秘密のキス
雫先輩から弁当を作ってもらうようになってから、少しの時間だが毎日会うことができている。
でも結局、7月に入っても会長としての仕事に追われて疲れは取れていない。
「蓮先輩、仕事は?」
「......」
「蓮先輩!」
「あっ、ごめん」
放課後、日頃の疲れから寝てしまっていた。
「瑠奈と林太郎くんは?」
「適当に見回り行くって」
「そっか。あっ‼︎」
「なに⁉︎」
「今日って先生達の会議に参加する日じゃん‼︎」
「は⁉︎」
「行ってくる‼︎花梨さんは見回りしといて‼︎」
「う、うん」
急いで会議室に行くと、先生達は椅子に座り、ずっと僕を待っていた。
「すみません!」
「会長が遅刻か。なにしてたんだ?」
「寝てました......」
「雫さんが知ったら失望するな」
「......」
「まぁまぁ先生方、蓮くんも頑張ってますので」
すかさず中川先生がフォローしてくれた。
「中川先生は自分のクラスの生徒だから庇いたいだけでしょ」
「それは!」
ダメだ......雫先輩は先生達にも恐れられる生徒の一人だった。物事をスムーズに進めるには僕もそうならなくちゃな......自分のやり方でとか甘いこと言ってられない。
「静かにしてください!」
「寝てて遅刻したのに、なに言ってるんだ」
「遅刻したことは謝りました。その後もグダグダと文句ばかり。今現在、会議を遅らせているのは先生方です」
完璧‼︎雫先輩っぽいこと言ってやったぜ‼︎
「......先生に向かって文句か!」
「え」
「遅刻は遅刻だろ!」
「あー、はい。すみません」
「さっさと会議始めるぞ」
「はい」
上手くいかなくてガッカリする僕に、中川先生だけは優しく微笑んでくれた。
そして会議が終わって生徒会室に戻ろうとすると、中川先生に呼び止められた。
「蓮くん!」
「はい」
「雫さんみたいになるのは、ちょっと難しいと思うわよ?」
「ですよねー」
「雫さんは全員に嫌われる覚悟があったからね。蓮くんにそれができる?」
「無理ですね。もしその覚悟を持ったところで、雫先輩に怒られそうですし」
「雫さんとは今も仲がいいの?」
「あっ、一応付き合ってます」
「嘘!なんで早く教えてくれないのよ!」
「なんで先生に教えなきゃいけないんですか」
「なにそれー、酷いなー。もう、3年も担任なのよ?」
「まぁ確かに。とにかく、さっきの会議で話した通り、今年の夏祭りは生徒会の見回りが無いので、先生達で頑張ってくださいね」
「それは任せて!今まで生徒会が見回りするのが異例なだけで、本来なら先生の仕事だから!」
「お願いします」
「にしても、雫さんと付き合ってることを言ったら、雫さんのお父さんは校長先生だし、周りの先生からの扱いも変わるんじゃないかな」
「もういいですよー。中川先生は優しいですし、校長先生も問題になりかねないぐらい僕を特別扱いしてくれるので、それだけで充分です」
「そう。なにか困ったことあれば先生を頼っていいんだからね」
「ありがとうございます。そういえば、最近若返りました?」
「先生はまだまだ若いんですけど!」
「あぁ」
「でも実はね、ずっと好きだった人と寄りを戻したのよ」
「あ、雫先輩のところの」
「知ってるの?」
「はい、雫先輩に教えてもらいました」
「あの人格好いいでしょ!」
「んー、普通です」
「もう!蓮くんより格好いいわよ!」
「せ、生徒にムキにならないでください。僕行きますね」
「うん!お疲れ様」
「お疲れ様です」
生徒会室に戻ると誰も居なく、雫先輩に電話をかけた。
「もしもーし」
「どうしたの?」
「なかなか生徒会の仕事が上手くいかなくて」
「なにかあったの?」
「疲れが溜まって、会議にも遅れちゃって、それで先生に怒られました......」
「体の疲れを取るために、マッサージしてあげてもいいけれど」
「マ、マッサージ⁉︎」
「えぇ、これから蓮くんのお家に行けるわよ」
「お願いします‼︎」
「分かったわ」
「んじゃ切りますね!」
