作戦準備とレアな寝顔


僕は、食堂でご飯を食べる林太郎くんの元へ走った。


「林太郎くん!」

「どうした?」

「みんな校則破りまくり!どうしよう!」

「さぁ」 

「てか、林太郎くんも食堂でご飯食べないでよ!」

「え、ダメなの⁉︎」

「この前は、どうしてもスパゲティー食べたいって言うから、雫先輩に許可貰ってあげたんだよ?」

「でも、瑠奈も食ってたじゃん」

「瑠奈はアホだからいいの。そういえば、瑠奈見てないんだけど」

「あそこで睦美先輩とハンバーグランチ食べてる」

「本当だ」


瑠奈は食堂の奥の方で、睦美先輩とご飯を食べていた。


「生徒会の人が一緒なら、食堂使っていいと思ったんだろうな」

「まぁ、平然と校則破って使ってる人達よりはいいよ......」


多分、瑠奈に悪気はないし。


「とりあえず、放送で全生徒に呼びかけてみたらどうだ?」

「そうだね。行ってくる」


放送室に向かい、校内放送のスイッチを入れた。


「生徒会の涼風蓮です。今日になっていきなり、校則を破る生徒が目立ちます。会長が居ないからってハメ外しすぎです!」


すると、たまたま放送室の前を通りかかったであろう男子生徒が、放送室に向かって大きな声で言った。


「会長が戻ってきたら大人しくすればいいんだよ!」


......クソ......ムカついてきた〜‼︎


「睦美先輩聞いてますよね!雫先輩になにもするなって言われたとか知りません!今学校は僕に任されてるんです!僕のやり方に従ってください!今すぐ生徒会室に来てください!」


僕はそう言い残し、生徒会室に向かった。


「......なんで瑠奈もいるの?」

「なんか、怒ってたみたいだったから」

「まぁいいや。それより睦美先輩!三年生なんですから協力してくださいよ!」

「どうしたらいいの?」

「え、協力してくれるんですか?」

「今学校は涼風くんに任されてるって聞いて、確かにーと思って」 


僕は思わず、睦美先輩の手を握った。


「さすがです先輩!」

「すすすっ、涼風くんの為だもん!」

「なんで手握ってるの?さっき食べたハンバーグランチ、全部出させるよ?」

「はいはい。瑠奈は教室戻って戻って!生徒会で話し合うから!」


瑠奈を生徒会室の外に連れて行くと、瑠奈は目を大きく見開き、不気味な表情で僕を見つめた。


「二人きりになりたいんだ。だから私は追い出すんだ」

「僕が生徒会に居られるかどうかが決まる大事なミッションなんだ!」

「私的にはやめてほしいけど」

「はいはい。帰り一緒に帰ってあげるから」

「本当⁉︎......って、いつもじゃん‼︎」

「あ、瑠奈に貰ったマグカップが汚れてきてさ、洗ってくれない?僕のために」

「わ、分かった!ピカピカにしてくる!」

「行ってらっしゃーい」


瑠奈はニコニコしながら教室に走って行った。


「涼風くん、瑠奈ちゃんの扱い慣れてるね」

「瑠奈が単純なだけです」

「可愛いね」

「見た目だけですよ」

「ちなみに、私は前の感じと、今だったらどっちが可愛い?」

(......私は何聞いちゃってるのー⁉︎)

「今の方が可愛いと思いますよ?生徒会入って垢抜けましたよね」


えっ、睦美先輩、顔真っ赤。


「と、とりあえず話し合いましょうか......」

「そ、そうだね!」

「僕の作戦なんですけど、睦美先輩が雫先輩に電話して、その声を録音してほしいです」

「なんで?」

「使えそうな言葉を繋げて、みんなに聞かせるんです!なので、雫先輩に言ってほしい言葉を引き出す必要があります」

「でかなるかな......」

「そうですねー。まず、言ってほしい言葉を考えましょう」

「そうだね」


話し合いの結果、雫先輩から引き出す言葉は、「貴方達」「見てる」「監視カメラ」この三つに決まった。


「よし、録音しながら電話してください」

「分かった」


睦美先輩は雫先輩に電話をかけた。


「もしもし会長」

「はい」

「私達のこと、どう思ってる?」

「私達って、睦美さんと誰かしら」

「涼風くん」

「貴方達は、もっと生徒会として尊敬される必要があるわね」


いいぞ睦美先輩!貴方達クリア!


「そうだよね。涼風くんに聞いたんだけど、テスト期間は監視カメラが付いてるって本当?」

「本当よ?」

「監視カメラ⁉︎」

「そうよ?」


頑張れ睦美先輩‼︎押せ‼︎もっと押すんだ‼︎


「あの監視カメラだよね⁉︎」

「そうよ?」

「監視?」

「監視」

「なにで?」

「だから、監視カメラでよ」


よし!監視カメラクリア!


「ちなみに、今なにしてる?」

「沖縄に着いて、梨央奈さんとハイビスカスを見ているわよ」


完璧だ......見てるもクリア!


