修学旅行の裏側で


「修学旅行だ〜!」

「瑠奈、新幹線の中で騒がないでよ」 

「ずっと楽しみだったんだもーん!って、林太郎‼︎」

「んっ」

「寝るな‼︎」

「移動中はいいだろ?」

「はー?」


林太郎くんは寝不足なのか、東京に向かう間ずっと寝ていた。


「瑠奈、林太郎くんのどこが好きなの?」

「んー、守ってくれそうなとこかな」

「今誰かに襲われたら、絶対助けてくれないじゃん」

「確かに、後で殴るしかない」

「やめてあげて⁉︎理不尽にも程があるよ!」

「それで?蓮は本当に生徒会長にならないの?」

「どうしてもなりたくないわけじゃないんだよね」

「んじゃ、なんで拒んでるの?」

「最初はめんどくさいってのが理由だったんだけど、最近は期待が怖い」

「期待?」

「雫先輩は僕を会長にしたいみたいだけど、もしなれなかったら失望されるんじゃないかとか、あとはみんなが卒業した後、ちゃんとやれるのかなって」

「私、蓮が会長になるなら副会長になってもいいよ?」

「いや、副会長は花梨さんになると思う」

「んじゃ秘書!それならずっと一緒にいれる」

「そんなこと言ってると、林太郎くんに怒られるよ?」

「友達なんだからいいじゃん。林太郎も蓮ならいいって言ってくれてるし」

「そっか......僕達三人で生徒会やったら楽しいかもね」

「そうだよ!前向きに考えなよ!私達、協力しまくるからさ!」

「まぁ、考えておく。それより今日は修学旅行!元カノを忘れるための旅行だ‼︎」

「おー!」

「2人ともうるさいぞ」 

「......瑠奈」

「ん?」

「林太郎くん殴っていい?」

「いいよ」

「殴るな殴るな!」

「あ、起きた」

「寝てて悪かったよ」


それから三人で楽しく話してるうちに東京に着き、駅の人の多さにビックリして、1日目は東京の有名スポットを二年生全員で巡った。


「東京の女子高生はレベルが違うね」

「そうだな、スカート短すぎだろ」

「林太郎くん、瑠奈が睨んでる」

「やべっ」


瑠奈は林太郎くんを睨みながらドスドス歩いてきた。


「おい林太郎」

「な、なんだ?」

「他の女のスカート見てニヤニヤして、最低」

「ニヤニヤはしてない」

「してた‼︎」

「蓮、してないよな?」

「してた」

「おらぁ!」

「ぐっ‼︎」


林太郎くんは大事なところを蹴り上げられ、道のど真ん中で東京の女子高生に笑われながらもがき苦しんだ。


「瑠奈、林太郎くんにはヤンヤンデレデレデレじゃないんだね」

「なんか多くない?」

「前はヤンが2でデレが3ぐらいの感じだったじゃん」

「人は変わる生き物なの!」

「そう簡単に人は変わらないって」

「そう言う人って結構いるけど、それって変える力が無くて、自分自身も変われないタイプの人間でしょ」

「な、なんだか胸が痛いよ......」

「違うからね⁉︎蓮のことじゃないよ?」

「そっか......」


それから夜まで長い移動を繰り返して有名スポットを巡り、ホテルに着いた時には完全に疲れ切っていた。

僕と林太郎くんは速攻シャワーを浴びて、ベッドに寝そべってリラックスタイムだ。


「瑠奈は1人部屋?」 

「他の班と一緒らしい。それよりプレゼントどうする?」

「明日は自由行動で原宿に行くし、原宿ならいいプレゼント売ってるでしょ」

「そうだな」

「自由行動2人じゃなくていいの?」

「構わないぞ?」

「てか、デートした?」 

「してない」

「えー、本当に付き合ってるの?僕に壮大なドッキリとかしかけてないよね」

「そんなことしてないぞ?でも、付き合う前とほぼ変わらん」

「僕がこんなこと言うのもあれなんだけど、瑠奈ってずっと追う恋愛だったから、自分からグイグイいくのに疲れてるんじゃないかな」

「蓮のせいか」

「ごめんって!」

「別に気にしてない。今日は寝ようぜ」

「うん」


翌日、朝から班ごとに自由行動になり、瑠奈は部屋から持ってきたクッキーを食べながら楽しそうに東京の街を眺めている。


「原宿行くかー」

「行こう!」


電車に乗って原宿に着くと、瑠奈は目を輝かせて林太郎くんの制服を引っ張った。


「クレープ屋さんがいっぱいあるー‼︎」

「食べるか?」

「食べる食べる!蓮も食べよ!」

「う、うん!」


ああやって制服を引っ張られるのも、前は僕だったんだよなと、少し切ない気持ちになりながらも、三人てクレープを買って食べ歩きしていると、瑠奈はすぐ近くのクレープ屋を指差した。


