ずっと好きでした


結局チャイムが鳴るまで女子トイレから出してくれず、さすがに僕も慌てた。


「瑠奈、早く出ないとみんな来ちゃうよ」

「このまま誰かが来るのを待つ」

「なんで......」

「蓮はこの学校で、もっと孤立しなきゃいけないの」

「もうしたでしょ」

「まだだよ。生徒会のみんなが蓮を嫌ってない。てかさ、やめるって言いなよ」

「無理だよ」

「無理なら私を入れて?」

「......無理」

「.......キャー‼︎」

「瑠奈⁉︎」


瑠奈は急に叫びだし、その声を聞いた女子生徒が集まってきた。


「瑠奈ちゃん大丈夫⁉︎」

「蓮くんになにされたの?」

「蓮くん......最低」

「ご、誤解だよ!」

「早くトイレから出て」

「この変態、早く雫先輩の所に連れて行こう」

「瑠奈!早く誤解を解いてよ!」

「連れて行って......」

「瑠奈......」


瑠奈は励まされながら教室に連れて行かれ、僕は三人の女子生徒に腕を後ろにまわされ、逮捕されたかのように生徒会室へ連れて行かれた。


「雫先輩!蓮くんが女子トイレで瑠奈ちゃんに酷いことしました!」


雫先輩は僕の目を真っ直ぐ見た後、レモンティーを一口飲んで書類を見ながら言った。


「蓮くんを残して教室に戻りなさい」

「はい!」


ダメだ......もう終わった......


「大変ね」

「雫先輩!信じてください!僕はなにも!」

「私は、蓮くんの嬉しそうにチョコレートを食べていた表情を疑っていないわ。投げ捨てなら、わざわざ取りに来て食べたりなんてしない。トイレの話も、瑠奈さんならわざわざ酷いことをしなくても、そういうことがしたいなら簡単にできたはず。ましてや、瑠奈さんが蓮くんを拒んで問題にすることなんてあり得ないと思っているわ」

「し、信じてくれるんですか?」

「えぇ。ただ、私の考えだけで蓮くんを無罪にすることはできないわね」

「なんでですか!」

「生徒会メンバーだから見逃した。そんな噂が立ったら困るもの。それに私は教えたことがあったはずよ」

「なんですか?」

「こういうことは男が悪くなくても、何故か男が悪くなってしまうと」

「そうでしたね......」

「無罪を証明しなさい」

「どうやって......」


その時、生徒会室に千華先輩と結愛先輩がやってきた。


「大丈夫ー?」

「なんかあったの?なんか、凄い噂になってた」

「それが......」


三人に朝からの出来事を事細かく教えると、千華先輩はあっけらかんとした表情をした。


「なーんだ。そんなことかー」

「そんなことって!大問題ですよ!」

「乃愛が原因?」

「乃愛先輩が悪いとは思いませんけど、瑠奈にとってはそれが原因かと......結愛先輩、乃愛先輩に言って、ネックレスを返すようにお願いできないですか?」

「んー、乃愛の個人的な感情も入ってるとは思うけど、確かに校則違反ではあるからね」

「そんな......」

「それよりこれ」


結愛先輩は小さな黄色い箱を渡してきた。


「ハッピーバレンタイン」

「あ、ありがとうございます」

「あー!先に渡すとかズルい!蓮、私からも!」


千華先輩は透明な小さな袋に入ったクッキーをくれた。


「手作りじゃないなら貰います」

「なんでそういうこと言うの!」

「死にたくないからです!でもありがとうございます。瑠奈に取られちゃうので、雫先輩が預かっててください」

「いいけれど」

「あと、梨央奈先輩がくれたやつと、雫先輩がくれたやつも同じ時に返してください」

「......」

「れ、蓮?今なんて言った?」

「え?」

「雫がくれたやつって言ったの⁉︎」


僕は一気に青ざめて恐る恐る雫先輩を見ると、何故かまた鬼のお面をつけていた。


そのお面、どんだけ気に入ってるんだ。


「私はあげてないわ」

「そ、そうです!僕の言い間違いです!」

「そんなこと間違える?」

「結愛に同意」

「あれです!雫先輩の家のシェフが僕に作ってくれて、雫先輩は嫌々僕に渡したんです!」


2人は疑うように雫先輩を見ると、雫先輩は無言でコクリと一回頷いた。


「なーんだ!ビックリさせないでよー」

「心臓に悪い」


その反応になるのも分かるけど、2人ともめちゃくちゃ失礼ですよ⁉︎


「とにかく、蓮くんは無罪を証明すること」

「難しいですよ......」

「蓮くんがこのままでいいと言うなら私は構わないわ。ただ、ハレンチな噂が絶えない生徒が生徒会にいるのは問題ね」

「私が瑠奈をぶっ飛ばしてあげようか?」

「結愛先輩、それじゃ解決するどころか悪化しますよ」

「んじゃ、私が手作り弁当を食べさせて黙らせよう!」

「殺人はダメです。てか、ついに自虐ネタに走りましたね」

「まぁね!......待って、殺人はダメってどういうこと?」

「そのまんまの意味です」


その時、雫先輩は鬼のお面を外して立ち上がった。


「私達に頼るのは最終手段にして、まずは自分で問題を解決する努力をしなさい」

「......分かりました」


本当は今すぐ頼りたいんだけどな......


