不気味な笑み


まだ入学して間もないのに、連続で色んなことが起きすぎだ。

千華先輩はいじめに遭ってるのを悟られないように、毎日明るく話しかけてくるし。


「蓮〜!」


毎日校門前で待ってるし。


「おはようございます」

「なんで毎日待ってるわけ?」

「逆に、なんで毎日蓮と登校してくるわけ?」

「蓮は私の蓮だもーん♡」


瑠奈は僕に強く抱きついた。


「わ、私の蓮だし‼︎ねー?♡蓮?♡」

「ちょっと二人とも!こんな場所で抱きつかないでください!」


二人は僕に抱きついたまま、火花が散るように睨み合い始めた。


「二人とも朝から睨み合わないでください。仲良くです。仲良く」


僕が一言言えば、一応僕の前ではぎこちない笑顔で仲良くする努力はする。


「瑠奈ちゃん!飴舐める?」

「いいんですか⁉︎」


その時、雫先輩が現れ、千華先輩の口から棒付きキャンディーを取り、ポケットからも全ての飴を没収した。


「生徒会でもない貴方が、学校でお菓子を食べることは許可できないわね」

「そ、そうだよね。ごめん」

「教室に戻りなさい」

「うん......」


千華先輩は悲しそうに校内に入っていった。


「雫先輩、千華先輩に厳しすぎないですか?それと、いじめ......助けてあげないんですか?」

「そんな暇ないわ。いじめられるのが悪いのよ。調子に乗っていたツケが回ってきたのね」


瑠奈は不思議そうに首を傾げた。


「ねぇ、千華先輩っていじめられてるの?」

「瑠奈は知らないんだっけ?」

「うん」

「なんか、クラスの人にいじめられてるみたいなんだ」

「そうなの⁉︎ざまぁ!」

「瑠奈‼︎」

「な、なんで怒るの⁉︎」

「いじめられるのに、毎日明るく振る舞う気持ちが分からないのか?絶対辛いよ」

「ご、ごめん......」

「いじめに首を突っ込めば、蓮くんもいじめの対象にされかねないわよ」


そう言い残し、雫先輩は校内に戻って言った。


「蓮がいじめられたら、私が助けてあげる!」

「ありがとう。僕達も教室行こ」

「うん!」


校内に入ると、千華先輩はまだ教室に行っていなかった。


「どうしたんですか?」

「ん⁉︎ううん!なんでもない!」


千華先輩は自分の後ろに何かを隠し、瑠奈が空気を読まずに近づいた。


「なに隠したの〜?」

「何にもないって!」

「とりゃ!」


瑠奈が千華先輩から奪った物は、マジックペンで落書きされた、校内で履く用の靴だった。


「なにこの靴⁉︎汚い!」

「瑠奈‼︎」

「じ、自分で書いたの!最先端でしょ!」

「はいはい、そうだね。はい、返すよ」


千華先輩は、落書きされた靴を履いて教室に向かった。


「瑠奈、言葉には気をつけなよ」

「分かってるって」

「ちゃんと謝ってね」

「蓮さ、なんで千華先輩に優しくするの?蓮は私だけに優しくしてればいいの。私だけを見てればそれでいいの。他の女はみんなダニみたいなもんなの、近づいただけで蓮に害を与える害虫だよ」


ピンポンパンポーン

「全生徒、速やかに体育館に集合しなさい」

ピンポンパンポーン


「瑠奈!急ごう!」

「う、うん!」


なんとか運良く話を流せた。

体育館に全生徒が集合すると、雫先輩の横に、初めて見る生徒が立っていた。

ミルクティーのような優しい髪色で、髪型はロングボブ。凄まじく可愛い女子生徒だ。

あの髪色ってことは生徒会メンバーだろう。リボンは赤色......生徒会は二年生しかいないのかな。


「今日は、梨央奈さんからお話があります」

「えーっと、沢村梨央奈です!三年三組、西田恵美にしだえみさん。ステージへ」


そして、一人の女子生徒がステージに上がった。


「貴方は、売店のパンを万引きしましたね。こちらにサインを」

「た、退学届ですか⁉︎」

「万引きは犯罪ですから当然です」


梨央奈先輩、ずっとニコニコしてて不気味だ......


