エスカレートする想い


今日は僕の誕生日!だが、特に予定もなく、誰にも祝われずに放課後になっていた。

去年までは瑠奈も祝ってくれたのに、高校生にもなれば忘れられてしまうのか。


あーあ、生徒会室行くかー。


「瑠奈、行ってくるね」

「うん!待ってる!」


そして生徒会室に入ると、雫先輩に衝撃的なことを言われた。


「9月8日から11日まで、私達二年生は修学旅行だから、その間、学校の全てを蓮くんに任せるわね」

「......無理」

「敬語を使いなさい」 

「無理ですよ!僕一人じゃなにもできませんよ!」

「生徒会の一員なのだから、そろそろナメられない存在になることね」

「やっぱり僕ってナメられてますよね」

「そうね」


ハッキリ言われると悔しいな。


「とにかく頼むわね。もしも変な問題を起こしたら......分かるわよね?」

「分かりませんし、分かりたくありません」

「それじゃ教えてあげる」

「ドSですか。嫌いじゃないです」

「......気持ち悪いわね」

「本当にドン引きしないでくださいよ!冗談ですよ!あ、待ってください。睦美先輩は三年生じゃないですか」

「涼風くんの実力を試したいからなにもしないように言われた」

「断言します‼︎僕に実力はありません‼︎ちょっと頭がいいだけです‼︎」

「睦美さん。これがナルシストってやつかしら」

「そうだね。間違いないね」

「蓮はナルシストでもいいの!」

「そうだそうだー!」

「千華先輩.....乃愛先輩......顔引きつってますよ......」


すると結愛先輩は僕の前に立ち、僕を見上げた。


「私は本当にナルシストでもいいと思う。だって蓮はカッコいいし」

「あ、ありがとうございます」


そんな可愛い顔で真っ直ぐ見つめられて言われたらヤバーイ‼︎


蓮の気持ちが高まっている時、同じく睦美も高まっていた。

(修学旅行中は涼風くんと二人⁉︎生徒会室でずっと二人っきり⁉︎どうしよどうしよどうしよ‼︎)


それから今日も学園祭の計画を話し合ったが、相変わらず梨央奈先輩とは一言も話していない。


「それじゃ今日は解散よ」


やっと終わったー。最近は雑用とかより話し合いが多い。雑用で体動かす方が向いてるかもなー。


そんなことを考えながら扉を開けると、そこには瑠奈が立っていた。


「なにしてるの?」

「誕生日おめでとう!」

「え⁉︎覚えてたんだ!」

「当たり前でしょ?」


蓮の誕生日を知らなかった千華と睦美と結愛と乃愛は、口をぽかーんと開けて固まってしまった。

そんな中、梨央奈は思った。

(私、蓮くんの誕生日も知らなかったんだ)


「それで誕生日プレゼントなんだけど、色々考えてっ」


その時、梨央奈先輩が瑠奈をビンタし、驚いた瑠奈はプレゼントを落としてしまい、パリンッと嫌な音が鳴った。


「り、梨央奈先輩⁉︎」

「いった......なに?」


二人は睨み合い、生徒会のみんなは、ただそれを見ていた。


「アンタが居るから私に迷いができたの。1番の原因はアンタなんだからね」

「迷いってなに」

「蓮くんの気持ちが分からなくなったこと」

「そんなの知らない。アンタが蓮を知ろうとしなかった証拠でしょ」


どうしたらいいか分からず、雫先輩の方を振り返ると、雫先輩は他人事のように書類に目を通していた。まぁ、他人事なんだけども。


「知ろうとした!蓮くんが好きなのは私だけなんだって思う日もあったし、でも分からなくなっちゃったの‼︎」


瑠奈は落としたプレゼントを拾い、俯いてしまった。


「ごめん。プレゼントあげれなくなった」

「だ、大丈夫だよ?貰うよ」

「ダメ」


瑠奈は俯いたまま走って行ってしまった。


「梨央奈先輩......瑠奈に謝りましょうね」

「蓮くんは、私と別れてからも毎日楽しそうだね」

「......なにも知らないくせに」


僕は生徒会室を後にした。


「修羅場?」

「乃愛さん。静かに」


梨央奈もその場に居づらくなり、生徒会室を後にした。


「梨央奈さんは、これからもっと壊れていくわよ。睦美さん、監視をお願い」

「いいけど、壊れるって?」

「蓮くんへの気持ちが間違った方向に暴走する可能性があるわ。それに、瑠奈さんもあのまま、あー、やられちゃったで引き下がる生徒じゃない。あの二人が本気でぶつかったら、なにが起きるか分からないわ」

