エロくない⁉︎
「瑠奈さん?いつになったら髪を黒くするのかしら」
「だからしないって」
雫先輩は瑠奈をステージに呼び、公開説教を始めたのだ。
「そんな髪色、瑠奈さんだけよ?もっと普通にできないのかしら」
瑠奈はステージ上から生徒を見渡した後、雫先輩を睨みつけた。
「これが普通なんだけど」
「それじゃ、ここにいる瑠奈さん以外の生徒は普通じゃないと?」
「私の中の普通って意味‼︎なんで私だけに粘着するわけ⁉︎」
「瑠奈さんが普通じゃないからよ。人と違う見た目、生き方をすることは否定しないわ」
「それじゃ!」
「でも、普通じゃないってことは、人になにを言われても仕方ないのよ?その覚悟がなくてはいけない。それに、ここは学校よ?ルールがあるの」
なにも言えなくなる瑠奈を見て、僕の隣に座っていた林太郎が、また立ち上がろうとしたが、必死に止めた。
「林太郎くん。座って座って」
「瑠奈が可哀想だろ。みんなの前で晒し者みたいじゃないか」
「でも、雫先輩に逆らったらヤバいことになるって」
「......分かったよ。てか、本当なら蓮が行くべきだぞ」
「なんで僕が?」
「だって瑠奈、蓮のこと好きじゃん」
「はー⁉︎⁉︎」
あ、オワタ。
思わず立ち上がって大声を出すと、雫先輩が僕の方を見た。
「貴方も来なさい」
「は、はい」
うわ〜!やらかした。僕も公開説教か......それに、林太郎くんが言ってたことは本当なのかな。嘘......だよな。
頭がいろんな感情でグチャグチャになりながらもステージに上がった。
「二人に、何度も注意しているのに言うことを聞かない罰を与えます」
僕は注意された記憶がないのに......なんか巻き込まれた......
だが、ピンチはチャンス!僕は諦めないぞ......最高のスクールライフを‼︎
「雫先輩」
「なにかしら」
「僕を生徒会メンバーに入れてください‼︎」
「蓮⁉︎」
体育館中に生徒のざわめく声が聞こえる。
さぁ、雫先輩の答えは......
「強い信念を持った真っ直ぐな目。ちょうど雑用係が欲しかったところよ。放課後に生徒会室に来なさい」
「は、はい‼︎」
どんな信念かバレたら終わりだけど、とにかく完璧だ‼︎
「それじゃ、貴方の罰は、私が卒業するまで、ずっと私の雑用係をすること。瑠奈さんの罰は、髪の色を戻すまで、毎日放課後にトイレ掃除をすること」
「へっ。そんなの簡単だし」
「一階のトイレ5箇所、二階の二箇所、三回の二箇所、プールのトイレ一箇所.外の二箇所。もちろん男子トイレもね」
「ぜっ、全部なんて聞いてない‼︎」
「それでは解散」
生徒達が立ち上がり、歩き始めた時、雫先輩はまたマイクを握った。
「言い忘れていたわ。この二人を手伝った者には、同じく罰を与えます」
先生も誰も止めなかった。二年生で生徒会長。絶対になにか理由がある......生徒会メンバーに入って、雫先輩と仲良くなる。
もしくは弱みを握れば勝ちだ‼︎
全員体育館から出て行き、僕と瑠奈もステージを降りた。
「蓮......」
なんだろう。声に元気が無いな。
「大丈夫だよ瑠奈。隙を見て手伝ってあげるから」
僕の一歩後ろを歩く瑠奈は、いきなり僕の背中を強く押し、僕を転ばせた。
「痛っ!」
瑠奈は倒れた僕に抱きつく様に乗っかった。
「る、瑠奈⁉︎」
なんだなんだ⁉︎林太郎くんが言ってたことは本当だったの⁉︎そんなことより、女の子って......柔らけ〜‼︎
「な、なんか言ってよ」
瑠奈は僕に抱きついたまま、耳元で言った。
「なんで生徒会メンバーに?どうして?やっぱり雫先輩が好きなの?」
「す、好きじゃないって言ったじゃん」
「それじゃ、私を避けてるの?私が嫌い?ねぇ、なんで?」
「嫌いなわけないって。長い間友達じゃん」
「......友達のままじゃ......」
「なに?」
その時、カメラのシャッター音が響いた。
僕と瑠奈は、音のした出入り口の方を見たが誰もいない。
「とにかく、教室戻ろ?」
「......うん」
そして放課後になり、僕は教室を出る前に、林太郎くんに声をかけた。
「頼みがあるんだけど」
「瑠奈の手伝いだろ?」
「いいの?」
「最初からそのつもりだから。バレないようにやるよ」
「ありがとう」
瑠奈はテンションが低く、何故か不貞腐れている。
「瑠奈、生徒会での用事が終わったら手伝うからね」
「何分で来る?」
「いやー、分からない」
「1分」
「無理」