退学届を突き出された恵美先輩は、足を震わせながらサインをした。


「確かに受け取りました。最終決定は雫がするからね」

「ゆ、許して‼︎」

「たった今、西田恵美さんの退学を認めます」


恵美先輩は、その場で膝から崩れ落ちた。

朝から衝撃的な光景を見せられ、時間は経ち昼休み。また千華先輩は僕達の教室にやってきた。


「蓮!弁当持ってきたよ!」

「また飴ですか?」

「違う!反省して、ちゃんと作ってきた!」


瑠奈が千華先輩を睨む中、千華先輩は気にしないで僕の机に弁当箱を置いた。


「見て!唐揚げ弁当!朝早く起きて頑張ったの!」

「千華先輩......」

「なに⁉︎唐揚げ嫌いだった⁉︎」

「いや、これ......」

「......なにこれ......」


弁当箱の中には、消しゴムの消しカスや、雑草が入れられていた。


「ち、違うの蓮......私はちゃんと作って......」

「うわ〜。蓮に変な物食べさせようとしないでくれる?」

「瑠奈、うるさいよ」

「え?」

「僕、千華先輩の教室行ってきます」

「やめて!蓮がいじめられちゃう!」


僕は千華先輩を無視して教室を出た。


「千華先輩さ〜。なにぶりっ子してるの?いじめてくる人なんて、やり返せばいいじゃん」

「いじめられないと、私の気持ちなんか分からないよ」

「いじめられても分からないね。私ならやり返す。それと、千華先輩がいじめられてることで、蓮がイライラするくらいなら、私がなんとかしてあげる」

「え?」

「蓮のためだから」


瑠奈が教室を出ると、千華は弁当を見て涙を流した。

その頃瑠奈は、背後から梨央奈に絞め技をされ、また白目を向いて倒れていた。

そして蓮は千華のクラスのドアの前に立っていた。


二年二組、ここだ。


そして勢いよく教室のドアを開けた。


「千華先輩をいじめないでください‼︎」

「あ、生徒会の雑用じゃん」


一人の男子生徒が僕に近づいてきた。


「一年のくせに俺達に文句でもあんの?」

「ち、千華先輩をいじめないでください......」

「あ?」

「弁当にも、あんなことして......」

「弁当?俺達は弁当にはなにもしてないぞ」

「嘘つかないでください‼︎」


その頃、千華は走って自分の教室に向かっていた。


「瑠奈ちゃん⁉︎なんで倒れてるの⁉︎.....まぁいいや」


千華は、倒れている瑠奈を無視し、自分の教室が見えた時、二年三組の教室から雫が出てきて千華の前に立った。


「雫、どいて」

「行ってどうするの?」

「蓮を止めなきゃ」

「そんなことをしたら、貴方のいじめは続くわよ?更にエスカレートするかも」

「そんな......」


雫は微かに微笑んで、千華の頬に手を当てた。


「楽になっていいのよ?蓮くんにターゲットを変えてもらって、貴方は平和に学校生活を送るの」

「でも......」

「素直になりなさい」

「雫は......人の心がないの?」

「人の心があるからこそ、この考えに辿り着くの。大丈夫。貴方が辛い思いをする必要はないわ」

「.......あれ?今の梨央奈じゃない?なんで私のクラスに?」

「気にしなくていいわよ」


僕が千華先輩の教室で話している時、梨央奈先輩がニコニコしながらボロボロのスクールカバンを手に持って入ってきた。


「このカバン、千華ちゃんのじゃない?誰がしたのー?」


なんだ?教室の空気が変わった。

みんな青ざめてる......


「ねぇ、聞いてるんだけど。誰がしたのー?」


ニコニコしてるのに、変に威圧感を感じる......


