罪は罪


選挙結果前日の昼休み、美桜が学校を辞めようとしていると聞いた雫は、美桜を屋上に呼び出した。


「いきなり呼び出してなんなの」

「学校をやめるの?」

「悪い?」

「逃げるのね」

「は?」

「貴方は前からそうだった。中学の時、毎回テストの点数でギリギリ私に負けて、チヤホヤされてる私が憎かったのよね。なのに、勉強で勝てないと分かると、私の根も葉もない噂を流して。貴方は最後まで戦おうとしなかった」

「だからなんなんだよ」

「高校生になって離れてから、私との繋がりが切れた貴方は、SNSで私のお姉ちゃんを見つけた。次はお姉ちゃんが援助交際してると合成写真まで作ってSNSでばら撒いた。それでも私が元気に生徒会長をやってると聞いた貴方は、わざわざこの学校に転校してきた。どこまで粘着質なの」

「お前が悪いんだ......お前が私より上だから‼︎」

「テストでいい点数が取れるのも、今私が支持を集めているのも、全部私自身の努力の結果よ」

「私だって努力した」

「貴方の努力はそこまでのものだったのよ」

「そういうとこ本当嫌い」

「それは貴方が未熟だからよ」

「少しぐらい......努力を認めてくれたっていいじゃん」

「なに?私に弱々しい姿を見せるの?そもそも、努力を認めてってなにかしら。私だって人の努力を認めないほど酷い人間じゃないわよ。貴方が私に努力を認めさせる努力をしてないだけじゃないかしら」

「なんでそんなことしか言えないの」

「貴方は私から大切なものを奪った。それなのに私に努力を認めてほしいなんてふざけてるわね」

「......雫は私の憧れだった......私も最初は雫を傷つけるつもりなんてなかった!」


雫は美桜の胸ぐらを力強く掴んで引っ張った。


「人殺しだって同じことを言う。殺すつもりはなかったと。罪は罪よ。そして、お姉ちゃんを救えなかったのも私の罪」

「どうして......私を訴えなかったの?雫の家の財力なら訴えるのも簡単でしょ?」

「貴方に謝ってほしかったからよ」

「......は?」

「私の家が貴方を訴えれば、貴方は一生かかっても払えない額を払うことになるわ。お姉ちゃんの人生を奪われて、人の人生を奪うなんて考えに至らないわよ」


雫が手を離すと、次は美桜が雫の胸ぐらを掴んだ。


「じゃあなんで演説の時あんなことしたの‼︎私はあれで人生潰された‼︎」

「貴方が嫌いな私が救ってあげるわよ。それが私の復讐」

「雫なんかに助けらたくない‼︎」

「なら勝手にするといいわ。私は助けてあげると言って、貴方はそれを拒否した。学校生活が潰れるのは貴方自身のせいよ。離してくれるかしら」


雫は校内に戻り、美桜がベンチに座って空を見上げていると、蓮を探している瑠奈が屋上にやってきた。


「あれ?蓮見なかった?」

「あ?お前、私を裏切っといてよく話しかけられるな」

「最初に騙して裏切ったのアンタじゃん。当然の結果だよ。蓮居ないなら行くね」

「一年なのに根性すわってるね」

「入学式早々、雫先輩のターゲットにされたからね。アンタなんかどうってことない」

「あっそ」


その頃蓮は、睦美と一緒に食堂にいた。


「きつねうどん美味しいですか?」

「うん!涼風くんは食堂に来ると必ずカレーだね」

「本当はチーズハンバーグカレーがいいんですけど、高いですからね」

「言ってくれたら奢ったのに!」

「それは申し訳ないですよ」

「明日は奢ってあげる!」

「800円もしますよ⁉︎」

「5.....500円出す!」

「あ、ありがとうございます」


普通の高校生に800円はキツイ。当たり前だ。


「それで、そろそろ返事がほしんだけど」

「え」


いきなりぶっ込んできたな......

この数日、いろんなことを考えた。梨央奈先輩と別れて、瑠奈を遠回しに振って、睦美先輩は可愛いし優しい、でも僕にとってはそれだけで、睦美先輩のここが好きだという部分は時にない。


「あの......」

「は、はい」

「......ごめんなさい」


その時、睦美先輩の隣にチーズハンバーグカレーを持った雫先輩が座った。


「うわ。出た、金持ち」

「なにか言ったかしら」

「べ、別に」

「カレーの匂いを嗅ぐと、カレーが食べたくなるわよね。睦美さんもそう思わない?」

「ま、まぁ」


雫先輩は僕のスプーンを取り、自分のカレーを一口、睦美先輩の口に運んだ。


「美味しい?」

「う、うん」


睦美先輩、タコみたいに顔真っ赤だ。


すると雫先輩は僕の後ろに向かって手招きをした。

気になって後ろを見ると、恐ろしい表情をした瑠奈が立っていた。


「なに」

「私のカレー、食べていいわよ」

「え、本当?」

「睦美さんは、うどんを食べ終えてるみたいだし、蓮くんと一緒に食べなさい」

「い、意外といいとこあるじゃん」

「意外と?」

「どう考えても意外とでしょ」


僕も瑠奈に同意。


「そう。睦美さん、行きましょう」

「え、あ、うん」


雫と睦美は食堂を出て、近くの自販機までやってきた。


「お茶でいいかしら」

「ありがとう」

「飲み物ぐらい良いわよ」

「そうじゃなくて、空気を悪くしないために来てくれたんでしょ?それに、せめて間接キスぐらいって......」

「私、そんなに暇じゃないの。睦美さんの失恋ぐらいどうでもいいことよ」

「本当、嘘が下手だよね」

「......気が変わったわ。お茶代120円返しなさい」

「えぇ......会長はお金持ちって聞いたんだけど」

「ケチだからお金持ちなのよ」

「な、なるほど......でもありがとう!泣かずに済んだ!」


雫は睦美から受け取った120円でもう1本お茶を買った。


「間違えて冷たいのを買ってしまったわ。あげる」


そのお茶を睦美に渡し、雫はその場を立ち去った。


(ホットのお茶なんて売ってないし、間違えようがないよ)

「本当、優しすぎるんだから」


結局睦美は、失恋した悲しみと雫の優しさで、二本のお茶を握りしめて泣き崩れてしまった。


その頃蓮は、瑠奈に問い詰められていた。


「今、なんでそのスプーン使ったの?それ、一回睦美先輩が使ったスプーンだよね」

「これしかないんだから仕方ないじゃん」

「仕方ない?新しいの貰ってくればいいでしょ?でも、蓮は悪くないよ」

「はい?」

「元々は蓮のスプーンを使った睦美先輩が悪いの。蓮は睦美先輩に汚されただけ。早くうがいして」


瑠奈は無理矢理水を口に入れてきて言った。


「はい、出して」

「んーん!」

(無茶だ!こんな場所で水を吐けと⁉︎)

「早く出して!」

「ぶっー‼︎」


瑠奈に両頬を潰され、吹き出した水は全て瑠奈の顔にかかってしまった。


「ご、ごめん!......なんで微妙に嬉しそうな顔してるの」

「うへへ♡」


幸せそうでなによりです。


明日は生徒会選挙の発表の日。

あんなことがあっても、美桜先輩を支持する生徒はそこそこいる。最後まで結果は分からない......

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