共に戦いましょう

 

「蓮くん。貴方は生徒会に要らないわ」

「そんな......そんな〜‼︎......ん?」


強いプレッシャーからか、嫌な夢で目が覚めた。


まだ家を出るまで4分もある......


「4分しかなーい‼︎‼︎‼︎」


僕は朝ごはんも食べず、制服に着替え、急いで歯磨きをして家を出た。


「よし、いつも家を出る時間!」


これなら歩いて向かっても間に合う。

のんびり歩いて学校に向かっていると、後ろから走ってくる足音が聞こえ、瑠奈かと思って振り向くと、そこに居たのは睦美先輩だった。


「あれ?瑠奈かと思いました」

「たまたま歩いてるのが見えたから!」

「ちょうど良かったです。全生徒が登校したら、放送で全校集会としてみんなを体育館に集めてください」

「了解!」

「どーけー‼︎」

「うわっ‼︎」

「睦美先輩⁉︎」


瑠奈は睦美先輩の背後からドロップキックをかまし、ドヤ顔で立っている。


「大丈夫ですか?」

「瑠奈ちゃん!なにするの!」

「だって、蓮と歩いてたから」

「もう、お昼奢ってあげないから」

「瑠奈、前は梨央奈先輩に奢ってもらって、睦美先輩にも奢ってもらってたの?」

「どうしても私に奢りたいって言うから」

「言ってないんだけど」

「そうだ、瑠奈も協力してよ」

「するする!なにしたらいい?」

「生徒会室に、結愛先輩と乃愛先輩のパーカーがあるから、それ着て」

「分かった!......え」


突然思いついた作戦だけど、これは絶対にいける。


緊張感の伝わる睦美先輩と、よく分かってなさそうな瑠奈と一緒に学校に向かい、睦美先輩は放送室に待機することになった。

僕は雫先輩の真似をして、あらかじめ体育館で待機している。


「瑠奈、フードは深くかぶってステージ裏に待機で」

「呼ばれたら出ればいいんだよね」

「うん!今回、瑠奈が1番重要な役だから、頼むよ?」

「任せて」


そして8時丁度に校内放送が鳴った。


ピンポンパンポーン

「急遽、全校集会を始めます。五分以内に全員体育館に集合してください」

ピンポンパンポーン


集合に時間制限を加えるのは、生徒に緊張感を持たせるためだ。

そして思った通り、遅れてノロノロと歩いてくる生徒がほとんどだったが、全員体育館に集まった。


睦美先輩がステージに上がり、僕の横に立ったところで僕は話を始めた。


「校則を破ってる生徒は後悔することになります」


僕のその言葉を馬鹿にするように、クスクスと笑う生徒もいるが、もうそんなことは関係ない。


「今日は、校則を破る皆さんに伝言があります。結愛先輩、ステージへ」


瑠奈はリボンが見えないようにチャックを上まで上げ、顔が見えないようにフードを深くかぶってステージへ上がってきた。


それを見た林太郎は気づいていた。

(瑠奈も大変だなー)


生徒達からは、明らかな動揺と緊張感が伝わってくる。


「結愛先輩は、とある事情により修学旅行には行ってません。ずっとみんなを監視してました!ちなみに、伝言というのは雫先輩からです。結愛先輩、聞かせてあげてください」


瑠奈は、あらかじめ渡しておいた僕の携帯で、昨日作った音声をマイクに向けて流し始めた。


「監視カメラで貴方達......」


音声は途中で切れ、何事かと思ったら着信音が鳴り、瑠奈は焦って電話に出てしまった。


「蓮、見て。ヤドカリがいた」 


......よりによって結愛先輩から......


「蓮?おーい」


瑠奈は電話を切り、ぼそっと呟いた。


「ごめん......」

「大丈夫......」


すると、電話越しに結愛先輩の声を聞いてしまった生徒達は、苛立ちを抑えずに声を大にして言った。


「今の結愛先輩だろ!」

「そこの人、フード外してみなよ!」


瑠奈はフードに手をかけて言った。


「蓮、私がなんとかしたら、蓮のためになるんだよね」

「う、うん」


瑠奈はフードを外し、マイクを握った。


「うっるせー‼︎‼︎」


あまりの大声に、マイクからキーンという音が鳴り、みんな耳を塞ぎ、静かになった。


「自分にとって怖い人がいない時だけ調子乗るゴミクズ‼︎私が出てきた瞬間静まり返って、ビビってる証だ‼︎違うって言うなら、雫先輩が帰ってきても同じことしろ‼︎できないだろ‼︎先輩が帰ってきたら全部言ってやるからなー‼︎」