「あそこも食べよ!」

「今食べてるじゃん」

「味が違うかもしれないじゃん!」


瑠奈の気分を害したくない思いで、僕と林太郎くんも2個目のクレープを注文した。


「やっぱり味が違う!原宿神!」


さっきはチョコバナナ、今回は苺なんだから、味が違って当たり前だ。


その後、三人でタピオカを飲みながら原宿をぶらぶらしたが、瑠奈へのプレゼントを決められずにいた。


「もうストラップでいいから買おうよ」

「でも喜んでほしいしなー」

「2人ともなに話してるの?」

「ううん!なんでもないよ!」


もう僕だけでも買おう!


「ちょっとトイレ行ってくるね!」

「うん!早くね!」

「了解!」


適当にショッピングモールらしき場所に入り、雑貨屋を見つけて商品を物色していると、ピンクのリボンを付けたゴリラのストラップが売っていた。


花梨さんはゴリラを可愛いと言っていたし、きっと女の子はゴリラが好きなんだ!


そう思い、ゴリラのストラップを買って店を出た。


「お待たせ!」

「おそーい!」

「ごめんごめん、これ、誕生日プレゼント!」

「え⁉︎蓮から⁉︎」 

「うん!」

「初めてくれた!開けていい?」

「いいよ!」


瑠奈は袋を開けてゴリラのストラップを取り出すと、真顔でゴリラを見つめた。


「わーい、可愛い」

「棒読みなんだけど」 

「でも、すっごい嬉しい!携帯に付けちゃお!林太郎はプレゼントくれなかったのに蓮はくれた!」

「遠回しな圧力やめてあげて」

「お、俺もトイレ」

「もう、さっき一緒に行っておきなよ」

「悪い悪い」


しばらくして林太郎くんが戻ってくると、僕がストラップを買った店と同じ袋を瑠奈に渡した。


「誕生日プレゼントだ!」

「本当⁉︎開けるね!」

「おう!」


袋から出てきたのはゴリラの顔がデカデカとプリントされたTシャツだった。


「ゴリラで喜んでたから!」

「あっそ、ありがとう」

「全然喜んでないだと⁉︎」

「プレゼントくれたのは嬉しいけど、こんなのいつ着るの⁉︎」

「今日寝る時に着ろよ」 

「みんなに笑われるでしょ!」


ゴリラが好きなのは花梨さんだけ、花梨さんは特殊な女の子、覚えておこう。


蓮達が修学旅行を楽しんでいる時、学校では一つの問題が起きていた。


「雫!」

「どうしたの?」

「雫のお母さんが学校に来てるみたい」

「お母様が?」

「うん」

「多分ここに来るわ、梨央奈さんは猫を連れて生徒会室を出ていなさい」

「分かった」


それから数分後、ビシッとスーツを着て、サングラスをした黒髪ロングの女性が生徒会室の扉を開けた。


「雫、久しぶりね」

「お久しぶりです」

「会長として頑張っているようだけど、音海家のルールを破ってはダメよ」

「なんのことでしょう」

「ペット禁止。私がペット嫌いなのは知ってるわよね」

「えぇ、ですが家ではなく、あくまで学校で飼っているだけです」


雫の母親は雫に近づき、力強く雫の顎を掴んで顔を上げさせた。


「昔からその他人と話すような喋り方、本当に可愛くないわね」

「離してください」

 

