梨央奈は上の空
翌日学校に行くと、昇降口の段差の一部が滑らかな斜面になっていて、雫先輩が立っていた。
「おはようございます。これなんですか?」
「おはよう。車椅子でも、簡単に上り下りできるようによ」
「もしかして昨日の用事ってこれですか?」
「......」
「黙秘ってやつですか......」
「話は変わるけれど、カラオケって楽しいのかしら」
「......」
「あら?これが流行りの黙秘ってやつかしら」
なんで知ってるんだ⁉︎まさか瑠奈、僕を売ったのか⁉︎
「蓮ー!なんで置いてくの!」
瑠奈は今登校してきた。てことは雫先輩に言うなんてありえない!んじゃなんでだ!
「瑠奈さんもおはよう」
「あーあ、朝から会長様の顔見るとか最悪」
「蓮だ!」
「あ、乃愛先輩、結愛先輩、おはようございます」
二人はパーカーは着ていたが、フードを外して登校してきた。
「乃愛さん、車椅子でここ上がれるか試してみてくれるかしら」
「分かった」
「乃愛、無理しないでね」
「うん!」
乃愛先輩は自分の力で斜面を上がった。
「上がれた!でも、階段はどうしよう」
「昨日はどうやって二階に行ったの?」
「千華と同じクラスだから、千華がおんぶしてくれた」
「それじゃ、それを千華さんの仕事にするわね。今日はまだ来ていないみたいだから、変わりに私がおんぶするわ」
「ありがとう!」
なんとかカラオケに行ったことは水に流れたかもしれない。
「そうそう。蓮くんと瑠奈さんは全校生徒が登校するで、ここで朝の体操でもしていなさい」
「は⁉︎なんで⁉︎」
「昨日、貴方達がカラオケ店に入っていくのを見たって連絡があったの。罰が体操で良かったじゃない。健康になるわよ」
「雫!蓮は許してあげてよ!」
「乃愛さん?蓮くんは学校のルールを破ったのよ?」
「代わりに瑠奈が放課後にグラウンドも走るって」
「は?なに勝手に決めてんの?チビ」
「お前、私の怪我が治ったらぶっ飛ばす」
「それじゃ瑠奈さん、放課後も頑張りなさいね」
「バカ‼︎鬼‼︎」
雫先輩は振り返り、鋭い目つきで瑠奈を睨みつけるが、瑠奈も負けじと睨み返した。
「なに」
「本当、いい度胸ね」
「まぁね」
「る、瑠奈?それぐらいにしとこ?結愛先輩も止めてください」
「分かった」
結愛先輩は瑠奈の目の前に立ち、目を見開いた。
「潰すぞチビ」
「いや、煽ってどうするんですか。同じ身長ですし」
「あー?」
「いえ、結愛先輩の方が身長高いです」
「ありがとう!」
うっわ怖っ‼︎身長低いのに見下されてる気分になる‼︎
瑠奈も、結愛先輩に勝てないことを分かっているからか、急に大人しくなった。
「それじゃ行こ」
雫先輩と乃愛先輩と結愛先輩の三人は、校内に入って行った。
「ん、んじゃ僕も行くね」
「なんで⁉︎」
「だって、昇降口で体操してる人と一緒に居るの恥ずかしいし......あ、林太郎くん来たよ。一緒にしてもらいな」
「林太郎、おはよう」
「おはよう!なにしてんだ?」
「瑠奈が一緒に朝の体操したいって」
「言ってない!」
「健康でいいな!よし!1!2!1!2!」
林太郎くんに恥じらいの4文字は存在しないらしい。
「んじゃお先」
「ふん!」
その頃雫は、乃愛をおんぶしながら階段を上がっていた。
「重くない?」
「全然大丈夫よ」
「ならよかった!」
「ごめんなさいね」
「なにが?」
「もっと早く、二人の誤解を解くべきだったわ。私のイメージを守りたい。そうしなければいけない......それしか考えていなかったの。ごめんなさい」
「雫は私達を助けてくれた。それだけでいいの!ね?結愛!」
「もちろん!そういえば、反省文って届いたの?」
「届いてないわ」
「そりゃそうか。でも、もう手出してけないでしょ」
「だといいのだけれど、女に負けた屈辱でエスカレートする可能性もあると思うわ」
「そしたらまたぶっ飛ばす!」
「私も!」
「乃愛さんはまず、怪我を治しましょうね」
「治るかなー」
「大丈夫よ」
「そうだね!それより雫の髪っていい匂いするね」
「恥ずかしいから嗅がないで」
「恥ずかしいって感情あるんだ」
「黙秘」
雫は乃愛を教室に送り、生徒会室に向かった。
その頃瑠奈は不貞腐れた表情で体操し、林太郎は生き生きとした表情で体操をしていた。
「瑠奈、蓮とはどうだ?」
「一緒にカラオケ行った!」
「お!いいじゃん!あ、梨央奈先輩と千華先輩だ」
梨央奈と千華は一緒に登校してきて、体操している二人の前で立ち止まった。
「なにしてるの?」
「見たら分かるでしょ。体操だよ体操」
「へー。飴いる?」
「いる」
千華は瑠奈の口に棒付きキャンディーを入れた。
「......んー‼︎‼︎‼︎」
瑠奈は顔を真っ赤にしてどこかへ走って行ってしまった。
「千華先輩、なにしたんですか?」
「あの飴、ハバネロ味」
「うわ......」
「林太郎も舐める?」
「いいです」
「そっか!じゃあね!」
