本当の自分を見失う


「乃愛先輩の気持ちは嬉しいです」

「......」

「でも今、大変なことになってるんですよ。瑠奈にネックレスを返してあげてくれませんか?」

「返したら......付き合ってくれるの?」

「とにかく問題が解決しないとなんとも......ごめなさい。乃愛先輩は本気で気持ちを伝えてくれたのに」

「......ううん!はい、蓮が返して」


乃愛先輩はプルタブのネックレスを返してくれ、ニコッと期待したような表情で言った。


「返事待ってるからね!」

「はい」


ネックレスを持って保健室に行くと、中から林太郎くんと瑠奈の話し声が聞こえてきた。


「瑠奈が蓮を好きなことを知ってて、それでも気持ちが無くなることもなかった」

「いつから?」

「中学の時からだ。俺が瑠奈を好きになった時には瑠奈は蓮を好きで、どうしようもなかった。だからどうしたらいいか分からないって言う瑠奈の気持ちが分かる」


林太郎くんが瑠奈を好き?どういうこと?


「そっか......」

「俺は好きな瑠奈が幸せになることを望んでる。だからハッキリ言うけど、今のやり方じゃ瑠奈は幸せになれないんだ」

「......分かった」

「はぁ......やっと気持ち伝えられてスッキリしたわ!頑張れよ!んじゃ、俺は教室戻るわ」


蓮は慌ててその場を離れ、林太郎が保健室を出ようとした時、瑠奈は林太郎の背中に枕を投げつけた。


「なんだ?」

「ありがとう」

「お礼言うために枕投げるなよ」 

「頑張ってみる」 

「おう」


林太郎くんが保健室から出て行くのを確認し、僕はなにも聞いていないフリをして保健室に入った。


「瑠奈?起きてる?」

「う、うん」

「ネックレス返してもらったよ」

「本当?」 

「うん。もう取られないようにね」

「うん、誤解は私が解いておく。いつも自分勝手でごめんね」


瑠奈はそう言ってネックレスを付けて保健室を出て行った。


解決......なのか?林太郎くんと話していたことが瑠奈の心を動かしたのかな。

とにかく雫先輩に報告しよう。


そして生徒会へ行くと、雫先輩は珍しく携帯をいじっていた。


「あら蓮くん。どうかした?」

「多分、問題が解決しました」

「そのようね」

「なに見てるんですか?」

「SNSを見ているのだけれど、よく分からないのよね」

「アカウントの検索方法とかは分かって、生徒のアカウントを見ていたのだけれど、詳しく見るにはアカウントを作らないといけないらしいの」

「作ってあげましょうか?」

「お願いできる?」

「はい」


雫先輩に携帯を借り、メールアドレスを聞いて入力し、パスワードは自分で入力させた。


「名前まで決めれたわ」

「どんな名前にしました?」

「フルネーム」


よし、ブロックしとこう。


「生徒会のみんなの、普段見れない姿が見れたりして不思議ね。見なさい」


雫先輩の携帯を覗き込むと、結愛先輩の投稿で、乃愛先輩が手や顔にチョコレートを付けながら必死にバレンタインチョコを作っている画像だった。


「学校では恐れられてる2人ですけど、SNSだと意外にみんなメッセージとか送ってるんですね」


可愛いです!や、私も食べてみたいです!などとメッセージが来ていて、意外と2人も人気があることを知った。


「良くも悪くも、顔を合わせていない時はなんでも言えちゃうものね」

「あ、ベルマークに通知来てますよ」

「通知が来るとどうなるのかしら」

「タップしてみてください」

「これでいいかしら」

「美桜先輩からフォローされましたね。美桜先輩のアイコンをタップしてフォローってとこを押すとフォローを返せます」

「なにをフォローするのかしら、そもそもなんで私はフォローされたの?なにか悪いことしたかしら」

「あの......そうじゃなくてですね」


雫先輩はインターネットに疎く、本当になにも知らなかったのだ。

それからSNSの使い方をある程度教え込み、やっと理解し始めてきた。


「千華さんのアカウントは料理関係ばかりね」

「相当練習してるみたいですね」

「睦美さんもフォローしていいかしら」

「大丈夫だと思いますよ?」

「そう。あとは蓮くんだけね」

「ぼ、僕は大丈夫ですよ」

「あなたはブロックされていますと出たわ。ブロックってなにかしら、生徒会のみんなをフォローしていて初めて見るのだけれど」

「コンクリート的なあれです」

「それをどうしたらフォローできるのかしら」

「ハンマーで砕けばできます」


適当な嘘で乗り切るしかない!僕の投稿には、与えられた罰への愚痴が投稿されてる!見られたら終わりだ!


「ハンマーは無いわね」

「そうですよね!今日は諦めましょう!」

「砕けばいいのよね」

「ま、まぁ......」


すると雫先輩は椅子を持ち上げ、自分の携帯に振り下ろそうとした。


「なにやってるんですか⁉︎」

「ブロックを砕くのよ」

「そんな物理的なことじゃないですよ!携帯が砕けます!」


不思議そうに椅子を下ろし、再び座ると、携帯でなにかを調べ始めた。


「ブロックとは、いやがらせをする者や、関わりたくない相手が自分のアカウントを見たり、メッセージを飛ばせなくすること」


はい、僕死にます!