「確かに......私一回、梨央奈さんにボコボコにされてるし......」

「殴り合いならまだいいのよ。ただ、梨央奈さんが本気を出したら大変よ。戦略的思考に長けているから」

「蓮もそれなりに怒りはあるみたいだしね」

「千華さんの言う通りよ。全員、気を引き締めましょう」

「はーい」


そして、雫と梨央奈以外の生徒会メンバーは蓮の教室に向かった。


その頃蓮は、教室で涙を流す瑠奈を励ましていた。


「大丈夫だよ。なにが割れたか分からないけど貰うよ」

「あげれないよ......」

「あ、蓮が瑠奈を泣かせてる」

「結愛先輩⁉︎って、みんなどうしたんです?」


すると千華先輩と睦美先輩は笑顔で言った。


「誕生日おめでとう!」

「あ、ありがとうございます!」

「誕生日知らなかったからさ、プレゼントは無いけど」

「わ、私も涼風くんの誕生日知ってたらプレゼント用意したのに」

「いいんですよ!気持ちが嬉しいですから!」


結愛先輩は恥ずかしいのか、ツンっとした表情で言った。


「おめでとう」

「あ、ありがとうございます」


その時、千華は涙を拭く瑠奈を見て、ニコッと笑顔を見せた。


そして乃愛先輩は車椅子に座りながら僕の制服を軽く引っ張った。


「なんですか?」

「足のマッサージして」

「い、痛いんですか⁉︎」

「リハビリの一つ」

「分かりました!」


乃愛先輩の前にしゃがんだのはいいが、触っていいのか急に不安が過ぎった。


「い、いいんですか?」

「うん。ふくらはぎやって」

「はい」


うわ〜!パンツ見えそう!見たい!きっとパンツも水色だ!それよりなんだこのふくらはぎ‼︎女の子って柔らけ〜‼︎


「次は太もも」

「は、はい」


太ももだと⁉︎いいのか⁉︎いいんだよね⁉︎


恐る恐る太ももに触ると、乃愛先輩は僕の右腕を掴み、太ももで右手を挟んできた。


「なにー⁉︎」

「誕生日プレゼント!女子高生の太ももに挟まれて捕まらないの今だけだよ?」

「ご馳走様です‼︎」

「蓮。今すぐそのチビから離れて」

「なんか言ったかチビ」

「瑠奈⁉︎さっきまで泣いてなかった⁉︎なにその目!怖い!」

「なにしてるの?まさか手マ」

「それ以外言わないで。そこまでしてない」


乃愛先輩の太ももから手を離すと、瑠奈は不安そうな表情でプレゼントを渡してきた。


「蓮はさっき、気持ちが嬉しい、私からならなんでも嬉しいって言ってたから......」


後半言ってない。


「割れちゃってると思うけど......た、誕生日おめでとう」

「ありがとう!開けていい?」

「うん」


可愛い包紙を外して箱を開けると、中には宇宙柄の綺麗なマグカップが入っていた。


「すげー‼︎綺麗ですよ!みんなも見てください!」

「で、でも、取っ手のとこ割れちゃってる......」

「確かに、これでなにか飲むのは危ないかも」

「だよね......」


僕は教室にあった接着剤を使い、取っ手の部分を綺麗に付け直した。


「それでも、なにか飲んでる時に取れたら危ないよ」

「違うよ!こうする!」


マグカップを自分の机に置き、筆箱の中身を全部マグカップに移した。


「ほら!僕だけのペン立て!」

「すごーい!蓮って天才⁉︎」

「瑠奈が望んだ使い方じゃないかもしれないけど、これなら学校の日、僕がプレゼントを使ってるのが見れるでしょ?」

「うん!最高だよ!」


なんとか瑠奈は機嫌を直し、全員で下駄箱に向かった。


「乃愛先輩って、修学旅行とか車椅子で行くんですか?」

「千華と同じ班にしてもらうから大丈夫」

「なるほどです」

「んじゃ帰るね!バイバーイ」


僕と瑠奈を残して全員帰って行き、僕が自分の下駄箱を開けると、雪崩のように大量の紙が落ちてきた。


「なにこれ⁉︎」


瑠奈は紙を拾うと、眉間にシワを寄せた。


「おめでとうって書いてあるけど、誰?」

「知らないよ!」


全ての紙におめでとうと書いてあり、少し恐怖を感じた。


「ストーカー?」

「だったらどうしよ!」

「蓮は心配しないで。私がなんとかする」

「ありがとう」

「うん!」

(梨央奈先輩、なにをしたって蓮には近づけさせない)


そう言って毎回どこかで気絶している瑠奈には期待しないでおこう。


それから毎日、大好きと書かれた大量の紙が下駄箱に入っていて、9月2日の昼休み、雫先輩は廊下を歩く僕の目の前で立ち止まった。


「ストーカーは無視するとエスカレートするわよ」

「え」

「修学旅行は8日から。それまでに絶対新しい展開があるわ。身の回りを注意しながら観察しなさい」

「なにか知ってるんですか?」

「えぇ。でも、今ぐらいのことなら私が何かするまでもないわ」

「いや、詳しく教えてくださいよ」

「却下よ。私は平等に貴方達を見ているから」


雫先輩が平等なんて嘘だ。なんどだって言ってやる!嘘だ!言えないけど。


「それじゃまた放課後」

「はい」


僕も少しは心当たりがある。ていうか、梨央奈先輩以外......考えられないだろー‼︎‼︎

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