*第14話 カルアン危機一髪

6日間を強行で走り抜けたオルエルトは、

一旦ダモン家お抱えの商会へ向かい

業者に扮装してチャーフ公爵家に向かった。


名代として大役を担ったオルエルトは、

チャーフ公爵家の執務室にて

当主フランコ・チャーフ公爵から

感謝感激を雨あられの様に振りかけられていた。


「夢ではあるまいな!姫をカルアンに下さると!」

「書状の通りで御座います。一刻を争います、

明日貴族院におもむき手続き致します」


提出書類は揃えている、公爵とカルアン本人の署名があれば準備万端である。

第二王子派の連中が気付く前に処理しなければならない。


「まだ捕まらぬのか!

何所をうろついておるのだ!あ奴は!」


相変わらずの遊び人だな、

我が妹は何を気に入ったのだろうか?

とオルエルトは嘆息たんそくした。


カルアンは幼い頃から姉パトラシアの言い成りだった。

パトラシアの言う事は何時も正しく、

パトラシアの行動は総てが正義だった。


姉上を見て居たい、姉上の声が聞きたい、

姉上に触れていたいと熱望した。

姉上に見て欲しい、姉上に聞いて欲しい、

姉上に触れて欲しいと渇望かつぼうした。


パトラシアが騎士に成れと言うから

騎士を目指した。


ある日突然、絶望がカルアンを襲った。

パトラシアの縁談が決まったのだ。

しかも相手は北方の英雄だ。


自分とは比べ物にならない大物に嫁ぐ姉を、

ただ笑って見送るしかなかった。


パトラシアへの恋慕れんぼを断ち切れないまま

カルアンは騎士になった。

姉上が戻って来るかも知れないと妄想する日々を過ごした。


パトラシアが双子を生み、

我が子を愛しそうに見つめる姿に嫉妬した。

笑顔の裏で双子に殺意を抱いた。


数年後、パトラシアが女の子を生んだが、

騎士団の任務で国境へ配置されていたカルアンは

仕事を理由に帰省きせいする事は無かった。


エルサーシアと名付けられたダモンの姫と初めて対面したのは、

姫が2歳の時であった。


一目見た瞬間にカルアンは激しく後悔した。

2年もの成長を見逃したと己の愚かさを罵倒した。


この子こそ姉上の子だ!

なんと愛らしいのだろう!

もう諦めない必ず手に入れる!


パトラシアへの歪んだ愛情は、

更に妄執を強めエルサーシアに受け継がれた。


直ちにカルアンは行動した。

王都の憲兵隊への出向を願い出た。


憲兵隊分隊長として騎士団から騎士が派遣される事があるが、

実際には左遷による閑職かんしょくであり、

以降の出世は望めない。


それでも王都での常駐を優先した。

王都にさえ居れば姫に合う機会が増えるからだ。

どうせ出世を望んだ所で高が知れている、

姫に見合う訳が無いのだ。


それならば無理やり奪ってしまえば良いとカルアンは決意した。

今は駄目だ!

手を出したら殺されてしまう。


しかし妊娠させてしまえば、

その父親を殺しはしないだろうと考えた。


カルアンは待った。

青い果実でも良いのだ、

子を産める体であればそれで良い。


もうすぐだ・・・

もうすぐ手に入る・・・

カルアンは既に狂人であった。


チャーフ公爵家の執務室で、

父公爵と兄と甥を前にしてカルアンは震えていた。


***


「ゆ、夢ではありますまいな!姫を私に下さると!

アハ・・・アハハ・・・ついに・・・ついに姫が!

アハハハハハハハハ!!!

ワハハハハハハハハ!!!」


「お、おい、落ち着けカルアン!」


「ウヒャヒャヒャヒャヒャ~~~~!!!」

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330656774407902


カルアンは破滅の瀬戸際で救われた・・・のか?



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