金持ち坊ちゃん
クリスマスイブの日の放課後、いつものようにみんなでパソコンを使って様々な公式サイトを漁っていると、生徒会室の扉がノックされた。
「はい」
「失礼します」
「雫先輩⁉︎」
「25日、またクリスマスパーティーがあるから、よかっかたらみんなで来てちょうだい」
「行く行く!またステーキ食べる!」
瑠奈は遠慮を知らないらしい。まぁ、僕も行って食べるけど。
「行かせてもらいます!」
「よかったわ。それで、なぜ美桜さんがいるの?」
「え⁉︎ひ、暇つぶしてきな?」
「そう、あまり仕事の邪魔をしないようにしなさいね」
「分かってるよ」
いきなりの雫先輩登場に冷や冷やしたが、なんとかバレずに済んだ。
「作業続けよう」
「うん」
「今年は雪祭り行かないの?」
「多分、乃愛先輩達は明日行くから、僕達達も明日でいいんじゃない?」
「パーティーは?」
「パーティーは夜からだから、雪祭りは昼間行こう」
「分かった!」
そして今日も、なんの情報も得れずに終わり、クリスマスの日がやってきた。
学校も終わり生徒会メンバー全員と、美桜先輩を連れて雪祭りに来ると、思った通り、元生徒会メンバーのみんなも来ていた。
「蓮も来たんだ!」
「はい!乃愛先輩、結愛先輩、誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう!」
「ありがとう」
「千華先輩はそれ、なに舐めてるんですか?」
「雪の結晶型の飴!美味しいよ!」
「本当に飴好きですね」
雫先輩と梨央奈先輩は、ホットココアの缶を持ちながら氷のオブジェを眺めていた。
「二人にも挨拶してきますね」
「うん!」
雫先輩と梨央奈先輩の元へ行き、声をかけた。
「寒いですね」
「あ、蓮くん!」
「寒いわね、生徒会で見回り?」
「いや、普通に遊びに来ました」
「いいわね。パーティーは7時スタートだから、それまでには来なさいね」
「はい!」
それから瑠奈と林太郎くんは二人で食べ物を買いに行き、僕は美桜先輩と花梨さんと一緒に、案内所に向かった。
「案内所に向かってどうするの?」
「雪祭りのパンフレットとかないか聞いてみます」
「蓮先輩」
「ん?」
「私、豚汁食べたい」
「あー、うん!行ってきていいよ!」
「ありがとう」
結局美桜先輩と二人で案内所にやってきた。
「すみません、雪祭りのパンフレットとかってありますか?」
「ありますよ!どうぞ!」
「ありがとうございます!」
僕達はパンフレットを貰い、雪でできたベンチに座ってパンフレットを眺めた。
「パンフレットの何を見ればいいのかな」
「全部見るしかないです」
「てかさ」
「なんですか?」
「このベンチ冷たくない?」
「冷たいです」
「豚汁、食べたくない?」
「食べたいです。いや、なんの話ですか」
その時、花梨さんが豚汁を二つ持って戻ってきた。
「はい、蓮先輩の分」
「いいの⁉︎」
「うん、まぁ、特別」
「私のは?」
「は?自分で買えよ」
「扱い酷くない?」
「そもそもお前がクソみたいなことしなければ、パンフレットだとか公式サイトだとか見る必要無かったんだよ」
「だから反省してるって!」
「まぁまぁ二人とも、美桜先輩も落ち着いてください、僕の豚汁あげますから」
「なんで?」
「え?」
「どうしてあげるの?私が買ったものは食べたくないの?」
「そうじゃないよ?」
「私の気持ちっ......」
「なに?」
「なんでもない、あげたきゃあげれば?」
「みんなー!」
瑠奈と林太郎くんは全員分の豚汁を買ってニコニコしながら戻ってきた。
「あれ?蓮と花梨、豚汁持ってる」
「みんなの分買ってくれたの?」
「うん、寒いかなって」
「ありがとう!でも、僕は花梨さんがくれたやつを食べるよ。余った二つは、乃愛先輩と結愛先輩にプレゼントしてきて!」
