*第40話 モーンディアーの群れ

王都エルベルアントからテオルコイント首都

モランまでは陸路では60日を要するが、

海路を使うと20日で済む。


訪コイント使節団総数213名は5隻の大型船団を組み、

後陽の6週始めに出航し前陰の2周終わりに帰港する、

50日間の予定である。


***


「うわぁ~広いなぁ~!エルサーシア!見てごらん!すごく広いよ!」


さっきから見ておりますわ殿下。

朝から元気ですわねぇ~

海賊のコスプレで大はしゃぎですわ。


「あれが水平線かぁ~!あの向こうには何があるのだろう?」


ぐるっと一周して元通りですわ。

「あら、御存じではありませんの?」


「エルサーシアは知っているのかい?」

それでは教えて差し上げますわ!


「水平線の終わりには、虹の橋がありますのよ!」

浪漫ですわぁ~


カルアンはまだリハビリ中ですの。

傷はしっかりと塞がりましたけれど、

筋と神経を痛めていますので思う様には動かせませんの。


毎日のようにカルアンから手紙が届きますわ。

手紙は郵便精霊が運んで呉れますので

船の上でも問題はありませんの。

昨夜の内に書いて置いたお返事を出しましょう。


「『フミクバール!』」


ペリカンの形をした精霊が現れて

手紙を飲み込むとバサバサと羽ばたいて飛んで行きましたわ。

どれ程に遠く離れていても翌日には届きますのよ。


「お早う御座います殿下、聖女様、船にはもう慣れましたか?」


船団の総指揮を執られて居られますシュミッツ提督ていとくがご挨拶に来られました。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330659308226820


「おはよう提督!海賊はまだ来ないのかなぁ?」

来たら堪りませんわっ殿下!


「はっはっは!剛毅ごうきですな殿下、北の海にまでは来ませんぞ。」

南蛮ですものね。


「なぁ~んだぁ~、

とらわれたエルサーシアを

助けてあげたかったのになぁ~」


私が人質になるのは決定事項ですのね・・・


「おはよう御座いますわ提督、思っていたよりは揺れませんのね。」


船酔いでシオシオのパーかと懸念けねんしておりましたが、

ケ~ロヨ~ンでしたわ。


「好天が続いておりますからな、このまま到着すれば良いのですが。」

お天気次第ですわよねぇ。


私たちが乗船しているのは軍艦カーレス号と言いますの。

艦長のパウサール少将はダモンの民ですのよ!


それと甲板長のマリーヌ、航海士のゴースン、

操舵手のリージットは三姉妹で

軍艦カーレスの魔女と呼ばれているそうですわ。


「提督!二十刻の方向にモーンディアーの群れを発見しました!」

パウサール艦長が大声で警告を発します。


「なにっ!狙われたのか?」

「こちらに向かって来ます!」


何事ですの?


「艦長室に避難を!危険で御座います!」

乗組員は戦闘態勢に入りましたので、

私たちは退避を致しましたわ。

ゴースン中尉が付き添って下さり、状況を説明して下さいましたの。


「モーンディアーと言うのは巨大なアシジュポンの事です。

非常に凶暴で、なんにでも見境なく襲い掛かるのです。」


まぁ!

まるでタイガー・ジェット・スンですわね。


アシジュポンと言うのは日本で“イカ”と呼ばれている軟体動物の事ですの。

ちなみに“タコ”はアシハポンと言いますのよ。


それはともかくとして、騒がしくなりましたわねぇ~

折角の船旅が台無しですわ。

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