私は嘘をついた


「私達のクラスで美桜さんに投票したのは9人だよ」

「女子生徒は?」

「4人」

「まだ確証はないけど、一気に絞れたわね」


これで本当に四人の中に犯人がいたら......凄すぎるわ。


「蓮くん、私の席に座りなさい」

「え......」


何故か会長専用の席に座らされた。


「うわ。椅子の座り心地凄いですね!」

「よかったわ。これから四人の生徒を一人一人呼び出すから、蓮くんが話をして犯人を見つけてちょうだい」

「なんで僕なんですか⁉︎」

「警戒心を解くためよ」

「はぁ......頑張ります......」

「これが四人の顔と名前よ。それじゃ、みんな教室に戻りましょう」


雫先輩は女子生徒の名前と顔が載った紙を僕に渡して、美桜先輩の机に白い布を被せて生徒会室を出て行った。


しばらくして一人の生徒が生徒会室に入ってきた。


「失礼しまーす」

「す、座ってください」

「なんか、梨央奈さんに生徒会室に行くように言われたんだけど」

「あー、えっとー」


この人は......あい先輩か。

短めの髪で、爽やかなスポーツ少女って感じだ。千華先輩みたいに女から持てそうな女って感じ。千華先輩が女からモテるかは分からないけど。


「愛先輩は、生徒会長が決まった後、なにをしていましたか?」

「体育館を出てすぐのトイレに行って、その後すぐに教室に戻ったけど」

「教室に戻った時には、美桜先輩の机に落書きはありましたか?」

「あったよ!あれは酷すぎ!」

「誰がやったか分かりませんか?」

「分からないよ。教室に戻ったらみんな見て見ぬ振りだったから、私も関わらない方がいいかなって思って見ないふりしちゃったし」

「そうですか。ありがとうございました!」

「もう戻っていいの?」

「はい。一応、ここでした話は他の人にしないようにお願いします」

「分かった」


多分、愛先輩は違う気がする。言葉に迷いがなかったし......これで愛先輩だったら、女恐怖症になりそう。


ずっと前から女恐怖症になりそうなタイミングはいっぱいあっただろうと、自分に心の中でツッコミを入れた。


次にやってきたのは加奈乃かなの先輩。

姫カットで地雷臭漂う見た目だ......まぁ、見た目で判断するのはやめよう。


「生徒会室行ってって言われたんだけど、私なにかしたかな」


ちょっと路線を変えてガッツリ疑ってみよう。


「してないですか?」

「なにもしてないよ?」

「本当ですか?」

「なにを疑ってるの?私がなにかするような見える?」

「はい、見えます」

「......なんでそんなこと言うの」


んー......全然分からないな。


「生徒会長が決まった後、なにをしましたか?」

「すぐに教室戻ったよ」

「すぐにですか?」

「うん」

「教室に戻った時、美桜先輩の机に落書きはありましたか?」

「あった」

「加奈乃先輩が教室に入った時、誰か教室に居ました?」

「んー、みんな続々と入っていく感じで、私より明らかに早すぎって生徒はいなかったよ。私が教室に入ったのは五番目ぐらいだったし」

「加奈乃先輩。落書きしましたよね」

「は⁉︎」

「だって、そんな早く教室に戻ったんですよね!それで落書きはもうあったって怪しすぎます!」

「最低。私やってないのに......もう死んでやる。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ね死ぬ死ぬ」

「死ねが混ざってましたけど⁉︎」

「私やってないもん‼︎雫に言いつけてやる‼︎」

「ちょっ!ちょっと⁉︎」


加奈乃先輩は怒って生徒会室を出て行ってしまった......露骨に疑うのはやめよう。


次にやってきたのは麻友まゆ先輩。

髪を後ろに束ねて眼鏡をかけている、真面目さが伝わる見た目だ。


「あ、あの、私ってなんで呼ばれんですか?」

「ちょっと話を聞かせてほしんです」

「話ですか?」

「生徒会長が決まった後、なにをしていましたか?」

「私ですか?」

「はい」

「図書室に行きました」


図書室......生徒会室の近くだ。


「なんで図書室に行ったんですか?」

「私、図書委員で、昨日図書室に筆入れを忘れてしまって取りに行きました」

「何故朝一に行かなかったんですか?」 

「朝一だと、図書室の鍵が閉まってるんです」

「図書委員なら、先生に鍵を借りれるんじゃないですか?」

「そうですけど、今日は朝から生徒会選挙の結果発表があって、遅れたら怖いなと思ったので......」

「分かりました。図書室に行った後はどうしました?」

「廊下で会った友達と少し話して、教室に戻りました」

「どこで話したんですか?」

「生徒会室の前です」

「え」

「扉に落書きがされていて、誰がしたんだろうって話したんです。教室に戻ったら美桜ちゃんの机にも似たような落書きがあって......」

「分かりました。ありがとうございました!」

「は、はい」


多分、麻友先輩も無罪......ちょっと待て!犯人は二人なのに、4人中3人違うのはおかしい!誰かが嘘をついてる......やっぱり生徒会室の前で話した麻友先輩は怪しい⁉︎