千華は校内に入って行ったが、梨央奈は俯いたままその場に残った。
「どうしました?」
「蓮くん......なにか言ってた?」
「いえ、特には」
「そっか......」
「まだ好きなんですか?」
「......」
「な、なんかごめんなさい......」
「大丈夫。バイバイ」
梨央奈はかなり落ち込んでるいる様子で校内に戻っていき、その直後、口元を濡らした瑠奈が戻って来た。
「あいつどこ行った‼︎」
「多分教室」
「許さん‼︎」
瑠奈は怒りながら千華の教室に走り、千華を見つけて飛びかかった。
「おらぁー!」
「なになに!」
「わざと辛い飴舐めさせたな!」
「ごめんって!甘いのあげるから!」
「早くよこせー!」
「はい」
千華が瑠奈に飴を咥えさせると、瑠奈は満足そうな顔をして自分の教室に戻って行った。
すると乃愛は、ニヤニヤしながら千華に話しかけた。
「あの飴ってあれでしよ?」
「そう!味が二層に分かれてて、最初はプリン味だけど、後から激辛になるやつ!」
それから一限目の途中、学校中に瑠奈の声が響き渡った。
「辛〜い‼︎‼︎‼︎」
「ビックリした!」
「瑠奈さん?どうしたの?」
「先生!この飴辛い!」
「授業中に飴ですか?」
「あ、えっと、千華先輩がくれたから」
「なら仕方ないわね」
なにが仕方ないのだろうか。七草先生は生徒会が怖いのかな。
「先生」
「はい、涼風くん」
「先生は生徒会が怖いんですか?」
「いえ、この学校は生徒会が決めたことが全てだから、生徒会の人がそれでいいと判断したら先生はなにも言わないの」
「んじゃ僕が今、お菓子を食べても怒らないんですか?」
「今は怒らないわよ?後で色々と雫さんに聞くけど」
「なるほど!やめときます!」
瑠奈は相当辛いのか、後ろでヒーヒー言っている。
放課後になると、瑠奈は珍しく一人で帰ると言って、グラウンドを走らずに、周りに雫先輩が居ないか確認しながら、なぜかニコニコして帰って行った。
「林太郎くん、瑠奈どうしたんだろ」
「彼氏でもできたんじゃない?」
「彼氏⁉︎瑠奈に⁉︎」
「なんで蓮が驚くんだよ」
「だって、瑠奈は僕のことが!」
「でも、蓮は瑠奈のこと好きとかじゃないんだろ?」
「ま、まぁ......」
確かに好きとかじゃないし、ただの幼馴染みだけど、なんかモヤモヤするな。
「とりあえず生徒会室行かなきゃ」
「じゃあな」
生徒会室には全員が揃っていた。遅刻したわけじゃないのに、毎回申し訳なくなる。
「来月の9月は、二年生の修学旅行と学園祭があって、忙しくなりそうよ」
学園祭か!中学の学園祭はクラスごとにダンスの見せ物をするぐらいでつまんなかったからなー、高校の学園祭は楽しみだ!
「そこで、生徒会で出し物をするなら何がいいか意見はない?」
生徒会で出し物かー......
僕は、千華先輩が飴を舐めているのを見て閃いた。
「飴を使って、いろんな味のわたあめとかどうですか?」
「さすが蓮!」
「私も蓮に賛成」
「乃愛がいいなら私も」
千華先輩と乃愛先輩と結愛先輩は賛成してくれた。
「睦美さんはどうかしら」
「いいと思うよ?普段食べれない味とかあったら面白そうだし!」
「梨央奈さんは?」
「......」
「梨央奈さん?」
「あっ!ごめん、なに?」
「会議中よ?ボーッとしないで」
「ごめんごめん......」
「学園祭の出し物の話よ」
「みんなに合わせるよ」
「そう。それじゃみんなで勝手に決めるわね」
梨央奈先輩が元気ないのって、絶対僕と別れたからだよな......
その頃瑠奈は、ショッピングモールで買い物しながら、林太郎と電話をしていた。
「欲しい物、さりげなく聞いてくれた?」
「あ、忘れてた」
「は⁉︎8月28日は蓮の誕生日って言ったよね⁉︎明日だよ⁉︎」
「アダルトグッズをプレゼントすれば、男なら喜ぶよ!」
「は?蓮が私以外で気持ち良くなるとか許せないんだけど」
「なかなかの変態発言だぞ」
「黙れガリガリ」
「切るわ......」
「ごめんって!蓮、生徒会室に居るでしょ?聞いてきて」
「俺、今下校中」
「あー、やっぱりガリガリだわ。じゃあね」
林太郎は涙を流しながら帰宅した。
数時間後、会議も終わり、僕が学校を出ようとした時、千華先輩に話しかけられた。
「蓮!」
「はい?」
「梨央奈と別れたんだって?」
「は、はい......」
「んじゃー......」
「蓮、学園祭一緒に周ろうね」
「乃愛⁉︎先に言わないでよ!」
乃愛先輩、どこから湧いた......
「千華も同じこと言おうとしたの?」
「悪い⁉︎」
「そこまで言ってないよ」
「そ、そうだ!デートチケット使う!夏祭りで使えなかったし!」
「んじゃ私も」
「えーっと......逃げろ‼︎」
「あっ!」
僕はどうしたらいいか分からなく、全力でその場から逃走した。
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