恋や愛は幾ら?
雫先輩を先頭に歩いていると、横に黒いリムジンが止まり、運転手が降りてきた。
「雫お嬢様、お迎えにあがりました」
「目立つからその車はやめなさいと言ったわよね」
「なにやら大人数だと聞いたものですから」
「次から気をつけてちょうだい」
「すみませんでした」
「みんな、乗るわよ」
リムジンなんて初めて見たし、初めて乗る‼︎
梨央奈先輩は冷静だが、僕を含めて他のみんなは、表情に出るほどワクワクしている。
リムジンに乗り込むと、車内は小さなバーのようになっていて、椅子はふかふかで座り心地が最高だった。
「蓮!私初リムジン!」
「僕もだよ!」
千華先輩はマジックミラーになっている窓から、下校している生徒を眺め、悪役のような笑い方をした。
「クックック!愚民共め!私にひれ伏すがいい!」
「千華も愚民じゃん」
「結愛!今ぐらい夢見させてよ!」
千華先輩は、絶対お金持ちになっちゃいけない人だと確信した。
美桜先輩はさっきから落ち着きがなく、周りをキョロキョロしていて、乃愛先輩と梨央奈先輩は、楽しそうにニコニコしながら千華先輩と結愛先輩を見ていた。
それからしばらく経って雫先輩の家に到着した。
「到着いたしました」
リムジンを降りると、映画やアニメでしか見たことがない洋風のお城のような家、こんなに必要か?と思うほど広い庭が広がっていた。
庭には雪が積もっていたが、門から玄関までの一本道には雪一つ無く、滑る心配がないようになっていた。
「行きましょうか」
乃愛先輩が車椅子に乗っているのを見た黒服の人は、スマートに階段の段差を滑らかにする台を設置した。
「ありがとうございます!」
「どうぞごゆっくり」
二人の黒服の人が玄関の扉を開けると、中には黒服の大人が四人待機し、完璧な姿勢でお辞儀してきた。
「お帰りなさいませ!雫お嬢様!」
「ただいま」
すると四人の大人達は綺麗な白いハンカチを使い、雫先輩の髪や制服に付いた雪や水滴を一滴も残さずに拭き取った。
「梨央奈先輩もこんな風にしてもらうんですか?」
「いや、ここまでは......」
「私はパーティーに向けて準備があるから、次に会うのは2時間後ね。みんなを客室へ案内してちょうだい」
「かしこましました。どうぞこちらへ」
一人で歩いたら迷子になりそうな廊下を進み、客室へ案内されると、乃愛先輩は心配そうに黒服の人に話しかけた。
「外でも使ってる車椅子なんですけど、大丈夫ですか?」
「ご心配なさらずとも大丈夫でございます。客室の床は全て大理石でできておりますので、汚れても簡単に落とせます」
「レベチすぎる」
「レベチ......ですか?」
「レベルが違いすぎるって意味です」
「なるほど!今度雫お嬢様にも使ってみますね!」
多分やめた方がいい。正しい日本語も使えない人間なんて、この音海家には必要ないわとか言われかねない。絶対言われる。
そして客室に入ると、学校の教室2クラス分ぐらいの広さで、床は白い大理石、天井には高そうなシャンデリアがぶら下げられていた。
「それでは、パーティーの準備ができ次第お声がけいたしますので、ご自由にお過ごしくださいませ」
ドアを閉められた瞬間、千華先輩と美桜先輩は部屋を走り回った。
「広すぎー!」
「これ何人部屋だよ!」
結愛先輩は乃愛先輩を車椅子から下ろして、二人で赤いソファーに座った。
「ふかふかだね」
「このソファー、お父さんに買ってもらおう!」
「お父さん泣いちゃうよ」
瑠奈は梨央奈先輩と広い庭を眺めて楽しそうだし、僕もソファーでゆっくりしよ。
「このテーブルのお菓子食べていいんですかね」
「パーティーまで待った方がいいんじゃない?」
「蓮は食いしん坊だね!」
「お金持ちの客室にあるお菓子の味って気になるじゃないですか」
「んじゃ、チビ瑠奈に毒味させよう!」
「毒味って......」
「チビ瑠奈!カモン!」
「その呼び方やめてよ!」
瑠奈は頬を膨らませて僕の隣に座った。
「このお菓子食べてみてよ」
「お菓子?」
瑠奈がお菓子の包みを開けると、中には丸いチョコレートが入っていた。
「チョコじゃん!いただきまーす!」
「美味しい?」
「うわ!ボンボンだ!お酒入ってる!」
「あははは!蓮、毒味させてよかったね!」
「いや、僕は......」
瑠奈は大量のチョコレートを握りしめて、乃愛先輩の口に放り込んだ。
「乃愛先輩も食え‼︎」
「んっ‼︎んーん‼︎ん‼︎」
本当、乃愛先輩の脚が治ったら、瑠奈はどうなることやら......
