突然......


「あ、あの三人、まだくじ引きしてますよ」

「本当だ」

「やっぱりいいって言ってあげないと可哀想な気が......」

「当然の報いだよ。仮に一等のゲーム機を持ってきても受け取る気ないけどね」


女を敵に回すと怖い‼︎僕も気をつけなきゃ。


しばらく見回りをしていると、乃愛先輩は僕のワイシャツを軽く引っ張りながら、わたあめ屋さんを指差した。


「ねぇねぇ、わたあめ食べたい」

「雫先輩、わたあめ買ってきていいですか?」

「いいわよ」


二人でわたあめを買いに行き、乃愛先輩は口いっぱいにわたあめを入れて満足そうだ。


「喉乾きますよ?」

「ラムネ買いに行こ!」

「勝手に行ったら怒られますって」

「見える範囲なら大丈夫だよ!」

「怒られたら乃愛先輩のせいですからね」

「分かった分かった!」


楽しそうな乃愛を遠くから見つめる結愛は、小さくため息をついた。


「はぁ......」

「どうかした?」

「梨央奈はさ、自分から蓮を振ったんだよね」

「う、うん」

「どれくらい辛かった?マックスが100だとしたら」

「250ぐらい」

「そっか」

「......嘘でしょ?」

「あ、戻ってきた」

「ごめんなさい!飲み物も買ってきちゃいました!」

「どうしても蓮が飲みたいって」

「そう言いながら美味しそうにラムネ飲まないでくれます⁉︎」

「あはははは!」


クソ!その笑顔だけで何でも許したくなる!


「水分補給は大切よ。行きましょう」


あ、怒られなかった。


見回りをしながら食べ歩きをしているうちにすっかり暗くなり、僕達は焼きそばを買って一度ベンチで休憩することにした。


「焼きそば美味しいね!」

「歯に青のり付いてますよ」

「え!取って取って!」

「舐めて取ってください」

「舐めて取ってください」

「真似したように見せかけて、やばいお願いしないでください」

「バレた?」

「バレバレです」

「あと15分で花火ね」

「そうじゃん!楽しみー!」


みんなも花火を楽しみにしている。今年は全員で見れるんだ。


「乃愛先輩」

「ん?」

「花火楽しみですね!」

「う、うん!」

「どうかしました?」

「なんも?」

「ならいいですけど」


花火の時間は瑠奈も合流できたらいいなー。


そして花火大会5分前になると、アナウンスが鳴った。


「花火開始まで5分前です」


それを聞いた瑠奈は、川に居ると蓮からメッセージが来ていることを確認し「蓮のところ行ってくる!」と言って探しに走り出そうとしたが、林太郎は瑠奈の腕を掴んだ。


「林太郎?」

「行くな」

「......」

「俺の話を聞いてくれ」

「なに?」 

「俺は瑠奈が好きだ。瑠奈が辛い時も、いつだって俺が支えになる。だから、俺と付き合ってほしい」

「......」

「......」

「......ごめんね、林太郎」

「そっか」


走っていく瑠奈の後ろ姿を眺めながら心が折れそうになったが、林太郎は走り、また瑠奈の腕を掴んだ。


「やっぱり行くな!」

「林太郎......」

「もう、瑠奈が傷つくのを見たくない!」

「私、そんなに馬鹿じゃないからさ、蓮と付き合えないこと知ってるよ?」

「それじゃなんで」

「傷ついても、傷ついても傷ついても、蓮が好きなの」

「俺じゃダメなのか」

「林太郎が気持ちを伝えてくれたから、きっと今日で終わりにする。中途半端な気持ちで林太郎とは付き合えない」

「終わりって?」

「蓮に直接、林太郎と付き合いますって伝えてくるよ。そうしないと、私は馬鹿だから蓮から離れられない」

「さっき馬鹿じゃないって言ってたろって......ん?」

「だから手離せ‼︎花火大会始まっちゃう‼︎」

「ご、ごめんごめん」

「一人で花火見てろ!」

「おぉ......」

(状況が理解できない。俺は瑠奈と付き合えるのか?ん?よく分からん)


その頃蓮達は、花火が見える川の草むらに横一列に座っていた。


「花火上がりました!」


花火大会が始まり、みんなで花火を眺めている中、乃愛は花火が上がる度に心の中で、とあるタイミングを考えていた。


(次の花火が小さかったら言おう......)


青と赤の大きな花火が上がり、乃愛は静かに蓮の手を握った。


(次も大きな花火だったら......)


