コンプレックス


今日は瑠奈とショッピングモール内にある、駄菓子食べ放題に行く予定だ。


「もしもし、林太郎くん?」

「どうした?」

「今日暇?暇だよね。瑠奈と駄菓子食べ放題行くんだけど、林太郎くんも行くよね」

「なんで決定してる感じなんだよ」

「んじゃ、12時に現地集合で!」

「おい」


林太郎くんを無理矢理誘って、三人で遊ぶことになった。


12時に合わせて駄菓子食べ放題の店の前に行くと、瑠奈が林太郎くんに怒っている様子だった。


「誘われたからって来ないでよ!空気読んで!」

「ごめんって」

「お待たせ」

「あ!蓮、なんで林太郎誘ったの?」

「久しぶりに遊びたいなって」

「もう、別にい行けどー。とりあえずは入ろうよ!」

「うん!」


店の中に入ると、昔の駄菓子屋のように大量の駄菓子が並べられていて、壁や床もあえて少し古くなったような塗装で雰囲気は僕が好きな感じだった。


「3名様ですか?」

「はい」

「学生さんでしたら、200円引きの1300円で食べ放題になります。時間は1時間になっておりまして、30分延長ごとにお一人様500円頂くことになっております」


僕達は学生手帳を出し、一人1300円で1時間食べ放題を選択した。


「それではごゆっくりお過ごし下さい」

「はーい」


いっぱいありすぎて、何食べようか悩むな。


「ちょっと瑠奈」

「ん?」

「1個目からガムはセンスないって」

「美味しいよ?ラムネ味」

「しばらく他の食べれないじゃん。勿体無いよ」

「そっか」


瑠奈は口からガムを出し、林太郎くんの手のひらに乗せた。


「何故俺の手に......」

「そこに手があったから!」

「ティッシュ使えよ」

「そんなこと気にしてるからガリガリなんだよ」

「なん......だと......」

「り、林太郎くん、マッチョグミあるよ」

「なに⁉︎」


林太郎くんはマッチョな体が形取られたグミを大量にカゴに入れ、そればかりを食べ続けた。


なんだかんだ会話も弾んで楽しい時間を過ごして15分ほど経った時


「乃愛、お金払ってから選びな」

「早く早く!」

「あ、乃愛先輩と結愛先輩」

「蓮!」


二人は暗めのジーパンと黒いパーカーの上に黒いジャンバーを着た、地味な双子コーデで現れた。

それを見た瑠奈は、小さなドーナツを頬張りながら二人に近づいた。


「なんで乃愛先輩がいるわけ?」

「駄菓子屋食べに来た。ドーナツなんか食べたら太るよ?」

「んじゃ乃愛先輩は絶対ドーナツ食べないでね」

「私は脂肪を胸に吸収するタイプだから」

「胸?ブフッ」

「なに笑ってんだよ。ドーナツみたいな顔にするぞ」


どんな顔か気になりながらも、瑠奈が暴れないうちに服を引っ張って席に戻した。


「今日は大人しくして」

「う、うん!」

(今日はいい子にしなきゃね♡だってプロポーズされるんだもん♡)


