*第13話 センチメンタルなジャーニー

後世に四始祖と呼ばれる事になる若者たちが

この世界に転生したのは、

明よりも更に20年前にさかのぼる。


当時16歳の高校生だった伊予 克敏いよ かつとし

20歳の大学生 横井 大志よこい だいし

同じ大学の同期 柿本 光一かきもと こういち

18歳予備校生 寺島 真司てらしま しんじ


四人はネットを通じて知り合い、

同じコスプレサークルに参加していた。


伊予は小柄で華奢な体格と

少女の様な顔つきで“いよちゃん”と呼ばれ

男の娘として大切にされた。


その日サークルのメンバー達は、

夏の大規模イベントで販売する

同人写真集の作成の為に雑居ビルの

5階にある貸しスタジオで撮影を行っていた。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330656699658386


撮影を始めて小一時間が過ぎた頃、

俄かに煙が部屋の中に充満してきた。

警報も消火設備も作動しない。


慌てて逃げ出したのだが、

伊予は3か月掛けて手作りした衣装を

諦め切れずに引き返してしまった。


一度は外に出た3人だったが

伊予が居ない事に気が付き、

周りの制止を振り切り助けに戻った。


消防車が到着した時には3階から上は

黒煙と炎が凄まじく救助は不可能であった。


4時間後に鎮火したビルの一室で、

一人の少年を三人で包む様にして

絶命している彼らが発見された。


彼らがこの世界に転生した当時、

人はまだ精霊と契約する術を知らなかった。

不思議な声に導かれ遺跡の祭壇で再会を

果たした彼らは最初の契約者となった。


各地に点在する遺跡を巡る旅をしながら

精霊契約と魔法を広めた。


地球とこの世界とでは時間の流れが異なる。

地球での1年は、この世界の250年。


四始祖の生きた時代から5千年が過ぎた。


***


「彼らと私のサーシアとでは格が違うのです。

貴方達を頼る必要はありません」


私のルルナが大司教様に引導を渡します。


「聞いての通りだ手を引くが良い」

泰然たいぜんとお父様が止めを刺します。


「しかしながら閣下、いずれ公女様も王都の精霊院に通われます。

それなりの体制を取って置かねば混乱は必定ひつじょうで御座います。

出家などとは申しませぬ、

我らが盾となり謀略から公女様をお守り致しますゆえ

何卒なにとぞ、守護の任を教会にお申し付け下さいますよう」


出家はしなくても良さそうですわね。


「虫よけか・・・

一考の余地はあるかも知れぬな」


年内には王都に呼び出されるでしょうから、

それまで検討する事で了承しました。


午前の会談が終わり一先ず自室に下がりました。

お父様の強烈な色気に当てられて、

何かと気まずい汗をいてしまいましたので

軽く湯あみをしてサッパリ致しました。


朝から濃い時間を過ごしましたわ。


午後からは王太子殿下との会談ですわね。

お父様と殿下は従兄弟同士で年も近く、

幼少のみぎりよりご友人ですので

難儀なんぎは御座いませんでしょう。

ルルナも殿下の事はお気に入りの様ですしね。


「教会は姫を寄越せと言って来たのだろう?」


優雅な仕草でお茶を口にしながら

殿下が切り出しました。


「まぁそんな所だが、詳細を教える事は出来ないよアンディ」


「まさか承知したのではあるまいね?ヘイリー」

殿下もお分かりですのに、

わざわざお聞きになりますのね。


「心配して呉れるのは嬉しいが、

教会におもねる程腑抜ふぬけではないよ」


師子ししおうの如きお父様のお姿を

殿下にも御覧頂きとう御座いましたわ。


「此度の件ではジョンソン候も動いている」

ん?陛下の侍従長が何故ですの?

