ドッペルゲンガー


結愛は寝る前になると、ふと自分の髪が気になって鏡を見に行った。


「色落ちしてきたなー」


そのまま、ぐっすり眠る乃愛の部屋に行き、乃愛の体を揺すった。


「乃愛、起きて」

「ん〜、なに?」

「赤に染め直して」

「明日にしてよ」

「明日学校じゃん。綺麗な色じゃないと嫌だ」

「ん〜分かったよ」


乃愛は寝ぼけたまま起き上がり、結愛の髪をクシで解かし始めた。


「塗ったら私は寝るから、シャンプーとか自分でしてね」

「分かった」


乃愛は寝ぼけたまま髪染めの液を襟足に塗ってあげ「おやすみー」と言いながら自分の部屋に戻っていった。

結愛はしばらく雑誌を読みながら時間を潰して、30分経つとシャワーを浴びてルンルン気分で髪を乾かしている。


「な......なんじゃこりゃー‼︎」


結愛は自分の襟足が水色に染まっているのに気づき、下着姿のまま乃愛の部屋へ飛び込んだ。


「ねぇ‼︎」

「なにー」

「水色になってる‼︎」 

「え?あー、本当だ、ごめん。寝ぼけてた」

「どうするの⁉︎」

「しばらくお揃いだね」

「んー!もう‼︎」


結愛はどうすることもできなく、いじけながら眠りについた。


翌日の昼休み、結愛は蓮に声をかけられた。


「乃愛先輩、瑠奈見ませんでした?」

「え?」

「え?」

「み、見てないよ」

(私のこと、乃愛だと思ってる......)

「そうですか、元気なかったから、たまにはお昼に誘おうと思ったんですけど」

「見つかんないなら、私と食べない?」

「まぁ、いいですけど」


二人で食堂に行き、カレーうどんを食べることになった。


「もしかして、カレー苦手ですか?」

「ん?ぜ、全然!」

「ならいいんですけど」


乃愛先輩、なんだか元気がない......いや、いつもより大人しいだけかな?


