感情の暴走
今日は千華先輩と瑠奈を振り切り、食堂でカツカレーを食べることにした。
食堂は人が少ないし、食べ物は美味しいしで最高だ。
「れ、蓮くん」
ただそれは、梨央奈先輩に話しかけられさえしなければの話だ。
「ふ、二人で話すの久しぶりですね」
「うん。なんかね、蓮くんにストーカーしてる人がいるみたいなの」
雫先輩が言った通り、梨央奈先輩は新しい展開に踏み切ったみたいだ。
ここは一旦話を合わせることにしよう。なんか怖いし。
「はい。なんか、毎日下駄箱に手紙みたいなのが大量に入ってるんですよ」
「それね、誰だか分かったから、止めるように言っておいたの」
「ありがとうございます」
「それで、蓮くんに直接謝りたいって言ってて」
ん?ストーカーって、本当に梨央奈先輩じゃないのかな。
「誰だったんですか?」
「私と同じクラスの子」
「それで僕はどうしたらいいんですか?」
「今日、先生達の会議があるから部活が全部無しになるの。放課後、バレー部の部室に来てくれない?」
「んー、瑠奈連れて行っていいですか?」
「どうして?」
「なんか気まずいので......」
すると、梨央奈先輩はノートの切れ端をさりげなく渡してきて、僕がメモを読んでる間、梨央奈先輩は普通に話を続けた。
「そうだよね。放課後、私も蓮くんに謝りたいし......来てくれるならいいよ」
「分かりました」
メモには(悪いことした自覚があるみたいだから、他の人に知られたり、盗み聞きされたら可哀想だよ。一人で誰にもバレずにサッカー部の部室に来てくれないかな。その子のためにも)と書かれていた。
「ありがとうね」
(何パターンものメモは予め用意してある。蓮くんが誰かを連れて来ることなんて分かりきってた。近くで睦美さんが話を聞いていることも)
その頃、蓮を探しに来た瑠奈は、蓮と梨央奈が話しているのを見つけ、盗み聞きしていた。
そんな瑠奈に睦美は声をかけた。
「ねぇねぇ、今の話聞いた?」
「うん」
「どう思う?」
「怪しいに決まってるでしょ。でも、私も行けるみたいだから大丈夫」
「本当かなー」
「私をナメすぎ」
「いつも気絶してるって聞いたけど」
「誰に聞いた⁉︎」
「あ、梨央奈さんが食堂出るよ。たまたま今来た風に入るよ」
「う、うん」
二人は梨央奈と自然にすれ違い、蓮に声をかけた。
「あ!涼風くん来てたんだ!」
「珍しい組み合わせですね」
「たまたまそこで会ったの」
「蓮って、本当カレー好きだね」
「カレーとラーメンは飽きない!」
そして放課後、サッカー部の部室に行く前に生徒会室に寄った。
「今日は全校生徒を速やかに帰宅させるのが仕事よ。梨央奈さん、校内放送で全生徒に呼びかけてちょうだい」
「分かった」
「放送を流したら帰っていいわよ」
「了解」
梨央奈先輩が生徒会室を出て行くと、雫先輩は僕を見つめた。
「な、なんですか?」
「どんな時も冷静に、答えを間違えないことね」
「なんのことですか?」
「これから分かるわよ」
数分後、校内放送が流れ、生徒達は足早に帰って行った。
「さて、私達も帰りましょう」
生徒会のみんなも生徒会室を出て行き、僕は教室で待つ瑠奈を置いてグラウンドの隅にある、サッカー部の部室に入った。
すると、梨央奈先輩は部室内にある青いベンチに座っていた。
「お待たせしました。例の生徒はまだですか?」
「今呼んでくるね」
「分かりました」
梨央奈先輩は扉の前に立ち、部室の内鍵を閉めた。
「.......え」
「蓮くんは優しいから、あのメモを信じて、一人で来てくれると思ったよ。さすがに目の前で書いたメモじゃないからバレるかなって思ったけど」
梨央奈先輩はそう言いながら、鍵を胸元に入れた。
「騙したんですか?」
「だって、こうでもしないと、蓮くんは今の私と二人で会ってくれないじゃん。人は緊張と動揺の中じゃ、細かいことに気づけないもんだね」
「なにする気ですか......」
「別に、今日は蓮くんと喧嘩したいわけじゃないの......とりあえず、ジュースでも飲みながら話そ?」
梨央奈先輩はカバンからパックのオレンジジュースを取り出し、僕に一つくれた。
「あ、ありがとうございます」
「座って」
「はい」
梨央奈先輩とベンチに座って話をした。
「今、好きな人とかいるの?」
「いや、しばらく彼女とかいらないかなって」
「私は......まだ蓮くんが好きだよ?」
「そんなの、今更言われても困りますよ......」
「......どうして......どうして私だけ見ててくれなかったの‼︎」
「ちょっ‼︎」
梨央奈先輩はいきなり僕を押し倒し、オレンジジュースを強く握ってしまったせいで、僕と梨央奈先輩のワイシャツにオレンジの液体が染みてしまった。
「どうしてなの?私が他の男を見たことがあった?他の男に優しくしたことがあった?ずっと蓮くんだけ見てたじゃん‼︎なのに......なんで......」
「僕は梨央奈先輩が好きでしたよ。誰に好かれても、梨央奈先輩以外は興味なかったです」
「それじゃ、やり直そ?」
「......ごめんなさい」
「そっか......ごめんね?」
「だ、大丈夫ですよ?」
「蓮くんとずっと一緒に居るには、こうするしかないみたい」
「え?ぐっ.......」
梨央奈先輩は本気で僕の首を絞めて、開いた僕の口に唾液を垂らしてきた。
「美味しい?美味しいよね?蓮くんの大好きな人の唾液だもんね?そうだもんね?」
苦しい......たまに一瞬手の力を抜いて息を吸わせてくれるから殺す気じゃなさそうだけど......
