友達として



今日は珍しく一人で登校し、瑠奈は一限目を遅れて登校してきた。


「遅刻とか珍しいね」

「今日、蓮と遊びに行けると思ったら寝れなかった」

「なにそれ可愛い」

「え⁉︎」


やば、思わず口に出しちゃった。


「とりあえず、一回帰宅してからね?じゃないと校則違反だから」

「分かった!」


放課後、生徒会室では睦美先輩が窓ガラスを拭いていた。


「掃除ですか?」

「よく、会長はこの窓から外を見てるから、たまには掃除してあげようかなって」

「睦美先輩ってここから見下ろされたことあります?」

「ないよ?」

「めちゃくちゃ怖いですよ」

「雫先輩が鷹で自分が餌のネズミになった気分です」

「それは怖いね」

「それにしても、今日はなんの仕事すればいいんですかね」

「今日は何もしなくていいんじゃない?軽く掃除して解散かな?」

「分かりました!」


睦美先輩と生徒会室を軽く掃除して、教室に瑠奈を迎えに行った。


「終わったよー」

「今日早いね!」

「掃除だけだったからね」

「そっか!時間なくなっちゃうから早く帰ろ!」

「うん!」


お互い自分の家に一度帰り、携帯と財布だけ持ち、制服のまま近くのバス停に集合した。


「お待たせ!」

「まさかメイクした?」

「気づいた⁉︎」

「つけま取れてる」

「え!嘘!」

「本当」


瑠奈は結局メイクを取り、少しテンションが下がってしまった。


「瑠奈、バス来たよ」

「どこ行くの?」

「あの、いろんなスポーツとかゲームできる場所行こうかなって」

「行ってみたかった場所だ!」

「よかった!」


そしてバスに乗り、瑠奈は財布を広げて聞いてきた。


「今から行く場所って、幾らかかる?」

「学生手帳あれば1時間500円だよ」

「学生手帳置いてきた」

「身分証は?保険証とか」

「それならある!」

「年齢が証明できれば大丈夫だから」

「よかった。私は三千円あるから6時間遊べるね!」

「え、そんなに遊ばないよ」

「なんで⁉︎」

「今17時だよ?遊んでも2時間ぐらいが限界だよ」

「えー、んじゃ遊ぶの休みの日にすればよかった」

「いろんな物あるから、2時間でもヘトヘトになると思うよ?」

「そうかなー」


瑠奈はちょっと不満そうだが、目的地に着いていきなりテンションが上がった。


「蓮!早く入ろ!」


僕の手を引いて笑顔で店内に入り、先に2時間分のお金を支払った。


「なにかしたいのある?」

「え⁉︎釣り堀もあるの⁉︎」

「してみる?」

「したい!」


僕と瑠奈は釣り堀で竿と餌を借りたが、二人で餌を見て青ざめた。


「れ、蓮が餌つけてよ」

「ちょっと無理かも」


餌は小さな芋虫で、僕達は竿と餌を返して大人しく卓球をして遊んだ。


「やったー!蓮弱すぎ〜!」

「おりゃ!」


瑠奈が僕を馬鹿にしている隙に点数を取ってやった。


「うわ!ズルくない⁉︎もう卓球しない!」

「えぇ〜......んじゃなにするの?」

「あのバブルサッカーってなに?」

「なんか、膨らました透明のボールみたいなのに入って、足だけ出るようにしてサッカーするやつだよ。ボールを蹴ろうにも膨らんでるやつが邪魔で人同士がぶつかるやつ」

「その説明だと危険しか感じないんだけど」

「メンバー探してるみたいだし、混ざってやってみようか」

「うん!」


スタッフに透明の膨らましたボールのようなものを被せてもらったが、瑠奈は体が小さく、足もほとんど隠れ、真っ直ぐ立っているのがやっとって感じだ。


「瑠奈、大丈夫?」

「う、動けない」

「ゲームスタート‼︎」

「始まったよ!」

「うわ〜‼︎」


瑠奈はゲームスタートしてすぐに相手チームの人にぶつかり、サッカーコート上を派手に転がって行った。


「大丈夫⁉︎」

「立てない!」


瑠奈はスタッフの人に起こしてもらい、身につけていた透明のボールを取られてしまった。


「危ないから見ててください」

「えー!私もやりたいのに!」

「怪我したら困るので」


結局瑠奈は僕を応援してくれたが、僕達のチームは負けてしまった。


「これ疲れるよ......」

「私もできるやつないのー?」

「あれは?ロデオ」 

「私がジュリエット?」

「それロミオね。あれだよ暴れ牛にしがみついて、何秒落ちないでいられるかってやつ」

