報われた優しさ


「お邪魔しまーす」

「やぁ、蓮くん!久しぶりだね!」

「お久しぶりです!」


乃愛先輩と結愛先輩の家に着き、お父さんも歓迎ムードだ。


「お腹空いてるかい?すぐ食べられるよ!」

「はい!いただきます!」


カレーの良い匂いがするリビングに連れてこられると、結愛先輩はサイズの大きめな部屋着を着て、前髪をゴムで留めた状態でテレビを見ていた。


「結愛先輩、お邪魔します」

「うん、ゆっくりしてってね」


結愛先輩って、家だとこんな感じなんだ。どっち道可愛いけど。


「さぁ!四人で食べよう!」


乃愛先輩の隣に座り、カレーを頂いてお腹いっぱいになると、結愛先輩はソファーに座ってポロポロとウクレレを弾き始めた。


「ぽぴぽぴ〜ぽ〜ぷにょ〜しゅー」

「あれ、なんの歌ですか?」

「結愛は美味しいものを食べた日は意味分からない歌を歌うの。ほら見て、満足そうなお父さんの顔」

「逆に歌わない日は悲しいですね。乃愛先輩は歌わないんですか?」

「食べると疲れるじゃん。歌いたくないよ」

「まぁ、確かに」

「にゅにゅぷ〜ぴ〜」

「そういえば、二人って双子ですけど、どっちがお姉ちゃんなんですか?」

「私」

「乃愛先輩なの⁉︎」

「なにその反応」 

「逆だと思いました」

「失礼だなー」 

「ぴっぴっす〜どぅん」

「あ、歌が終わりました」


結愛先輩は歌い終わり、お風呂に向かった。

僕達は乃愛先輩の部屋に行き、のんびりすることにした。


「乃愛先輩の部屋」

「なに?」

「なんでもないです」


めちゃめちゃ良い匂い!私服が黒っぽいのしかないから男部屋みたいなの想像したけど、女の子らしい可愛い部屋だし!


「なんかゲームでもする?」

「しましょ!」


その頃結愛は、シャワーを浴びながら動揺していた。

(蓮が家に泊まる⁉︎嘘でしょ⁉︎なんか緊張するよ......)


