*第102話 未知との遭遇

ムーランティス大陸の内陸部では

年間を通じて降雨量が少なく乾燥している。

人口は沿岸部に集中し、国家もそれに伴う。


中央部には少数の遊牧民と狩猟民族が混在し、

広大なその地域を治める国は無い。


大陸のまさに中心部。

乱立するとりでの様な浸食しんしょく岩の荒涼とした野を進むと、

忽然こつぜんと行く手をさえぎる盾の様な高地が現れる。


切り立った崖の頂上は雲の更に上に至り、

モスクピルナスはそこに在る。


高地に最も近い宿場町に逗留とうりゅうするカブーと従者達の一行は、

聖地を守護する守人もりとおさと面談していた。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330662496169271


「貴方様が来られる事は承知して居りました。」

と、日に焼けた皺だらけの顔がそう言った。

「お告げが有りましたゆえに。」と。


その日、何時もの様に祭壇の上で祈祷きとうを捧げていた長は、

ふと気が付くと境目が判らない程に澄んだ泉の前に居た。


そこで奇妙な赤い衣装の少女に告げられた。


「今日より数えて300日ののち

精霊の落とし子がこの地をおとなう。

その名をカブーと申さん。

努々ゆめゆめはば不可べからず。」


東西南北のそれぞれを守護する族長に同様のお告げが下された。

その内容から少女は4人居て、落とし子もまた4人である様だ。


(あぁ、間違いない。あの人達だ。)

カブーは確信した。


(また会える・・・やっと、ごめんなさいと言える)


あの時に自分が戻りさえしなければ、みんな死なずに済んだ。

大好きだった人達を殺したのは僕だ。

そう自分を責め続けて来た。


許され無くても良い、一言ごめんなさいと言えたら、

命が尽きても構わないとカブーは思っている。


「明日で丁度の300日目に御座います。

我らが祭壇までご案内致します。」


そう言ってうやうやしく頭を下げながらも、

何か言いたげな仕草がうかがえる。


「何かご懸念けねんか?長よ。」

問題が有るなら早めに対処して置きたい。


「いえいえ、懸念など有りませぬ。

只、御存じであればお教え下され、

かの少女は精霊で御座いましょうか?」


「おそらく。」


その言葉を聞いて長の顔の皺が薄く開いた。

(あぁ、そこが目か!)

思っていたより下に在った。


翌朝、守人達の先導で聖地へと向かった。

砂岩が侵食されて出来た細い回廊を抜けると、

そびえ立つ断崖の足元に

淡くオパールの様に揺らめく祭壇が在った。


「此れよりは一人で参る。」

皆、無言のままにこうべれる。


カブーが祭壇の中央に立つと、

空間に次々と綿精霊が現れ彼を包み込んで行く。

次第にその密度は増して半球状のドームと成った。


ポウッと微睡まどろみを誘う光を灯した後に、

シュワシュワと泡の様に消えた。

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