「あれ?一年生がなんでここにいるの?」

「ぼ、僕ですか?」

「うん!」

「千華先輩がいじめられてて、やめてもらえるように話に来ました」

「誰と話してたの?」

「こ、この先輩と」


僕に突っかかってきた先輩は、いきなり現れた梨央奈先輩に見つめられて腰を抜かした。


「君がしたの?」

「ち、違う‼︎俺じゃない‼︎」


梨央奈先輩は床に膝をつき、ニコニコしながら腰を抜かした男子先輩に顔を近づけた。


「いじめの主犯格は誰かな?」

「あ、あいつだ‼︎」

「わ、私⁉︎」

「お前が最初に千華を馬鹿にしたんだろ‼︎」


梨央奈先輩は立ち上がり、教室内の生徒を見渡した。


「最初に馬鹿にしたのはこの子で間違いない?」


周りの生徒は無言で必死に頷いた。


「は⁉︎みんなも一緒になっていじめてたじゃん‼︎私だけじゃない‼︎」


梨央奈先輩はスカートのポケットから携帯を出して「は⁉︎みんなも一緒になっていじめてたじゃん‼︎私だけじゃない‼︎」と、たった今録音した音声を流した。


「自白してくれてありがとう。さぁ、座って」


椅子を引き、女子生徒を座らせると、梨央奈先輩は女子生徒と向かい合って座り、胸元から退学届を取り出した。


「ボールペンは持ってる?」

「は、はい......」

「これにサインして」


女子生徒は酷く体を震わせ、僕は好奇心で近づいた。


「やっぱり退学届けだ......」

「まだ居たの?」

「ご、ごめんなさい!」

「謝ることじゃないよ?君も見ていく?一人の人生が壊れる瞬間」


この人......ニコニコして怖いこと言う......


「書くまで私はここに居るよ?」


女子生徒は顔から汗をかき、息遣いも荒くなっている。

ゆっくり名前を書き終えると、梨央奈先輩は紙を取り上げた。


「り、梨央奈さん!許して!」

「最終決定は雫だから、放課後に生徒会室に行くこと」


女子生徒は泣き出してしまったが、梨央奈先輩は気にせずに僕に話しかけてきた。


「君も教室戻りな?私は先に失礼するね」

「は、はい!」


二年生の教室を出ると、雫先輩と千華先輩、そして梨央奈先輩が一緒に歩いていくのが見えた。


三人は生徒会室に行き、話を始めた。


「千華さん、辛い思いをさせたわね。蓮くんが教室まで行ってしまうのは想定外だったけど」

「どういうこと?」

「私が靴とカバンにイタズラしたの!」

「は⁉︎梨央奈が⁉︎なんで⁉︎」

「弁当は私じゃないけどね!千華がいじめられてるって聞いて、目に見えるいじめの証拠を作る必要があったの。そうすれば、私が問い詰めた時、みんな自分可愛さに友達を売って主犯格を割り出せるでしょ?」

「そう。梨央奈さんは退学届けを突き出す人ってことを全生徒に見せつけたのもそのためよ」

「ちょっと待って!頭が混乱中!んじゃ、あの恵美って生徒は演技⁉︎」

「あの人は本当に退学よ?万引きを何度も繰り返していたの。でも、犯罪者にも使い道はあると考えて、今日まで泳がせていたのよ」

「なんか......すごいね」


梨央奈は、瑠奈を気絶させたことを思い出した。


「そういえば瑠奈ちゃんだっけ?気絶させて放置してきちゃったけど大丈夫かな」

「なんで気絶させたの⁉︎」

「あの子が千華ちゃんの教室に行ったら、いろいろぐちゃぐちゃになりそうだなって」

「な、なるほど......」


雫はテーブルの上に一枚の紙を置いた。


「忘れていたのだけれど、生徒会を辞めるサインを貰っていなかったわね。書きなさい」

「う、うん......」

「梨央奈さんは少し席を外してくれないかしら」

「うん!いいよ!」


雫は千華と二人になると、これからについて話をした。


「いじめの主犯格は、退学にしてほしい?」

「ううん......しないであげて」

「どうして?」

「私が調子乗ってたのが悪いから」

「そう。分かったわ」

「はい。書類にサイン書いたよ」

「生徒会を辞めて、一週間ぐらい経ったわね。いじめ以外で、何か変わったことはない?」

「忙しくなくなったから、蓮と話せる時間がある!黒髪にしたら、可愛いって言われたし!」

「生徒会に入っていると、他の生徒の目もあって、気楽に恋愛もできないものね」

「そうかな。この学校では成績が全てで、優秀な生徒には自由が与えられる。恋愛も自由でしょ?」

「......気が変わったわ」


雫は、千華がサインした紙をその場で破り捨てた。


「なっ、なにしてるの⁉︎」

「私の言葉を否定した罰よ。これからも生徒会にいなさい。蓮くんのように雑用係としてね」

「えっ......」

「これは生徒会長命令よ。返事はどうしたの?」

「は、はい......」

(雫は......会長は......なにを考えているの......)

「校庭の草むしり」

「ん?」

「1時間で済ませなさい」

「い、今から授業なんだけど」


雫は冷たくも鋭い眼差しで千華を見つめた。


「や、やってくる!」


千華が生徒会室を出ると、梨央奈がニコニコしながら入ってきた。


「私には見えてるよ。鬼の仮面の向こう側が」

「鬼?」

「知らないの?雫、鬼の生徒会長って呼ばれてるんだよ?」

「素敵な呼び名ね」

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