「ふんっ」
瑠奈は教室を出て行ってしまった。
そして僕は生徒会室に向かった。
「失礼しまーす」
「ちゃんと来たわね」
「はい」
生徒会室は床が赤く、それだけで格上の人が居る場所感がすごい。
そして、雫先輩以外誰もいなく、雫先輩は一人で座っていた。
「他の人はいないんですか?」
「今はいないわね。そのうち会えるわよ。とにかく生徒会に入るなら、これにサインしなさい」
渡されたのは、契約書のような紙とボールペンだった。
生徒会のメンバーになります的なサインだろう。さっさと書いちゃおう。
そして名前を書き終えてすぐ、雫先輩は契約書を取り上げた。
「いいのかしら。ちゃんと文面は読んだ?」
「いや、読まなくて大丈夫かなって」
「そう。私の奴隷のように尽くす。命令の全てを拒否してはいけない。拒否した場合は、即退学処分とする。これにも同意ってことね」
「ちょっと⁉︎」
契約書を取り返そうとしたが、雫先輩は全然返してくれず、会長用の高そうな椅子に座って僕わ見つめた。
「生徒会へようこそ」
「はい......」
「それじゃ最初の命令ね」
嫌な予感しかしな〜い‼︎
「校内の見回りをしてちょうだい」
「え?」
「些細なことでも、問題があれば私に報告しなさい。連絡先を教えるわ」
雫先輩と連絡先を交換して、僕は校内の見回りをすることになった。
とりあえず、瑠奈のとこ行くか。
学校のトイレを見て回ると、瑠奈が一年生の階。三階のトイレから出てきた。
「おっ、頑張ってるね」
「やらないと逃げたみたいになるからね。生徒会室でなにしてたの?」
「ちょっと話しただけだよ。林太郎くんは?」
「二階のトイレ掃除してくれるって」
「そっか。林太郎くんのとこ行ってくるね」
「もう行くの?」
「どっちみち、また生徒会室に戻らなきゃいけないし、また後で来るよ」
「......生徒会に入るって、そう言えって雫先輩に言われたんだよね」
「なに言ってるの?」
「だってそれ以外ありえないよ。私が蓮を救ってあげる。私しか蓮を救えない‼︎」
「と、とりあえず行くね......」
なんなんだ最近の瑠奈......なんか変だな。情緒不安定か。
二階のトイレに向かうと、林太郎くんが女子トイレから出て来た。
「林太郎くん......みんなには内緒にしておくね......」
「おっ、蓮!生徒会はどうだった?」
「雫先輩しかいなかった」
「そうなのか。んで?なに企んでるんだ?」
「な、なにも?」
「中学の頃からズル賢いとこあっただろ。また良い考えが浮かんだんだろ?」
「ズル賢いって、ひどなー。それより、瑠奈は本当に僕が好きなの?」
「うん。中学の時に教えてくれた」
「でも、全然告白とかしてこないよ?」
「付き合えたら嬉しいけど、ダメだった時に、幼なじみって関係も壊れそうで怖いんだってよ」
「なるほどね.....」
林太郎くんは手を洗い、手についた水を僕の顔に飛ばしてきた。
「冷たいよ!」
「なるほどねって、蓮はどうするんだよ」
「瑠奈は可愛いし良い人だけど、好きって思ったことはないかな」
「でも嫌いじゃないんだろ?」
「嫌いじゃないよ?」
「んじゃ付き合っちゃえよ〜」
「見回りをせずに立ち話。いい度胸ね」
「雫先輩⁉︎」
いきなり現れた雫先輩に驚くと同時に、林太郎くんが掃除していることがバレてしまうのではないかと、心臓の鼓動が早くなった。
「早く掃除を済ませなさい。返事はどうしたの?」
「瑠奈への伝言ってことで大丈夫ですか?」
「そ、そうね。頼んだわよ」
雫先輩は少し早歩きで、どこかに行ってしまった。
それに変だ。伝言を頼むなら、もっと違う言い回しになるはず。
「林太郎くんと雫先輩って、話したりするの?」
「いや?」
「......あ、今嘘ついた。林太郎くんは嘘つくと、下唇を軽く噛む癖があるんだ。気づいてなかった?」
「うっ、腹が〜」
林太郎くんはお腹を押さえながらトイレに戻って行った。
仮病で逃げるのも、林太郎くんの癖だ。
とりあえず適当に校内をぶらぶらした後、生徒会室の前まで戻ると、生徒会室から話し声が聞こえてきた。
「あの二人、学校でこんなことしてました」
「情報提供ありがとう。明日、売店で買い物するのを許可するわ」
「あ、ありがとうございます!」
そして生徒会室から出てきたのは、三年生の女子生徒だった。
扉を開けて僕が居たことに少し驚き、早歩きで去って行った。
三年生も雫先輩に敬語使うんだ......
