落書き


今日は生徒会選挙の発表の日。


「生徒会長は、音海雫さんに決定いたしました」


結果、選ばれたのは雫先輩だったが、美桜先輩との票の数は三十票ほどしか違わなく、美桜先輩は改めて自分の人気を見せつけることになった。

あんなことがあっても人気が無くなることがないの何故だろうと、不思議に思っていると、雫先輩がステージに呼ばれた。


「生徒会長として、ご挨拶お願いします」

「はい」


雫先輩はステージに上がり、マイクの前に立ったが、何故か昨日までの雰囲気とは違う気がする。

みんなもそれを感じ取ったのか、一瞬で空気がピンっと張り詰めた。


「みなさんの投票のおかげで生徒会長になることができました。これから、楽しい学校生活を送りましょうね」


......楽しくなさそう。


「さて、挨拶はこれぐらいにしいて、花井美桜さん、立ちなさい」


呼ばれた美桜先輩は立ち上がり、真っ直ぐ雫先輩を見つめた。


「貴方は明日までに髪を黒くするように」

「はいはい」


美桜先輩、やけに素直だな。


「言いたいことは以上です。元生徒会メンバーはその場に残ってください。解散」


やっぱり雫先輩の堂々とした態度には圧倒される。悪いことしてないのに、パトカー見るとドキッとするあの感覚に似てる......


