あれ嘘よね



坊主にされずに教室に向かう途中、教室に入る直前、瑠奈は後ろから僕の制服をつねるように掴んだ。


「ねぇ」

「なに?」

「雫先輩のこと、本当に好きなの?」

「え⁉︎瑠奈を助けるための嘘だよ嘘。好きなわけないじゃん」

「そっか!」


ニヒヒと可愛らしい笑顔を見せる瑠奈。

本当に無邪気な笑顔を見せる奴だな。


「でも、友達になれたみたいだから、髪色のことは見逃してくれるように頼んでみるよ」

「あ、それは別に大丈夫〜」

「また危ない目に合うよ?瑠奈はチビで力が弱いんだから、大人しくしなよ」

「今、なんて言った?」


やべ。ロリとチビと貧乳は言っちゃいけない言葉だった。


「瑠奈は身長高くて可愛らしい力なんだから」

「大きくなるもん‼︎‼︎」

「あぁ、大きい大きい」

「今からなるの‼︎」


それから普通に授業を受け、昼休みになると、瑠奈が売店に行くと言うから着いてきた。

なんか、一年生と先輩が揉めてるみたいだけど、あまり見ないようにしよう。

それにしてもやっぱり、瑠奈の髪色は悪目立ちするな。


「蓮は何買う?」

「適当にパンでも買おうかな」

「んじゃ私も!」


瑠奈は真剣にパンを選び始めた。


「蓮くん」


背後から雫先輩の声が聞こえて、慌てて振り向いた。


「は、はい!」

「一緒にお弁当を食べましょ」

「はい!......え?」


腕を引っ張られて、僕は売店を離れた。

瑠奈はパンに夢中で僕が連れて行かれていることに気づいていない。


「し、雫先輩」

「なにかしら」

「手、離してください」

「あら?お友達と手を繋ぐのは嫌かしら」

「い、いえ......」


繋ぐっていうか、引っ張られてるんですけど。

しばらく経って、瑠奈はクロワッサンを持って振り向いた。


「これにした!......蓮?」


瑠奈は蓮が居ないことに気づき、周りを見渡した。

その頃僕は、雫先輩と学校の屋上にいた。

雫先輩は屋上にある白いベンチに座り、自分の隣をポンポンと優しく叩いた。


「座っていいわよ」

「はい......」


本当に友達になったってことでいいのかな?

変に緊張するな......


「蓮くんのお弁当は?」

「売店でパンを買う予定だったので」

「ダメよ?」

「え?」

「この学校の売店は、成績上位の生徒しか使ってはいけないの」

「んじゃ、瑠奈やばいんじゃ」

「今頃怒られているんじゃないかしら」


瑠奈、あの見た目で気性荒いとこあるからな......喧嘩とかになってないといいけど。


「中でも、生徒会メンバーが優先的に買い物をできるの。もちろん自販機もね」

「なのに、雫先輩は弁当ですか?」

「そうね。それじゃ、私のを一緒に食べましょうか」


雫先輩はそう言うと、弁当箱を開けてシュウマイを一つ食べ、もう一つのシューマイを僕の口元に向けた。


「はい。どうぞ?」


こ......これ、間接キス⁉︎こんな美人な先輩と⁉︎


「し、雫先輩?」

「間接キスを気にしているの?」

「は、はい」

「私のこと好きなのよね。食べていいわよ」


動揺しながらも、ゆっくり口を開けると、雫先輩は躊躇いもなく僕にシューマイを食べさせた。


間接キスは慣れている‼︎瑠奈とよくしてたからな‼︎雫先輩の顔見なければ大丈夫‼︎


「はい。お茶だけど飲んでいいわよ」


雫先輩はシルバーのシンプルな水筒を渡してきた。


なんだろう......入学式のイメージと違って、変に優しいな。と思いながら、お茶を一口頂くことにした。


「今朝の告白、あれ嘘よね」

「ブッー‼︎」


衝撃的な発言で、思わずお茶を雫先輩の顔に吹きかけてしまった。


「す、すみません‼︎」

「大丈夫よ」


雫先輩は怒らず、淑やかな表情のままハンカチで顔を拭き始めた。


「瑠奈さんを守ろうとして、咄嗟に出た言葉だったのよね」

「......なんで分かったんですか?」

「そんな顔していたもの」

「すみません......」

「優しいのね」

「そんなことないです。......あの、なんで雫先輩は独裁者みたいなことしてるんですか?」


余計な事を聞いたかもしれないと、すぐに後悔した。


「蓮くんが気にすることではないわ。残りのお弁当は全部食べていいわよ」


雫先輩はベンチに弁当を置いたまま、校内に戻っていった。


やっぱり機嫌損ねたかも.....


