隠した不安


翌日、猫が気になって真っ先に生徒会室に向かった。


「おはようございます!」

「おはよう。猫の名前なのだけれど」

「うわー!綺麗になりましたね!首輪もつけてもらって!」

「今日学校に来たら、そうなっていたわ」

「嘘つき会長」

「なっ......なにが言いたいのかしら」

「あー!蓮が言ってた猫ってこの子⁉︎」

「乃愛先輩もおはようございます!」

「おはよう!」


乃愛先輩は猫を抱っこして、顔をじっくり見つめた。


「なんか蓮に似てるね!」

「僕ですか⁉︎」

「似てるよ!雫、この猫の名前決めたの?」

「まだよ」

「それじゃ、名前は蓮!いいでしょ?」

「勝手にしなさい」


魚に僕の名前をつける瑠奈の思考と同じだ。


「僕が猫を呼ぶ時恥ずかしいですよ」

「蓮はニックネームで呼べば?」

「ニックネームですか?」

「レックスとか」

「意味わからないけど、もうそれでいいです!」

「大変‼︎」

「ミャッ‼︎」


すごい勢いで千華先輩が入ってきて、レックスが驚いてしまった。


「猫?それより大変!」

「落ち着いて話しなさい」

「う、うん。一年生達が生徒会に反抗し始めた!てか、可愛い〜♡」


千華先輩はレックスを撫でようとするが、レックスは怯えて僕の後ろに隠れてしまった。


「時間の問題だと思っていたわ。梨央奈さんを呼んで」

「いや、梨央奈は保健室......」

「なぜ?」

「階段で一年生と揉めて足を滑らせた。でも擦り傷だけ!んで、梨央奈を押した一年生も保健室......」

「結愛さんにやられてしまった?」

「う、うん......」

「まぁいいわ。一年生は支配の恐怖ゆえに反抗している。私が一人で黙らせてあげるわ」


あーあ、雫先輩怒らせちゃった。


「乃愛さん、一年生全員を体育館へ」 

「了解!」 

「蓮くんは私と一緒に体育館に来なさい。一年生の黙らせ方を見せてあげるわ」

「はーい......」

「わ、私はどうしたら?」

「猫の監視でもしててちょうだい」

「わーい!」

 

雫先輩と体育館に行き、雫先輩はステージの上、僕は体育館の一番後ろで見学することになった。

しばらくして体育館に一年生が集まり、雫先輩はマイクのスイッチを入れた。


「なにやら、生徒会に文句のある生徒が居るみたいね。理由はなんとなく分かっているわ」


みんなが立って話を聞く中、花梨さんだけは座って気怠そうにしている。


「貴方達に、生徒会を潰すチャンスをあげる。私1人対、貴方達全員のテスト勝負。テストの内容は貴方達が決めて先生方に報告しなさい。貴方達はテスト中、カンニングするもよし、答えをメモした紙を見てもよし。私より先に全ての問題を解き、尚且つ全ての問題が正解している生徒が一人でもいれば貴方達の勝ち。私の勝ちの条件は、誰よりも早く全ての問題を解き、尚且つ全問正解。負けるわけないわよね?」


そんな勝負、いくら雫先輩でも......


