投げ捨てた物
花梨さんとステーキを食べている時、ピンクのミニスカを履いた教頭先生がやってきた。
「あら、貴方達!今年も来たのね♡」
「花梨さん、口空いてるよ汚いよ」
「これ......うちの学校の教頭じゃない?」
「そうよ♡このピンクのミニスカート可愛いでしょ♡」
花梨さんは後退りし、千華先輩の元へ逃げて行った。
「あら、逃げちゃった」
「花梨さんを怯えさせるなんて前代未聞ですよ」
「まぁ女の子はどうでもいいわ、それより蓮くん♡私とお茶しなーい?♡」
「雫先輩!助けてください!」
「どうしたの?」
「あら雫さん、私は蓮くんとお茶しようと思っただけよ?」
「花梨さん、実は男ですよ。可愛いですよね」
「え⁉︎あんな可愛い男の娘がいるなんて!花梨さーん♡」
「うぁ〜‼︎来るな〜‼︎」
雫先輩の嘘により、花梨さんは生贄に捧げられた。
「ありがとうございます」
「花梨さん、ちょっと可哀想かしら」
「ちょっとどころじゃないと思いますけど」
「蓮くんが助けてと言ったのよ」
「僕のせいですか⁉︎」
「でもまぁ、花梨さんが千華さんのところに逃げた時は、見てて安心したわ」
「そうですね、仲良くやってるみたいですね」
「そうね。それで、会長としての仕事には慣れたかしら」
「全然ですよ、想像以上にやることがあって大変です」
「ふふっ、いつか慣れるわよ」
「雫先輩、控えめですけど笑うようになりましたよね」
「そ、そうかしら」
「でもその笑い方不気味なので、もっとあははって笑ったらどうですか?」
「あ......あはは......」
「顔が引きつってます」
「上手く笑えないわ」
「心から笑ってないからですかね、それよりトイレの場所教えてくれません?さっきから我慢してて」
「トイレの前まで案内するわ」
「ありがとうございます」
会場を出て行く二人を見た梨央奈達は、嬉しそうにニヤニヤした。
そして二人が会場を出てすぐ、二人は雫の婚約者に声をかけられた。
「おやおや?どうして君と雫さんが一緒に歩いてるんだい?」
「トイレに案内してもらうから」
「トイレにも一人で行けないのかい?」
「蓮くんはトイレの場所が分からないだけです」
「そんなのほっておけばいいじゃないか。雫さんは僕と二人でお話でもしよう」
「ごめんなさい、蓮くんを連れて行かなくてはいけないので」
「僕はもう時期旦那になる男だぞ、言うことが聞けないのか」
「因みに聞くんだけどさ」
「なんだい?」
「雫先輩に好かれてると思ってる?」
「当然じゃないか、いつも僕の話を沢山聞いてくれる」
「それだけ?」
「それだけとはなんだ!」
「雫先輩のこと、どれだけ知ってるの?」
「誕生日は勿論、身長、靴のサイズ、もうなんでもさ」
「雫先輩の苦悩や努力は?」
「ぼ、僕が知らないことはない」
「雫先輩の厳しさと優しさは?」
「だから!知らないことはないと!」
「お前みたいな自分のことしか考えない奴は雫先輩には相応しくない‼︎」
あれ......なんで僕はこんなムキになってるんだ?でもこの人はムカつく‼︎
「僕が相応しくなくて、他に誰が相応しいと言うんだい?まさか君じゃないだろうね。君みたいな凡人が雫さんと釣り合うとでも?まぁ、凡人も夢は見たいってことか!」
「だったら、どっちが相応しいか勝負だ‼︎僕が勝ったら、もう雫先輩に近づくな‼︎」
「れ、蓮くん?」
すると、急に男の目つきが鋭くなった。
「君が言っていることの意味が分かるか?僕達の結婚を邪魔するということは、それ相応の覚悟をしろと言うことだ。君じゃ一生かけても稼げない大きな額の金も動く。それを邪魔する覚悟があるのかい?」
「いいよ!やってやるよ!その前にトイレ行かせろ‼︎」
「そ、そんなに怒って言わなくても、トイレはこっちだ」
何故か雫先輩の婚約者はトイレに案内してくれた。
「ここだ」
「どうも‼︎」
「怒りすぎだぞ君」
イライラしながらトイレを済ませ、雫先輩の元へ戻ってきた。
「勝負を仕掛けてきたのは君だ。勝負内容は僕が決めさせてもらうよ」
