*第116話 開戦前夜

ニャートン帝国の祖は横井大志のクローン体である。

しかも妻を娶らず、自らのクローンに後を継がせるのだ。

クローン製造技術はニャートン家が独占している。


「陛下、あんジンムーラのばかちんがぁ、逆ろうごたるですばい。」

呆れたと言わんばかりに奏上するのは、宰相シューデレングである。


「あーもーせからしか地ゴローたい!

こっことしゃがして、

首たんばねんしゃい。」


若く気の短い皇帝は、意に添わぬ者を許容しない。

ケポラー元帥を総大将とするジンムーラ征伐せいばつ軍が編成された。


作戦本部がバルドー帝国に設置され、

陸軍司令官にマクチェル将軍、

海軍艦隊司令官にはキュアリー大将が任命された。


第一次派遣軍は陸軍20万、

軍艦200隻の規模である。

バルドー帝国軍45万、軍艦400隻。


対してジンムーラ連盟軍総勢80万、軍艦1200隻で迎え撃つ。

数の上では連盟軍がまさっているが、

戦力的にはニャートン側にが有る。


ジンムーラは“剣と魔法”の大陸であるが、

ニャートンは“科学と魔法”の世界なのだ。

末端の一兵卒が手にしているのは銃火器である。


しかも第二陣、三陣と戦力が追加投入されれば、数の優位さえ消滅する。

単純に分析するとジンムーラに勝ち目は無い。


「ちくっと喰らわして終いっちゃね。」

キュアリーは退屈そうに欠伸をしている。


「楽勝たい。」

マクチェルも勝利を確信している。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330663727206019


その様子を見てカヒは不安になった。

彼らは聖女を知らない。


あらゆる常識を覆し、

傍若無人ぼうじゃくぶじん跳梁ちょうりょうし、

冷酷れいこく無比むひ跋扈ばっこし、

唯我独尊ゆいがどくそんに暴れまわる。


「聖女を甘く見てはなりませんぞ。

百万の兵よりも一人の聖女が恐ろしいのです。」


しかも神出鬼没しんしゅつきぼつなのだ。


「なんも心配せんでよか、任せんしゃい。」

「聖女んごたるんば、おい達ん法師んが打ち取っち呉りょうばい。」


(あぁ・・・分かって無い・・・)


カヒは、これまでに何度も説明し、警告をして来た。

聖女とは即ち“不条理”であると。


此度の戦は必勝に間違い無い筈だ。

いかに聖女と言えどもくつがえす事など出来ない筈だ。


なのに不安で堪らない。


(ふぉっふぉっ、また負けるぞい)

(そんな事は無い!そんな事は・・・)

(泣かないでね、カヒ)


(なんか・・・泣きたい・・・)


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