*第87話 小指の思い出

バルドー帝国はデカシーランド独立に際して幾つかの条件を付けた。


1.オバルト軍の即時撤退

2.帝国民の財産と権利の保障

3.大使館の設置と外交官の治外法権

4.安全保障条約に基づく駐留軍の容認

5.通商保護条約の締結


これらの意味する所をデカシーランド新政権は理解できなかった。


後ろ盾を失い、利権を手放し、

無条件の外交特権を許し、

常にクーデターの危険を抱え、

経済を支配される。


帝国の言葉巧みな交渉術によって、良い様に転がされた。


オバルト側がそれに気が付いた時には

帝国と新政権との合意文書が教会に提出され承認されてしまっていた。


骨折り損の草臥くたびれ儲けである。


***


ルルナの話では、賃貸契約の手続きを魔法化する事を

システムが承認すれば、契約精霊を貸出せるそうですの。


「具体的にはどうしますの?」

手続きの魔法化と言えば、親子鑑定がそうですわね。


たしか血液を使いましたわね。

他人の血は平気ですけれど、自分の血を見るのは嫌ですわ。


「契約書に呪文を書いて、双方の血液を垂らします。」

やっぱり!ですのね・・・


「痛いのは嫌よ!」


「一滴で良いのですよ、針でちくっとするくらいで。」

仕方が無いですわね・・・


「それで呪文はどうしますの?」

「それはサーシアが考えて下さいよ。」


現象を表現する言葉ですわね。

そうですわねぇ~

何が良いかしら?


本来なら使えない魔法が使えるのだからお得ですわよね!

お得感の有る言葉と言えば、あれしか思い浮かびませんわね。


『乗ってる 乗ってる

乗ってる 乗ってる

とーちゃんが かーちゃんに


乗ってる 乗ってる

乗ってる 乗ってる

とーちゃんが かーちゃんに


かーちゃんに乗れば

安上り』


「どうして!そんなに下品なのですか!」


そんなに怒らなくても・・・

「では他のにしますわ。」


「もう承認されましたよっ!」

システムが良いと言うのだから、

良いではないの・・・


「シモーヌを呼んで来て頂戴な。」

「はい姫様」

アリスが呼びに行きましたの。

その間に契約書を用意致しましょう。


何ですか~?師匠。これから稽古ですねんけど

「ここに署名しなさいな。」

何ですのん?これ。また変な事ちゃうやろな

「契約書よ。」


何の契約書ですのん?イヤな予感しかせんわ~

面倒臭い子ねぇ。


「良いから早くなさいな。」

貴方に拒否権は無いのよ!


わかりました~これで宜し~ですかぁ言い出したら聞かんからな~この人?」

ふむ、次は血ね。

「小指を出しなさいな。」


「エ!エンコ詰めますのん?!

ウ、ウチなんぞヘタ打ちましたん?」


「そんな物騒な事はしませんわよ!」

ハイラムでもあるまいし!


精霊の賃貸契約だと説明して納得させましたの。


ウチが上級魔法をめっちゃ嬉しー・・・夢みとるんかなめっちゃ嬉しー?」


かなり嬉しいようですわね!

そうでしょうとも、そうでしょうとも。


「少しチクッとするわよ。」

優しゅうして下さいね師匠。勉強しまっせ!上級魔法!

「分かっていますわ。」


「ほなお願いしまぁ~あああああグサッ!グリグリグリ

痛い!痛い!痛い!グリグリグリグリ

入れ過ぎ!入れ過ぎ!ズリッ!ズリッ!

先っちょだけ言いましたやんやっぱりこの人頭おかしい

師匠!師匠!抜いて抜いてもう耐えられへん

当たってる!当たってる骨に~骨に当たってますぅ~

奥まで入ってるから~神経刺しとるさかい~

イクッ!イクッあの世に行ってまう~

ひぃぃぃぃぃぃもうアカ~~~ン!」

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330661844088427


シモーヌが逝ってしまいましたわ。

ドMでしたのね!


十二支ちゃん達に交代でシモーヌに付いて貰う事にしましたの。


魔法は私が直々に教えて差し上げますわ!

可愛い弟子の為ですもの。

心を鬼にして鍛え上げますわ!


一個師団を潰せるくらいには仕上げませんとね!

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