貴方のせい


翌日、千華の下駄箱の前には、新品のカバンと新品の靴が置かれていた。


「ち、千華。その......いじめてごめん!退学取り消してくれてありがとう」

「いいよ。私も調子乗ってたんだと思う」

「こ、これからは仲良くしようね!」

「うん!」


その頃僕は、生徒会室に居た。


「生徒会メンバーとして、少しは慣れてきたかしら」

「まぁ、大したことしてないですけど」

「瑠奈さんは?やっぱり髪を染め直す気はなさそう?」

「はい。絶対染めないと思いますよ。それより、瑠奈は目立つし、先輩に盾突くってので、孤立気味なんですよ」

「でも、蓮くんは仲良くしているんでしょ?」

「はい。あと、同じクラスの林太郎くんも」

「それならいいじゃない」

「んー、瑠奈の陰口とか言う人も居て......なんか嫌だなーって」

「言われるのが当然のような人間なのだから仕方ないわよ。痛い目に合わないと分からないわ」

「相変わらず冷たいですね」


雫先輩は鋭い目つきで僕を睨んだ。


「ご、ごめんなさい!」

「放送室に行って、全生徒を体育館に集めなさい」

「は、はい」


そして、全校生徒が体育館に集まり、雫先輩がステージで話を始めた。


「最近、トイレ掃除が隅々まで行き届いていないようです」


その発言を聞いて、瑠奈は立ち上がった。


「はー?毎日頑張ってるんだけど‼︎」


瑠奈はジッとしてられないのかよ......


「頑張っていても、結果的に汚れているのよ」

「うるさーい‼︎」

「頑張っている姿が見えない物への取り組みは、結果で納得させるしかないの。結果がダメなら、他人からすれば貴方の頑張りはゴミ以下よ」


雫先輩は相変わらず厳しいな......


「それと、こういう場で私の許可なく発言することは許さないわ。座りなさい」

「お前が意味わからないこと言うからだー‼︎」


雫先輩はステージを降りて、瑠奈の元へ歩き出した。


「それなら、貴方が理解できるように優しく教えてあげるわ」


瑠奈の目の前に立つと、冷めた目つきで瑠奈を見つめた。


「テストで考えてみましょうか。今から私が言うことを想像してみて」

「はいはい」

「貴方のクラスに、毎回テストで0点しか取らない生徒がいるの。その生徒は先生に怒られると、俺は頑張ってるんだ。毎日徹夜で勉強してると威張り散らかすの。貴方はその生徒をどう思うかしら」

「勉強のやり方がダメなんだよ。頑張っても0点なら意味ない。馬鹿だね、馬鹿。威張る前にもっとしっかり勉強すればいいのに」

「その生徒、本日に惨めよね。結果を出していないのに、自分は頑張っているということばかり主張して」

「本当だよ。結果出してから威張れって感じ」


おいおい、瑠奈のことだって気付いてないのかな......


「まだ分からない?」 

「はい?」

「掃除を勉強と見立てて、貴方の話をしたのよ?」


瑠奈は顔を真っ赤にして、雫先輩の胸ぐらを掴んだ。


「もうトイレ掃除なんて辞めてやる‼︎」


瑠奈はそう言い残し、体育館を出ようとした。


「瑠奈!待って!」

「蓮くん。逃げることしかできない人間に構うだけ時間の無駄よ」


瑠奈は本当に体育館を出て行ってしまった。


「連帯責任として、一年二組の生徒は、これから毎日トイレ掃除をすること」


雫先輩のその言葉で、僕のクラスメイトはざわつき、瑠奈を悪く言う人までいた。


朝に瑠奈が孤立気味だって話をしたばっかりなのに、雫先輩はどこまで意地悪なんだ。


「一人でもトイレ掃除をサボれば、もっとキツイ罰を与えます。解散」


雫先輩が体育館から出て行き、僕も教室に戻ろうとした時、体育館の隅に立っていた千華先輩に名前を呼ばれた。


「蓮〜!」

「はーい!なんですか?」

「ちょっと来てー!」


なんだろう。千華先輩の隣には梨央奈先輩もいるし......


