涙とモテ期?
「瑠奈〜。聞いてよ〜」
「どうしたの?」
夏休みが終わり、今日から学校......学校に向かう途中、僕は瑠奈に相談をした。
「あの夏祭り以来、梨央奈先輩が話してくれないんだよ」
「なんでだろうね。てか、本当最悪な夏祭りだったね。蓮は約束守らないし」
「花火見たじゃん!」
「全員とね」
「嬉しかったくせにー」
「うん!嬉しかった!」
「え、素直」
「来年はちゃんと見ようね!」
「う、うん」
その時、ゴロゴロとタイヤの音が聞こえてきた。
「どけどけ〜」
「うわっ‼︎あっぶな‼︎」
乃亜先輩と結愛先輩は、相変わらずフードを深くかぶり、結愛先輩が全力で車椅子を押していた。
「蓮〜、危ないよ〜」
「こっちのセリフです‼︎」
「んじゃお先〜。出発だ〜」
本当マイペースな人だ......
「んで、なんの話だっけ」
「そう!梨央奈先輩が冷たいんだ!」
「蓮がなんかしたんじゃない?私からしたら願ったり叶ったりだよ」
「相談する相手間違えたわ」
「チッ」
「なんで舌打ちするのさ!」
「夏休み中、ずっと我慢してたけど意味無かったし、もう我慢するのやーめよ」
「我慢ってなに?」
「蓮への気持ちを抑えることだよ。このまま梨央奈先輩と別れて、早く私だけの蓮になればいいの。そうだ、神様がね、蓮に相応しいのは私って言ってるんだよ。だから梨央奈先輩が冷たいんだよ」
「よし、早く学校に行こう」
「なんで無視するの?ねぇねぇ。私を見てよ」
そうだった。瑠奈はこういう人だった。
そして学校に着き体育館へ行くと、体育館の後ろにいた千華先輩に手招きされた。
「なんですか?」
「蓮も生徒会なんだから、全校集会とかある時は後ろに立ちな!」
「分かりました。あ、梨央奈先輩おはようございます」
「お......」
梨央奈先輩は僕を見て「おはよう」と言いかけたが辞めて視線を逸らしてしまった。
それを見た千華先輩は不思議そうな表情で僕を見つめた。
「どうしました?」
「別に?」
「涼風くん、梨央奈さんと何かあった?」
きっと、睦美先輩は空気を読めない子なんだ。
「僕が知りたいです。梨央奈先輩、僕何かしました?」
「この後、屋上で話そ」
「は、はい......」
嫌な胸騒ぎでソワソワしていると、雫先輩は体育館に入ってきてステージに上がった。
「今日から新学期です。気を引き締めて行きましょう。このまま解散としたいところですが、今日は皆さんに話したいことがあります。今の一年生は知らない人が多いかもしれませんが、去年の冬、私が大怪我をしたことです」
結愛先輩と乃愛先輩のことだ。
「あの日、結愛さんと乃愛さんは、私をボコボコにしなければ、自分達が酷い目に遭うような状況にいました。それに、私が自分から私に手を出すように名乗り出ました。二人は恐怖や躊躇いがありながら私に手を出した。泣きながらね。私が勝手に二人を助けるために選んだ行動です。二人が私を誘き出して手を出したというような事実はありません」
僕は思わず一歩前に出た。
「蓮?」
「みんな......みんな謝ってくださいよ‼︎二人の悪口を言った人全員‼︎二人は怖かったんです、辛かったんです......謝ってください‼︎」
その時、結愛先輩は震えた手で僕の手を握った。
「結愛先輩......」
すると結愛先輩は全校生徒の前でフードを外した。
その瞬間、一瞬だけど確かに、雫先輩は驚いた表情をした気がする。
「謝罪なんていらない!ただ言いたいのは、雫は私達を守ってくれたってこと!私はもう怖くない‼︎文句があるなら直接言えー!」
一年生は初めて見る結愛先輩の素顔に夢中になり、二.三年生は状況にざわつきが止まらない。
「とにかく、二人は悪くないわ。私が言うなら信じられるでしょ?この話は終わりにします」
その時、僕には感じた......最近見え隠れしていたような雫先輩の素顔に、また鬼の仮面つけた瞬間を。
「続いて、一年一組の一人の生徒が夜9時以降に出歩いていたと報告がきているわ。一年一組は教室に戻る前にグラウンド50周。その報告をしてきた三年一組の生徒は、なぜ出歩いていることに気付けたのかしらね。グラウンド20周してから教室に戻るように」
「私のクラスだ......」
睦美先輩、可哀想に......