乃愛先輩と結愛先輩は隣の席に座り、林太郎くんもいるからか、気を使って話しかけてこない。


「そういえば、林太郎くんって部活とか入らないの?」

「とくにやりたいことないんだよねー。蓮は?」

「僕は二年生になったら茶道部に入ろうかなーって」

「んじゃ私も!」

「えー」

「えーってなに」 

「なんで茶道部?」

「このハードモードの学校生活で、癒しを得れそうだなと思って」


すると乃愛先輩はスルメをかじりながら話しかけてきた。


「生徒会にいる以上、部活にあまり行けないし、行ったとしても生徒会役員だと変なミスとかできないよ?どんなことも完璧にこなさなきゃ」

「僕、やっぱり部活入るのやめます」


乃愛先輩は美術部での活動を完璧にこなしているとは思えない。絶対本人には言えないけど。


「それより、僕達そろそろ時間だよ」

「俺はお腹いっぱいだし延長しなくてもいいや」

「る、瑠奈は延長したい?」


何故か瑠奈は少し不機嫌そうにガムを噛んでいる。


「蓮」

「な、なに?」

「私、焦らしプレイは好きじゃない!もっとガツンとドカンときてよ!」

「なに言ってんの⁉︎」


結愛先輩達はもちろん、他のお客さんや店員さんまで僕達をガン見してきて、駄菓子屋はかなり気まずい空気に包まれた。


「私は昨日からずっと待ってるの!」

「なにを⁉︎」

「プロポーズに決まってるでしょ!」

「......林太郎くん、瑠奈がおかしくなったよ......」

「プ、プロポーズする約束でもしてたのか?」

「した‼︎」

「してないよね⁉てか、口からガム出たよ⁉︎」


それに乃愛先輩、そんな不安そうな顔で僕を見ないで、更に気まずくなるよ。


「私のこと弄んだの?冗談でしょ?蓮はそんなことしないもんね」

「蓮、とにかく瑠奈を静かにさせろ」 

「あ、あー、プロポーズねプロポーズ」

「思い出した⁉︎」

「思い出した思い出した......」


瑠奈はどこかで記憶が改ざんされているんだ。僕はプロポーズの約束なんかしてないのに!


そして瑠奈は、期待に満ち溢れた表情で僕を見つめ、背筋をピンッと伸ばした。


「えーっと......」

「はい!」


僕は飲んでいたジュースのプルタブを取り、瑠奈の左手の小指の第一関節まではめた。


「婚約指輪ね」

「やったー‼︎」

「静かにして」

「だって嬉しんだもーん!」


蓮のその場しのぎの行動が、乃愛の心を傷つけ、切ない表情でプルタブを見つめていることを蓮は知らなかった。


「乃愛先輩、結愛先輩、お先に失礼します!」

「あ、うん」


僕と林太郎くんは騒がしい瑠奈を連れて店を出て、ショッピングモール内にあるゲームセンターに向かった。


「プリクラ撮ろ!」

「いいけど」

「んじゃ、林太郎は機械の外で待っててね!」

「え、俺は仲間外れかよ」

「婚約者の邪魔をする気?」

「はいはい、待ってるから早くしろよ」


林太郎くんを待たせて瑠奈とプリクラを撮り、その後はみんなでUFOキャッチャーをして遊びまくり、ショッピングモール内にあるベンチに座って休憩していると、雫先輩から着信が入った。


「もしもし」

「今すぐ生徒会室に来なさい」 

「今日土曜日ですよ?」

「命令よ」

「分かりましたよ。今出先なんですけど、私服でいいですか?」

「かまわないわ」

「了解です。今行きます」


休みの日に呼び出しなんて初めてだ。


「ごめん、学校に呼び出されたから行くね」

「えー!まだ遊びたい!」

「雫先輩からの呼び出しだから、行かないとまずいよ」

「ふーん。んじゃ私も帰る」

「ごめんね。林太郎くん、瑠奈を頼んだよ」

「了解」


蓮が走ってその場を後にすると、林太郎は天井を見上げて言った。


「なんで、わがままで自分勝手な自分で居続けるんだ?」

「生まれつきだよ」

「違うだろ?中学の時、蓮に好きな人ができてから瑠奈は変わった」

「へー、気づいてたんだ」

「元々は優しくて誰かを傷つけたりするような人じゃなかったし、どちらかと言うと物静かに、ニコニコしながら蓮の側に居るだけのタイプだったろ」

「まぁ、私にも色々あるんだよ」  

「なんで変わったか当ててやろうか」

「言ってみ?」

「自分が傷つくのも、蓮が傷つくのも怖い。だから自分勝手に明るく振る舞って、蓮が自分から離れても明るくいれば傷つくことなんてないと思った。でも傷ついてしまった。明るく振る舞って傷ついてるってバレなければ、蓮を困らせることもないと思った。でも傷つく自分を隠せなかった、蓮が他の女といると許せなかった。それが瑠奈のコンプレックにもなってるんじゃないか?」

「......うざ」

「え」 

「大正解〜、ピンポンピンポーン」

「やっぱりな。いきなりキャラが変わって、蓮になにか言われなかったのか?」 

「元気だね。それだけ」 

「あいつ......」

「このプルタブも、蓮がその場しのぎではめた、なんの意味もないプルタブだって分かってる。分かってるのに......嬉しかった」 

「それでいいだろ。俺は蓮が羨ましいよ」 「林太郎も好いてくれる女の子いないの?そっか......」

「まだなにも言ってないんだが」

「大丈夫、いつかできるよ」 

「哀れみの目で俺を見るな」


その頃蓮は走って学校に向かい、生徒会室へ急いでいた。

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