「あぁサンドル卿だな」

確か宮内省代理の方ですわね。


「恐らく姫とフリーデルの婚姻を持ち掛けてくるだろう」


フリーデル殿下とは面識が有りませんわ。

まだ10歳のお子様でしたわね、

同い年ですけれど・・・


「うむ、訪問団の名簿を見てすぐに気が付いたよ。

うちも舐められたものだね」


「そんな話に君が乗るわけが無いのは分かっているのだが、

父上がな・・・

フリーデルの為なら無理を通しかねん」


「忘れたのかい?我らには拒否権がある」


「あぁ君を信じるよヘイリー。

しかしそろそろ姫の縁談は考えているのかい?」


そういえば私も成人ですわね・・・


「本当はまだまだ手元に置きたいのだがな・・・

この状況では無難な相手を探して

早めに嫁がせた方が良いのかも知れぬな」


私お嫁に行くのですか?

お父様・・・


「姫はどの様な相手が良いのかな?」

殿下にいきなり話を振られたので慌ててしまいました。

「カ・・・カルアン叔父様?」


あら?私は今なんて言いましたかしら?


「サ・・・サーシアはカルアンが好きなのかな?」

え~どうしましょう・・・

見も知らぬ方に嫁ぐよりも叔父様の方が良いのかしら?

ロリコンですけれど・・・

大事にはして下さいますでしょうし・・・


「はい・・・お父様・・・」

言ってしまいましたわぁ~


ドゥッと音を立ててソファーに体を沈め、

額に手を当てたままの姿勢でお父様が

家宰のエドアルドに指示を出します。


「直ちにオルエルトを呼べ、

名代みょうだいとしてチャーフ家に早駆はやがけけさせる。

カルアンとの縁談を取りまとめるのだ」


「御意のままに」


急展開ですわ・・・

キラキラと瞳を輝かせて「結婚するの?」と

ルルナがささやいて来ますわ・・・


「随分と気が早いね。私はその方が有り難いが」

心配そうに殿下が私を気遣って下さいます。


「サーシアが好いているのなら是非も無い。

それに案外妙案かも知れぬ。

あ奴であれば政局に影響を及ぼす事はなかろう」


そうですわ!無難が一番ですわお父様!


急な私の縁談話にお母様もお祖母様も

大変驚かれていらっしゃいましたが、

「貴方が望むなら」と賛成して下さいました。


そして数日続いた会談を乗り切り、

最終日もつつが無くお勤め致しました。


オルエルトお兄様が王都に向かわれて

5日目になります。

兄様は高速移動の魔法が使えますので、

明日にはお着きになるのではないかしら。


「私とカルアン叔父様が結婚してしまえば

陛下もあきらめるわよね?」


日記をしるしながらルルナと

おしゃべりをしています。


「簡単には進まないでしょうね」


香草のお茶をたしなみながら

ルルナが不穏な事を言います。


えぇそうなのです。

ルルナは普通に飲食を致します。

精霊なのに・・・


でも出しませんのよ!

何所いずこに消えるのかしら?


以前どうしても気になって確認しましたら、

穴が有りませんでしたわ。


穴も無いのに何故割れ目が有るのかと聞きましたら

「割れ目が無いとパンツが食い込まないから」

と答えましたわ。

結構な職人気質かたぎですわね。


「いっそ駆け落ちしてしまおうかしら」

叔父様に平民の生活力が有ると良いのだけれど・・・

共働きですわよね。


「妊娠してしまえば解決しますよ」

「その手が有りましたわね!」


「初潮もまだですけどね」


そうでしたわ・・・

早く来ないかしら生理・・・


カルアン叔父様は現在26歳。

まだ青二才ですわ。

本当はお父様くらいの方が好みなのですが、

さすがに無理ですわよね。


首筋の僅かに香る加齢臭がたまりませんわぁ~

汗臭いのは嫌ですわ!

あれはただ臭いだけで全く萌えませんもの!

加齢臭の香水は無いのかしら?


しばらくは様子見ですわね。

いざとなったら叔父様と隠遁いんとん生活でも

構わないかしら?

ルルナはそれでも良い?」


「えぇ良いですよ。サーシアと私がいるだけで、

この世界は活性化しますから

好きなようにして構いませんよ」


「ありがとうルルナ!大好きよ!」

「私も大好きですよサーシア」


薔薇の次はやっぱり百合ですわよねっ!

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