元生徒会メンバー以外の生徒が体育館から出ていくと、雫先輩はそのままマイクを使って話し始めた。


「もう一度、生徒会に入る意思のない人は今すぐ体育館から出て行って」


僕はもちろん、誰もその場を動かなかった。


「ありがとう」


雫先輩はステージを降り、一人一人の制服の紋章を金の紋章に変えていった。

次は僕だ。


「これからも、よろしく頼むわね」

「はい!」


念願の金の紋章を貰い、思わず笑みが溢れた。


「さぁ、久しぶりに生徒会室へ行きましょう」


生徒会全員で廊下を歩くと、周りの生徒は怯えて僕達を避ける。

逆の立場になって考えれば当然だ。生徒会全員集合はかなりの迫力と威圧感を放つ......怖いに決まってる。


生徒会室の前に着くと、僕達は衝撃的なものを目にした。

生徒会室の扉には、太いマジックペンで(バカ、生徒会やめろ)などの酷い言葉が落書きされていた。


「誰がやったの。やった奴捕まえてぶっ飛ばす」

「結愛さん落ち着いて」

「アイツだよ‼︎美桜に決まってる‼︎」

「千華さんも落ち着いて。生徒会最初の仕事は犯人探しね」


すると乃愛先輩は目を細め、落書きされた字をジッと見つめた。


「字が違う。犯人は少なくとも二人」

「乃愛先輩すごいですね」

「わーい!蓮に褒められたー!」

「それに、落書きにしては走り書きじゃない綺麗な字。書いたのは......」

「女子生徒ね」


梨央奈先輩も雫先輩もすごい......前世は探偵かなんかだ、きっと。


「蓮くんはなにかに気づかないかしら」

「んー、雫先輩が会長になったのは投票で決まったことです。なので、今の生徒会にこんなことするのは美桜先輩派の生徒だと思います」

「蓮すごーい!」

「乃愛先輩ほどじゃないですよ」

「千華さん、投票の紙を全て集めてちょうだい。職員室にあるわ」

「了解!」


千華先輩が職員室に向かうと、雫先輩は生徒会室の扉を開けた。


「とりあえず、お茶にしましょう」

「私レモンティー!」


こんな呑気で良いの⁉︎


「蓮くんもレモンティーでいいかしら」

「は、はい」


結局、みんなでレモンティーを飲みながら千華先輩を待った。

しばらくして、千華先輩は投票の紙が入った箱を持って戻ってきた。


「あー!みんなだけズルい!梨央奈、私も飲む」

「自分で作りなよ」

「えー、あ、もしかして生徒会室にあったパック使った?」

「そうよ」

「それ消費期限切れてるでしょ」


雫先輩以外のみんなは勢いよくレモンティーを吹き出し、雫先輩はハンカチで口を押さえて咳き込んだ。


「うっそぴょーん!」

「千華さん、今すぐグラウンド20週」

「すみませんでした!」

「ダメよ。行きなさい」

「蓮も一緒に行こ♡」

「早く行ってください」

「冷たいなー。行ってくる〜」


千華先輩が走りに行くと、次に雫先輩は僕に指示を出した。


「私への投票と美桜さんへの投票の紙を綺麗に分けてちょうだい。10分でお願い」

「10分⁉︎い、急ぎます!」

「蓮、半分私に貸して」

「乃愛先輩!手伝ってくれるんですか⁉︎」

「うん!」

「私も」

「結愛先輩まで!」

「ダメよ。蓮くん一人にやらせて」

「分かった」

「雫!蓮に意地悪しないで!」

「こんなことも一人でできない人間。生徒会には要らないわ」


鬼が帰ってきた〜!本当に雫先輩が生徒会長でよかったの⁉︎


今になって少しの後悔が襲いながらも、必死に紙を分けた。


「終わりました!」

「7分31秒......上出来ね。ありがとう」

「はい!」

「お疲れ様!はい、一休みして」

「ありがとうございます!」


梨央奈先輩は僕にレモンティーをくれた。


「あ、消費期限切れてるんだった」

「ぶっー‼︎忘れないでくださいよ‼︎」


僕も忘れてたけど。


「梨央奈ズルい!蓮と間接キスした!」

「私がしたわけじゃないよ。蓮くんが私としたの!」


梨央奈先輩が飲んでたティーカップだったのか。正直、今更梨央奈先輩との間接キスに抵抗はない。


「失礼しまーす」

「瑠奈じゃん。どうしたの?」

「蓮に会いにきた!てかさ、扉の落書きどうしたの?」

「誰かに書かれて、今調べてる途中だよ」

「瑠奈さん、授業は?」

「サボった」

「グラウンドを走るか、美桜さんが今何をしているか見てくるの、どっちがいいか選びなさい」

「どっちも嫌だー」

「選びなさい」


雫先輩の鋭い目つきと、少し低くなった声に怯んだ瑠奈は答えた。


「美桜先輩を見てくる」

「バレずにね。確認したら戻ってきて」

「は、はーい」


それから千華先輩がヘトヘトになりながら戻ってきてすぐに、瑠奈も戻ってきた。


「見てきたよ」

「どうだった?」

「辛そうな顔して机の落書き消してた」

「梨央奈さん!今すぐに消すのをやめさせて!」

「了解!」

「千華さんも行って!」

「え〜疲れたよ〜」

「早く‼︎落書きをそのままに机を持ってきて‼︎」

「は、はい!」


雫先輩は焦り、梨央奈先輩と千華先輩は急いで生徒会室を出て行った。


「雫先輩、どうしたんですか?」

「落書きの犯人が同じかもしれないわ」

「それじゃ、美桜先輩派の人が犯人ってのは間違いですか?」

「まだ分からないわ」


梨央奈先輩と千華先輩が机を運んできて、美桜先輩も着いてきた。


「ほっといてってば‼︎」


雫先輩は立ち上がり、落書きに目を通した。


「バカ、裏切り者、ゴミ、カス、ザコ、死ね。全てマジックペンね」

「雫!いきなりなんなの!」

「これ、誰に書かれたか分かるかしら」

「分からないけど......」

「梨央奈さん。美桜さんへの投票の紙から、私達のクラスメイトだけ分けてちょうだい」

「了解」


結愛先輩は一度、美桜先輩を落ち着かせるために、消費期限が切れているレモンティーを出した。


「とりあえず飲みな。千華の親の会社から出てるやつで、美味しいよ」

「あ、ありがとう」


美桜先輩は喉が渇いていたのか、レモンティーを一気に飲み干すと、お腹から(ギュルルルル)と嫌な音が鳴った。


「な、なにを入れた」

「なにも?消費期限が切れてるだけ」

「ちょっ、ちょっとトイレ......」


美桜先輩はお腹を押さえながら苦しそうにトイレに向かった。

すると瑠奈は嬉しそうに結愛先輩の肩を軽く叩いた。


「やるねー!」

「邪魔だからトイレに篭ってもらおうと思って」

「あはは!いいねいいね!」

「チビ瑠奈、お前ももう用無し」

「は?乃愛先輩は早く足治しなよ。じゃないと喧嘩できないじゃん」

「私に勝てるわけないじゃん」

「確かに」


いや、そこ認めちゃうんだ。にしても、三人並ぶとあそこだけミニマムの世界だ。

この三人が仲良くなって、添い寝するところを見たい‼︎それも一つの夢にして、今日も強く生きていこう。


「蓮くん」

「は、はい!」

「現在の貴方の推理を聞かせて」

「え......全然分からないです」

「そう。思ったことがあれば遠慮なく言ってちょうだい。それが間違いでもいいから」

「間違えてたらダメじゃないですか?」

「時に、間違いから気づくこともあるものよ」

「分かりました」


生徒会に戻ってすぐ、落書きの犯人探しという物騒な仕事が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る