*第92話 叶える夢

価値観には四つの視点がある。

主観、客観、相対、絶対の四視点である。


例えば目の前に“バナナ”が在るとする。


貴方はバナナが“好きか嫌いか”?

それは主観である。


世間にバナナの需要は有るか?

それが客観である。


同じ重さのリンゴと、どちらが高価か?

それが相対である。


バナナとリンゴは違う種類だと認識する。

それを絶対的価値観と言う。


優劣や順位は主観と相対によって派生し、

存在の確かさは客観と絶対によって決定される。


世界は見れば見るほどに果てしない。


昇節の前日、夜中に産気づいたエルサーシアは、

彼是かれこれ、二十刻余り格闘していた。


それまでは全く気にして居なかったが、

いざそう成ると昇節の日に産む事が、

特別の価値が有る様な思いに取り憑かれてしまった。


エルサーシアの脳はアドレナリンで

ビチョビチョであった。


***


「もう良いから!早く産みなさいっ!」

「嫌ですわっ!今産むくらいなら死にますわぁ~!!」


何が何でも昇節の日に産みますのよっ!


「お母様だって粘ったではありませんかっ!」

「私の時は3人目よっ!貴方は初産ういざんなのよっ!」


ぐううううううう・・・

いいいい痛いですわぁ~~~


「まっ!まだ正午ではありませんのっ?!」

「もう正午よっ!昇節になったから産みなさいっ!」


嘘つきですわ~~~

ぎいぃぃぃぃぃ~~~


お願いよっ!

もう少しだけ我慢して頂戴っ!

いっぱい愛してあげるからっ!


ゴォ~~~~~~ン♪

ゴロォ~~~~~ン♪

ゴロォ~~~~~ン♪

ゴォ~~~~~~ン♪


来たぁ~~~!

正午ですわぁ~~~!


ぐふううううううううううう!

うぉおおおおおおおおおおお!

いでででででででででででで!

あだだだだだだだだだだだだ!


「頭が見えたわよっ!もう少しよっ!」


はひぃぃぃ~~~~~~

あひぃぃぃ~~~~~~


「ほらっ!イキんでっ!」


どりゃぁ~~~~~~!

おりゃぁ~~~~~~!

ちぇすとぉ~~~~~!


「もう一声っ!」


よっこい!しょ~いち~~~!


う・・・生まれた・・・鼻水をすすって!おしり叩いて!

はぁ~~~ほら!泣きなさい!

生まれたぁ~~~パンッ!パンッ!パンッ!


しょ~いちで生まれた・・・ギ・・・ギャァ~~~!

恥ずかしながら産んでしまいました・・・ギャァ~~~!ウギャァ~~~~!


あぁ・・・この子が・・・はぁ~~~もう大丈夫よ!女の子ねっ!

私の・・・サル?サーシア!女の子よっ!


確か私は人間ですわよね?

サルの子を産んだの?

カルアンはサルでしたの?


けれどなんて可愛いのかしら!

世界一可愛いサルですわねっ!

大丈夫ですわ!

私が貴方のお母様ですのよ!

私が貴方を人間にして差し上げますわ!


ルルナが顔をグシャグシャにして泣いていますわ。

近頃は、めっきり人間っぽく成りましたわね。


「お母様、この子に名を授けて下さいまし。」

我が家の伝統ですわ。


「えぇ、この子の名はリコアリーゼよっ!」


「リコアリーゼ・・・」

良い名ですわ。

叶える夢リコ・アリーゼ”ですわね!


ちなみに私は“貫く信念エル・サーシア”ですのよ。

古代ダモン語ですの。


***

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330662025681807

アリーゼが生まれて10日が過ぎました。

母乳の出が余りかんばしくありませんの。

まぁ乳母が居ますので問題はありませんけれど。


折角ですもの、自分の母乳で育てたいですわ。

カルアンに母乳マッサージをする栄誉を授けて差し上げましたの。

油断すると吸い付くのでルルナが傍で監視していますのよ。


「首が座ったら精霊契約でちゅねぇ~」

アリーゼを抱っこしながらルルナが言いましたの。

そうです・・・わね?


え?


「今、精霊契約と言いましたの?」

そう聞こえましたけれど・・・

「えぇ言いましたよ。」


「生まれたばかりですのよ?降霊の儀は10歳ですわよ?」

何を言っているのかしら・・・


「あぁ~あれは人間が勝手に決めた事ですから。」

えぇ~!なんですとぉ~?

「祝詞は?祝詞はどうしますの?」

まだ言葉を話せませんわ!


「え?そんなの必要ありませんよぉ~」


そんな・・・

私の10歳の羞恥心を返して・・・


ルルナ曰く、

そもそも最初の四始祖は降霊の儀など行わずに

精霊と契約しているとの事ですの。

祭壇さえ在れば契約出来るそうですの。


呪文だの祝詞だのは契約後に彼らが作ったのですもの。

よくよく考えたら道理ですわよねぇ~


それならそうと・・・

早く言って下さいまし・・・


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