「やってみたい!」


早速僕が最初に挑戦して、1分が経過した時、急に牛の動きが激しくなり、僕はカッコ悪く振り落とされてしまった。


「2分も経ってないじゃん」

「瑠奈もやってみなよ!実際乗ったらヤバイから!」

「私なら10分は余裕!」


僕には分かる。瑠奈は平気なフリして少しビビってる。


そして牛が動き出した。


「余裕!」

「まだ20秒だから」


1分が経過した時、牛は激しく暴れだし、瑠奈は声も出さずに必死にしがみついている。


「すごいよ瑠奈!その調子!」

「ねぇ、鷹坂高校の生徒?」

「え?」


瑠奈がロデオに必死になっている時、一人の赤髪ロングヘアーの、黒いジャージ姿の女性に声をかけられた。


「しかもそのバッチ、生徒会の人?」

「そうですけど」

「雫は元気してるー?」

「ま、まぁ。誰ですか?」

「もう時期分かるよ。生徒会、今のうちに楽しんでおきなねー」


その女性はそれだけ言い残し、ニヤッと笑ってどこかへ行ってしまった。


「今の誰」

「瑠奈⁉︎落ちたの?」

「蓮が女と話してるからだよ。逆ナン?私ちょっと行ってくる」

「る、瑠奈!辞めなって!」


瑠奈はさっきの女性を探して店内を歩き回るが、全く見つかる気配がない。


「もう帰ったんだよ。逆ナンじゃないし」

「てかさ.......」


瑠奈は店内の時計を見て、切なそうな表情をした。


「どうしたの?」

「もう1時間経ってるってマ⁉︎」

「今時の若者みたいな言葉使わないでよ」

「今時の若者なんだけど」

「あと1時間もあるね」

「1時間しかないんだよ。蓮は早く帰りたいの?私といたいよね」

「あ、シューティングゲームしたい!」

「どれどれ⁉︎蓮がしたいやつは私もしたい!」


本当、コロコロとテンションが変わるな。


それからの1時間は、瑠奈も楽しめるものに当たり、瑠奈は幸せそうにはしゃぎまくった。


「瑠奈、そろそろ時間だよ」

「遊んだ遊んだ!」

「2時間でも楽しめたでしょ?」

「うん!まだやってないの沢山あるし、また来ようよ!」

「いいよ!僕も楽しかったし!」


そして帰りのバスの中。

瑠奈は疲れて眠そうに、頭をコクコクさせている。


「着いたら起こすよ?」

「ダメ。今日はデートだもん......1秒も無駄にしたくないの」


付き合う気はない。でも、今の瑠奈を見ていると、何故だか愛おしく感じる。


「ねぇ、蓮?」

「なに?」

「私と遊ん楽しかった?」

「楽しかったよ?」

「私わがままだから、蓮に嫌われてるのかなって不安になることがあってね」

「うん......」

「やっぱり私って鬱陶しい存在だよね」

「......」


僕はなにも言えなかった。

バスから降り、瑠奈も目を覚まして二人で歩いている時、僕は瑠奈の手を握った。


「えぇ⁉︎れ、蓮?」

「ちょっと話がある。帰る前に公園寄ろう」

「う、うん」

(これって告白じゃ......そんなわけないか。蓮は中学の時から私を鬱陶しく思ってる......私じゃダメなんだ)


公園に着き、二人でベンチに座った。


「話って?」

「中学の頃、初めて瑠奈を泣かせた日のこと覚えてる?」

「......うん」

「いつも僕に着いてくる瑠奈に、鬱陶しんだよって本気で怒ったこと」

「覚えてる」

「あの時、僕は好きな人がいてさ、でも瑠奈がいつも側に居るから、変な噂も立ってイライラしてたんだよ」

「うん......」

「あの日のこと......本当にごめん」

「いいよ。言われる前から蓮の気持ちは感じてたのに、それでも離れなかった私が悪いから」

「でも、僕に言われてからも瑠奈は僕に着いてきたよね」

「だって......好きだから。でも、私は付き合えないんだって感じてた。だからせめて、蓮が誰かの彼氏にならないように、自分が蓮に嫌われてもいいから近くにいたかった」

「今も?」

「うん......」

「ありがとうね」

「え?」

「今は瑠奈を鬱陶しいなんて思ってないよ。友達として仲良くしていこうね!」

「......うん!仲良くしよー!うへへー♡......」


その日、瑠奈は枕に顔を埋めて、泣き声を殺しながら涙を流した。


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