「そして、蓮くんと結愛さん、勝手な発言をした罰よ。グラウンド10周」
「蓮のせいだ」
「僕のせいですか......」
「解散」
その後僕達は、制服のままグラウンドを走り始めたが、結愛先輩は呑気にグラウンドを歩いている......
その頃生徒会室では、梨央奈と雫が話をしていた。
「せっかく説明したのに、あんな一気に罰を与えたら勿体ないよ?雫がいい人だって思わせるチャンスだったのに」
「私のことより自分のことを考えなさい。蓮くんと何かあったのでしょ?」
「......蓮くんはさ、きっと私じゃなくてもいいんだよ。そろそろ走り終わる頃かな?私行くね」
僕は走り終わり、呑気に歩く結愛先輩に声をかけた。
「先に戻りますねー」
「抜け駆けだ」
「結愛先輩が歩いてるからですよ。怒られますよ?」
「雫は私達を怒らない」
「怒らせたら走らされてるんですよ」
「確かに」
「行きますね」
「バイバイ」
一回100周走らされてるから、これくらいなら余裕に感じるな。急いで屋上に行こう。
屋上に着くと、梨央奈先輩はどこか切なそうな表情でベンチに座っていた。
「お待たせしました」
梨央奈先輩の隣に座っても、梨央奈先輩は何も言わない。
「話ってなんですか?」
「......蓮くんさ、私のこと好き?」
「好きですよ?」
「あの花火、本当は誰に見せたかったの?」
「......全員です。全員で花火が見たかったです」
「蓮くんは優しいからさ、どんどんみんなを虜にしていく」
「梨央奈先輩と、千華先輩と瑠奈だけですよ」
「三人もいて、だけって贅沢な発言だね」
「ごめんなさい!そんなつもりじゃ」
「睦美さんもだよ」
「それはないですよ」
「待ち受けが蓮くんの後ろ姿だった。変に意識しちゃって、気付いたら好きになってたパターンじゃない?」
「えー......」
「結愛も、どんどん蓮くんに惹かれてる」
「え⁉︎」
「見てれば分かるよ。それでね、最近の蓮くんを見てると、蓮くんのことがよく分からなくなっちゃって」
「......」
「......一回別れようか」
「......梨央奈先輩らしくないですね」
僕は強いショックと、微かな怒りで校内に戻ってしまった。
梨央奈はこんな考えに至ってしまった自分が許せなくて、その場で泣き崩れた。
「蓮、どこ行ってたの?」
「屋上」
「梨央奈先輩?」
「うん」
「どうして私に一言くれないの?」
「別にいいじゃん。あと、梨央奈先輩と別れたから」
「......マジ?」
「うん」
瑠奈は蓮のテンションを見て、素直に喜べないでいた。
「ちょっとトイレ」
僕はトイレの個室に入り、その瞬間、堪えていた涙が溢れ出てしまった。
その頃教室では、林太郎が瑠奈に声をかけていた。
「チャンス到来じゃん」
「まぁ、そうだね」
「でも今じゃないぞ?タイミングを大事にな」
「いつならいいかな」
「蓮の心の傷が癒えるのを待つか、それとも瑠奈が癒してあげるか」
「私が癒す!」
「いつでも相談乗るから、頑張れ!」
「うん!」
一限目のチャイムが鳴り、僕は涙を拭いて教室に戻った。
「もうチャイムなってるわよ?」
「ごめんなさい」
「早く座りなさい」
「はい......」
そして昼休み。
「れ、蓮!なにか食べたいのある?買ってあげる!」
「......カレーパン」
「分かった!」
瑠奈は財布を握りしめて売店に向かった。
「カレーパンください!」
「はい!180円ね!」
「はーい!」
(......8円足りない......)
