単純チビロリ貧乳


「なんで......キスしてるの?」

「る、瑠奈⁉︎」

「どうして?どうして二人がキスしてるの?」

「瑠奈ちゃんには関係ないでしょ?」


瑠奈は千華先輩に殴りかかった。


「私の蓮を汚すな‼︎」


拳は千華先輩スレスレで止まり、瑠奈の腕を

見ると、雫先輩が瑠奈の腕を掴んでいた。


「貴方達、外へ出なさい」


雫先輩はプリクラを取ってカバンに入れた。

そして四人で外に出ると、瑠奈を鋭い眼差しで見つめた。


「瑠奈さんは帰りなさい」

「嫌だ」

「どうして?」

「こいつは私から蓮を奪った‼︎蓮は嫌なはずなのに‼︎」

「蓮くん、嫌だったの?」

「嫌ではないですけど......」


瑠奈は微かに足を震わせて、絶望した表情で僕に近づいてきた。


「蓮......なんで?私達ずっと一緒だったじゃん......会ったばっかりの、こんな女が好きなの?嘘だよね......」

「ち、千華先輩可愛いし、そんな嫌な気しないよ」


瑠奈は、怒りに任せて千華先輩の顔を殴りつけた。


「瑠奈‼︎なにやってるのさ‼︎」

「この女が悪いんだ......全部、この女がー‼︎」


千華先輩は、抵抗もせずに瑠奈に殴られ続けた。


「瑠奈!ストップ!」


僕は瑠奈の体を後ろから抑えるが、瑠奈はまだ千華先輩に殴りかかろうと暴れて落ち着かない。


「蓮くん。瑠奈さんを連れて帰りなさい」

「は、はい!瑠奈、行くよ」

「蓮‼︎離してよ‼︎」


僕は瑠奈を連れて、無理矢理その場を後にした。

 

雫は、殴られて俯く千華に声をかけた。


「なんで護身術を使わなかったの?」

「蓮の前で女の子らしくないところ見せたくなかった」

「そう。これ使いなさい」


雫は千華の切れた唇にハンカチを当てた。


「ありがとう」

「明日から生徒会に来なくていいわよ」

「え?」

「帰りにゲームセンターで遊ぶのは禁止。分かっていたわよね」

「で、でも!」

「明日からは一般生徒よ。売店を使うのも禁じます。髪も染め直しなさい」

「......はい」


僕が瑠奈を連れて帰る途中、瑠奈は落ち着きを取り戻して立ち止まった。


「落ち着いた?」

「うっ......」

「ど、どうして泣くの⁉︎」

「私、ずっと蓮が好きだったの......私、わがままだし、蓮が私を鬱陶しく思ってるのも分かってる!」


え?マジ?


