*第49話 街に鐘の音が・・・

高橋 明は一度だけ恋をした事が有る。

しかしそれは実を結ぶ前に淡く消えた。


ネットでのやり取りで意気投合し、

互いの性別も年齢も知らぬまま数年が過ぎた。

「会えないか?」と誘われた時は迷いは有ったものの好奇心が勝り応じた。


互いの素性を明かし合う日取りを決めた。

場所は相手の住む街に明が出向く事にした。

一度は観光したいと思っていた所だったので

旅行がてらに丁度良かったからだ。


実に楽しかった、目にした光景、

鼓膜が捕らえた音、

空気の匂いを共有し交わす会話は

文字では伝わらない感動で満たされた。


定期的に会う約束をして充実した

二人きりのOFF会は終了した。


自由度の高い明が出向く形で何度か

顔を合わせるうちに心は惹かれて行った。

「この人となら・・・」と思い始めていた。


訃報を知らせる黒縁のハガキを見つめながら、

こんな時でさえ涙は出ないのかと自分の薄情さに幻滅した。


***


コイント訪問も後二日で終わりですわね。

結構に楽しかったですわ!

それと大変に美味しゅう御座いました。


精霊歌が大評判ですのよ!

行く先々でおねだりされますの。

もちろん快くお引き受け致しますわ!


今日は精霊教会からのお招きで

コイント中央教会へ参りますの。

首都から少し離れた漁港の街にありますのよ。


教会でお祈りを捧げた後は修道院を訪問致しましたの。

年少の修道士達から精霊歌を歌って欲しいとお願いされましたわ。

小さな子に聞かせるなら軽快なリズムが良いですわね!


『ホモのお~じさ~ん♪

ちんこがピン♪


ちんこ~がピンピン♪

勃って~いる~♪


かわいい坊~やは居ないかなぁ~♪

かわいい坊~やと遊びたぁい~♪


僕がオタチで♪君がネコ~♪


お金もあげます♪

ちんこがピン♪』


「いい加減にしないと怒りますよっ!」

でへへへへ


ルルナにきつくお叱りを受けましたわ・・・

調子に乗り過ぎましたわね、反省致しましたわ。

子供たちの純真な眼差しが心に痛いですわぁ~


***


教会の展望台から町を眺めていますの・・・

「あの街に似ていますね。」

「えぇ・・・ちょうど、こんな風でしたわね」

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330659798702108


すり鉢状の地形に張り付くように家並みが重なり、

遠い思い出がよみがえりますわ。

鐘の音が風景に溶け込んで行きますわね。

どうしてこんなに切ないのかしら?


『こよなく~♪晴れた~♪

青空~を~~~♪

悲しと思う~♪せつなさよ~~~♪


うねりの~~~♪波~の~~~♪

人の世に~~~♪

はかなく~♪生きる~♪

野の花~よ~~~♪


なぐ~さ~め~~~♪は~げ~ま~し♪

長~~~崎~の~~~♪

あ~あ~~~♪長~崎~の~♪

鐘~が~鳴~る~~~♪』


真面目まじめに歌いましたねぇ~珍しい。」


えぇ・・・この歌でふざける事は・・・

決して許されませんわ・・・

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