「ねぇ」

「花梨さん、なにかしら?」

「私はやらなくていいよね」

「なぜ?」

「別に生徒会のみんなのこと嫌いじゃないし、それに」

「それに?」

「勝っちゃうから」


雫先輩と花梨さん、睨み合ってるけどなんで⁉︎生徒会に嫌いな人いないんじゃなかったの⁉︎


「勝ってから言いなさい」

「......分かった。それじゃ私が勝ったら私の言葉は絶対で、誰もそれを否定してはいけない。その力をちょうだい」

「いいわよ」


いいの⁉︎


「テストは来週の月曜日、体育館で行うわ。それまでにテスト内容を決められなくても貴方達の負け。それでは解散」


体育館を出て行く雫先輩に駆け寄り、思わず制服を引っ張ってしまった。


「雫先輩!」

「離しなさい」

「あ、ごめんなさい」

「なに?」

「勝てるんですか⁉︎いくらなんでもあんな条件!」

「私が負けると思って不安なの?」

「そりゃ不安ですよ!」

「私が負けたところを見たことがある?」

「ないですけど......」

「でも、花梨さんは頭がいい。それは勉強の面だけじゃなく、この学校生活を生き抜く頭の良さがあるわ」

「学校生活ですか?」

「生徒会に嫌いな人は居ないと伝えたのは、私達を想って言った本心だと思うわ。でもその後、私を煽るような発言をして、しっかり私と睨み合った。その意味が分かる?」

「分からないです」

「一年生が嫌いなのは生徒会というより私。その私には敵対心を見せつけて、同じ一年生から嫌われることを回避したのよ」

「そんなの、よく分りましたね」

「花梨さんは嫌われることを怖がったりしない人だけど、きっと花梨さんなりの考えがあるのね」

「......とにかく、勝ってくださいね」

「もちろん」


それから教室に戻る途中、レックスが廊下を歩いていた。


「どうしたのレックス、千華先輩は?」

「ミャ〜」

「なに......死んだだと......」

「勝手に殺さないでくれる?」

「うわっ、居た」

「化け物見た時みたいな反応しないでよ」

「生徒会室から出したら怒られますよ?」

「出たがってたから!それに、すれ違う生徒がみんな可愛いって言って可愛がってくれるんだよ!」

「可愛いのは確かですけど」

「さっき瑠奈っぺと美桜っぺがね」

「千華先輩って、本当適当な名前つけますよね」  

「可愛いじゃん!」

「それで、二人がどうしたんですか?」

「猫を撫でてたんだけど、二人とも表情がふにゃ〜ってなってて可愛かった!」

「癒されまくりですね。あれ?レックスどこ行きました?」

「あれ?」


その頃雫は、少し慌てた様子で生徒会室のテーブルの下などを何度も探していた。


「いないわね......」


生徒会室に猫がいないことに気づいた雫は、千華を電話で呼び出した。


「お、お待たせ〜」

「猫は?」

「いや、あの......校内を散歩させてだんだけどね......行方不明」

「千華さんに頼んだのが間違いだったわ。四つん這いになりなさい」

「え?」

「猫が見つかるまで四つん這いで生活しなさい」

「無理無理!」

「早く」


千華は顔を真っ赤にしながら四つん這いになった。


「こ、これでいい?」

「猫が日本語を喋るかしら」

「......ニャー」

「そのまま校内を探しに行きなさい」

「そんな!」

「はい?」

「ニ、ニャ〜......」


千華は四つん這いのまま廊下を練り歩き、周りの視線で頭が爆発しそうになっていた。


「なにしてんの?」

「ニ、ニャ......」

(花梨だ〜‼︎)

「猫?」

「ニャ〜......」

「面白いから動画撮っちゃお」


千華は必死に首を横に振るが、花梨はニヤニヤしながら動画を回し始めた。


「ほらほら〜、鳴いてごらん?」

「......ニャ〜」

「可愛い声出しちゃってー、こういうの初めて?」

「ニャ〜......」

「顔真っ赤!可愛いね〜、心配しないでよ、優しくしてあげるから」

「なんか変な方向になってるよ‼︎」

「あ、普通に喋った。つまんないの」

「黒猫見なかった?」

「さっき、梨央奈先輩が抱っこしながら歩いてた」

「どこ行った⁉︎」

「トイレ」


千華は躊躇しながらも四つん這いで女子トイレに入ると、花梨は笑いながら動画を回した。


「あはははは!嘘だよ〜ん!」

「かーりーんー‼︎」

「うわっ!来るな来るなー!」


千華はトイレの床についた手を花梨の制服で拭こうとし、普通に立って花梨を追いかけた。


その頃蓮は、猫を抱っこした美桜と話していた。


「よかっです!このまま学校から出ちゃったら大変でしたよ!」

「この子、本当いい子だよね」

「はい、人懐っこいですし!多分、雫先輩が探してるので生徒会室に連れて行ってください」

「分かった!」


美桜は猫を抱えたまま生徒会室へ向かった。


「あら、美桜さん」

「猫連れてきた」

「ありがとう」

「猫じゃらしとかないの?」

「やっぱり必要なのかしら」

「猫もストレス溜まるから、たまに遊んであげないと」

「お金渡すから、買っておいてちょうだい」

「一緒に行こうよ」 

「......しょうがないわね。放課後、校門前で待ってなさい」

「了解!」


そして放課後、生徒会室には雫先輩と千華先輩以外のみんなが集まり、仕事そっちのけでレックスに癒されていた。

そんな時、千華先輩が四つん這いで生徒会室に入ってきた。


「ニャ〜」

「......千華、可愛がってもらいたいからって、それはさすがに」

「酷いよ梨央奈!」

「千華にも首輪つける?」

「結愛まで!......蓮と乃愛はドン引きしないでよー‼︎」

「な、撫でてほしんですか?」

「え?撫でてくれるの?」

「嫌です」

「なんでよ‼︎」


その頃雫は、美桜とペットショップに来ていた。


「雫!見て見て!ハムスターがいる!」

「猫の餌じゃない」

「やめてよ」

「早く猫じゃらし買って帰るわよ」

「せっかくだし生き物見ようよ!ほら、大きな金魚!」

「食べれない魚を買う意味が分からないわ」

「あのさー、店員さんの顔引きつってるから」


ペットショップの店員さんは雫を知っていた。

(音海さんのところの娘さん、三年ぐらい前はペット禁止だから見るだけとか言って幸せそうに見に来てたのに、どこで笑顔のカケラ落としてきたのやら)


「猫じゃらしって言っても沢山あるのね」

「でも、どれも100円から500円くらいだね」

「全部一本ずつ買うわ」

「え⁉︎正気⁉︎」

「えぇ、おやつとかは要らないのかしら」

「まぁ、ご褒美程度にあげたら喜ぶんじゃない?」 

「そう」


雫は猫じゃらし全種類と、おやつを一つだけ買ってペットショップを出た。


「そんなに猫じゃらし要らないって」

「気に入らないかもしれないじゃない」

「使わなくなったらどうするの?」

「千華さんじゃらしにするわ」 

「はい?それよりさ、月曜日すごいことするらしいじゃん」

「そうらしいわね」

「いや、雫のことじゃん」

「......」

「雫?」

「なんでもないわ」


その日の夜、雫は梨央奈に電話をかけた。


「雫⁉︎なにか問題⁉︎」

「違うわ」

「よかった。雫から電話来る時はだいたい問題が起きた時だから。月曜日、頑張ってね!」

「そのことなのだけど、もし私が負けたら、生徒会のみんなを頼んだわね」

「......え?」

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