*第63話 黄昏~On Golden Pond

生まれてから3歳くらいでは

自分が何者であるかと考える事も無い。


5歳で周りと比べて違いに気付く。

10歳ともなると立ち位置が判る様になり、

20歳で世の中にいきどおる。


30歳の春に若さを懐かしみ、

40歳の夏に溜息を付き、

50歳の秋の夜長に人生を振り返る。


冬に体が軋む60歳、

残りの時間を数える70歳、

自分が何者であるのか分からなくなる80歳。


そして死ぬ間際になってようやく、

自分は何者でも無かった事を、

人は思い出す。


どの様な境遇に生まれ、どの様な人生を歩み、

どの様な最後を迎えるにしても、

誰もが同じような感慨かんがいひたる。


ただ生まれて生きて死ぬ。

命とはその様なものである。


だからこそ元来にして自由なのだ。


***


「お嬢、この先に小川が在るざんす。そこで休憩するざんす。」

「ケーンサン、私はもう“お嬢”ではなくてよ。ひ孫もいますもの。」

「ワ!ワシにはお嬢は、ずっとお嬢のままざんす!」

「まぁ!ケーンサン・・・」


いい加減にして欲しいですわ・・・


同じやり取りを繰り返されるとレコードの溝掃除を想い出しますわ。

あれって何故か絶妙のタイミングで音が飛びますのよねぇ。


金太負けるな~♪金太負けるな~♪

金太まブツッ!金太まブツッ!金太まブツッ!


懐かしいですわぁ~


我慢もそろそろ限界ですわ。

「やはり私は後ろの馬車に----」

「あら駄目よサーシア、此処に居て頂戴な。」


なじょしてぇ~~~

「左様で御座いますか・・・」


幼気いたいけな少女に老楽おいらくの恋を

見せ付ける積りですわね。


「どうして貴方は跡目を継が無かったの?」

そう言えば先代の若頭でしたわね。

「ぼんが居るざんすから。」

現国王の事ですわね。


「兄様は貴方に継がせたかったのよ?」

ハイラムは実力主義ですものね。

「ワシはそんな器じゃぁ無ぇざんす。」

「そんな事は無いわ、誰もが認めていたわ。」

「不器用ざんすから。」


うっとりする程の渋さですわねぇ~


ゲートを使えばこの様な黄昏たそがれ劇場からも解放されるのですが、

ルルナと私の特級魔法はプライベートな用事にしか使わないと決めて居りますの。


公私混同は致しませんわ!


***


やっと・・・やっと着きましたわ!

勢いで接吻するかとドキドキする毎日でしたわ。

私が居なければ最後までしていましたわね確実に。

歯止め役にされましたわ。


自由ですわ~~~~~~


目の前にはハイラムの代紋が描かれた扉が在りますの。

これから国王陛下と謁見致しますの。

この時の為に王后陛下に特訓を受けましたのよ!


ハイラムは仁義にうるさいお国柄ですの。

特に初対面の挨拶で切る仁義をしくじると相手を侮辱した事になりますの。

場合によってはその場で落とし前を付ける羽目になりますのよ。


怖いですわぁ~

もし失敗したら証拠隠滅の為に目撃者を全員皆殺しですわね。


開始を知らせる太鼓の音が響きますわ。


ドド~ンド~ン!

「御免下さりなされませ~

どなた様も御無礼ごぶれい御容赦ごようしゃ願いまする~」

ド~ンド~ン!

「お入りなされ~お入りなされ~」

ド~ンド~ン!

「失礼様に~御座んす~」

ド~ンド~ン!

「近こうに~近こうに~」

ド~ンド~ン!

「有難う様に御座んす~

ひけぇなさって~お控ぇなさって~」

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330660754605445


ド~ンド~ン!」

「申しませ~申しませ~」


ドド~ンド~ン!


「ハイラム国王クロビー陛下と

お見受け致しまする~」

ドド~ンド~ン!

「如何にも~クロビーで~あ~~~る!」


ドド~ンドド~ンドド~ン!


「お初にお目通り叶いまする~

手前生国はオバルト~

北はラーアギル山脈の麓~

ダモンの里に生まれし者にて~

ダモンの棟梁ヘイルマの娘ぇ~

縁あってチャーフ家の門をくぐりぃ~

カルアン・チャーフ・レイサンの妻と成りて~

姓はレイサン~名をエルサーシアと~

名乗りし者にてぇ~

御座んす~

向後きょうこう万端ばんたんよろしきの計らい~

御願おんねがい申し上げまする~~~」


ドンドンドンドン!

ドドォ~~~~~ン!


「お客人!お見事ざんす!」

「恐れ入りまして御座んす!」


はぁ~~~~~~

無事に乗り切りましわわぁ~

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