涙目になりながらチョコレートを食べる乃愛先輩を見ていると、梨央奈先輩が視界に入り、まだ外を眺めている梨央奈先輩が気になって声をかけてみることにした。
「どうかしました?」
「やっと来れた」
「雫先輩の家ですか?」
「うん。ずっと来てみたかったの」
「よかったですね。しかも今日はパーティーです」
「次は、友達として普通に遊びに来たいな」
「来れますよ。絶対」
それから時間も経ち、黒服の人が僕達を呼びに来た。
「パーティー会場へご案内いたします」
パーティー会場に着くと、さすがの梨央奈先輩も顔を引きつらせた。
「こ、これ家だよね......」
「一応そうみたいですね......」
パーティー会場は、家の中にあるとは思えないほど広く、豪華なバイキングが用意され、ピアノが置かれたステージまで備え付けられていた。
「蓮」
「なに?」
「あの人テレビで見たことある」
「え!じょ、女優さんだよ!ドラマに出てた!綺麗だね」
「どうしたの?目にゴミ入った?私が綺麗にしてあげる」
「いやいやいや!女優さんだよ⁉︎」
「そんなの関係ない」
「はい、ごめんなさい」
あとでサイン貰わなきゃ‼︎と思っていると、いつの間にか千華先輩は女優さんに話しかけていた。
「い、いつも見てます!」
「ありがとう!」
「ササッ、サインとかって」
「いいよ!なにに書けばいいかな?」
「え、どうしよう」
「色紙がないか聞いてくるね」
「あ、ありがとうございます!」
「ぼ、僕にもください!」
「蓮⁉︎」
「いいよ!待っててね!」
女優さんは会場を出て、すぐに戻ってきた。
すると、僕達人数分の色紙に目の前でサインを書いて渡してくれた。
「ありがとうございます!」
この気遣いとサービス精神が大物たる所以なんだろう。
「私、あの女優より綺麗になるから」
「無理でしょ。てか、瑠奈もサイン貰った時めっちゃ嬉しそうだったじゃん」
「それは別!蓮が私以外見れなくなるように努力する」
「努力が実らなかったら?」
「蓮を監禁してベッドに縛り付けて、私か天井以外見れないようにしてあげる」
「怖いよ......」
それからもアナウンサーやお笑い芸人などの有名人、知らないけどお金持ちそうな大人とその子供達が大勢集まってきた。
なんだかんだ言って、有名人を目の前に大はしゃぎの瑠奈は、最強のコミュニケーション能力で有名人と写真を撮りまくっている。
そして19時丁度に会場の電気が消えて、ピアノにスポットライトが当てられた。
ステージに出てきたのは、髪をセットして薄くメイクをし、黒いドレスを着た雫先輩だった。
「綺麗......」
女優を見た後なのに、そんな素直な感想が口から出てしまった。
そのまま雫先輩の演奏が始まり、クラシックの美しい音楽から、小さい子が楽しめる音楽を演奏して沢山の拍手と共に会場が明るくなった。
雫先輩は沢山の人に話しかけられ、丁寧に会話しながら少しずつ僕達の元へやって来た。
「すごい話しかけられてましたね」
「えぇ。疲れたわ」
「雫!凄い綺麗!」
「お姫様みたいだね!」
「ありがとう」
千華先輩と乃愛先輩に褒められても、雫先輩に照れる様子はない。言われ慣れているんだろうな。
「お集まりいただきありがとうございます!今日は飲んで食べて、楽しんでいってください!」
茶色いスーツを着た、いかにもお金持ちそうなカッコいい男性がパーティーの始まりを宣言し、その男性は僕達に近づいてきた。
