*第66話 大公閣下の決断

ハイラムで起こった聖女襲撃の知らせは

数日後に第一報が王都に届いた。


大幹部の裏切りと言う衝撃的な内容と、

それがバルドーの仕掛けである事が、

より一層の深刻さをもたらしている。


「今度は言い訳など出来まい!」

「一個人の問題で戦争など起こせるかっ!」

「個人では無いわ!国の使者としておもむいて居るのだぞっ!!」


王宮会議は喧噪けんそうを極めていた。

毎日がこの騒ぎだ、第一報から既に20日近くが過ぎている。

麻痺まひ状態に近い。


(これでは収まりそうに無いか・・・)

ゴートレイトは腕組みをし、

かねてからの考えを浮上させた。


(動くべきか?今がその時なのだろうか?)


「閣下、奴らが動きました。」

そっと耳打ちして来たのはエース卿である。


「分かった、場所を移そう。」


御庭番の一部が武装し、離宮へ向かったとの報告であった。


「狙いはマルキスか。」

「えぇ恐らくはお部屋様も。」

「証拠隠滅か・・・」


一歩出遅れたかと、優柔不断さを悔いる。


「させてはならぬぞ!」

「勿論で御座います、既に部隊を派遣して居ります。」

「うむ。マルキスを確保せよ!」


(全てを明らかにして貰うぞマルキス!)


***


その頃、忍者装束と仮面に身を包み街道を突き抜ける一団が居た。

カルアンと御庭衆である。

カイビンド一派の行動を察知して直ちに動いた。


血まみれで男が倒れている。

モルガンだ。

まだかすかに息が有る。


「仲間割れか?」

最早、目を開ける事すら出来ない。

「た・・・たのむ・・・マルキス様を・・・」

それが最後の言葉であった。


「悪いがそれは対象外だ。」

特急カルアン号は再び風になった。


離宮は阿鼻叫喚あびきょうかん坩堝るつぼと化していた。

ある程度の訓練を受けてはいても、

戦闘を専門にしてい無い者では防ぎ切れない。

使用人などは論外である。


「もう・・・駄目か・・・」

マルキスが観念した様に呟く。


「いいえ、必ず来て下さいますわ。」

(ダモンは決して裏切りませんわ!)

と言ったパトラシアの顔が浮かぶ。


果たして階下の気配が変わった。

悲鳴ばかりだったものが怒号に変わり、

やがて静まり還った。


しばらくの静寂をくつがえし黒い忍者装束に

赤い仮面の男が飛び込んで来た。


「『アカハジ サンジョウ!』」


「あっ!カルアンだぁ~!」

フリーデルが嬉しそうに叫んだ!

「レイサン卿!!」

アナマリアも声を挙げた。


「殿下、私は母上様とお話が有ります故、

『シロハゲ』と遊んでおいでなされ。」

白い仮面のMrボージャンガルが

フリーデルを連れ出す。


「お部屋様、お迎えに参りました。我らと共にダモンの地へ。」

カルアンは騎士の礼を取る。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16817330660919942416


「マルキス様はどうなりますでしょうか?」

答えが解っているのだろう、アナマリアは冷静である。


「私がお連れ出来るのは、お部屋様と殿下だけで御座います。」

冷徹にそう告げる。


「君たちだけで行っておくれ。」

マルキスも冷静に覚悟を決めている。


「教えて頂けますかしら、官憲かんけんも動いておりますの?」

罪人として追われているのなら逃げきれはしないだろう。


「軍が動いて居ります。」

その後は恐らく・・・


「では私はマルキス様と共に残ります、

フリーデルをお願い致しますわ。」

如何いかなるを以ってしても揺るがぬ意思を

その目に宿らせてアナマリアは宣言した。


「マリア!それは!」

「いいえ!もう何も言わないで下さいましな。」


まだ26歳の若い母親の不思議な威厳いげんに男達は呑まれた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る