「そ、それじゃ楽しんでねー!」


睦美先輩は電話を切り、僕達は思わずハイタッチをした。


「イェーイ!」

「完璧ですよ!」

「緊張したー!」

「さっそく今のを編集しましょう!」

「できるの?」

「林太郎くんができます!」


とっくにお昼休みは終わっていたが、林太郎くんをパソコン室に呼び出して、音声を編集してもらった。


「変なことに巻き込むなよー」

「林太郎くんが手伝ったことは言わないからさ!」

「ならいいけど、もう少しでできるぞ」

「さすが!」


その時、千華先輩から1枚の写真が送られてきた。

乃愛先輩の頭に花を乗せ、そこに蜂が止まっている写真だ。


乃愛先輩気付いてないのかな......すごい楽しそうな顔してるけど。あ、蜂に気付いてビックリしてる写真もきた。


「できたから、一回再生してみるね」

「あ、うん!」


音源を再生すると、「監視カメラで貴方達を見ているわよ」と、違和感なく雫先輩の声で流れた。


「天才!あとはこれを流すだけ!」

「涼風くん、よく考えたね!これなら絶対大丈夫だよ!」

「ありがとうございます!お礼に、なんかしてほしいことありますか?」

「え!な、なんでもいいの?」

「なんでもです!」

「じゃあ、私もデートチケット欲しい!みんな持ってるのズルい!」

「......デートチケットは品切れ中です」

「品切れとかあるの⁉︎」

「蓮、俺にもなにかしてくれるのか?」

「林太郎くんには無い」 

「まぁ別に良いけど。そういえばさっき、瑠奈が何かにとり憑かれたようにマグカップ洗ってたぞ」

「あー、気にしないで。とりあえず林太郎くんは教室戻っていいよ!本当にありがとうね!」

「おう」


睦美先輩と二人になり、音源をパソコンから僕の携帯に送った。


「今から流すの?いや、明日です!明日の朝、全校集会を開いて、そこで流します!その方が全員確実に聞きますから」

「私は明日、なにすればいい?」

「威圧感を与えるために、真剣な表情で僕の横にいてください」

「涼風くんの横⁉︎」

「嫌ですか?」

「嫌なわけないじゃん!」

(真剣な顔......ニヤけないように頑張らなきゃ!)

「それで成功したらデートチケットあげます」

「いいの⁉︎」

「はい。デートって言っても、別に遊ぶだけですし」

「私頑張る!」

「はい!」


それから僕も教室に戻って席に着くと、マグカップが眩しいほどにピカピカで、後ろを振り向くと、瑠奈が満足そうにニコニコしていた。


「あ、ありがとう」

「なんでも私にお願いしてね」

「う、うん」


その日の夜、梨央奈先輩と千華先輩から、修学旅行1日目の大量の写真が送られてきて、雫先輩は無表情だけど、みんな楽しそうだ。


あ、乃愛先輩から電話だ。


「もしもし」

「蓮!お土産なにがいい?」

「えー、んじゃ、木刀で」

「多分、沖縄にそれは無い」

「なんでも嬉しいですよ」

「んじゃ、こっちで勝手に決めちゃうね!」

「はい、ありがとうございます!」

「もしもし蓮?」

「ねぇ!勝手に携帯取らないでよ!」

「千華先輩?乃愛さん怒ってますよ」

「大丈夫!結愛が大人しくさせてる」

「同じクラスでしたっけ」

「そうだよ!私もお土産買って行くね!」

「楽しみにしてます!」

「梨央奈は既に、5個ぐらい蓮にお土産買ってたよ」

「そんなに......」

「まぁ、楽しみにしてて!そうだ、学校大変なことになってるでしょ」 

「なんで分かるんですか?あ......」

「大丈夫大丈夫、雫には言わないよ!雫が居ないと、あの学校がどうなるかなんて想像つくもん」

「まぁでも、明日、とある作戦を実行するので大丈夫です!」

「お!上手くいくといいね!あ、先生来た!バイバイ!」


生徒会って、先生?なにそれ美味しいの?ぐらいの感じかと思ったけど、先生が来て慌てて電話を切る千華先輩に人間味を感じた。


さて、明日が勝負だ!今日は寝よう!


「はい、もしもし」


目を閉じた瞬間、梨央奈先輩から電話がかかってきた。


「ねぇねぇ、凄いの見せてあげる」

「なんでそんな小声なんですか?」

「いいから画面見て」

「画面?」


画面を見ると、梨央奈先輩はビデオ通話で雫先輩の寝顔を映していた。


「ヤバイですって!」

「雫の寝顔なんて激レアだよ〜」


雫先輩は寝ていても美人。気持ちよさそうに寝る姿からは、普段の恐怖や威圧感は感じられなかった。


「バレたら怒られますよ......」

「大丈夫大丈夫!」

「ダメです......目開きました」

「私......この修学旅行が終わったら、蓮くんにプロポーズするんだ」

「死ぬんですね。分かります」


そしてカメラは激しくブレ、電話が切れてしまった。僕は目を閉じて梨央奈先輩との思い出を思い出していた。


「いい人だったのに......」

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