「やぁ、君達の制服は鷹坂高校のだね。それに金の紋章......二人はしてないみたいだけど」
瑠奈と美桜は、何故かドキッとして自分の紋章を隠した。
「だけど、雫が友達を呼んだのは初めてだよ。選ばれた君達はパーフェクト!将来、僕の下で働く素質があるかもしれないね!」
「お父様、やめてください」
「お父様⁉︎」
「自己紹介が遅れたね。雫の父、そして君達が通う鷹坂高校の校長です」
僕達は思わず深々と頭を下げてしまった。
「は、はじめまして!」
「はじめまして!おや?君は沢村くんの娘さんじゃないかい?」
「あ、はい!梨央奈です!」
「前はよく雫が遊びに行っていたみたいだね。これからも仲良くしてくれ」
「お父様、余計な話をしないで」
「悪かった。それじゃ私はみんなに挨拶しに行くよ」
色々と衝撃的なことはある......でもここで慌てたら目立っちゃうし、変な質問は控えた方がいいだろう。多分みんなもそう思ってる。
それから、みんなそれぞれ食べたい物を取りに行ったが、僕はその場に残った。
「蓮くんは行かないの?」
「誰か残ってた方がいいかと思ったので」
「なぜかしら」
「だって、雫先輩が一人になったら沢山話しかけられて大変かと」
「そうね、誰か戻って来たら交代で行きなさい」
「はい」
最初に戻ってきたのは瑠奈だった。瑠奈は両手に皿を持ってニコニコしている。
「蓮のも持ってきた!全部私と同じ!」
「ありがとう!」
「雫先輩、なんで蓮と二人で居たの?どっか行ってよ」
「蓮くんが私と居ることを望んだのよ」
そうだけど!ややこしい言い方しないでくださーい!
「蓮がそんなこと望むはずない」
「瑠奈、僕達は雫先輩に誰かを近づけさせないために呼ばれたし、だからこんな美味しそうなものも食べられるんだよ?」
「チッ」
瑠奈は舌打ちしてすぐにエビフライを頬張り、不機嫌そうな表情が一瞬で幸せそうな表情に変わった。
それからみんなで楽しく話しながら食事をしているうちに、美桜先輩と梨央奈先輩も打ち解け、瑠奈も楽しい時はみんなと仲良くしようとするから安心だ。
「そういえば、二人は今日誕生日なんですよね」
「うん!」
「プレゼントとか用意してないですけど、お祝いの乾杯ぐらいしません?」
「そうね。みんな、今持っているジュースでいいかしら」
「はい!」
一度みんな皿を置き、コップを手に持った。
「乃愛先輩!結愛先輩!誕生日おめでとうございます!カンパーイ!」
「カンパーイ!」
「乾杯」
すると、それを見ていた教頭が話しかけてきた。
「いいわね〜!青春ね〜!」
「ブフー‼︎」
教頭は女性物のピンクのドレスを着ていて、雫先輩以外の全員が口な含んだジュースを吹き出してしまった。
「なによみんな失礼ね」
「もう、学校で教頭先生を見ても思い出しちゃいますよ」
「いいわね!私を見るたびに、この美しいドレス姿を思い出してくれるなんて♡」
教頭先生は僕に顔を近づけてウィンクをしてきた。
「る、瑠奈助けて!」
「おらぁ!」
瑠奈は怯える僕を助けるために、後ろから教頭の股間を蹴り上げたが、教頭は平気な顔で振り返った。
「なによ」
「な、なんで効かないの⁉︎」
「だって無いもの」
「な......い......」
「瑠奈ちゃん⁉︎」
瑠奈は強い衝撃とショックで、白目を向いて気絶してしまい、そのまま教頭先生が客室に運んでいった......