そして最後に生徒会室に来たのはあおい先輩。

ロングボブで顔はそこそこ可愛いけど、なんかダルそう。


「私、なんで呼び出されたわけ?」

「生徒会長が決まった後、なにしました?」

「教室に戻ったよ」

「教室に戻った時、教室に誰かいました?」

「いや、一番乗りだったけど。その後すぐみんな戻ってきたけど」


その時、美桜先輩が眉間にシワを寄せて生徒会室の扉を開けた。


「結愛‼︎よくも消費期限......結愛は?」


まずい......葵先輩が犯人なら、今美桜先輩が現れたのは最悪すぎる。変に警戒心を与えて終わりだ......


「聞いてる?結愛は?」 

「分かりません。てか美桜先輩、こんなに長くウンっ」 


美桜先輩は僕の言葉を止めるように胸ぐらを掴んできた。


「あー⁉︎それ以上言ったら分かってんだろうな‼︎」 

「コ」

「死ね」

「グハッ‼︎」


美桜先輩は本気で僕にボディーブローをキメて立ち去った。


「だ、大丈夫?」

「は、はい。話を戻します」


とりあえず、僕のお腹を代償に落書きの話にならずに済んだ。


「一番乗りで戻った時、なにか変わったことはありませんでした?」

「美桜の机に落書きがあったぐらいかな」

「一番乗りで教室に行ったのに、もう落書きがあったんですか?」

「そうだけど。なに?私がやったって疑ってるってわけ?」

「違います違います!」

「私はやってないから」

「で、ですよね」


葵先輩が生徒会室から出て行って数分後、雫先輩が生徒会室に戻ってきた。


「どうだった?」


僕は四人と話したこと全てを説明した。


「それで四人の中で怪しいのは、図書室に行った麻友先輩と、一番乗りで教室に戻った葵先輩ですかね......」

「なるほどね。多分、四人の中に犯人はいないわね」 

「え⁉︎なんでそうなるんです⁉︎」

「愛さんはトイレに行って、ちょっと遅れて戻り、その時には落書きはあって、他の生徒もいた。そんな嘘はすぐにバレるから、本当だと思うわ」

「加奈乃先輩はどうなんですか?」

「加奈乃さんも同じく、教室に戻った時には生徒がいて、その後すぐに他の生徒も戻ってきている。犯人ならそんな嘘はつかないわ」


まぁ、ここまでは僕も同じ考えだ。


「麻友さんは生徒会室の前で落書きについて話したと言っている。犯人なら疑われる要素になるから絶対言わないと思うの」

「確かに......それじゃ葵先輩は......」

「一番乗りで教室に戻り、続々と生徒が戻ってくる中で落書きはできないし、その後教室を出ていないなら生徒会室にも落書きをするのは不可能よ」

「その後教室を出たかは確認しませんでした......」

「今、梨央奈さんに確認させるわ。確認取れたわ」

「いや、早っ」

「出てないそうよ」

「んじゃ、本当に四人は無罪ってことですか?」

「そうね。分かったのはそれだけじゃないわ」

「なんですか?」

「落書きされたのは、生徒会選挙の結果発表前よ」

「え、それじゃ誰が会長になるか分からないのに落書きしたんですか?」

「分かっていたのよ」

「どういうことですか⁉︎」

「発表前に結果を知っていた人。投票を集計した人の中に犯人はいる」


はい、雫先輩の前世は探偵で確定。


「真実はいつもひ」

「言わせませんよ⁉︎」

「とにかく、集計したのが誰なのか調べましょう」

「それなら、七川先生に聞いてみますか?」 

「お願いできる?」

「はい、行ってきますね」

「ありがとう」


一度教室に戻ると、授業中にも関わらず、瑠奈は左頬を潰して気持ち良さそうに寝ていた。


「中川先生、ちょっと廊下に」


みんなに話を聞かれないように、中川先生を廊下に呼び出した。


「どうしたの?」

「落書きの話は入ってきてます?」

「もちろんよ。先生達も犯人を探してるけど分からないのよ」

「もしかしたら、選挙の投票を集計した人の中にいるかもしれないんです。だれが集計したか分かります?」

「えっとー、三年生のゆずさんと彩夏あやかさんと富美とみさんの三人だったかな」

「ありがとうございます!」


急いで生徒会室に戻ると、書類に目を通す雫先輩と、飴を舐めながらソファーに寝転んでくつろぐ千華先輩がいた。


「聞いてきました。三年生の柚先輩、彩夏先輩、富美先輩の3人だそうです」

「千華さん、三人を呼んできてちょうだい」

「もう脚パンパンだよ」

「行きなさい。連れてくる時、私は居ないと伝えてちょうだい」

「しょうがないなー」


千華先輩は疲れた様子で生徒会室を出て行った。


「自分で行かないんですか?」

「生徒会室に入ってきた瞬間の表情で分かるはずよ」