「私がカレーパン買うわ」
「はー⁉︎雫先輩最低!ラスト一個なのに!」
「そもそも、貴方は売店を使っていけないわよね」
「べ、別にいいじゃん!」
「あとメロンパンを一つ」
「はい!雫ちゃん、いつもありがとうね!」
「どういたしまして」
瑠奈が去っていく雫を睨んでいると、雫はカレーパンを落とした。
「ねぇ!落としてるっての!」
「そんな一度落ちたパンなんていらないわ。好きにして」
「は?意味わかんない」
「それじゃ返してちょうだい」
「......も、貰う貰う!」
瑠奈はカレーパンを持って教室に走った。
「蓮!カレーパン!」
「ありがとう」
「他に欲しいものは?で、できれば100円以内で......」
「ない」
「そっか!」
(蓮......こんなに落ち込むなんて......)
その頃雫は、メロンパンを持って屋上に向かっていた。
「あら、梨央奈さん」
「雫......」
「泣いていたの?目の下が赤いわよ」
「別に泣いてない......」
「そう。これ、買ったんだけれど気が変わって、よかったら食べてちょうだい」
「やっぱり優しいね......」
「気が変わったと言ったじゃない」
「雫、メロンパンあまり好きじゃないでしょ。私がメロンパン好きなのも知ってるし」
「......なにがあったの?」
「蓮くんと別れたよ」
「そう。それじゃ、今まで以上に働いてもらうわ。頑張りなさい」
雫はそれだけ言い残し、生徒会室に戻って行った。
放課後、僕が生徒会室に向かう途中、乃愛先輩がゆっくり車椅子を動かしているのを見つけて、僕は車椅子を押してあげた。
「誰〜?」
「僕です」
「蓮〜」
「結愛先輩はどうしたんですか?」
「朝、グラウンド歩いたのバレて走らされてる〜」
「そうですか。結愛先輩、フードかぶらなくなりましたね」
「......結愛は強いから〜。私は弱い〜」
「......」
僕は車椅子の前に立ち、乃愛先輩を見下ろした。
「押してよ〜」
「それ!」
「あっ!なに⁉︎」
乃愛先輩のフードを勢いよく外し、慌てる乃愛先輩に僕は言った。
「乃愛先輩が変わるには、今しかチャンスありませんよ」
「か、変わらなくていい!」
「そうやって普通に喋れるじゃないですか。もう誰も、乃愛先輩を傷つける人なんていませんよ?」
「そんなの分からない」
「友達として、僕が守ります!」
僕はポケットからガムを取り出した。
「口開けてください」
「ダメだよ」
「いいから開けてください」
乃愛先輩は小さく口を開け、僕は乃愛先輩の口にガムを放り込んだ。
「沢山の人に心ない言葉をぶつけられて、辛かったんですよね。どうせ狂ってるとか言われるなら、自分から狂ってるフリをして、開き直った方が楽だったんですよね」
乃愛先輩は眠そうだった目が開き、可愛らしい目つきになった。
「大丈夫ですよ。もう、偽りの自分でいなくても」
「でも......」
「今も、ガム食べてるのに普通じゃないですか。乃愛先輩は優しくて可愛らしい、普通の女子高生ですよ」
「普通......」
乃愛先輩は僕を見つめて大粒の涙を流した。
自分のことで精一杯のはずなのに、僕はなにしてるんだろう......
「私は......普通なんだー!」
「うっ!うわ!大丈夫ですか⁉︎」
乃愛先輩は急に立ち上がり、豪快に転んでしまった。
「背中痛くないですか?」
「足......」
「足?」
「足に力が入らない......」
「え?」
その後、乃愛先輩のお父さんが学校に迎えに来て、急遽、結愛先輩も付き添いで病院に向かった。
「蓮くん?なにがあったか説明してもらえるかしら」
「乃愛先輩が急に立ち上がって、そのまま転んだんです。足に力が入らないって」
「なにもないといいのだけれど」
「はい......」
それにしても同じ空間に梨央奈先輩がいるのキツいな......