「はい」
雫先輩からマッサージ‼︎‼︎楽しみだ‼︎
「蓮、なに鼻の下伸ばしてるの?」
「る、瑠奈⁉︎見回りは?」
「もう終わった!問題なかったよ!」
「そっか」
「最近疲れてるみたいだけど大丈夫?」
「大丈夫!今日から大丈夫になる!」
「よく分からないけど、大丈夫なら良かった!」
「あ、そうだ。まだ日にちは決まってないんだけど、夏休みにみんなで海に行くから、予定空けといて」
「海⁉︎」
「うん!林太郎くんにも言っといてね!」
「分かった!海〜‼︎」
瑠奈は嬉しそうに生徒会室を出て行った。
「あ!今は解散ね!」
「はーい!」
僕は早歩きで家に帰り、部屋に行くと既に雫先輩がいた。
「お帰りなさい」
「来てたんですか!」
「早く来すぎてしまったわ。さぁ、ジャージに着替えて横になって」
「はい!」
素早くジャージに着替えて、仰向けにベッドに横になった。
「寝れそうだったら、そのまま寝ていいわよ」
「分かりました」
変な期待をしていたその瞬間、右足の裏に激痛が走った。
「いったー‼︎‼︎」
「もっとリラックスしてちょうだい」
「無理ですよ‼︎死にます‼︎」
「痛いってことは、どこか悪いってことなの。我慢して」
「いてててて‼︎」
「もう。それじゃ、寝れるくらいにしてあげるから、リラックスして」
「は、はい」
それからは優しくマッサージしてくれ、自然と睡魔に襲われた。
「どうかしら」
「......」
雫は、蓮が寝てしまったことに気づき、さらに優しくマッサージを続けた。
しばらくしてマッサージが終わると、雫は蓮に布団をかけ、優しく頭を撫で始めた。
「本当、頑張ってるわね」
蓮の顔を見ていると、キスしそうになった時のことを思い出し、雫は蓮の唇を見つめた。
(......寝てるし......いいよね......)
雫は髪を左耳にかけ、ゆっくり蓮に顔を近づけ、優しく一瞬だけオデコにキスをした。
そのまま顔を真っ赤にし、慌てて蓮の部屋を飛び出すと、蓮のお母さんに声をかけられてしまった。
「あら、もう帰るの?夜ご飯食べていかない?」
「ちょっと急用が」
「そうなのね、残念」
「また今度ご馳走になります」
「いつでも来てね!」
「ありがとうございます」
蓮の家を飛び出し、ドキドキする気持ちが収まる間も無く、指で唇に触れた。
「しちゃった......」
幸せな気分で表情が緩み、雫はニコニコしながら家に帰っていった。
それからしばらくして蓮は目を覚ました。
「雫先輩、帰っちゃったのか」
あと少しで夏休みが始まることを思い出し、千華先輩、梨央奈先輩、乃愛先輩、結愛先輩、美桜先輩、睦美先輩をグループチャットに招待して(8月1日〜2日まで泊まりで、みんなで海に行きましょう!)とメッセージを送った。
全員予定を空けてくれることになり、順調に予定が決まった時、梨央奈先輩から電話がかかってきた。
「久しぶり!」
「久しぶりですね!」
「覚えててくれたんだね」
「当たり前じゃないですか!ちゃんと雫先輩も行きますよ!」
「やっぱり蓮くんはヒーローだね」
「まぁね!」
「おっ!生意気になったね〜」
「変わりませんよ。花梨さんと瑠奈と林太郎くんも行っていいですか?」
「もちろん!みんなで行こう!」
「よかったです!」
「そういえば、雫とはどこまで進んだ?」
「んー......ハグ止まりですね」
「キスは?」
「できるわけないじゃないですか!あんな綺麗な顔が目の前にあると緊張するんです!」
「待って?私は綺麗じゃなかったってこと?」
「梨央奈先輩、めんどくさいですよ」
「ごめんごめん!それじゃ、楽しみにしてるね」
「はい!」
梨央奈先輩は、あの海でどんな顔をするのか、雫先輩は大切な友達との約束を果たした時、どんな顔をするのか......そして僕が指輪を渡したら......どんな顔をしてくれるのかな。
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