「入りなさい」
「あ、はい」
「校内での不純性行為。許されることじゃないわね」
「なにかあったんですか?」
「これを見なさい」
雫先輩がテーブルに出した写真を見ると、体育館で、僕が瑠奈に押し倒されている写真だった。
「こ、これは違うんです!」
「なにがかしら」
「これはいきなり抱きつかれて、それで!......ただそれだけです」
「まぁ、制服は着ているようだし、嘘じゃなさそうね。私の機嫌を取れば特典が付いてくるって考えで人を陥れようとする。本当、人間らしい考えよね」
「分かってて売店での買い物を許可したんですか?」
「話を追求しても時間の無駄だと判断したからよ」
その時、廊下から大音量のバイクのコール音が聞こえてきた。
「な、なんですか⁉︎」
「気にしなくていいわよ」
「まさか殴り込みですか⁉︎」
生徒会室の前で音が止まり、女性の声が聞こえてきた。
「開けてー!」
「開けてあげて」
「は、はい」
扉を開けると、金髪でショートより少し長い感じの髪型。口には棒付きキャンディーを加えた可愛い人が自転車に乗っていた。
「雫!ちーっす!」
し、雫先輩にちーっす⁉︎
「千華(ちか)さん、久しぶりね」
「久しぶり!」
「え⁉︎怒らないんですか⁉︎この髪‼︎しかも飴舐めてますよ⁉︎校内で自転車乗ってますし‼︎」
すると千華先輩は自転車を降りて、不機嫌そうに目を細めて顔を近づけてきた。
「はー?なんで私が雫に怒られるわけー?」
「す、すみません......それより、さっきの音はなんですか?」
「携帯で流してた。バイク乗ってる気分になって楽しいよ?......あ!言ってた新入りってこの人⁉︎」
「そうよ」
「口開けて!あーん!」
千華先輩が咥えていた棒付きキャンディーを、いきなり僕の口に入れてきた。
「あはは!顔真っ赤!」
急いで口から棒付きキャンディーを取り出した。
「ななっ、な、なにするんですか⁉︎」
「仲間の
すると、雫先輩は呆れた様子で言った。
「私も最初にやられたわ......」
女の子同士......それはそれで見てみたい!
「千華先輩は、生徒会メンバーなんですか?」
「そうだよ?」
「な、なんで⁉︎」
「ん?タメ口?」
「ご、ごめんなさい‼︎」
リボンの色的に、千華先輩は二年生。
でも、問題は年齢ではなく、何故この見た目で生徒会に入れたのか。何故雫先輩は怒らないのか......
「雫先輩、飴とか髪色とか......いいんですか?」
「入学式の時に言ったわよね。頑張った生徒には自由が与えられるって」
そういうことか。普通じゃないのは瑠奈だけって言ってたけど、千華先輩の方が普通じゃないような......
「千華先輩は、なにを頑張ったんですか?」
「千華さんは、すべてのテストがオール100点。積極的なボランティア活動。自由を与えるに相応しいわ」
「100点⁉︎この見た目で⁉︎」
千華先輩は鋭い目つきで僕を睨みつけた。
「言葉遣いには気を付けろ。あっ、飴返して!」
「は、はい......」
こわ〜‼︎雫先輩とは、また別の怖さだ‼︎
千華先輩は一度僕が舐めた飴を、なにも気にすることなく咥えた。
「君、名前は?」
「涼風蓮です」
「この飴、蓮の味がする〜♡」
「やっ、やめてくださいよ!」
「あはは!また赤くなってる〜!」
「なってません!」
「でも、私の飴舐めれて嬉しかったでしょ?」
「そ、それは!」
嬉しいに決まってるだろ〜‼︎‼︎
こんな可愛い金髪美少女が舐めた飴を舐めたくない男子は、きっと焼き鳥屋に行って枝豆しか食べないような人間だ。知らんけど。
「待って⁉︎雫!私の飴ってワード、なんかエロくない⁉︎」
「私に聞かないで」
千華先輩の軽い下ネタで、絶妙に気まずい空気が流れた時、生徒会室の扉が勢いよく開いた。
「蓮‼︎」
「瑠奈⁉︎」
「帰るよ‼︎」
瑠奈は僕の制服を引っ張って、生徒会室から出た。
「雫。今のは?」
「問題児ね」
「あの子、私が担当するよ」
「それじゃ、お願いするわね」
千華が自転車に跨ると、雫は冷たい眼差しで言った。
「校内での自転車は許可してないわよ」
「そんなー!」
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