母親は顎を掴んだまま話を続けた。


「猫はどこ?」

「知りません」


母親は雫を離して、手をパンパンと拍手するように叩くと、生徒会室にサングラスをした黒服が2人入ってきた。


「保健所に連れて行くわ。猫を探しなさい」

「はい!」


2人の黒服は手分けして走って行った。


「雫」 

「なんですか?」

「詩音が居なくなって寂しいの?」

「お母様には関係ありません」

「そうね、いじめられる人間も、いじめられて逃げ出す人間も音海家の恥。あんな子うちの子じゃないわ」


雫がギロッと母親を睨みつけると、母親は雫に顔を近づけた。


「その目はなに?」

「なんでもありません」


次の瞬間、母親は雫を本気でビンタし、生徒会室を出て行った。

それから数分後、梨央奈は2人の黒服に捕まってしまった。


「離して‼︎触らないで‼︎」

「猫を渡せ‼︎」

「梨央奈?なにしてんの?」

「美桜さん!助けて!」

「邪魔するな!」

「無理だわ、友達の頼みだし」

「邪魔するとこうだ!」


美桜は梨央奈を助けようとしたが、腹を殴られて気を失ってしまった。


「なんてことするの⁉︎」

「渡せ‼︎」


梨央奈は猫を奪われてしったが、その瞬間、男の頭めがけて消火器が飛んできて、男は痛さのあまり猫を離してしまった。


「千華!」

「私の友達をいじめるな‼︎」

「き......貴様‼︎」


猫は驚いて逃げていき、男達は千華にイライラしていたが、猫を捕まえることを優先した。


「千華、ありがとう」

「美桜は?なにがあったの?」

「詳しくは分からない。でも猫が目的みたい!とにかく美桜さんを保健室に運んで!私はレックスを探すから!」

「分かった!運んだら私も探す!」

「お願い!」


それを見ていた乃愛と結愛は生徒会室へ向かった。


「貴方達、パーカーなんて着てなにをする気?」

「久しぶりにムカついた」 

「本気出す」

「やめなさい」

「なにが起きてるか分からないけど、美桜がやられた」

「仇を打つ」

「抵抗しても無駄よ」 

「私達2人ならやれる」

「お母様は、私をいじめたいだけなのよ。昔からそうだった。猫も、もう諦めるしかないかもしれないわね......」

「行ってくる」

「......」


乃愛と結愛が廊下を歩いている時、下駄箱の前で花梨が倒れているのを見つけた。


「花梨⁉︎」

「なんなのあの女......殴ろうとしても一発も当たらなかった......」

「貴方達2人も生徒会の子?」

「そうだけど」

「いくら抵抗しても無駄よ?猫を渡しなさい」

「私達に勝ってから言え‼︎」


2人が雫の母親に向かって行くと、雫の母親はサングラスを外して胸元に刺し、その瞬間2人の足が止まった。


「どうしたの?」


目元が雫そっくりで、2人の中に、雫をボコボコにしたトラウマが過ってしまった。


「まぁいいわ。そんなに守りたいものがあるなら条件を出してあげる。その条件をクリアできたら猫だけは見逃すわ」

「......」

「生徒会は全員で何人?」

「7人」

「男子生徒は?」

「1人」

「1人ねー、その子気になるわね......決めたわ!その男子生徒が私を納得させることができたら猫は返してあげる」

「猫は渡さない」

「ニャー」


猫の鳴き声が聞こえて後ろを振り返ると、猫は黒服に捕まっていた。


「そもそも、その男子生徒は修学旅行中だから無理」

「名前と行き先は?」

「涼風蓮、東京」

「連れ戻しなさい」

「はい!」

「なに考えてるの⁉︎蓮が可哀想‼︎」


雫の母親は2人を無視して学校を出て行った。

その後すぐに2人の元へ校長がやってきた。


「怖かったろう」

「校長、なんで止めないんですか?」

「そうだよ!校長でしょ⁉︎しかも旦那!」

「あいつには頭が上がらないんだよ。音海家の財産の90%はあいつが稼いだものだ。でも、ただ君達をいじめたくてやっているわけじゃない。ペット禁止ってのも理由がある。どうか嫌わないでやってくれ」

「蓮は本当に連れ戻されるんですか?」

「そうだね、やると言ったらやる女だ。蓮くんには無料の旅行チケットをプレゼントするよ」

「お父様」

「雫、学校では校長と呼びなさい」 

「校長」

「どうした?」

「私は今怒っています。手段を選ぶ余裕がありません」

「落ち着きなさい。今は蓮くんを信じてみよう」

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