メリークルシミマス


クリスマス当日、雫先輩にどんな罰を与えられるかとハラハラしながら瑠奈と学校に向かうと、昇降口前の雪の上で、梨央奈先輩、千華先輩、結愛先輩が正座させられていた。


「る、瑠奈、見ないようにさりげなく学校に入ろう」

「分かった」


その小さな足掻きも虚しく、学校に入ろうとした瞬間に雫先輩に声をかけられた。


「二人とも、メリークルシミマス」

「そんな日は知りません。さよなら」

「座りなさい」

「は、はい」


結局僕達も正座させられてしまった。


「放課後までそうしてなさい」


それだけ言い残して、雫先輩は学校に入っていった。


「脚冷たすぎますね......」

「慣れるよ」

「梨央奈先輩の脚は麻痺してるだけです。乃愛先輩はどうしたんですか?」

「乃愛は前髪を結ばれて、オデコに罰って書かれてたよ」

「それならまだいいですね。僕達、本当に放課後までこのままですか?」


千華先輩は諦めた様子で言った。


「このまま......死ぬんだ......」

「死なない死なない。ふぁ〜」


結愛先輩があくびをすると、千華先輩は慌てて結愛先輩の体を揺すった。


「結愛!しっかりして!寝ちゃダメ!」

「うるさいなー」


瑠奈はずっとムスッとした表情で正座している。


「瑠奈、大丈夫?」

「私反抗したわけじゃないのに。ただみんなと居ただけなのに」


確かに、瑠奈はなにも悪くない気がする......