「雫先輩!あの教頭怖いですよ!」
「悪い人ではないわ」
「で、でも!」
「さっきから見ていればギャーギャー騒いで、君は品がないね」
「え、誰」
声をかけきたのは、同い年ぐらいでスーツを着た、いかにも金持ちの息子って感じの人だった。
「敬語を使いたまえ。君みたいな人が僕と会話できるだけありがたいことなんだ」
「なに言ってんのコイツ」
僕もイラッとしたが、千華先輩もイライラしているみたいだ。
「言葉遣いには気をつけたまえ。僕は雫さんの婚約者だ」
「え、雫先輩ってこんなのが趣味なんですか?」
「貴様‼︎」
「いててててて‼︎」
指を差すと、人差し指を掴まれて曲がってはいけない方向に曲げられ、激痛が走った。
「僕に指を差すとは無礼だぞ!」
すると結愛先輩は、男の左足を踏みながら目を見開き、男の顔を見上げた。
「今なにした。蓮になにした」
気づけば雫先輩の姿は無く、美桜先輩以外のみんなが男を鬼のように睨みつけていた。
「足を退けたまえ。そして僕の靴を拭け。君達のような底辺の人間は、僕達のように優れた人間から一生こき使われて生きていくんだ」
「お前さ」
「なんだい?」
美桜先輩はほとんど興味がない様子で、ステーキを切りながら言った。
「凄いね」
「底辺の人間でも分かってしまうか、僕の凄さが」
「うん、凄い凄い、すっげーキモい。お前モテないだろ」
「無礼だぞ‼︎」
「そういうとこがキモいって言ってんの。雫もどっか行っちゃったし、相当嫌われてるね」
「僕は婚約者だぞ!嫌われてるわけない!いいかそこの男」
「え、僕?」
「そうだお前!今後一切、雫さんには近づくな。雫さんにお前は相応しくない」
「それは無理だよ。生徒会の仕事があるし」
「貴様‼︎」
男が拳を振り上げると、梨央奈先輩はその拳を片手で掴み、お得意の不気味な笑みで男を見つめた。
「結局暴力。凄い人なら言葉で圧勝してみせなよ」
「チッ、僕は雫さんを探してくる」
典型的な金持ちの嫌な息子って感じだったな。雫先輩は本当にあんな人と結婚するのかな......金持ちだから勝手に結婚相手を決められるあれかな?
「美桜さん、雫なら会場を出ていったよ。二人で話すチャンスじゃないかな」
「い、行ってくる」
美桜は会場を出て雫を探していると、雫が家から出ていくのを見つけた。
「雫!」
「美桜さん、外は寒いわよ」
「雫も外じゃん」
「少し、外の空気を吸いたくて」
「そ、そっか。あのね......私、雫に謝ろうと思って」
「聞いてあげるわ」
「ずっと、自分が間違ってるって分かってたの。だけど雫への憧れが嫉妬に変わっていって......い、言い訳なんか聞きたくないよね!その、お姉さんのこと......ごめんなさい」
「その言葉をずっと待っていたわ......ねぇ」
「なに?」
「恋ってしたことあるかしら」
「ま、まぁ、中学の時好きな人はいたけど」
「恋や愛って幾らで買えるのかしら。幸せは幾らなのかしら」
「買えないから価値があるんじゃないかな」
「私は大人になったら、さっきの人と結婚させられる。恋がお金で買えたら、誰かに恋をして、自分で運命に抗えたかもしれないのに」
「抗えばいいじゃん」
「その方法が分からないわ」
「いつも堂々としてるくせに、意外と弱いんだね」
「そんなことないわよ」
「嫌なら嫌って言いなよ。誰かを傷つけるのは得意分野でしょ」
「失礼ね。許すかどうかは考え直させてもらうわ」
「そんな!」
「冗談よ。パーティーを楽しみなさい」
「う、うん!雫、私達って友達になれるかな」
「そんな質問をしているうちは知り合い止まりよ」
「た、確かにね!」
その頃僕は、瑠奈の様子が気になって客室に行こうとしたが、雫先輩の家の中で迷子になっていた。
「二階なのは覚えてるんだけどなー」
ここかな?と思い開けた部屋は薄暗く、雫先輩の制服が壁にかけられていた。
「雫先輩の部屋?」
僕は好奇心でそのまま部屋に入り、電気までつけてしまった。
「......なんだ......これ......」
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