「蓮くんは素直になれないんでしょ?恥ずかしいから断るんだよね?蓮くんのことならなんでも分かるよ?安心して?ちゃんと私が素直にさせてあげるから」
その頃、睦美と瑠奈と雫は、体育館にあるバレー部の部室前に来ていた。
「居る気配がないのだけれど、本当にバレー部の部室って言っていたのよね」
「言ってたよ。ね?瑠奈ちゃん」
「絶対言ってた」
「しょうがないわね。聞こえないなら開けて確かめましょう」
雫はバレー部の部室を開けたが、そこには誰もいなかった。
「やられたわね」
「ど、どういうこと⁉︎」
「瑠奈さん、落ち着いて」
「蓮は⁉︎無事だよね?」
「とにかく、睦美さんは校内の部室を全て調べて、瑠奈さんは外の部室」
「雫先輩は?」
「私は帰ろうかと」
「は⁉︎蓮が心配じゃないの⁉︎」
「恋愛の拗れでしょ?何故私が心配しなきゃいけないのよ」
「会長って可愛いとこあるよね」
「睦美さん?なにが言いたいの?」
「心配してなかったら、私に監視させたりしないでしょ」
「私は問題を取り締まって、罰を与えたいだけよ」
そう言って雫は、体育館を出て行った。
「雫先輩って性格悪すぎじゃない?」
「うーん。まぁ、確かに」
「それより早く探さなきゃ‼︎」
「そ、そうだね!」
「校内は頼んだよ!」
「了解!」
その頃蓮は抵抗できないまま、まだ梨央奈に首を絞められていた。
「私はね、蓮くんに尽くしてる時が一番幸せなの。いつも蓮くんで頭がいっぱいなの。分かってよ、私の気持ち。蓮くんが居ない世界なんか滅びればいいし、ずっと蓮くんの体温を感じていたいの」
「蓮ー!居るなら返事してー!」
外から瑠奈の声が聞こえた瞬間、梨央奈先輩は僕にキスをし、声を出せなくした。
「蓮ー!」
......梨央奈先輩、泣いてる......
「蓮ってばー‼︎」
瑠奈の声が部室の前から聞こえて数秒後、僕の携帯が鳴った。
それに焦って、梨央奈先輩が僕の携帯を取ろうとした時、ガタガタとドアを開けようとする音が聞こえ、止まったと思った瞬間、部室の窓ガラスが割れ、瑠奈の恐ろしい目と僕の目が合った。
「見つけた」
「る、瑠奈!雫先輩呼んで!」
「梨央奈先輩。ここ、開けてくれるかな」
「なにしに来たの」
「梨央奈先輩と蓮を近づけさせないためだよ」
「そっか」
梨央奈先輩は瑠奈を無視し、瑠奈に見せつけるようにキスをしながら舌を絡めてきた。
「は......離れろ‼︎」
「瑠奈ちゃんはそこで見てなよ。私と蓮くんが本気で愛し合ってるってとこ」
すると瑠奈は、野球部の部室横にあったバットで、ガラスを割りまくり、部室内に乗り込んできた。
そして瑠奈が梨央奈先輩の背中目掛けてバットを振りかぶった時、雫先輩の声がした。
「やめなさい」
瑠奈は動きがピタッと止まった。
「梨央奈さん、開けなさい」
「は......はい......」
梨央奈先輩が鍵を開けると、瑠奈からバットを没収した。
「乃愛さんが何をされて今みたいになったか見たでしょ?やめなさい」
「......ごめん」
「さて、最近の梨央奈さんは暗くて生徒会の空気を悪くしているわ。それは主に、蓮くん、瑠奈さん、梨央奈さんの三人の関係性の問題よね?」
「うん......」
「今日は三人で、蓮くんの家に泊まりなさい」
「雫先輩、頭おかしくなりましたか?」
「今の発言で、蓮くんのグラウンド100週が決定したわ」
「そんな......」
「明日の朝走りなさい。とにかく、今日は三人でお泊まり。三人でちゃんと話をして、お互いの気持ちをちゃんと知りなさい。さぁ、ガラスが割れた音で先生が駆けつける頃よ。早く行きなさい」
「は、はい」
そして、僕の部屋で瑠奈と梨央奈先輩が睨み合ってる状況が生まれた。
雫先輩は、二人に僕の家を壊させる気なんだ。僕が何したっていうんだ‼︎
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