誰も瑠奈に言い返す人は居なかった。

結局、瑠奈の嫌われることを恐れない発言で、いつも通りの学校になり、問題は解決した。

考えてみれば、雫先輩も嫌われることを恐れてない。僕にそれはできなかった。


僕は生徒会室に戻り、雫先輩に電話をかけた。


「あの、話したいことがあって」

「なにかしら」

「実は、雫先輩達が修学旅行に行ってから、校則を破る生徒が沢山いて」

「それで?」

「僕はなにもできずに、瑠奈が解決しました......」

「全部知ってるわよ」

「え?」

「さっきの体育館でのことも、先生がずっとビデオ通話で見せていてくれたわ。作戦も、睦美さんが教えてくれた」

「......僕、生徒会辞めさせられるんですか?」

「なぜ?」

「だって、何もできなかったんですよ?」

「あの瑠奈さんの発言以外、全て蓮くんが考えたことじゃないの?」

「そうですけど」

「あと一歩だったわね。きっと、結愛さんが電話しなければ成功していたわ」

「それじゃ......」

「文化祭が終われば、次は生徒会選挙。共に戦いましょう」 

「は......はい‼︎」

「それじゃあね」


雫先輩が認めてくれた......なんか涙出そう。


「涼風くん」

「あ、睦美先輩」


睦美先輩は心配そうに生徒会室へやって来た。


「電話大丈夫だった?」

「はい!雫先輩が僕を認めてくれました!」

「よかった!」

「これ、デートチケットです。遊びたい時使ってください!」

「ありがとう!」


その頃、雫は梨央奈と一緒に沖縄の街を歩いていた。


「修学旅行中ぐらい学校のこと忘れなよ」

「ダメよ。私もダメ」

「ん?」

「私達が居ないだけで学校のバランスが崩れるんじゃ意味がない」

「私達はまだ二年生だけどさ、いずれ卒業したら関係ないでしょ?」

「私のような思いをする人、お姉さんのような思いをする人がこれ以上増えちゃいけない」

「......ごめん」

「私だって、全国の学校をとは言わないわ。せめて、私達のあの学校の生徒だけでも私が変える」

「私は最後まで付き合うよ」

「それはいいとして」

「よくないんだけど」

「買い物しすぎじゃないかしら」

「雫だって買ってたじゃん。蓮くんと睦美さんの分」

「買ってないわよ」

「買ってたよ」

「自分用よ」

「ふーん。生徒会メンバーが大好きなくせに」

「はいはい。失恋さん」

「あ、今言っちゃいけないこと言った」

「なんで蓮くんはモテるのかしらね。たまにいるわよね、何故モテるか不思議な人」

「私、瑠奈ちゃんか雫なら、蓮くんと付き合うの許せる」

「私は興味ないわよ」


そしてその日の夜。

結愛先輩からヤドカリの写真と動画が大量に送られてきて、ヤドカリの動画を眺めながら寝ようとしていた時、瑠奈から電話がかかってきた。


「どうしたの?」

「今日、ミスしちゃってごめん」

「あれは誰も悪くないし、大丈夫だよ?協力してくれてありがとう」

「うん。あと聞きたいことがあって」

「なに?」

「夏祭りの日のデートチケット、あれ無効だよね」 

「え、なんで?無効じゃないって言わなかった?」

「言われてない」

「そうだっけ?んで、なんで?」

「なんでって!何にもしてないじゃん!怖い思いしただけ......私だって......蓮とデートしたいよ......」


は⁉︎なんでそんな弱々しく言うんだ!ちょっと可愛いとか思っちゃったじゃん!


「ダメ......かな......」


やばい。なんかドキドキするような......


「明日、学校が終わったら......」

「終わったら?」

「どっか行こうか」

「い、行く!」

「う、うん。そ、それじゃおやすみ」

「おやすみ!」


なんなんだよ‼︎これがギャップ萌え⁉︎そういうやつ⁉︎


瑠奈は嬉しさのあまり、枕に顔を埋めて足をバタつかせた。


「ん〜!♡」

「瑠奈!うるさいわよ!」

「ごめーん!」

(明日は蓮とデート!しかも蓮に誘われた!生徒会は居ないし、邪魔はされない!)

「最高だ〜!♡」

「うるさいってば!」

「はいはい!おやすみ!」

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