「どうかしました?」

「梨央奈が話あるって」

「えっ......」

「そんなに怯えなくていいんだよ?」


その笑みが怖いんですよ。


「蓮くんも生徒会メンバーなんだってね。それに一年二組!トイレ掃除は大変かもしれないけど頑張ってね!」

「あ、ありがとうございます。......えっとー、失礼します」

「まだ話終わってないよ?」

「あ、ごめんなさい」

「一つヒントをあげようかなって」

「ヒントですか?」

「あ、でも一度、君を試してみようかな!とりあえず、トイレ掃除は私が監視するからね!」


梨央奈先輩が監視か......変なこと起きたら、すぐ退学にされそう。


「んじゃ!頑張ってね!」

「はい」


梨央奈先輩が体育館を出ると、千華先輩は僕に飛びついた。


「蓮〜♡」

「な、なんですか⁉︎」

「明後日の土曜日、蓮の家行っていい?」

「なんでですか⁉︎」

「休みの日会えないの寂しいじゃん!」

「僕は寂しくないです」

「うん!んじゃ行くね!」


全然聞いてねぇ〜‼︎あ、住所知らないだろうし、適当に流しておこう。


「んじゃ、待ってますね!」

「本当⁉︎よかったー!寂しくないって言われた時は、どうしようかと思ったよ!」


ちゃんと聞いてた〜‼︎


「んじゃ約束ね!またお昼休みに会いに行くね!」

「あ、はい」


そして教室に戻ると、瑠奈の机を囲むように人集りができていた。


「どうしたの?」


クラスメイトは僕を見て、すぐに自分の席に戻って行った。


「瑠奈、なにがあったの?」

「どいつもこいつもムカつく」

「え?林太郎くん、なにがあったか知ってる?」

「トイレ掃除の件で、みんなが瑠奈に文句を......」

「なるほど」


今日のお昼は売店でパンでも買ってあげて、少し機嫌取ってあげようかな。


そして昼休み、僕は売店にチョコクロワッサンを買いに行き、教室に戻ってきた。

教室に戻ると、瑠奈と千華先輩は相変わらず睨み合っていて、今にもどちらかが暴れそうな雰囲気だった。


「瑠奈。このパン、僕からの奢り」

「え⁉︎蓮から⁉︎」

「うん!だから、あまりイライラしないでよ」

「う、うん!ありがとう!」

(蓮が初めて私にプレゼントをくれた!蓮は私が好きなんだ。素直になれないだけなんだ!)


千華先輩はムッとした表情をした後、僕の机に弁当箱を置いた。


「唐揚げ弁当作り直したの!よかったら食べて!」


千華先輩は辛い思いしただろうし、素直に美味しく頂こう。瑠奈はクロワッサンに夢中だし。


「はい!いただきます!」

「どうして?」

「うわっ‼︎近い近い‼︎」


クロワッサンに夢中だったはずの瑠奈は、目を見開き、僕の真横まで来ていた。


「そんなの食べちゃダメだよ。千華先輩の手料理を食べるなんて許せない」

「またパン買ってあげるから、今日は食べてもいいでしょ?」

「ま、また?本当?」

「本当本当」

「で、でも‼︎」


その時、林太郎くんが瑠奈の耳元で囁いた。


「今大人しくしたら、蓮からの高感度爆上がりだぞ」

「......よ、よーし!食べて食べて!千華先輩が頑張って作ったんだもん!」

「う、うん」

「ありがとうね!瑠奈ちゃん!」

「いいのいいの!私は大人しくパン食べるから!大人しく!」


林太郎くんがなにを言ったか知らないけど、とりあえず良かった。


「んじゃ、改めていただきます!」

「うん!」


唐揚げを一つ口に入れた瞬間、僕の口の中に衝撃が走った。


「どう?美味しい?」

「美味しいです‼︎」

「やったー‼︎」


まっず〜‼︎‼︎なんだこれ‼︎腐った魚みたいな臭いがする‼︎肉のはずなのに‼︎‼︎


「遠慮しないでどんどん食べてよ!」

「は、はい!」


どうする......こんなの一個が限界だ‼︎


「蓮くん?雫が呼んでるよ!」

「梨央奈先輩!今すぐ行きます!」

「えー、今私の弁当食べてもらってるんだけど〜」

「いやー、なんかお怒りだったからさ」

「そ、そっか。蓮、急いだ方がいいよ」

「は、はい!」


助かった‼︎死なずに済んだ‼︎いや待て、雫先輩がお怒り?行きたくない‼︎


「ほら、行くよ?」

「は、はい......」


蓮が梨央奈に連れられて教室を出ると、千華はガッカリして蓮の席に座った。

(全部食べてほしかったなー。勿体無いし自分で食べよ)


千華は唐揚げを一つ食べた瞬間、蓮の机に頭を打った。


「千華先輩‼︎蓮の机になにしてるの⁉︎離れて‼︎......死んでる⁉︎」


千華は泡を吹き、白目を向いていた。


そんなことになっているとは知らず、僕が大人しく梨央奈先輩の後ろを歩いていると、梨央奈先輩は立ち止まって振り返った。


「助かったね!」

「なにがですか?」

「千華の手料理は殺傷能力があるの!」

「助けてくれたんですか?」

「うん!朝にね、今日は弁当食べてもらうんだーってワクワクしてたから」

「雫先輩が怒ってるってのは......」

「嘘だよ!」

「梨央奈先輩〜!」


梨央奈先輩の笑顔が、今日は女神の微笑みに見えるよ〜!


