第二章 なのに私は王都へ行くの

*第16話 カルアンへの道

オバルト王国では法と秩序の番人として

元老院直轄の憲兵隊が組織されている。

違法行為の摘発を任務とする捜査部と

市中の安全を維持する治安部が在る。


人事は元老院直参の高官、

軍や騎士団から派遣された士官、

現地雇用の下士官と三層構造になっている。


元老院は4人の選帝侯と大公家当主および

精霊教会教皇で構成される。


元老院の設置は、支配し統治する領域が主権国家であることを

教会と周辺国から承認される為の条件の一つとなっている。


***


婚約が決まってからと言うもの3日に上げず

叔父様から手紙が届きます。


内容は“憲兵隊の仕事が充実している”とか

“毎日が夢の様に幸せだ”とか

“君への愛が全てだ”とかを日常の細かい出来事と共につづっています。


恋文なのか報告書なのか判らなくなりますわ。


ルルナに見せたら口をへの字に曲げて

「気持ち悪いですね」と不評でしたわ。

このどうしようもなく残念な所が叔父様の可愛らしさですのに。


仕事も私生活も空回りしているのが手に取る様に分かりますわね。

叔父様は私が傍にいて差し上げ無いとダメな人なのですわ。


「あの子は昔から素直で良い子だったのよ!

優秀すぎて周りから妬まれたの。

チャーフが文官の家柄だから虐められたのね。

騎士団もろくなものでは無いわね!

それでも負けずに憲兵隊で頑張っているの!」


相変わらずの贔屓目ひいきめが見事ですわ・・・


「あの子を支えてあげて頂戴ねサーシア」

私の手を取り目に涙を浮かべて

お母様は優しい微笑みを下さいます。


「もちろんですわ。お母様」

相変わらずの強烈な谷間ですこと・・・


王宮からも手紙が来ていますわね。

国王陛下からの呼び出しと、

王后陛下と王妃殿下連名でのお茶会のご招待に、

フリーデル王子殿下からもお誘いが来ていますわ。


教会からはルルナの精霊王認定と、

聖女としての就任を受ける代わりに

元老院が後ろ盾について下さるとか。


婚姻の成立をもって叔父様を元老院直参じきさん

取り立てて頂けるそうですのよ。

夫の出世を後押しするのも妻の務めですわ。


夏の盛りも終盤を迎えました。

王都へ向かう準備も整いましたので、

到着の日取りを記した手紙を、

黒いインクで青い便箋びんせん

心模様をしたためております。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330656924557483


「20日間も馬車に乗るのは憂鬱ですわ・・・」


(二人を隔てる距離の遠さが恨めしゅう御座います。)

と書いて置きましょう。


「楽しみでは無いので御座いますか?」

マルガリテが意外そうな顔をしています。


「叔父様にお会い出来るのは嬉しいのだけれど、

座り続けるのが退屈なのよ、3日が限度ね」


(一日でも早くお会いしとう御座います。)

と書いて置きましょう。


「本でも読めば時間が潰せますよ」

ルルナが提案して呉れたのですが却下ですわ。


「あぁ私ダメですの。酔ってしまうの」

うんうんとマルガリテが頷いていますわ。


(手紙を読むたびに恋しくて眩暈めまいが致します。)

と書いて置きましょう。


「ゲートを使えば一瞬で着きますよ」

へ?ゲート?

「なんですの?それは」


「現在地と目的地にゲートを作って、

間の距離を無いものとして扱うのですよ」

「転送しますの?」

いわゆるエンタープライズ的な?


「原理的には全く別物ですが、結果的には同じですね」

「馬車でも通れますの?」

「サーシアと私で発動すれば余裕で通れます」


なんと!そんな便利な魔法が有りますのね!


「どうして今まで言わなかったの?」

「今、思い付きましたから」


え?思い付き?


「大丈夫ですの?危険では無くて?」

通り抜けたら体が裏返るなど嫌ですわよ・・・


「えぇ百万回のシミュレーションの結果、

問題無しと判定しました」

仕事が早いですわぁ。


「そうなのね。なら良いわ」


ところでこの手紙はどうしましょう・・・

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