「でも好きなの‼︎」

「あ、ありがとう」

「蓮は千華先輩が好きなの?」

「いや、いきなりキスされただけで......僕も気持ちが追いつかないんだ」

「そっか......やっぱりアイツが悪かったんだ」

「瑠奈、生徒会の人は全員、護身術が使えるらしいんだ。さっきやり返されなかったのは奇跡だよ?」

「蓮も使えるの?」

「軽くわね」

「そうなんだ。でもやり返されなかった。私にビビってるんだよ!ねぇ、蓮」

「なに?」

「私、蓮のこと好きでいてもいい?」

「い、いいけど」


瑠奈は急に可愛らしい、キラキラした笑顔を見せた。


「やったやったー‼︎本当に⁉︎ねぇ、本当⁉︎」

「う、うん。なんでいきなり元気になったの?」

「好きって伝えたら嫌われると思ってたの。でも、そうじゃなかった!やったー!」

「そ、そっか。とにかく、千華先輩とも仲良くしてよ」


瑠奈は急に顔色を変えて、目を見開いた。


「蓮?それはダメだよ」

「な、なんでさ」

「アイツは蓮の唇を汚した。生きてちゃダメな人なの。分かるよね?」

「み、みんなと仲良しな、明るい瑠奈が好きだなー」


大丈夫か僕......こんなこと言って大丈夫か⁉︎


「なっ⁉︎す、好きなんだ。うへ♡」

「うへ?」

「あーはっはっ!べ、別に仲良くぐらいできるもーん!」


単純チビロリ貧乳だ。


「よかった!んじゃ、次千華先輩に会ったら、殴ったことだけでも謝ろうね?」

「ま、まぁ......いいけど」

「よし!今日は帰ろう!」

「うん!」


瑠奈はわがままで暴走しがちだけど、その反面、昔から素直でもあるんだよな。

だから鬱陶しくても嫌いになれないし、憎めない。


翌日、僕は雫先輩に呼ばれて、朝から生徒会室に足を運んだ。


「おはようございまーす」

「おはよう」

「どうかしました?」

「千華さん、生徒会をやめさせたから」

「え⁉︎なんでですか⁉︎」

「学校のルールを破ったからよ」

「......ゲーセンで遊んだからですか?なら、僕も......」

「蓮くんは千華さんに見回りと言われて着いて行っただけ、今回は見逃してあげるわ」

「そ、そうですか」


セーフ‼︎でも、次に千華先輩に会うの、少し気まずいかも。


「それを伝えたかっただけよ。教室に戻りなさい。放課後にまた生徒会室に来ること。分かったわね?」

「はい。それじゃ、失礼しました」


生徒会室を出ると、瑠奈が不安そうに廊下で待っていた。


「ん?どうしたの?」

「千華先輩、生徒会やめさせられたんだね」

「聞いてたの?」

「うん」

「な、なにニヤニヤしてるの?」


どうせあれだ、僕に千華先輩が近づかなくなるからとか思ってるに違いない。


「千華先輩が蓮に近づく機会が減るから!」


ビンゴ〜‼︎‼︎景品がないのが悲しい。


「とにかく教室に戻ろ」

「うん!」


それから何事もなくお昼休みになり、僕は財布と睨めっこする瑠奈に声をかけた。


「生徒会メンバーは、売店で買い物できるみたいだから、お金渡してくれれば買ってあげるよ?」

「102円しかない......」

「蓮〜!」


千華先輩の声がして廊下に顔を出すと、千華先輩は僕の顔に抱きついてきた。


「ぐはっ‼︎」

「ぐは?大丈夫?首が赤ちゃんみたいになってるよ?」

「大丈夫です......骨が折れたかもしれないだけです......はっ⁉︎」

「なに⁉︎」

「髪が黒くなってるじゃないですか‼︎」

「生徒会辞めさせられたかさ」

「黒髪の方が可愛らしいですよ」


......僕はサラッとなに言ってんだー‼︎‼︎はっ‼︎


ふと瑠奈を見ると、凄まじい形相で千華先輩を睨んでいた。

千華先輩は真っ赤になってるし......


「ち、千華先輩」


僕は瑠奈に聞こえないように、すごい小さな声で言った。


「なに?」

「瑠奈、千華先輩に謝る気はあるので、友好的に話しかけてください」

「分かった」

(蓮の頼みだもんね!頑張らなきゃ!)


千華先輩は瑠奈の隣の席に座り、笑顔で話しかけた。


「昨日ぶり〜!」

「だね」


不機嫌そうにしている瑠奈を見て、口パクで「謝れ」と伝えた。

すると瑠奈は、千華先輩を見て無愛想に言った。


「謝れ」


違う‼︎瑠奈‼︎間違ってる‼︎


「あはは......ごめんね」

「私もごめん」

「いいよいいよ!でも、本当痛かったんだから!」

「だからごめんって‼︎......」

(ダメだよ私!仲良くするって、蓮と約束したんだから!)


瑠奈は急に笑顔になった。


「黒髪似合いますね!」

「本当⁉︎ありがとう!瑠奈ちゃんもその髪色似合ってるよ!」

「ありがとうございます!それで、蓮のことは好きじゃないですよね?もう手出さないって約束してください」

「それはできないなー」

「は?」

「は?なに」

「諦めてって言ってるの」

「だから無理って言ってんじゃん。てかさ、なにタメ口使ってんの?」

「敬語使われたいなら、尊敬される先輩になれよ」


なにやってんのこの二人......