「分かった!」
「美桜先輩、蓮先輩」
「ん?」
「ごめん」
「私もごめん」
「僕もごめんね、せっかく買ってくれたのに」
「ん?お前ら、なんかあったのか?」
「大丈夫!解決したから!」
「そうか」
それからパンフレットを見ても何も分からず、ただ雪祭りを満喫していると、雫先輩から電話がかかってきた。
「まだ雪祭りにいるかしら」
「いますよ」
「車を用意したから、時間を見て駐車場に来なさい」
「ありがとうございます!」
「私達は先に行ってるわね」
「はい!」
それから15分ほど遊び、みんなで駐車場に向かうと相変わらず怖い黒服の人に声をかけられた。
「こちらへどうぞ」
「は、はい」
そのまま雫先輩の家に行き、客室に案内されると、雫先輩以外のみんなはお菓子を食べながら話をしていた。
「あ、みんな遅いよ!」
「遅刻はしてないですよ。雫先輩はパーティーの準備ですか?」
「うん!」
雫先輩のドレス姿を見るのは楽しみだけど、またあの金持ちの息子に会わなきゃと思うと......なんだかな。
その頃雫は、メイク室でドレスを選んでいた。
「毎年黒いドレスも素敵ですけど、今年はこの白いドレスなんてどうでしょう。きっと似合いますよ」
「......白は似合わないと思うわ」
「そんなことありません!雫さんには白が似合うと、毎年思っていましたから」
「......」
「白が似合わない女性は居ませんよ。ウェディングドレスが似合わない人を見たことありますか?」
「ないかもしれないわね」
「白にしましょうよ!」
「そんなに言うなら......お願いします」
「はい!」
それからしばらくして、蓮達はパーティー会場に案内され、去年のように有名人と写真を撮ったりしながらパーティーが始まるのを待った。
「やっぱりこの雰囲気慣れないね」
「お、俺は初めてだからどうしたらいいか」
「始まっちゃえば普通だよ!食べたいもの食べてればあっという間に終わるから。まぁ、僕は最後まで居なかったけど」
「なんかあったのか?」
「ちょっとした事故でね」
その時、会場の電気が消え、ステージがライトアップされ、メイクをして真っ白なドレスを着た雫先輩が現れた。
「綺麗......」
「後で直接言ってあげなね」
「梨央奈先輩が代わりに言ってください」
「なんで私が」
「て、てか、雫先輩ってあんな美人でしたっけ、高校生とは思えないんですけど」
「それもちゃんと伝えること!」
雫先輩は去年同様、ピアノを披露して会場を盛り上げた後、僕達の元へやってきた。
「お待たせ」
「相変わらずピアノ上手ですね!いてて」
梨央奈先輩は僕の脇をグイッと掴み、小さな声で言った。
「そうじゃないでしょ」
「どうかした?」
「あ、あと、凄く綺麗です!」
「あ、ありがとう」
雫先輩は目を泳がせ、ジュースを一口飲んで乃愛先輩達と話し始めた。
「梨央奈先輩」
「ん?」
「言ったのに微妙な反応でしたよ」
「そんなことないよ」
「そういえば、あの金持ちの息子には気をつけましょうね」
「やぁやぁ君達」
「噂をすれば」
「なんだい?僕の噂をしていたのかい?人気者は大変だねー。それより君、雫さんに綺麗と言っていたね」
「う、うん、そうだね」
「綺麗なのは当たり前じゃないか、僕のお嫁さんになる人だ。綺麗とかそんな言葉しか言えない君はまだまだ子供だね」
「相変わらずめんどくさい人」
「梨央奈先輩、煽っちゃダメですよ」
「相変わらず下品な人らだ、煽ることでしか対抗できないなんて可哀想だね」
初手から煽ってきてるくせに、本当この人には敬語を使う気になれない。
「僕達は僕達で楽しんでるからさ、君はどっか行きなよ」
「誰に向かって言っている。それに僕は君じゃない、ちゃんと名前がある」
「名前は?」
「名前を教えていただいてもいいでしょうか。さぁ言うんだ」
