*第27話 北の国から

「えんやぁ~めんごぃ娘だったなやぁ~!

おらぁ目ぇ潰れるがぁ思ったでよぉ!」


精霊院での初日が終わり、

大使館に戻ったギールは御国訛おくになまりを炸裂させた。


「ありゃほんに人間がや?

どっちが精霊が判らんのぉ!」


同じく興奮の冷めやらぬ様子のベリアも驚きを隠さない。


5つのコイント族の国が同盟を結び、

コイント連合国を形成している。


コイル首長国の第六王子ギールと、

ランバ首長国第一王女ベリアは

始めて見た人型の精霊と聖女となった少女の

可憐な容姿に当てられていた。


「たんびたんび目ぇ合ったでよぉ

緊張すたのぉ~、

なぁ~んも覚えちょらん」


ぐでぇ~っとソファーに崩れ落ちて

ギールは一日を振り返った。


「ワレもじゃぁ~漏れそうじゃったわえなぁ~。

んで雪隠せっちんの場所だば覚えたぞぃ!

それ大事!えっち番大事!」


エルサーシアが敵意を向けられたと感じたのは

全くの誤解であった。


「聖女殿と昵懇じっこんに成れて親父様さ言うげんど、

おらにゃ無理だぁ」


もはや泣き出しそうなギールである。


「えぎなりの本丸ぁ無理じゃ!

ねぎから攻めるべな!

戦略の“ドレミ”だべさ!」


「そりゃ“えろは”だぁ~」


コイント族にとって南下政策は数百年の悲願である。

しかしダモンを打ち破りラーアギルの峰を超える事が出来ないのだ。


何世代も敗北をし続けて来た上に、

20年程前から海路による貿易が盛んに行われる様になった。


若い世代を中心に戦を忌避する機運が高まり、

経済優先で国力を高めんとする新興勢力と、

南進主義者との間で激しい論争となっている。


ギールとベリアの親であるコイル首長国と

ランバ首長国の族長は共に経済優先派で、

オバルト王国との和平を望んでいる。


***

「ギールよ。あんのラーアギルの山より高げぇ山さあるべな」

族長アルトゥクは教え諭すように息子に言った。


「おぉ!親父様よ!

そったらいがづい山さあるでよぉ?」

世界一より高いとは如何に?

とギールは問う。


「ダモンじゃ!ダモンさ居る限り我らは南さ出れん!」

「ダモンの山さそったら高げか?」

「あぁ・・・高げ」


これからは戦よりも貿易だと

アルトゥクは何度もギールに言い聞かせた。

***


「ねぎから攻めるだば、何所さ狙うべな?」


弱気な幼馴染を鼓舞するべく、

ベリアは勢いよく立ち上がった。

「まんず従妹のダヂア~ナぁ~

・・・がらぁ~・・・」

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330658347685363


立ちくらみがした若き戦略家は、

へたり込んでしまった。


「まんず茶でも飲んで一服じゃの」

「あぃ・・・」


あれこれと思案の末に

安直な贈り物作戦に落ち着いた。

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