二人は立ち上がり、指をポキポキと鳴らし始めた。


「昨日やり返さなかったからって調子乗るなよ」

「次は泣くまで殴ってあげようか?」

「それじゃ、蓮のいない場所に行こうか」

「ちょっ、ちょっと二人とも!仲良くしてよ!」

「あっ、ごめん!」

「先輩もです」

「ご、ごめん......あ、そうだ。私、蓮のために弁当作ってきたの!食べて!」

「いいんですか?」

「うん!頑張ったから食べてほしい!」


千華先輩は机に弁当を出し、弁当箱の蓋を開けた。


「ジャーン!」

「......なんですかこれ」


弁当箱の中には、丸い飴がぎっしり詰められていた。


「ゲッ。気持ち悪」

「瑠奈ちゃんが食べるわけじゃないんだからいいじゃん」

「飴じゃお腹いっぱいなりませんよ」

「でも見て!この緑と黄色の飴がある部分、サラダに見えない?ミルク味の白い部分がご飯!赤がトマトで、茶色がハンバーグ!」

「そう言われてみれば......すご!瑠奈もよく見てみな!」


瑠奈はダルそうに弁当を見た。


「......すご」

「ん?瑠奈ちゃ〜ん、なんだって〜?」

「凄く不味そうって意味‼︎」

「はいはい。蓮!食べて!」

「ダメだよ?他の女から貰った弁当とか食べちゃダメ」

「でも飴だぞ?」

「千華先輩はその飴に触れてるんだよ?蓮の口が......胃袋が汚れちゃう......いや!聞いてる⁉︎なに箸持ってるの⁉︎」


箸で飴を取ろうにも、何故かヌルヌルして上手く掴めない。


「千華先輩。この飴、なんかヌルヌルするんですけど」

「汚ったない手汗が付いたんでしょ!」

「失礼な!隠し味だから大丈夫!」

「そうなんですか」


ずっと上手く取れずにモタモタしていると、痺れを切らせた千華先輩が弁当箱を取り上げた。


「上向いて口開けて!」

「はい......んー⁉︎」


千華先輩は弁当箱に入っていた全ての飴を僕の口に入れた。


「蓮⁉︎なに全部食べてるの⁉︎」

「んんー!んー!」


千華先輩は僕の耳元で囁いた。


「美味しい?私が愛情込めて、一粒一粒舌の上で転がした飴♡」


そう言って最後に耳に軽くキスをした。


「んじゃ、私は教室に戻るね〜!」

「ちょっと待て」


教室を小走りで出て行く千華先輩を、瑠奈は筆箱からカッターを取り出して追いかけて行った。

僕は慌てて立ち上がると、パンパンに詰まっていた飴が一粒ずつ、ポポポポポポと口から飛び出してきた。


「蓮。大丈夫か?」

「はぁはぁ......林太郎くん、掃除お願い‼︎」

「は⁉︎」


瑠奈を探し回っていると、一回の廊下でカッターを握ったまま、白目を向いて倒れていた。

千華先輩の護身術で返り討ちにされたんだろう。


「まったく......」


そこにタイミングよく、七草先生が通りかかった。


「どうしたの⁉︎」

「いきなり倒れました。保健室に連れて行ってください」

「わ、分かったわ!」


僕は瑠奈と仲良くしてもらえるように、もう一度千華先輩と話でもしようかな。


千華先輩を探して二年生の教室を探し回っていると、二年二組から千華先輩の名前が聞こえてきた。


「千華ってさー、もう生徒会じゃないんでしょ?髪も黒くしちゃってさー、調子乗ってるから辞めさせられたんだよ」


その言葉に続いて、生徒達の千華先輩を馬鹿にするような笑い声が聞こえてきた。

千華先輩は何も言い返していないようだった。

チラッと教室を覗くと、千華先輩は席に座り、とても暗い表情をしていた。


いじめだ......


放課後、瑠奈は目を覚ましたが、千華先輩に腕を掴まれた後の記憶がないらしい。そして瑠奈は、多少フラフラしながらトイレ掃除に向かった。

そして僕は言われた通り生徒会室に向かった。


「今日も雫先輩一人ですか?」

「そうね。千華さん、髪を黒くしていたわね。どう思う?」

「黒い方が可愛く見えました」

「そう」


雫先輩は、何故か少し嬉しそうに微笑んだように見えた。


「なんか嬉しそうですね」

「そんなことないわよ」

「それより大変なことになってますよ」

「なにかしら」

「千華先輩、生徒会を辞めた途端いじめられてます」


雫先輩は無表情でボールペンを握り、なにかの書類を書く作業を始めた。


「だから?」

「だからって!いじめられてるんですよ⁉︎」

「私には関係ないわ。今日も校内の見回りをお願い」

「はい......」


冷たい人だ。やっぱり雫先輩は他人をどうとも思ってないんだ。


蓮が生徒会室を出て行くと、雫は携帯を取り出して電話をかけ始めた。


「もしもし梨央奈りおなさん?」

「どうしたー?」

「頼みがあるの」

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