「でも、お腹空いてるでしょ?これで良かったらどうぞ!」

「カレーパン!大好きです!」

「ん?告白?」

「カレーパンがです」

「分かってるよ!適当な場所で食べて、昼休みが終わったら教室に戻りなね」

「はい!ありがとうございます!」


この学校には食堂があるのを思い出し、初めて行ってみることにした。


「7人しかいない......」


食堂も成績上位の人限定かな?


特に食堂で何か買うでもなく、椅子に座ってカレーパンを食べた。


昼休みが終わって教室に戻ると、なにやら教室は騒がしく、僕の席にみんなが集まっていた。


「蓮!」

「林太郎くん。この騒ぎはなに?」

「千華先輩が倒れたんだ!」

「え⁉︎」

「なんの騒ぎかしら」


騒ぎを聞きつけて雫先輩が来てしまった。

雫先輩は倒れている千華先輩は見て、しゃがんで千華先輩の背中に触れた。


「千華さん?しっかりしなさい。......瑠奈さん、貴方なにをしたの?」

「なんで全部私のせいなの⁉︎自分で作った唐揚げ食べて倒れたの‼︎」

「なるほど。千華さんは私が連れて行きます。皆んなは席に座って授業開始を待ちなさい」


その後、千華先輩は無事に目を覚まし、授業中にも関わらず教室にやってきて、僕にあんな唐揚げを食べさせたことを抱きつきながら謝ってきた。


そして放課後。

瑠奈はトイレ掃除をしないために、呼び止める間も無く帰ってしまった。

みんな気怠げに、掃除するトイレと役割を決めてトイレに向かって行った。


僕も行くか〜......


林太郎くんと掃除をしていると、梨央奈先輩がニコニコしながら現れた。


「蓮くん」

「あ、梨央奈先輩」

「残念だけど、全員揃わなかったって、雫に報告さてもらうね」

「え?みんな掃除してますよ?」

「瑠奈ちゃんが居ないよ?」

「瑠奈もなんですか⁉︎」

「雫は一人でもサボったらダメって言わなかった?」

「そんな......」

「んー。やっぱりヒント必要だったかもね!もう遅いけど!とにかく私は報告してくるね!」

「梨央奈先輩!ヒントってなんですか?それと今回だけ見逃してくれませんか?」

「瑠奈ちゃんが掃除をサボり。蓮くんがそれを無かったことにっと!」

「なにメモってるんですか⁉︎」

「報告書だよ?それじゃあね!あ、ヒントは全員でやるんだよって念を押そうとしただけ!」


梨央奈先輩も、いつもニコニコしてるのに鬼みたいな人だ......


それから数分後。


ピンポンパンポーン

「一年二組の生徒はトイレ掃除が終わり次第、グラウンドに集合しなさい」

ピンポンパンポーン


雫先輩の言った通りグラウンドに集合すると、千華先輩と梨央奈先輩。そして雫先輩が待っていた。


「瑠奈さんが帰ってしまったようね。言った通り、罰を与えます。グラウンド20周した生徒から下校を許可します。蓮くんは100周。千華さんと梨央奈さんがカウントするから、ズルをしてもすぐに分かります」

「し、雫先輩!なんで僕だけ100周なんですか!」

「よーい、スタート」


クソ〜‼︎走るしかない‼︎


それから、みんなはヘトヘトなりながら次々と帰っていき、僕一人だけになってしまった。

空も暗くなり、全身が痛い......


「梨央奈」

「なに?」

「いくらなんでもやりすぎなんじゃ......蓮が可哀想だよ」

「雫が決めたことだからね」


雫はずっと、生徒会室から蓮が走っているのを見ていた。

その時、蓮が倒れ、千華と梨央奈が駆け寄って行った。


そして雫は、瑠奈の家に電話をかけた。


「もしもし、大槻です」

「瑠奈さん。蓮くんが倒れたわよ」

「なっ⁉︎なんで⁉︎」

「全部貴方のせいよ」

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