奇跡の黒猫


今日は体育祭の日、今年は雫先輩達のクラスと同じチームになり、走ってる時、厳しい眼差しで見つめられて凄い恐怖を感じた。多分僕以外も全員。


自分の番が終わり、骨折中で見学してる花梨さんが気になって声をかけに行った。


「花梨さん!暑くない?」

「平気」

「骨折はいつ治るの?」

「来月らしい」

「そっか」 

「てか、あれなんとかしてよ」

「なに?」


花梨さんが僕の後ろを指差し、振り向くとそこには不機嫌そうな瑠奈と乃愛先輩が居た。


「蓮、なんで他の女のとこ行くの?ねぇ、なんで?」

「は?チビ瑠奈が言うこと?まぁでも、チビに同じく」

「お、落ち着いて落ち着いて!花梨さんが一人で心配だったから!」

「私、ナンパされた」

「花梨さん⁉︎」


二人は僕に向かって走ってきて、僕は咄嗟に逃げたが、瑠奈は花梨さんの目の前で立ち止まって花梨さんを責め始めた。

乃愛先輩は追いかけてきてるけど。


「乃愛先輩!止まってください!」

「浮気者〜‼︎」

「違いますって‼︎」


それを見ていた梨央奈は雫に話かけた。


「あれ、止めなくていいの?」

「そうね。蓮くんは、借りもの競争に出る予定よね」

「うん。止めてこようか?」

「お願い」


梨央奈は両腕を広げて蓮の目の前に立ちはだかった。


「梨央奈先輩!邪魔!」

「ストーップ!」

「なんですか!」

「れーん‼︎」

「あぐっ‼︎」


後ろから凄い勢いで背中に飛びつかれ、豪快に倒れてしまった。


「二人とも?いい加減にしないと雫に怒られるよ?」

「それは避けたいです」

「梨央奈!蓮が浮気した!」

「蓮くんがそんなことするわけないでしょ?」

「花梨をナンパした!」

「してないですって!背中から降りてください!」

「乃愛?疑ってばっかりだと蓮くんに嫌われちゃうよ」 

「ご、ごめんね?」

「分かってくれればいいんです」


これから借りもの競争だっていうのに、すでに疲れちゃったよ。


そして、借りもの競争が始まろうとしていた。


「位置について!よーい、ドン‼︎」


頼む!軽いお題きてくれ〜‼︎


一番乗りで紙の入ったボックスまでたどり着き、無数にある紙の中から一枚の紙を引いた。


「お題は......」

「蓮〜!急いでー!」

「早く早くー!」


千華先輩と梨央奈先輩の応援する声が聞こえてきたが、僕はどうすればいいか分からなかった。


「蓮くん、止まっちゃったね」 

「どんなお題なのかしらね。千華さん」

「ん?」

「貴方と結愛さんがお題をチェックしてOKを出したわよね」

「うん、そんな難しいお題無かったと思うよ?」

「結愛さん」

「はーい」

「本当に変なお題はなかった?」

「なかったよ?イラッとするのはあったけど」

「イラッと?」


僕が引いたお題は、この学校で一番背の低い生徒とゴールというものだった。

瑠奈か乃愛先輩か結愛先輩.....三人は同じ身長!誰を選ぶかに寄って生きるか死ぬかが決まる......やばい、変な汗出てきた。

どんどん抜かされていってるし、こんなので負けたら雫先輩になんて言われるか......