1時間後、僕の携帯に結愛先輩から着信があった。
「もしもし」
「蓮、ありがとうね」
「なにがですか?」
「乃愛、凄い喜んでたよ」
「よかったです。乃愛先輩はどうなりました?」
「......骨が折れた時、強い衝撃だったみたいで、もう歩けないかもしれないって......」
「そんな......」
「で、でもね!リハビリを続ければ希望はあるって!」
「雫先輩には言いましたか?」
「まだ」
「今、生徒会室にみんないるので、スピーカーにしますね」
携帯をスピーカーにし、結愛先輩は乃愛先輩の状況を説明した。
歩けなくなるかもしれないと聞いたみんなは、絶句している。
「みんなー?静かすぎない?リハビリすれば大丈夫なんだからさ!気にしないで、いつも通り接してあげて!」
「乃愛さんと今話せるかしら」
「うん。乃愛?雫が話したいって」
「もしもし?雫?」
「学校には通えるの?」
「うん!行きたい!」
「......なんだか、元気ね」
「だって私ね!普通なんだって!蓮が普通の女子高生だって言ってくれた!」
「そう。リハビリ頑張りましょうね」
「微笑む鬼......」
「蓮くん、今なにか言ったかしら」
「いえ、なにも」
「微笑んでいないのだけれど」
「いや......はい、そうですね」
めっちゃ優しい顔してましたよ⁉︎
「雫!蓮をいじめないでね?蓮はいい人だから!」
「場合によるわ」
「あ、リハビリの説明するみたい」
「分かったわ」
「じゃあね!」
なんだ、乃愛先輩って明るい性格だったんだ。
電話を切り、雫先輩は自分の携帯をいじり始めた。
「今日は用事があるから、みんな帰っていいわよ」
そして教室に戻ると、瑠奈は僕の鞄を持って、ニコニコしながら待っていた。
「帰ろ!鞄持ってあげるね!」
「あ、ありがとう」
二人で下校している時、瑠奈は途絶えることなく、面白い話をしてくる。素直に言えば面白くないけど。
「それでね!私のお母さんが凄くてさ!」
「瑠奈」
「ん?なに?」
「僕に気使わなくていいよ」
「......バカ‼︎」
瑠奈は僕を置いて走って行ってしまった。
「あ!瑠奈!僕の鞄!」
すると、瑠奈は走って戻ってきた。
「鞄がなに」
「いや、僕の鞄」
「あー、はい」
「ありがとうね。瑠奈なりに僕を元気付けようとしてくれてたんだよね」
「......うん。気を使うとか、そういうのじゃない」
「はぁー......」
「蓮?」
「もう梨央奈先輩とは別れちゃったし、前向きにいかなきゃね!」
「そ、そうだよ!私がいる!」
「瑠奈が?」
「そう!私が!」
「へぇー」
「なにその反応‼︎」
「とりあえずカラオケ行こう!」
「え!やったー!行こう行こう!」
(あ、お金ないんだった......でも、蓮と二人でカラオケなんて行ったことないし......行きたいな......)
「あ、今日は奢るから、生徒会のみんなには内緒にしてね?」
「本当⁉︎内緒にする!」
「ありがとう!帰りにカラオケとか、バレたら絶対ヤバイから」
「分かった!」
瑠奈と初めて二人でカラオケに行き、僕は嫌なことを忘れるために全力で歌いまくった。
瑠奈もずっと笑顔で楽しそうだ。
「はぁー!歌い疲れた!」
「ねぇ、また一緒に来よ!」
「いいよ!林太郎くんも誘おうよ!」
「え、やだ」
「なんで⁉︎」
「二人でがいい!」
「考えとくね」
「いじわる!」
こうやって見ると、瑠奈って可愛いんだけどな......でも、しばらく彼女とかはいいや。
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