第五章 青い山脈

*第42話 帰れコイントへ

コイントとダモンを隔てるラーアギル山脈。

秀峰しゅうほうチョチョリーナを有する、

民族の分水嶺ぶんすいれいである。


白銀の万年雪におおわれたこの峰々を、

しかしコイントの民は

悲しみと希望を込めて“青い山脈”と呼んだ。


***


やっぱりおかの上が最高ですわねぇ~

まだ体が揺れている様な気が致しますわ。

港に降りた時は大地が揺れているのかと思いましたの。


殿下もバランスを取るのに苦労なされた様で、

蟹股がにまたで両腕を体側たいそくに付け、

手首を90度曲げて体をぴょこぴょこと上下させておいででしたの。


いわゆる“ヒゲ踊り”ですわね!


朝早く目が覚めましたので、

夜明けの海岸を散歩しておりますのよ!

潮風が少し肌にまとわり付きますけれど、

いそ潮騒しおさい生命いのち息吹いぶきを感じますわ。


気分が良いと鼻歌でもひとつ歌いたくなりますわね!


『ふ~ん♪ふ~ん♪

ふん♪ふん♪ふ~~~ん♪


チャランカ♪

チャンチャカ♪チャンチャカ♪

チャンカ♪チャンカ♪チャンッ♪


ピョッ!


ゲッ♪ゲッ♪

ゲッゲゲのゲぇ~♪


今日ぉ~は朝からウンコしたぁ~♪

紙が無い~♪紙が無い~♪

お手てで拭こ~ぉかぁ~~~♪

そ~の手~を舐~めよぉ~かぁっ♪』


「それ何の歌?エルサーシア!」

「ぎゃぁぁぁ~~~!」


急に後ろから話しかけないで下さいましっ!

淑女の仮面が剥がれ落ちましたわ!


「お、おはよう御座いますわ殿下。」

「おはようエルサーシア!今のは精霊歌?」


と~んでも御座いませんわぁ~

「えぇそうですのよ!」


「精霊歌が歌えるなんて凄いね!エルサーシアは!」


もう精霊歌で通しますわ!

「お褒めにあずかりまして光栄に存じますわ殿下。」


「どんな意味があるの?」


それをお聞きになりますの・・・

「どんな苦難が待ち受けていても、

必ず乗り越えて行けると言う励ましの歌ですのよ!」


真っ赤な~~~嘘っ♪ですわ!


「僕とエルサーシアにピッタリだねっ!」

「まぁ!お上手ですこと。」

「え?何がぁ?」


何がぁ?と言われましても・・・

社交辞令ですわ・・・


今日はこの港町で体を休めて、

明日はテオルコイントの首都モランへ向かいますの。


領主様のお屋敷にお世話になっておりますのよ。

船旅の疲れを取る為に、

歓待は控え目にして頂いておりますの。

それでも是非に!と乞われて、

今晩は歓迎会がもよおされますのよ。


***


劇場を貸切っての行事になりましたわ・・・

有難迷惑ありがためいわくですわぁ~

それでも民族舞踊や大太鼓の演奏は大いに楽しめましたわ!


締め括りに領主様がコイント民謡を御披露なされるそうですわ。

でっぷりとした童顔に口髭が可愛らしいですわ。


「えぇ~それではお聞き下され、

我らコイントの魂の歌で御座いまする!

コイント民謡 帰れコイントへ


麗しの海~よ~♪遥かなる山~よ~♪

愛しい人の声ぇ~♪この胸に響~く~♪


遠く離~れ~♪帰れじの空~に~♪

届けておくれ~♪せめて心を~♪


あぁ~コイント~♪帰り~た~い~♪

帰れ~コ~イ~ントへ~♪

心よ~帰~れ~~~♪」


良い歌ですわぁ~

テノールの澄んだ声が素敵でしたわぁ~

思わず涙がちょちょぎれましたわぁ~


「サーシアの鼻歌とはえらい違いですねぇ~」

ほっといてんかっ!

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330659441513725


なんでチコタン死んだんやぁ~~~

ですわぁ~~~~~~

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