とりあえずチョコレートを雫先輩に預けて教室に戻ると、みんながゴミを見るような目で僕を見てきたが、林太郎くんは心配そうにしてくれている。


しばらくは林太郎くんと関わるのはやめよう。迷惑かけることになりそうだしな。


「蓮」

「ん?」


瑠奈に声をかけられた時、教室に美桜先輩が入ってきた。


「瑠奈」

「どうしたの?」

「いやー、ネットで蓮がやばいことになってたからさ、瑠奈マジギレして暴れたりしてないかなと思って」

「大丈夫だよ!蓮は私がちゃんと躾けるから!」

「でもトイレで襲われたんでしょ?」

「わ、私がちょっとビックリしただけ」

「そうなんだ。蓮」

「は、はい」

「ドンマイ!」


そう言って美桜先輩は教室を出て行った。


なんなんだあの先輩......ちょっとうざい。


「瑠奈?さっきなに言おうとしたの?」

「あー、生徒会室でなに話したのかなーって」

「めちゃくちゃ怒られた」

「そうなんだ」


全く怒られていないが、瑠奈の望みに近い嘘をついた方がいいと咄嗟に判断した。


「それで、いつ生徒会辞めるの?」

「......」

「まさか、やめないとか言わないよね?」

「やめるよ」

「いつ?」 

「......いつか」


瑠奈は大きく目を見開き、威圧するように僕を見つめると、林太郎くんが話に入ってきた。


「瑠奈、蓮が困ってるぞ?いいのか?」

「困ってないよ?蓮はやっと生徒会から解放されると思って安心してる」

「こんなことになって、蓮が学校やめたらどうするんだよ」

「その時は私も辞めて、蓮と一緒に居る」

「少しは蓮の気持ちもっ、蓮、乃愛先輩来たぞ」


教室の入り口を振り返ると、乃愛先輩が僕達を見ていた。


「どうかしました?」

「ちょっと来てほしい」

「分かりました」


その時、瑠奈が乃愛先輩の髪に掴みかかり、乃愛先輩は何故かスカートの右ポケットら辺をガードして抵抗しない。


「瑠奈!やめてよ!」

「こいつだけは許さない。私の大切な物を奪った‼︎」

「チビ瑠奈、離せ」

「返せー‼︎」

「わ、私先生呼んでくる!」


1人の女子生徒が先生を呼ぶために教室を飛び出して行き、中川先生が来るまで瑠奈は乃愛先輩の髪を掴み、2人は鋭い目つきで睨み合い続けた。


「なにやってるの!瑠奈さん離しなさい!」


中川先生に怒鳴られて手を離すと、その瞬間乃愛先輩は瑠奈にハイキックをかました。

足は瑠奈の顎に当たり、瑠奈は一瞬で倒れ、林太郎くんが瑠奈を保健室へ運び、僕は乃愛先輩と屋上に向かった。


「乃愛先輩、頭大丈夫ですか?」

「え?悪口?」

「違います違います!髪の毛引っ張られてたので」

「平気!」

「よかったです」

「今日は蓮に渡したい物があるの!」


さっきまで喧嘩していたのに、乃愛先輩は笑顔でポケットに手を入れた。


「今日はバレンタインだから、これ頑張って作ったの!開けてみて!」


赤い箱を渡されて中を見ると、6個の四角いチョコレートと小さなヒヨコの付いた可愛い爪楊枝が入っていた。


「ありがとうございます!」

「食べてみて!」


ヒヨコの爪楊枝を使って一つ食べると、僕が大好きな生チョコで、味もかなり美味しく、レベルの高いものだった。


「すごく美味しいです!」

「嬉しい!あのね蓮」

「なんですか?」

「私、本気で蓮が好き!蓮は優しくて、3回も私を救ってくれた!」

「......3回?」

「1回目は夏祭りの日に助けに来てくれた。2回目は私のフードを外してくれた。3回目はクリスマスイブ」

「全部たまたまです」

「そんなことない。私は確かに蓮に救われたの!フードを外してくれた時からずっとす、好きでした」

「け、敬語やめてくださいよ」

「真剣だから」


その頃瑠奈は、林太郎に冷えたタオルで顎を冷やしてもらっている時に目を覚ました。


「起きるの早いな」


瑠奈は勢いよく上半身を起こして、不安そうな表情で林太郎を見た。


「蓮は?」

「分からん。瑠奈、もうやめろ」


すると瑠奈は落ち込むように俯き、流れ始めた涙が止まらなく、制服の袖で涙を拭き続けた。


「なんでだろう......どうして私じゃダメなんだろう......」

「本気で蓮が好きなら、いろんな感情を抑えて一度距離を置いてみろ。押してダメなら引いてみろだ。でも学校を休んだりしちゃダメだぞ?」

「もう......分かんないよ......なにをしても無理そうな気がして、でも諦められなくて......」

「分かるよ」

「林太郎には分からないよ」

「分かる。俺は瑠奈が好きだったから」

「......え?」


その時屋上では、乃愛が顔を赤らめてモジモジしていた。


「だ、だからさ......私と付き合ってほしいです」

「......」

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