そして昼休みになると雫先輩は戻ってきた。


「お腹空いたわよね。食べなさい」


雫先輩が僕達に渡してきたのは棒付きアイスだった。


「ししし雫先輩......そんなの食べたら凍え死にます」

「あら蓮くん、誰が脚を崩していいと言ったの?正座しなさい」

「はい......」


みんなアイスを貰い、一口も食べずに震えていると、雫先輩は千華先輩の痺れた足を踏み始めた。


「あっ!あ〜‼︎やめて〜‼︎」

「早く食べなさいよ」

「分かった!分かったから!」


みんな足を踏まれるのを恐れて、必死にアイスにかぶりついた。


「それじゃ、私は温かいレモンティーでも頂くわ」


雫先輩はまた学校に戻っていった。


「し、死んじゃいますよ!」

「わわ、わわわわ私が蓮を死なせない」

「瑠奈、声震えすぎ」


すると、美桜先輩が瑠奈の赤いマフラーを持ってやってきた。


「チビが持っていけってうるさいから持ってきた」

「あぁ〜、美桜先輩は神」


瑠奈の無駄に長すぎるマフラーを全員で繋げて使い、少し寒さが紛れた気がする。

それになぜか、マフラーはポッカポカに暖まっていた。


「チビがヒーターの前で暖めてたよ。少し溶けたって言ってだけど」

「はぁ⁉︎乃愛先輩連れてきて‼︎」

「えー、めんどくさいよー」

「早く‼︎っおっとっと!ぬあ!」


瑠奈は立ち上がったが、足が痺れていて倒れてしまった。


「大丈夫⁉︎てか、なんで瑠奈が正座させられてるのさ。生徒会だけでいいでしょ。にしても、いつも調子に乗ってる生徒会が無様な姿晒していい気味」

「美桜先輩、蓮と梨央奈はバカにしちゃダメ」

「ま、まぁ、瑠奈がそう言うならしょうがない......」

「他の生徒会メンバーは蓮に近づく虫ケラだけど」

「ああああああああー?」


結愛先輩と千華先輩は声が震えすぎて、怒っても迫力もクソもない。


「うぅ〜。寒いから私は戻るね。瑠奈のことはいつか雫に文句言ってあげるから」

「ありがとう」


そして僕達は放課後まで罰を耐え抜き、放課後を知らせるチャイムと同時に、ゾンビのように地面を這いながら学校に入った。


「うっ、うわ〜‼︎」


全員マフラーで繋がれ、青ざめた表情で地面を這う姿に怯えた生徒達が逃げていくが、そんなことどうでもいい。とにかくヒーターの前まで行きたい。


「と、とにかく、生徒会室まで行きましょう」


階段を這うように上がり、生徒会室の扉を開くと、乃愛先輩は前髪をちょんまげのようにして、車椅子に座ったまま幸せそうにレモンティーを飲んでいた。


「うぇ⁉︎みんな大丈夫⁉︎」

「さて、罰は終わりよ。明日から冬休み、働いてもらうわ」

「し、雫先輩......レモンティー飲ませてください。体が冷えてヤバいです......」

「雫!飲ませてあげて!」


乃愛先輩の一言で、僕達は温かいレモンティーを飲むことができた。


「生徒会のみんなって、いつもこんなに美味しいレモンティー飲んでるの?」

「ほぼ毎日飲んでるよ」

「いいなー」


瑠奈はすぐにレモンティーを飲み干して、お腹を満たしに食堂へ向かった。

その後すぐに、白髪でスタイリッシュなスーツを着た、キリッとした表情の怖そうな知らないおじさんが生徒会室に入ってきた。


「みんなで優雅にティータイムか」

「教頭先生が直々に生徒会室へ来るなんて、なんの用でしょうか」


この人教頭だったの⁉︎入学してから初めて見たよ‼︎校長すら見たことないのに‼︎


「しばらく学校に来ない間に、随分と生徒会が偉くなったようだな」

「なにか問題でも」

「いやいや、優秀な生徒会で助かっている。たがな......今日はクリスマスだ!なーんでクリスマスパーティーしないの〜」


は?え?いきなりキャラが変わった......


「必要ないです」

「なんでよ〜、パーティー素敵じゃない?」


オネェだ〜‼︎‼︎‼︎


「知ってるのよ?この水色と赤のかわい子ちゃん、今日が誕生日でしょ?」

「え⁉︎結愛先輩と乃愛先輩、クリスマスが誕生日なんですか⁉︎」

「そうだよ!」

「クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントを一緒にされるから嫌なんだけどね」


僕、みんなの誕生日聞いたことなかったな。正直、幼馴染みなのに瑠奈のも知らないし。


「パーティーしましょうよ〜」

「とにかく、オネェでもなんでもいいですけど、学校では気を抜かないようにお願いします」

「了解した」


いや、またいきなりキャラ戻ったし......


「クリスマスパーティーには懲り懲りなのよ。まったく面識のない偉い人達と話すのは疲れるわ」

「それでは尚のこと、お友達をご招待されててはいかがでしょうか」


ヤバい......めちゃくちゃ厳しい人かと思ったらオネェで、かと思えば雫先輩に敬語だし、掴めない......この人がどんな人なのかまったく分からない......


「なぜそう思うのか聞かせてくれるかしら」

「雫お嬢様がお友達といるのを見れば、みなさんも気を使うでしょうから」

「......そうね。みんなをクリスマスパーティーに招待するわ」

「それじゃパーティーの準備してくるわね〜!」

「学校では気を引き締めなさい」

「は、はい!」


教頭が出て行くと、千華先輩は僕が気になっていたことを雫先輩に聞いてくれた。


「教頭先生とどんな関係?」

「家では、庭の手入れとかをしてくれる人よ。学校ではナメられないようにシャキッとしなさいといっているのだけれど、あの人にとってはあれが普通だからね」

「教頭先生が庭の手入れ?」

「そうよ。あの人は女性の心を持っている人。なにもおかしいことじゃないけれど、自分と違う人を笑う人間にいじめられ、元いた会社をやめてホームレスになっていたの。そこで私のお父様に拾われたのよ」

「え、それでなんで教頭に......」

「パーティーに来れば分かるわ」


雫先輩の家、お金持ちのパーティー......興味はあるけど、瑠奈に黙って行ったらめんどくさいことになりそうだな。


「あの、瑠奈も誘っていいですか?」

「そうね、いいわよ」

「ありがとうございます」


みんなで一緒に、真っ直ぐ雫先輩の家に向かうことになり、校門前に集まったが、なぜか瑠奈は美桜先輩と一緒にやってきた。


「あら?なぜ美桜さんも一緒なのかしら」

「る、瑠奈に誘われたんだからいいだろ別に」

「美桜さんを招待したつもりはないのだけれど、まぁ、どうしても来たいというなら仕方ないわね」

「行きたいわけじゃないから!」

「なら来なくていいわ。さよなら」

「雫先輩!いいじゃん!美桜先輩、前したこと反省してたよ?」

「前というのは、どのことかしら?生徒会選挙の時のことならどうでもいいのだけれど」

「あ、それだ」

「てっ、てか、反省してたとか言わないでよ!」

「だってしてたじゃん。一人になって分かったけど、昔のことも謝らなきゃいけないのに、なかなか難しいとか言ってたじゃん」

「言うなって‼︎」

「美桜さんも招待するわ。後片付けまでしっかりやってもらうわね」

「わ、分かった」

「それで梨央奈さん、睦美さんとは連絡ついたかしら」

「行かないってさ」

「そう、分かったわ」


睦美先輩、本当に卒業まで雫先輩に会いに来ないつもりかな。

たまに食堂とか廊下で見かけるけど、一瞬微笑みかけてくるだけで、僕にも話しかけてこないし。

睦美先輩なりにいろいろ頑張ってるのか。

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