「SNSでぐらい、私に見られたくないものもあるわよね」


あれ、生きてる。


「き、嫌いとかじゃないですからね⁉︎」

「いいわよ。それで本題だけれど、瑠奈さんが誤解を解くための投稿をしているわ。さっきまで心配してメッセージを送っていた人達が、急に手のひらを返して悪口を送る流れまで出来上がっているわね」

「瑠奈が悪口⁉︎」

「まぁ、大丈夫じゃないかしら」

「なんでですか⁉︎」

「一番新しい投稿を見てみなさい」


自分の携帯で瑠奈の投稿を見に行くと、うるせー!黙れ!と、かなり強気な投稿がされていた。


「瑠奈、悪いのが自分って分かってるんですかね」

「分かっているから誤解を解いたのよ。強気な発言は自分の心が病まないように必死なんじゃないかしら。瑠奈さんは時々優しかったり、凶暴になったり、なのにちゃんと反省できる。どこかで本当の自分を見失ってしまったように感じるわ」

「......本当の瑠奈......」

「瑠奈さんは昔から暴れん坊さんなのかしら」 

「いや、中学生の途中からですね。元はニコニコしながらあまり喋らない感じでした。小6の頃なんて、軽いいじめみたいなのも受けてましたし」 

「いじめ?」 

「その頃は僕を好きだったか知らないですけど、幼馴染みとして休み時間とかは一緒に遊んでたんです。瑠奈って昔から可愛い方だったので、嫉妬の対象にもされやすくて、とある日から男好きって噂を流されて、ノートへの落書きとか」 

「ニコニコしてあまり喋らなくなったのはいじめられる前から?」

「いじめられてからですね」

「梨央奈さんと同じ、自分の感情を隠したり、特定の人物に心配をかけないように笑みで感情を隠したのね」


梨央奈先輩の笑みの理由とか知ってたんだ......


「そのいじめの間、蓮くんはなにをしていたの?」

「僕は友達だと思っていたし、一緒に遊ぶのも楽しかったので、いつも通りでしたね」

「なるほどね。瑠奈さんにとっては、それにすごい救われたのかもしれないわね。とにかく、解決したのならチョコレートは返しておくわ」

「ありがとうございます」


できれば放課後に渡してほしかったけど、瑠奈も反省してたし大丈夫か。


その後、チョコレートやクッキーを持って教室に戻っても、瑠奈は話しかけてすらこなかった。

そして放課後


「瑠奈、生徒会室行ってくるね」

「うん。しばらく一人で帰る」

「そっか。気をつけてね」

「うん」


瑠奈が一人で帰るなんて珍しいと思いながらも生徒会室に行き、行ってすぐ、生徒会のみんなで会議室に行き、卒業式に向けた会議に参加した。

卒業式は入学式とは違い、まともにやるらしい。


そんなことより乃愛先輩と居るの気まずいな......乃愛先輩も少し気まずそうだけど。


会議も終わり、帰ろうと下駄箱を開けると、誰かが入れた手紙と茶色い箱が入っていて、手紙を開くと、それを入れたのは睦美先輩だと分かった。


涼風くんへ

喋らなくなって結構経つね。

いつも忙しそうだし、会長の罰を受けまくりみたいだけど、体調は大丈夫ですか?大丈夫だといいな。

このまま卒業まで話さないような気がしてきたから、この手紙で言っておきます!

あの時、自分が悪者になってまでも私を学校に連れ出してくれてありがとう。

今では仲良し三人組で楽しくやってます!

このチョコはその時のお礼です!早めに食べてね!


睦美より。と書かれていて、沢山の人に貰えた喜びと、ホワイトデーのお返しでお小遣いが消える絶望が入り混じりながら帰宅した。


その日の夜、瑠奈はベッドに潜りながら林太郎に電話をかけた。


「もしもし、今暇?」

「大丈夫だぞ、どうした?」

「今日、久しぶりに一人で帰ったの」

「俺のアドバイス聞いてくれたんだな」

「うん。これでそのまま距離ができ続けて終わりとかになったら林太郎のせいだから!責任取ってよ?」

「別に俺はいいけど。むしろ嬉しい」

「はっ、は⁉︎なに言ってんの⁉︎死ね!」

「シンプルに傷つくぞ。責任取れって言ったの瑠奈だし」


瑠奈はなにも言わずに電話を切り、ボソボソと独り言を呟いた。


「なんなんだ林太郎は。馬鹿じゃないの?まったく......」


その頃雫は、夜食の時間にお父さんにチョコレートを渡そうと、調理室に行って冷蔵庫を開けた。


「ねぇ」

「どうなさいました?」

「お父様に作ったチョコレートが無いのだけれど」

「それなら今朝、雫お嬢様にお渡した物になります!渡してきたらいかがですか?」

「私を騙したのね」

「でも、誰にも渡してないなら大丈夫かと」


雫は蓮にチョコレートを渡したことを思い出し、蓮が美味しいと嬉しそうに食べていた光景が頭に浮かんでシェフから顔を背けた。


「雫お嬢様?大丈夫ですか?」

「きょ、今日の晩ご飯は要らないわ。お父様には代わりのチョコを作って渡しておいてください」

「代わりですか?」

「べっ、別に誰かに渡して無くなったとかじゃないわ。勘違いしないでください。落としてしまっただけよ」


そう言って雫は早歩きで自分の部屋に戻り、ベッドに潜り込んだ。


「あのチョコ......美味しかったのね」

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