイロに御座います。お見知り置きを」


「あっそう!宜しくね!

じゃぁみんなで遊びにおいでよ!」


軽いですわぁ~

ご挨拶したら誰でもお友達と言う訳ではありませんのよ殿下・・・


「まぁ!お招き頂けるのですか?

嬉しゅう御座いますわ。

ラミアとお呼び下さいな」


案外いけてましたわね。


いきなり恋敵の登場ですわよチャーミィ!

けれどもバルドー帝国の皇女殿下を王宮にご招待するのは

外交的に問題ですわよ。


ラミア皇女殿下を皮切りに自己紹介大会に成りましたわ。

ダモンの宿敵コイントからも留学生が来ていますのよ。


それにしても睨みつけながら御挨拶なさるのは失礼ですことよ!

まったくご機嫌麗しく御座いませんわ。


午後からは院内のオリエンテーションでしたの。

講義室や教練場など一通り見て廻りましたわ。

お手洗いの場所を確認するのは重要ですわ!

最優先事項ですわ!


その間もコイントのお二人が睨んで来ましたのよ。

喧嘩を売っているのかしら?

買って差し上げても宜しくてよ!


ルルナが!


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