千華の恋心


「瑠奈?......瑠奈!」

「なに‼︎」

「なに怒ってるの?トイレ掃除は?」

「もう終わった」


下駄箱の前で立ち止まると、瑠奈はムスッとした表情で僕を睨んだ。


「いつまで生徒会室にいるの?ずっと待ってたんだけど」

「僕も忙しいからさ......」


その時、またバイクのコール音が近づいてきた。


「なに⁉︎」

「千華先輩だよ」


千華先輩は自転車に乗っているように、手を前に構えて走ってきた。


「誰?」

「生徒会の人」

「は⁉︎これが⁉︎生徒会の人が金髪なのに、なんで私は注意されるわけ⁉︎」


千華先輩は瑠奈に顔を近づけ、威圧するように目を見開いた。


「お前には髪を染める資格がないからだよ」

「はっ、は?なんで」


瑠奈が珍しくビビっている気がした。


「お前は入学したばっかりで、なんの成績も収めてない。努力しない人間が自由になれると思うな」

「ち、千華先輩。どうしても髪染めなきゃだめですか?」

「ダメだね。てか、蓮はこの子と付き合ってるの?」

「いや、ただの幼馴染みです」

「そっかー。生徒会メンバーの幼馴染みねー......許してあげたいけど無理だね。でも一つだけ髪染めても、学校でお菓子を食べても許される方法があるよ?」


瑠奈は少し怯えた表情で聞いた。


「なに?」

「君も生徒会に入るんだよ。でも、入るのは簡単じゃないよ〜?......ん?蓮はなんで入れたの?」

「雑用係として入れました」

「あぁ、納得。もう武道館には行った?」

「いや、バンドマンじゃないので」

「学校のだよ!まぁ、雫に言われたら行くことになるけど、頑張りなね!」

「え、なにをですか?」

「本当に何も聞いてないんだねー」

「はい」

「まぁ、とにかく‼︎瑠奈ちゃんだっけ?私は君を監視するからね」

「は?ストーカー?」

「瑠奈、本当に敬語使えって」


その時、千華先輩の携帯が鳴り、電話に出た。


「もしもし?うんうん。いるよ?うん。ok 〜」


電話を切ると、千華先輩は僕の腕を掴んで引っ張った。


「行くよ!」

「ど、どこにですか⁉︎」

「武道館だよ!」


瑠奈は眉間にシワを寄せて、千華先輩を睨みつけた。


「蓮はこれから私と帰るんだけど。てか、蓮に触るな」

「へー。蓮のこと好きなんだ」


千華先輩、ストレートすぎるよ‼︎気まずいよ‼︎


「悪い?」


認めちゃったよ〜‼︎‼︎


「別に?でも、生徒会に入ったら、絶対にやらなきゃいけないことだから。瑠奈ちゃんは大人しく帰りな」

「待ってる」

「勝手にしな」


瑠奈を置いて、僕は千華先輩と武道館に向かった。


「武道館でなにするんです?」

「行けば分かるって!せいぜい生き延びろ!」


そう言って、僕の背中を押して武道館に入れた。

武道館に入ると、雫先輩が柔道着を着て、構えをとっていた。


「......え?」

「私を殺してみなさい」

「雫先輩、ドMだったんですか⁉︎」


その瞬間、雫先輩の表情が怒りに満ちて、いきなり脇腹を蹴られた。


「うっ‼︎」

「蓮〜?大丈夫〜?」

「千華先輩......これが大丈夫に見えるなら病気ですよ......」


それに、これは柔道じゃない‼︎これは空手だ‼︎


「なにするんですか‼︎」

「男の子なら、今のでやり返すと思ったのだけれど、貴方にはまず、説明が必要そうね」

「説明?」

「えぇ。この学校の生徒会は、頭がいいだけじゃないの。全員が護身術を身につけているのよ」

「なんでですか?」

「自分の身や他の生徒を守るため」

「他の生徒?雫生徒って、やっぱりいい人だったりします?」


雫先輩はなにも答えず、男である僕を背負い投げし、倒れた僕の顔の真横の畳を殴りつけた。


「ひぃ〜!」

「私は貴方を殺す。殺されたくなかったら、やり返しなさい」


僕は状況の意味不明さに少々苛立ち、雫先輩の胸元を掴み、本気で雫先輩の体を横に倒した。


「おっ!蓮、やるねー!」


雫先輩の体に跨り、体を押さえつけた。


「降参してください」


......柔道着がよれて、ブラチラしてるー‼︎ピンク‼︎この見た目でピンク‼︎

え、雫先輩、なんか顔が赤いような......


「あ、貴方の強さは分かったわ。離しなさい」

「は、はい」


千華は、雫を追い詰めた蓮を見て、自分の心が動くのを感じていた。

(私なんて、いっぱい泣かされたのに......やっぱり男の子は凄いな......あれ?なんだろ、胸がサワサワする......)


