第二章 風と共に去りぬ

*第76話 風林火山

ハイラムにて待機していたダモン軍は

トモラ山脈沿いに国境を越えバルドー帝国へ進軍を開始した。

山岳地帯に陣を張り、街道を封鎖し補給路を断つのが目的だ。


待ち伏せする伏撃ふくげき隊と、

状況に応じて転戦する遊撃ゆうげき隊とに軍を分けて展開する。


この地域を統治している帝国貴族はピピュンマール伯爵家である。


「兄様!兄様!大変だもぉ~ん!」

当主の弟、コラーリャン男爵が血相を変えて駆け寄る。


「どうした!弟よ!」

ピピュンマール伯爵家当主アラーリャンは、

スラリとした優男やさおとこである。


「トモラに山賊が出たもん!街道が塞がれたもぉ~ん!」

まさかそれがダモンの軍隊だとは思いもしない。


「それはえらいこっちゃ!きびしぃ~!」


早速に討伐隊を差し向けたが、全く歯が立たない。

「増援部隊はどのくらい待機して居るのだ?」

「ざっと1万だぁ~もん。」

「それを使おう!」

「それはマズイもん!丞相の許可が要るもん!」


帝国は官僚社会だ、何をするにも中央の許可が必要になる。


「どの道このままじゃ処罰を受ける!

山賊を討伐してから報告すれば顔が立つ!」


それも一理ある。


「さすが兄様だもぉ~ん!」

「ワシに任せて於けば大丈夫ちゃんよぉ~」


おそらく大丈夫では無い。


血走ったまなこと口からはよだれしたたり落ちて

吐く息は粗く、恐怖も躊躇ためらいも無い。

静脈からテロポンを注入された不退転の魍魎もうりょう

二千の兵が山道に差し掛かる。


その隊列に向かって山腹から光が突き刺さり、

時が止まるその刹那せつなに轟音と爆風が

湧き起こり、何百とう言う兵が吹き飛ぶ。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330661280118292


数発の爆裂魔法に蹂躙されて部隊は壊滅した。

パラパラと残った敵兵をダモンの遊撃隊が狩り尽くす。


そして再び静けさが訪れる。


「兄様!兄様!大変だもぉ~ん!」

コラーリャンが真っ青な顔色で駆け寄る。


「ど、どうした!弟よ!」

アリャーランはめっきりと老けて見える。


最初はテロポン兵五百で失敗した。

次に千の大隊規模で挑んで粉砕した。

それではと二千の軍団で仕掛けて叩き潰された。

そんな強い山賊なんて居るのか?


「奴ら山賊じゃ無いもん!ダモンだもぉ~ん!」

「ぎょぇ~きびしぃ~~~!!!」


はやきこと風の如く

しずかなること林の如く

侵掠しんりゃくすること火の如く

動かざること山の如し


ダモン最強伝説は健在である。

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