「蓮くーん?早くしないと!」

「おーっと?生徒会役員が足を止めている!どうしたんだー⁉︎」


なんだその盛り上げ方、こっちは命がけの選択中なんだ。

乃愛先輩と結愛先輩は暴れたら危険、瑠奈しかないか......って居ないし‼︎


「花梨さん!瑠奈は⁉︎」

「トイレ行ったよ」

「使えねー!あのチビ瑠奈〜!」

「そう伝えておく」

「うん、やめて」

「みんな紐に吊るされたパンに苦戦しているぞ!涼風蓮!まだまだ間に合うぞ〜!」


煽り気味なマイクパフォーマンスで焦りながらも、結愛先輩の元へ走って、紙を見せながら引きつった笑顔で言った。


「い、行きましょう」


すると結愛先輩は真顔で指をポキポキ鳴らし始め、慌てて乃愛先輩に視線を変えた。


「間違えました、乃愛先輩行きましょう」

「私、彼氏に喧嘩売られてるの?」

「ち、小さくて可愛いなーって......」

「いいよ」

「ありがとうございます!......目がめちゃくちゃ怒ってるんですが......」

「うぉ〜‼︎」

「待って待って‼︎なんで結愛先輩も追いかけてくるんですか‼︎」


二人は全力で僕を追いかけ、恐怖のあまり、ぶら下がったパンも一発で咥え、全力で走った。


「おっと⁉︎まさかの逆転だー‼︎」


そりゃ死にたくないからね‼︎って、なんで瑠奈まで追いかけて来てんの〜‼︎‼︎


「まさかの逆転でゴール‼︎」

「私はチビじゃなーい‼︎」


三人に、もみくしゃにされる蓮を見て、雫は呆れた様子で言った。


「蓮くんも大変ね」


結局僕達のチームが優勝したが、体育祭が終わり、とんでもない疲労感を感じながら林太郎くんとゲームセンターに向かった。


「バテバテだな」

「かなりね」 

「そういえば去年の体育祭終わり、ゲームセンターに行こうとして呼び出しくらったよな」

「変なフラグ立てないでよ」

「ごめんごめん、てか、俺達校則違反じゃね?」

「あー、確かに。頭回ってなかった」


その時、雫先輩から電話がかかってきた。


「林太郎くんが変なこと言うから電話きたよ」

「早く出ろ」

「もしもし」

「いつもと違う方向に帰っていった理由は?」

「え?」

「聞いてるのよ。答えなさい」

「えっとー......林太郎くんが捨てらた猫を見つけて、様子見に来てます」

「猫?」

「は、はい」

「飼ってくれる人は決まってるのかしら」

「まだです」

「そう。死なれては困るわね、学校に連れて来なさい」

「いや!」

「なに?」

「なんでもないです......」

「待ってるわね」


電話を終え、僕は一気に青ざめた。


「どうしてあんな嘘ついたんだよ」

「怒られたくなくて!どうしよう、学校に猫を連れて行かなきゃ!猫って3000円くらいで買える?」

「無理だろ。10万はするんじゃないか?」

「まぁ、林太郎くんも同罪だし!一緒に死のう!」

「爽やかな顔で巻き込むな」

「ミャ、ミャ〜」

「猫の鳴き声しなかった⁉︎」

「この裏だな」


細道を通って八百屋の裏に回ると、ダンボールから出ようとしている一匹の真っ黒な子猫がいた。


「捨て猫かな」

「奇跡じゃん」


すると、八百屋の裏口のドアが開き、八百屋のおじさんが出て来た。


「あっ、ごめんなさい!猫の鳴き声が聞こえたので」

「今朝捨てられてたんだよ。迷惑な話だよなー」

「飼わないんですか?」

「飼ってやりたいけどよー、なかなか金銭面がなー」

「それじゃ、僕が引き取ります!」

「いいのか?よかったなー、次は捨てられんなよ?」

「ミャ」


おじさんは優しく猫の顎を指で撫で、店内に戻って行った。


「この猫を連れて行こう!」

「俺も行くのか?」

「別に来なくてもいいけど」

「んじゃ一人で頼むわ」

「分かった」


そして一人で生徒会室に猫を連れて行った。


「連れて来ました」


雫先輩はダンボールの前にしゃがみ、ダンボールを開いた。


「ミャ〜」

「汚い猫ね」

「酷いですよ!なんでこと言うんですか!」

「生徒会室はエアコンで温度管理ができるわ。ここに置いておきなさい」

「餌とかどうするんですか?」

「そんなのどうでもいいわ。あとは私がなんとかするから、蓮くんは帰りなさい」

「は、はい」


大丈夫かな......いじめられたりしないよね。


不安になりながらも昇降口まで来た時、伝え忘れたことを思い出して生徒会室に戻った。


「忘れてましっ......」


僕の目に飛び込んできたのは、猫を抱き抱え、クシで毛並みを整えてあげる雫先輩だったが、雫先輩は一瞬で猫をダンボールに戻した。


「いきなり飛びついて来たのよ。本当迷惑だわ」

「子猫はそんなにジャンプできませんよ」

「そんなことないわ。2キロはジャンプできるはずよ」

「化け物じゃないですか‼︎」

「それでなにかしら」

「捨て猫なので、動物病院に連れて行った方がいいですよ」

「そうなのね、知らなかったわ」


雫先輩の席に置かれたノートパソコンが窓に反射してるけど......ガッツリ、動物病院のホームページなんですが......こんなことならずっとダンボール貼っておけば良かったのに。絶対僕が来る前に調べまくってたじゃん。


「そ、それだけです。さよなら」

「さよなら」


生徒会室から出て、またすぐに扉を開けてみると、雫先輩は猫に両手を伸ばして抱き抱えようとしていた。


「猫好きなんですか?」

「窓から投げ捨てようと思って」

「冗談でも怒られますよ」

「さっきからなによ。私をおちょくっているのかしら」

「いえ、雫先輩が猫好きとかギャップ萌えだなって」


雫先輩は一瞬で鬼のお面を取り出してお面をつけた。


「もっ、萌え?」

「可愛いってことです。そのお面、猫が怖がりますよ」

「分かったから早く帰りなさい。次戻ってきたら罰を与えるわ」

「さ、さよなら〜」

「ミャ〜」


どんだけあのお面好きなんだ?自分のコスプレして楽しいのかな。


雫は蓮が帰った後、猫をダンボールに入れて動物病院に向かい、そこで餌とオレンジの首輪を購入して、その日は家に猫を連れて帰った。


「お嬢様、そのダンボールは」 

「猫を拾ったわ」

「ペットは禁止だったはずですが」 

「今日だけよ。明日から学校で面倒を見るわ」

「そうですか。できるだけバレなように努力します」 

「頼んだわね」

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