それから、蓮と乃愛がテレビゲームをしている時、ピンクのパジャマを着た結愛が乃愛の部屋にやってきた。


「お風呂空いたよ」

「蓮入る?」

「僕は最後でいいですよ」 

「分かった!」


乃愛先輩は先にお風呂に行き、僕はゲームを続けた。


「結愛先輩!やりましょ!」

「ちょっ⁉︎な、なに言ってるの⁉︎」

「なにって、ゲーム」

「あぁー、そっちね!」 

「他になにがあるんですか」 

「ないない、何にもない」

「あ、シャンプーとか使っていいんですかね」

「うん。透明のボトルが私のだから使っていいよ」

「ありがとうございます!」


僕達はゲームをしながら学校の話を始めた。


「学校やめたくなったりとかしてない?」

「なんでですか?」

「問題ばっかりじゃん」

「慣れはしないですけど、やめたくはないですね」

「よかった。蓮ってなんで生徒会入ったの?」

「それはちょっと......」

「先輩に隠し事?」

「雫先輩に言わないならいいですけど」

「言わない」

「えっとー、快適な高校生活を送るためには、生徒会に入るのが1番早いと思ったからです」

「それでよく入れたねー。瑠奈とはどんな感じ?」

「仲良しですよ?」

「ふーん。んで、なんで乃愛と付き合わないの?」

「今の関係が楽しいからです!でも、タイミングがあれば付き合うかもしれないですけどね」

「乃愛は家だとずっと蓮の話しばっかりでさ、その度にお父さんの目から光が失われていく」

「それはなんか......ごめんなさい」


しばらく話しながらゲームをしていると、乃愛先輩からお風呂空いたよとメッセージが届いた。


「んじゃ、お風呂借りますね」

「うん。ごゆっくりー」


人の家のお風呂に入ることなんてなかなかないから変な感じだけど、今日は嫌な汗かいたし、借りないわけにはいかない。


そして服を脱いでお風呂を開けると、そこには裸の乃愛先輩がいた。


「ちょっ」

「シー、お父さん来ちゃうよ?」


僕は咄嗟にタオルで体を隠し、目を閉じた。


「上がったんじゃないんですか?」

「嘘だもん。一緒に入ろ?」

「無理ですよ、僕出ますね」

「ダメ。入らないとお父さんと結愛呼ぶ」

「そんな〜、んじゃ、せめて電気消したいです」

「いいよ」


一緒に入る流れになっちゃったー‼︎


電気を消して恐る恐る湯船に入ると、乃愛先輩の脚に触れてしまい、ますます緊張感が増してしまった。


「バレたらどうするんですか」

「バレないバレない。お父さんはお酒買いに行ったし」

「お父さん居ないんじゃないですか!」

「静かに」

「こんなのヤバイですよ......」


すると乃愛先輩は突然抱きついてきて、完全に体が密着してしまった。


「好き」

「あ、ありがとうございます」

「やっぱり恥ずかしいね」

「はい......」

「ただいま〜!風呂風呂!」


お父さんがお風呂に入ってくる声がして、乃愛先輩は一瞬で僕から離れた。


「わ、私入ってるから!」

「なんで電気消してるんだ?」

「落ち着くの!早く出て!」

「悪い悪い」


お父さんが出ていくと、乃愛先輩は急いで僕の髪を洗い始めた。


「早く体洗って」

「わ、分かりました」


お父さんが居るリビングとお風呂は離れていて、出る時にバレなければ問題ないはず。


乃愛先輩は水色のパジャマ、僕は学校のジャージに着替え、ゆっくり扉を開けると、そこには結愛先輩が立っていた。


「あ......」

「気持ちよかった?」

「へ、変なことしてないので......」

「お風呂の話だけど、他になにかあるの?」 「ないですないです、なにもないです」


気まずいところを見られて、僕達は早歩きで乃愛先輩の部屋に戻った。


「なにやってるんですか!」

「だって、一緒に入りたかったし」  

「当たってましたよ⁉︎」 

「なにが?」

「いろんなところがです‼︎」

「まぁまぁ、そんな怒らないでよー」

「まったく......」


それから歯を磨いて夜も遅くなってから気づいたが、僕は今日、乃愛先輩と同じベッドで寝ることになる。


「乃愛先輩、変なことしないでくださいね」 「しないよ?早くおいで」

「めっちゃ何かしそうじゃないですか」

「いいから、今日は疲れたでしょ?」

「そりゃ疲れましたけど......」

「癒してあげる」


若干の照れ臭さを我慢して同じベッドに入ると、すぐに僕の頭を抱き寄せて、優しく頭を撫でてきた。


「蓮は責任感じなくていいからね」

「......」

「誰かに酷いこと言われても、絶対私は味方だからね」

「......はい」


こうしてみると、乃愛先輩は体が小さいのに心の包容力がすごい......

安心感に包まれているうちに寝てしまい、目を覚ますと乃愛先輩はまだ寝ていたが、しっかり僕の頭を抱き寄せたまま寝ていた。


ずっと撫でてくれてたのかな。

親に何も言わずに泊まっちゃったし、二人のお父さんに挨拶して帰ろう。


「おはようございます」

「おはよう!今朝ごはん作ってるからね!」

「すいません、僕もう帰ります」

「そうなの?二人とも喜んでたから、また遊びに来てよ」

「分かりました!お世話になりました!」

「うん!またね!」

「はい!」


そして、自宅に着いてすぐに乃愛先輩から電話がかかってきた。


「もしもしー」

「なんで勝手に帰っちゃうの‼︎」

「乃愛先輩寝てたので」

「寝てない!」

「寝てましたよ」

「今日も遊ぼうと思ったのに」

「昨日の今日ですし、少し休んだらどうですか?」

「私と遊びたくないの?」

「そんなことないですよ。僕はますます乃愛先輩が好きになりましたよ」

「......本当?」

「はい!こんなに優しい人いるんだなって、嬉しかったです!」

「で、でもさ?あの日の返事......やっぱりなんでもない......」 

「付き合いましょうか」 

「え?」

「友達以上恋人未満みたいな関係で日々過ごしてましたけど、楽しかったですし、乃愛先輩なら安心っていうか、一緒に居て落ち着きます」

「ちょ、ちょっと待って?さっきの本当?」

「はい!待たせてしまってすみませんでした。僕で良かったら付き合ってください!」

「やったー‼︎‼︎今から蓮の家行くー‼︎」 

「だから休んでくださっ、切られたし」 


瑠奈に報告した方がいいかな......


「もしもし瑠奈?」

「なに?」

「乃愛先輩と付き合うことになった」

「マジ⁉︎あいつ!蓮を傷つけたら許さない‼︎」

「乃愛先輩は優しいよ」

「知ってる。とにかくおめでとう!梨央奈の時みたいにすぐ別れないようにねー」

「うっ、トラウマが......」

「ごめんごめん!お幸せに!」

「ありがとうね。でも僕達は最強の1番の友達だから!いっぱい遊ぼうね!」

「当たり前!」

「うん!その報告だけだから切るね!」

「バイバイ!」


瑠奈は電話を切り、プルタブのネックレスを眺めて静かに涙を流して呟いた。


「ありがとう......乃愛先輩」


瑠奈との電話が終わると、すぐに千華先輩から電話がかかってきた。


「はい、もしもし」

「蓮」 

「はい」

「私達のために頑張ってくれてたのにごめんね」

「僕が間違ってたので、逆にごめんなさい」

「蓮はなにも悪くないの!あのね、花梨が目を覚まして、いろいろ落ち着いたら、話したいことがあるの」

「今じゃダメなんですか?」 

「ダメ。今言うのは、なんか最低な気がして」

「分かりました。花梨さん、早く起きるといいですね」

「絶対起きる」 

「はい」


その頃雫は花梨が入院している病院に向かっていた。

そして花梨の病室に着き、椅子に座りながら花梨の手を握り続けた。


「早く起きなさい。貴方は沢山の罰が溜まっているのよ?このまま、こんな形で逃したりなんてしないわよ......」

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