雫先輩はそう言って机から布を外し、机を生徒会室の真ん中に置いた。


しばらくして三人の女子生徒が生徒会室の扉を開けた。


「失礼しまーす」

「失礼しまーっ......」

「柚さん、富美さん、何故驚いているの?」


3人とも真面目そうな生徒で、落書きをするとは思えない。


「会長がいると思わなかったので......」

「彩夏さんは教室に戻っていいわよ」

「は、はい」


柚先輩と富美先輩が犯人ってこと⁉︎


「この机に見覚えないかしら」

「無いです」

「柚さんは?」

「無いです......」

「誰の机だと思う?」

「分からないです」

「柚さんも分からないかしら」

「はい......」

「生徒会室の扉は?落書きされていることは知ってたかしら」 

「知らなかったです」

「私も知らなかったです......」

「おかしいわね」


雫先輩は、気弱そうな柚先輩の目の前に立った。


「学校中で噂になっているのに知らない。どうしてかしら」


雫先輩は、微かに足を震わせる柚先輩の顎をクイッと上げた。


「聞いてるのよ」

「ごめん......なさい......」

「ゆ、柚!黙ってればバレないって話したじゃん!」 

「バレたから呼び出されたんだよ......」

「察しがいいわね。怒っても事は解決しないから、とりあえず座りなさい」


やっぱり凄い......でもなんで生徒会室と美桜先輩の机に落書きしたんだろう。


「空いてる時間に業者に問い合わせたのだけれど、扉の交換には30万前後かかるそうよ。机は16800円。細かいところは学校が出すとして、2人には1人15万8000円支払ってもらうことになるわ」


2人の顔が一気に青ざめるが、雫先輩は話を続けた。


「ご両親には学校から連絡させてもらうから」

「あ、あの......」

「なにかしら」


柚先輩が震えた声で話し始めた。


「私、退学とかになるんですか?」

「お金で解決できるのだから退学にはしないわ。だけど、反省はすることね」


三年生は卒業までそう遠くないのに、こんなことで問題を起こすなんて勿体ないな......


「わ、私の親はPTAなんだからね!分かってるの⁉︎」

「富美さん。誰が親だろうと悪いことをしてはいけないの。小学生でも分かると思うのだけれど」


その後、2人の母親が封筒を握りしめて生徒会室にやってきて、2人は僕達の前で怒られて帰って行った。


「落書きを消すわよ」

「え?扉変えるんじゃないんですか?」

「変えないわよ。落書きを消して、お金は返すわ」

「なんでですか?」

「他人が困るより、お金がなくなって親が困る方が反省するでしょ?だからわざと請求したの」

「いろいろ考えてるんですね」


それから生徒会全員で落書きを落とし、美桜先輩の机も綺麗にしようとした時、美桜先輩がやってきて、自分の机を運び出した。


「美桜先輩、今から落書き落としますよ」

「それは雫に助けてもらったことになる。いじめられたまま学校生活送ってやるよ」


まったく、美桜先輩も素直になればいいのに。


「雫先輩、あの2人はなんで美桜先輩の机にも落書きしたんですか?」

「憧れの対象が自分の考えと違う行動や結果を招いた時、裏切られたと思ってしまう人は少なくないわ。勝手に期待して、いきなり裏切られたとか言われたら、期待される方はたまったものじゃないわよね」

「雫先輩もそういう経験あるんですか?」

「どういうことかしら」

「生徒会長だし、憧れとか、期待の対象にされること多そうだなって」

「私は嫌われることの方が多いわね」

「悲しいですね」

「嫌われて悲しいなんて思ったことはないわ。私は私が大切に思う人達が側にいてくれたらそれでいいの」

「生徒会メンバーですか?」

「家族のことよ」

「あ......なるほどです」

「梨央奈さんちょっと」

「なにー?」


雫先輩は梨央奈先輩を連れて生徒会室を出て行った。


「屋上まで連れてきてどうしたの?」

「いつ言おうかと悩んでいたのだけれど、蓮くんに私の過去を話したわよね」

「え⁉︎あー......」

「話したわよね」

「う、うん。ごめん」

「他に話した人は?」

「いない」

「ならいいわ」

「お、怒ってる?」

「えぇ、もちろん」


(私は嘘をついた。いや、つき続けている......嫌われるのは辛い。それに、梨央奈さん以外にも私の過去を知ってくれてる人がいる......少しだけど、私は......嬉しかった)


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