雫先輩は立ち上がり、よれた柔道着を直した。


「それじゃ、今から護身術を教えるわね。大変だし、痛い思いするだろうけど、頑張れるわね?」

「はい」


護身術に、なんの意味があるんだろうと思いながらも、護身術使えたらカッコいいなと安易な気持ちで頑張ることにした。


そして最終下校時刻になった時、特訓は終わった。


「身に付けるの早いわね。もう充分ね」

「ありがとうございます!」

「これで正式に、生徒会メンバーとして認めてあげる。よろしくね、蓮くん」

「は、はい!」


蓮くん呼びキタ〜‼︎いいぞ‼︎僕の計画は順調だ‼︎


「ただ、次のテストの成績次第では、生徒会を辞めてもらうことになるからね」

「え?」

「当たり前じゃない。それがルールなの」

「わ、分かりました......」


まぁ、悪い点数取ったことないし大丈夫だろう。


「それじゃ、解散」


武道館を出ようとした時、千華先輩がスポーツドリンクをくれた。


「れ、蓮!これ飲んで!」

「ありがとうございます。千華先輩、なんでずっと見てたんですか?暇じゃありません?」

「えっ⁉︎なっ、え?それはっ......は?なに?」

「なに⁉︎」

「それよりさ、生徒会メンバーなんだから、連絡先交換しよ!」

「いいですよ!」


千華先輩と連絡先を交換して下駄箱に戻ると、瑠奈はずっと待っていた。


「お待たせ」

「遅すぎ」

「ごめん」

「え⁉︎どうしたの⁉︎」


瑠奈は心配そうに僕に近づいた。


「首元怪我してる......」

「これくらい大丈夫だよ」

「誰にやられたの?雫先輩?」

「ま、まぁ」

「......許せない。私の......私だけの蓮を傷つけた.......」


私の⁉︎私だけの⁉︎


「仕返ししてくる」

「辞めときなって!瑠奈が敵う相手じゃないよ!」

「それ、どういう意味?私が雫先輩より下だって言いたいの?」

「そ、そうじゃないけど」


瑠奈が苛立っている時、制服に着替えた雫先輩がやってきた。


「あら。まだ帰ってなかったの?」

「蓮になにした‼︎」

「瑠奈さんには関係ないわ。蓮くん、私の下着を見て興奮したこと、反省しなさいね」


バレてた〜‼︎‼︎


「下着?蓮。どういうこと?」

「激しかったわね。また練習しましょうね」


わざとだよね‼︎その言い回しわざとですよね⁉︎


「蓮を汚すなー‼︎‼︎」

「瑠奈‼︎」


瑠奈は小さい体で雫先輩に立ち向かったが、一瞬で背負い投げされてしまった。


「うぅ......」

「瑠奈!大丈夫⁉︎」


雫先輩は、横たわる瑠奈を見下ろした。


「感情に任せて暴言を吐いたり、すぐに暴力に走る。貴方のような人が1番嫌いです」

「蓮に近づくな......」

「蓮くんの方から近づいてきたのよ?」

「そんなはずない‼︎」

「うるせーな」


うわ。千華先輩怒ってる......


「千華さん。そんな言葉遣いをしてはダメよ?」

「はーい。私、蓮とゲーセンの見回りしてくる!」

「お願いね」


千華先輩は僕を引っ張って学校を出た。


「千華先輩⁉︎」

「いいからいいから!」

「蓮‼︎」


雫は、廊下に跪いたまま取り残された瑠奈を見下ろした。


「千華さんに取られちゃうわね」

「そんな.......」

「どうしたの?私にそんな弱々しい顔見せて」

「うるさい‼︎」


瑠奈は走って蓮を追いかけたが、バテてしまい、歩きながらゲームセンターに向かった。

その頃蓮は、千華に手を繋がれてゲーセンに向かって歩いていた。


「なんで手繋いでるんですか?」

「嫌?」

「いや......」

「嫌なの⁉︎」

「そうじゃないです!瑠奈に見つかったら怒られるので」

「でも付き合ってないんでしょ?」

「そうですけど」

「あ、ゲーセン着いたよ!」


ゲーセンに入り、店内を一周した。


「遊んでる生徒はいないみたいだね」

「これも生徒会の仕事なんですか?」

「うん!毎日はしなくていいんだけどね!」

「それじゃ、見回りも終わったし帰りますか」


にしても、なんでずっと手繋いでるの......嬉しいけどね⁉︎


「帰るの⁉︎今から用事あるの?」

「ないですけど」

「んじゃ遊ぼう‼︎」

「はい⁉︎遊んでる人いないかの見回り中に遊ぶんですか⁉︎」

「雫にバレなきゃ大丈夫!プリ撮ろ!」


千華先輩と一緒にプリクラ機に入り、写真を撮り始めた。


「蓮、笑顔がぎこちないよ!ほれ!」

「なっ⁉︎」


千華先輩は、また飴を僕の口に入れ、顔が真っ赤になっている写真が撮れてしまった。

そして千華先輩は、僕に咥えさせた飴を自分の口に入れた。


「ちょっと千華先輩!......え?」


千華先輩が真っ赤になる僕を真っ赤な顔で見つめる写真が撮れた。


「落書きコーナーに移動してね!」


プリクラ機の音声は聞こえていたが、二人は足が動かなかった。


「な、なんで赤くなってるんですか?」

「さ、最初と違うなって」

「なにがです?」

「味......ら、落書きコーナー行こ」

「は、はい」


それから二人で落書きをしていると、何故か千華先輩は恥ずかしそうに聞いてきた。


「れ、蓮はさ、その......好きな人とかいる?」

「いませんけど」

「キ、キスは?したことある?」

「ないですけど......なっ⁉︎」


千華先輩は口から飴を取り、顔を近づけてきて、僕の唇にキスをした。

その時、落書きコーナーのカーテンが開き、瑠奈の声がした。


「見つけた。......え?」

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