大きな花火と小さな花火が連続で上がり、蓮の手を軽く引っ張り、2人の目が合った時、乃愛はどこか切なくニコッと笑みを見せて言った。


「ごめんね、蓮」

「え?」

「私達、別れよう」


乃愛先輩の言葉を聞いた途端、頭が混乱して花火の音が篭って聞こえ、乃愛先輩は流れる涙を拭いて立ち上がった。


「またフランクフルトたーべよ!」


乃愛は拭いても拭いても流れ出てくる涙を止めることができず、みんなに顔を見られないように走り出した。


「行ってくるわね」


雫先輩が乃愛先輩の後を追いかけて行き、結愛先輩が僕の肩に触れた。


「ごめんね......乃愛から相談されてたんだけど、止めてあげれなかった......」

「......」

「まっ、待て?なにがどうなってるの?」

「なに?蓮先輩振られたの?」

「千華、花梨、後で説明するから、今は1人にしてあげよう。梨央奈も行こう」

「うん」


僕は花火大会が終わってもそこから動けず、周りから人は居なくなり、辺りには虫の鳴き声だけが響いていた。


「蓮!なんで電話出ないの⁉︎どの川だか分からなくて、真逆の川行っちゃったじゃん!」

「あぁ、ごめん。花火で聞こえなかった」

「花火は一緒に見れなかったけど、今日は言いたいことがあるの」

「なに?」

「えっと......私、林太郎と付き合います!」

「......そうなんだ」

「蓮?どうしてそんな悲しそうな顔してるの?」

「別に。お幸せにね」

「う、うん......」


その頃雫は、祭り会場から近い場所にある公園で、泣きながらベンチに座り、なにも話さない乃愛と一緒にいた。


「落ち着いたら話を聞かせてちょうだい」

「......雫のために別れたの」

「私のため?」

「雫が蓮のこと好きなんだって知って、雫に譲らなきゃって、雫は幸せにならなきゃいけないんだって......」

「まだ間に合うわ。蓮くんとしっかり話しなさい」

「どうして?私の気持ちを無駄にするの?」

「乃愛さんが勝手にした決断よ。それで気持ちを無駄になんて言われても迷惑だわ」

「雫は幸せにならなきゃいけないの‼︎私を助けてくれた雫が幸せになれないなんてダメなの‼︎」

「私は生徒会長という立場になって、沢山の人に恐怖と絶望を与えてきたの。幸せになんてなる資格ないわ」

「そんなの関係ないよ......私は雫に幸せになってほしいの。分かってよ......」

「そもそも、蓮くんと私が結ばれる保証なんてないし、そんなことで自分の幸せを捨てるなんて馬鹿なこと考えないで」

「雫が素直になれば、きっと蓮は雫に惚れる」

「あり得ないわ」

「......」


乃愛は泣きながら公園を立ち去り、しばらくして雫の携帯に結愛から電話がかかってきた。


「乃愛と合流した。今日は帰るね」

「分かったわ」

「みんなも門限があるから帰るって。蓮はまだ川にいるから行ってあげて」

「そうね、蓮くんも帰らせるわ」


雫は川に戻り、座ったまま俯く蓮に声をかけた。


「いつまでそうしているの?」

「雫先輩......」

「早く帰りなさい」

「少し、話を聞いてくれませんか?」

「構わないけれど」


雫先輩は僕の横に座り、話を聞いてくれた。


「なんで振られたか分からないですけど、分かったことがあるんです」

「なに?」

「瑠奈は僕にすがっているんだとばかり思っていました。でも、本当にすがってたのは僕でした。どんな時も、瑠奈は離れていかないとばかり思ってたんです」

「どうして瑠奈さんの話になるのかしら」

「瑠奈、林太郎くんと付き合うことになったそうです。さっき聞きました」

「そう。1日で2人も自分から離れていってしまったわけね」

「はい......」

「乃愛さんは蓮くんが嫌いになって別れを告げたわけじゃない。きっとまた戻れるわ」

「すごいショックなのに、戻りたいって気持ちが湧かないんです」

「なぜ?」

「梨央奈先輩と別れた時、もう彼女なんて作らないって思ってて、その気持ちを変えてくれたのが乃愛先輩でした。その乃愛先輩に振られて、梨央奈先輩の時よりそういう気持ちが強いんだと思います」

「逃げたり諦めたりできるのは頑張った人の特権。蓮くんは頑張ったと思うわ」

「......」

「逃げたければ逃げなさい。その代わり、もう二度と乃愛さんと結ばれることはないと思いなさい」

「二度とですか......」

「えぇ、そうよ。でもきっと、逃げた先で誰かと出会えるわ」

「雫先輩は何かから逃げたことあります?」

「......今思えば、全てが逃げだったんじゃないかと思うわ」

「それはないですよ。僕からすれば雫先輩は、ずっと最前線で戦ってる人です」

「戦争の兵隊みたいに言わないでちょうだい」

「いや、あの学校は戦場みたいなもんじゃないですか。威圧感というロケットランチャーを背負った鬼がいるんですから」

「そんなことが言えるなら大丈夫そうね。まずは自分がどうしたいのか、帰ってゆっくり考えてみなさい」

「はい」


その頃、男三人組は一等のゲーム機を持って蓮達を探していたが、会うことなく夏祭りと夏休みが終わり、翌日の始業式では、付き合い始めていきなりぎこちなくなった瑠奈と林太郎くんを見て、なんとなく嬉しいような悲しいような気分になり、乃愛先輩と会う気まずさから、その日僕は生徒会に顔を出さなかった。


一方で雫は、自分のせいで乃愛と蓮が別れてしまったと考え、罪悪感に襲われていた。


(私のせい......)

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