それから10分ぐらい経った時、瑠奈が屋上にやってきた。


「あ!居た!なんで置いていくの⁉︎」

「雫先輩に連れてこられた」

「雫先輩といたの?」

「うん」

「そ、そっか」


瑠奈もベンチに座り、チョコクロワッサンを一口食べた。


「パン買えたんだ」

「うん。なんか、先輩達に怒られたから、お金置いて走ってきた」

「問題にならないといいね......」


瑠奈は僕の手元をジッと見つめた。


「なんで逆さまに箸使ってるの?」

「な、なんとなく」

「それ、蓮の弁当?」

「う、うん」


何故か嘘をついてしまった。

すると瑠奈は、急に顔をキス寸前まで近づけてきた。


「嘘つき」

「ほ、本当だって。急にどうしたの?」

「蓮の机に、弁当袋がぶら下がってた」

「......」

「認めるんだね?」


瑠奈の初めて出す異様な雰囲気に、驚きながらも冷静を装った。


「......認める。でも問題ないじゃん」

「あるよ」

「なんで?」

「私達は幼馴染みだよ?蓮が他の女の子と二人っきりになって、しかも弁当を貰うなんてダメだよ」

「なにそれ、束縛?てか近い」


瑠奈は顔を近づけて離そうとしない。


「しかも、雫先輩は悪。悪者なんだよ?なんで仲良くするの?」

「本当に悪者かな。話してみた感じ、そんな感じしなかったよ?」


瑠奈は眉間にシワを寄せ、僕にまたがってネクタイの根本を力強く握った。

その拍子に、雫先輩から貰った弁当が地面に落ちてしまった。


「な、なに⁉︎」


キーンコーンカーンコーン


昼休みの終わりを告げるチャイムがなり、瑠奈は僕から降りて立ち上がった。


「教室戻ろ」

「弁当拾ったら戻る。先に戻ってていいよ」


瑠奈は無言で教室に戻って行った。


幼稚園からの付き合いだけど、あんな瑠奈は初めてだ。

眉間にシワなんか寄せて......可愛いのに勿体ない。


「蓮くん?どうしたの?」


やばい......なんで雫先輩戻ってきたんだ......


「すみません。ちょっとした事故で」

「せっかくあげたのに、最低ね」

「ごめんなさい......」

「弁当箱を取りに来ただけだから、私は戻るわね。それと、貴方に優しくしたのは、貴方なら瑠奈さんの髪色を戻せると思ったからよ。変な勘違いしないことね」

「......はい」


雫先輩は、弁当箱と水筒を持って校内に戻っていった。


......僕のスクールライフが〜‼︎呼び方も、蓮くんから貴方に変わってたし‼︎終わった〜‼︎


結構な精神的ダメージを抱えたまま教室に戻り、席に着くと、林太郎くんが小声で話しかけてきた。


「瑠奈になにしたんだ?」

「なんもしてないけど。どうかしたの?」

「いつもなら俺のジョークに乗ってくれるのに、思いっきり睨まれたんだよ」

「まぁ、雫先輩とバチバチだからね。色々あるんじゃない」

「そうなのかなー」


林太郎くんは、つまらなそうに自分の席に戻って行った。


「はーい!授業をはじめまーす!」


屋上でも瑠奈の様子は変だったし、僕が教室に戻って来た時も話しかけてこなかったし......「あの束縛はなんなんだよ......」

「んっ!」


瑠奈は僕の背中をシャーペンで突っついてきた。


「なに?」

「声に出てる」

「あぁ、ごめん」

「そこ、お喋りしない!」


先生に注意されるし、瑠奈は変だし、雫先輩とは友達になれなそうだし、今日は本当についてない。 

その時、校内放送から雫先輩の声が流れた。


ピンポンパンポーン

「全生徒は、速やかに体育館に集合しなさい」

ピンポンパンポーン


「はーい!みんな体育館に急いで!ほら、走って走って!」


中川先生に言われ、全員体育館に向かって早歩きし始めた。


「瑠奈」

「なに?」

「なにが始まると思う?」

「んー、一年生歓迎会!」


ないない。絶対ない。


体育館に入ると、二年生と三年は既に座っていて、一年生が全員座ると、ステージに上がっている雫先輩は、冷めた瞳で一年生の方を見つめた。


「一年生が全員揃うまで4分21秒。信じられないわね。これがなにかの避難なら、貴方達死んでいたわよ?まぁ、私は貴方達が死んでも困らないけれど」


すると、隣に座る林太郎くんが立ち上がった。


「林太郎くん⁉︎座って座って!」

「そこまで言わなくていいと思います!」

「死んでいたら、そんなことも言えなくなるのよ?座りなさい」


僕は林太郎くんの手を引っ張って無理矢理座らせた。


「ダメだって、マークされたらヤバイよ」

「そうだけどさ......」


林太郎くんは昔から正義感が強い人だが、この学校では、その正義感は邪魔になる。


「さて本題に移りましょう。大槻瑠奈さん、ステージへ来なさい」


......瑠奈⁉︎

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