それを聞いていた花梨さんは、目を見開いて男の目の前に立った。
「さっさと教えろよ」
「な、なんだ君は」
「早く教えた方がいいよー、花梨さんは怖いよー」
「ふっ、僕に怖いものなどない。僕は雫さんと話してくる」
男が歩き始めた時、美桜先輩はさり気なく足をかけ、男は勢いよくテーブルに倒れてた。
「だ、誰だ!今足をかけたのは!自慢の白いスーツが台無しじゃないか!」
「汚れたスーツの方がお似合いですよ?坊ちゃん」
美桜先輩さすが‼︎スッキリした‼︎
すると美桜先輩は、雫先輩の家で見たことない黒服に腕を掴まれた。
「痛い‼︎」
「そ、そいつを連れて行け!」
「待ちたまえ」
あ、校長先生だ。
「うちの生徒がすまなかったね、今日はパーティーだ。みんなが怖がる、やめてもらえるかな?」
「失礼した。坊ちゃん、替のスーツがございます、一度お車へ」
男は立ち上がり、美桜先輩を睨みながら会場を出て行った。
「君達も行儀良く楽しみなさい」
「すみませんでした......」
「謝れたからパーフェクト!それじゃ私は挨拶が残っているから行くよ!」
心の広い人だな......
「ふっ、ふふ」
「雫、なに笑ってるの?」
雫先輩は少し嬉しそうに笑みを浮かべて美桜先輩に言った。
「よくやってくれたわ。スッキリした」
「よ、よかった!」
すると、雫先輩を心配した黒服の男性がやってきた。
「お嬢様、ドレス汚れませんでしたか?」
「大丈夫よ、美桜さんにチョコレートケーキを持ってきてくれるかしら」
「かしこまりました」
「チョコケーキ?」
「私のおすすめよ、私を楽しませてくれたお礼」
「し、雫からのプレゼント!」
「プレゼントじゃないわよ、みんな食べれるもの」
「そ、そうだよね。でも嬉しい!」
「お持ちしました。外はパリッ、中はフワトロの、金粉を散りばめたチョコレートケーキでございます」
「ありがとうございます!」
美桜先輩は口元にチョコを付けながら幸せそうな笑顔でチョコケーキを食べている。美桜先輩にも可愛いところはある。
「蓮、これ食べてみて」
「なんですかこれ」
結愛先輩が持ってきたのは、焦げたように見えるパンだった。
「食べてみて」
「は、はい......あっ!イカスミのパンっぽいですね!」
「イカスミか、焦げてるのかと思った」
「まさか毒味させたんですか?」
「あ、あれ美味しそう」
結愛先輩はマイペースだなー。
瑠奈と林太郎くんは楽しそうにやってるし、千華先輩は......あれ、なにしてるんだろう。
千華先輩は何故か子供達に囲まれて、もみくしゃにされていた。
多分子供達にも舐められるタイプなんだな。優しい証拠だ。
「花梨さん、食べる?」
「うん、あの分厚いステーキも食べていいのかな」
「うん!どれ食べてもいいと思うよ!一緒に行く?」
「え、うん」
二人でステーキを取りに行き、僕は気になっていたことを聞いた。
「本当に会長譲ってよかったの?」
「別にいいよ。勝ちは勝ちだし、自分より上の人間が自分の下に着くのは気持ちいいでしょ」
「え、なにそれ、その考え方ヤバイよ」
「私は蓮先輩に救われてるし、元々私が選ばれたら蓮先輩に譲る気でいたの」
「恩返しってやつ?」
「さぁね」
「え、違うの⁉︎」
「自分で恩返しとか言うの嫌なの。なんか、恩返しした私偉いでしょ?みたいに聞こえそうで」
「おー、よくできた子だ」
「なにそれ、誰目線?」
「お父さん」
「あっそ、お父さんねー、つまんないの」
「え、なんかごめん」
「別にいいよ」
(蓮先輩は私のこと、一人の女としては見てくれないんだ......)
一瞬悲しげに見えた花梨さんの表情の理由は、聞いてはいけない気がした。
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