「わ、私のことどう思う?」

「ゴホッゲホゲホッ!」

「だ、大丈夫⁉︎」

「だっ、大丈夫です......いきなりどうしたんです?」

「気になっただけ」

「しょ、正直可愛いと思いますよ。お人形さんみたいで」

「そうなんだ。ゆ、結愛は?」

「結愛先輩ですかー、感情が読めないところがありますけど、可愛いいですよ」


二人とも同じ顔だし。


「そ、そっか」

「なんで乃愛先輩が赤くなるんですか」

「き、気のせい気のせい!私のも食べる?」

「いいんですか⁉︎」

「うん!」


蓮がカレーうどんをお腹いっぱい食べていた頃、雫は睦美の教室前で聞き耳を立てていた。


「睦美、ピーマン残してるじゃん!」

「苦いの苦手なんだよね」

「トマトも残してるし、元生徒会メンバーなのに子供舌だねー」

「いいの!好きなものだけ食べるの!」

「長生きしないよ?」


たわいもない会話を聞いた雫が生徒会室へ戻ろうとすると、いつの間にか背後にいた梨央奈に声をかけられた。


「睦美さんが心配?」

「梨央奈さん、何故いつもいきなり現れるのかしら」 

「私は雫を気にしてるからね」 

「理由になってないわ」 

「それより、乃愛のミスで結愛の襟足が水色になったらしんだけど、区別つくかな」

「ピアスぐらいでしか分からないかもしれないわね」

「声は?」

「どっちがどっちって分かれば声の違いにも気付けるかもしれないけれど、分からずに声をかけられたら、一瞬分からないような気がするわ」

「まぁ、分からなくて困ることもあんまりないか。すぐに赤に戻すだろうしね」

「蓮くんは困るんじゃないかしら」

「なんで?」

「さぁね」


雫が思った通り、蓮は見事に騙され、結愛を乃愛だと思い込んでいる。


「この後、授業サボらない?」 

「なんかするんですか?」

「ただサボりたいだけ」


乃愛先輩はやっと歩けるようになったんだし、一回サボるぐらい、雫先輩も許してくれるかな。


「いいですよ!どこでサボります?」

「屋上は?」

「まだ寒いですよ」

「でも他にないよ」

「そうですねー......」

「教室に行けばカバンにホッカイロがあるから、この後屋上で待ち合わせしよ」

「分かりました!」


僕は先に屋上に行き、ベンチの雪を払って綺麗にしていると、二つのホッカイロを擦り合わせて温めながら持ってきてくれた。


「はい、少し温まったと思う」

「ありがとうございます!寒い時は首を温めるといいらしいですよ」

「そうなの?」

「太い血管があるかららしいです。詳しくわ知りませんけど」


僕達はベンチに座り、ホッカイロで自分の首を温めた。


「背中も治ったんですか?」

「う、うん!」

「本当に良かったですね」

「そうだね」

(蓮と二人きり......乃愛ならきっと抱きつくよね)


結愛は蓮の足に跨り、顔を赤くしながら子供のように抱きついた。


「の、乃愛先輩?」

「蓮」

「は、はい」

「......好き」

(乃愛になりきってこんなこと言ったところで......何の意味もないのに......)

「あ、あの......」

「ん?」

「一度降りてもらっても......」

「いやだ」


今日の乃愛先輩、なんか変!雰囲気違うし......告白しようと決めてて、緊張してたのか⁉︎それに甘えん坊だし!いや、割といつもか。


「蓮も抱きしめて。暖まるよ」

「いや......えっと......」


僕は、誰からでもってわけじゃないけど、特定の人から抱き着かれたりすることは慣れつつある。ただ、女性の扱いには慣れない......どうしたらいいか分からない!


「こんなとこ、誰かに見られたら大変ですよ」

「授業中だから大丈夫」


蓮は戸惑ながらも結愛を抱きしめると、結愛は心地良さそうに目を閉じた。

その時、瑠奈が屋上へやってきた。


「蓮を探しにきたらこれか、離れてくれる?てか、離れろよ」

「無理」

(いやだ......やっと蓮に抱きつけたのに、離れるなんて嫌だ)

「乃愛先輩?結愛先輩?どっちなの?それによっては蓮からの引き剥がし方が変わる」

「瑠奈?どういうこと?」


その瞬間、結愛は蓮から離れ、急いで校内に戻った。

(乃愛のピアスは髪をかき上げないと見えないし、多分バレないよね......)


結愛が逃げていき、瑠奈は笑顔で蓮に抱きついた。


「勝った!私から逃げていったよ!蓮を他の女から守れた!」

「抱きつかないでよ」

「なんで?さっきは抱きつき返してたじゃん。私にはしてくれないの?蓮の腕は私を抱きしめるために存在してるの。他の女のためなら、その腕切り落としてもいいよね」

「瑠奈さーん、怖いですよー」


1日で二人の女子高生に抱きつかれる......いつかバチが当たりそうだな。


放課後になり生徒会室に行くと、結愛先輩は珍しくパーカーのフードを深くかぶって書類をまとめていた。


「結愛先輩、フードかぶるなんて珍しいですね」 

「......まぁね」

「れーん!」

「わっ!乃愛先輩!飛びつくのやめてください!倒れて怪我したらどうするんですか!」

「蓮はそれくらいで怪我しないでしょ!」

「乃愛先輩のことですよ!」

「心配なーい!はむはむ」

「耳やめて〜‼︎」


乃愛先輩、なんかまた雰囲気変わった⁉︎情緒不安定なのかな。


「二人とも、生徒会室でセック、イチャイチしないでよー」

「千華先輩、今なんて言おうとしました?」

「し、雫からも注意して!」

「そうね、セックは帰ってからにしなさい」

「雫先輩まで冗談言わないでください!雫先輩の冗談には耐性無いんですから!......乃愛先輩、期待の眼差しで僕を見ないでください。そして降りてください」

「んひ♡」


なにその、変だけど可愛い笑い方。僕じゃなきゃ好きになってるね。

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