「いいよ」
「雫さんが1番大切にしているものを10分以内に持ってくること、答えは雫さんだけが知ってる。雫さんに相応しいと言うなら大切なものぐらい分かるだろ?」
「望むところだ」
「いいわ。ただし、私の部屋には入らないこと、そこに1番大切な物はないわ」
「了解だ」
「了解です」
「それじゃ、よーい、スタート」
婚約者の男は何処かへ走っていたが、僕は動かずに考えた。
「雫先輩に聞いたらルール違反ですよね」
「そうね」
「とにかく探してきます!」
「時間制限を忘れてはダメよ」
「はい!」
立ち去って行く蓮を見つめ、雫は少し笑みが溢れた。
蓮はパーティー会場に戻り、梨央奈に声をかけていた。
「梨央奈先輩!」
「どうしたの?」
「雫先輩が1番大切にしてるものって分かりますか?」
「大切なもの?」
「はい!」
「んー......私達だったりして!」
「それかも!あり得ます!」
「でもー、雫も人の子だからねー、個人的な宝物ぐらいあると思うけど」
「1番かは知らないけど、大切なもの知ってる」
「結愛せんぱーい!最高最高最高!」
「へへ」
「教えてください!」
「黒のヘアゴム、だいぶ前だけど、汚れてたから買ってあげようか?って言ったの。そしたら大切な物だからって」
「もうそれに賭けるしかないかー」
「なにかしてるの?」
「あの、雫先輩の婚約者と勝負中です。僕が勝ったら、もう雫先輩に近づくなって言ってやりました」
僕がそう言うと、今の生徒会メンバーと元生徒会メンバー全員が集まってきた。
「な、なに⁉︎」
「蓮先輩」
「ん?」
「勝ってね」
「う、うん、ありがとう」
そして何故か全員で手を重ね、部活ノリみたいなことが始まった。
「れーんー、ファイト!おー‼︎」
「みんなありがとう!とにかく時間制限があるから行くね!」
「頑張れー!」
みんなに応援されて会場を飛び出し、雫先輩の元へ戻った。
「おかえりなさい」
「ただいまです!そのヘアゴム貸してください!」
「どっちのかしら」
「黒!」
「......はい」
それから2分後ぐらいに男も戻ってきた。
「やぁやぁ、お待たせ。君が持ってきた物を見せてもらおうか」
「これだ!」
「ヘアゴム?雫さん、そんな汚いヘアゴムは捨てるといい、僕が新しいのを買ってあげるよ」
「結構です」
「そっちはなにを持ってきたのさ!」
「1番大切にしているものではなく、これから1番になるものさ」
そう言うと男は雫先輩の前で膝をつき、ポケットから指輪を取り出した。
「いつ雫さんに渡す日が来てもいいように、いつもドライバーに持たせていたのさ。雫さん、お互いに高校を卒業したら、僕と結婚してください」
「......はい」
「雫先輩......?」
男は雫先輩の薬指に指輪をはめ、満足気に僕を見つめた。
「これが僕と君との差だ」
「......」
「確かにその黒いヘアゴムも1番大切な物、でも今は、オレンジのヘアゴムや鬼のお面、みんなと過ごす時間、それぞれが私の1番なの」
雫先輩は今までで1番綺麗な笑みを見せて言った。
「ごめんなさい」
その表情は本当に綺麗だった......だから、僕には作り物の表情だと分かった。
「にしても、まるで結婚式のようだった。雫さんの白いドレスがウェディングドレスに見えたよ」
「そうですか。私は一度部屋に戻ります」 「そうかい、会場で待っているよ」
雫先輩は部屋に向かって歩き出し、男は僕を鼻で笑って立ち去った。
「はぁ......」
雫は自分の部屋に入るとジャージに着替え、涙を堪えながらドレスをビリビリに破り、息を切らせてベッドに座った。
「勇気を出せなかった......」
それから雫は、薬指にはめられた指輪を強く壁に投げ捨ててベッドに潜ると、我慢していた涙が溢れ出て枕を濡らした。
それから雫がパーティー会場に現れることはなかった。
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