鬼のフリした悪魔


「結愛ー!」

「な、なに!」  


瑠奈は昇降口で結愛先輩を見つけて飛びついた。


「今日は一緒にお昼食べようねー!」

「分かったから離れて!」

「やだー!」


きっと、結愛先輩に手錠をかけたのは瑠奈だ。でも、結果的に仲良くなれたなら怒る必要はないかな。


「あ、蓮」 

「おはようございます!瑠奈とお昼食べると、お金が無くなる場合があるので頑張ってください!」

「え、瑠奈ってお金盗む人?」

「そんなことしない!奢ってもらうだけ!」

「やっぱり一緒に食べるのやめていい?」

「なんで⁉︎私達友達じゃん!」

「なんで?」

「......はー⁉︎やっぱりお前はムカつく‼︎おらぁ〜‼︎」


瑠奈は勢いで結愛先輩を殴ろうとしたが、結菜先輩は無表情で瑠奈を背負い投げして気絶させた。


「結愛先輩!やりすぎです!」

「いいのいいの」

「でも、雫先輩が見てますよ」

「ふぇ⁉︎」

「瑠奈さんを保健室に連れて行きなさい。蓮くんは私と生徒会室に行くわよ」

「は、はい」


結愛先輩は瑠奈を引きずりながら保健室へ向かい、僕は雫先輩と生徒会室にやってきた。


「朝から仕事ですか?」

「大事な話があるわ」

「な、なんです?」

「瑠奈さんが退学の危機よ」

「え⁉︎な、なんで!」

「今まで起こした問題は全て、解決しても上に報告する義務があるの。瑠奈さんは問題を起こしすぎたわ」

「退学が決まったわけじゃないんですよね」

「決まってはないわ。でも、次問題を起こしたらかなり危ないわね」

「さ、さっき殴りかかったのは......」

「あれは二人が仲良くなった最初の挨拶だったと判断するわ」


あんな物騒な挨拶あるか‼︎


「とにかく、蓮くんが瑠奈さんを見張りなさい。瑠奈さんは頭で分かっていても行動してしまう人だから」

「分かりました」

「それと、蓮くんはいつになったらオール100点を取れるのかしら」

「つ、次こそは......」

「取れなかった時はどうする?」

「え、なにも」

「そんなのダメよ。何の代償も背負わずに言う意気込みなんて、私は信じられないわ」

「えっと......グラウンド100周で......」

「最近の蓮くんは、走ればなんでも許されると思っているようね」

「そんなことないです!」

「それじゃ、走る以外で考えなさい」

「......校内の掃除とか......」

「いいわ。教室、トイレ、廊下は勿論、体育館も全て、校内の隅から隅まで一人で掃除しなさい」

「分かりました」

「それじゃ、今日のテスト頑張りなさい」

「はい!......今日って、テストの日じゃないですよね。テストは明日ですよ」

「いいえ、今日よ。生徒に伝えた日より1日早くテストをすることにしたの」

「どうしてですか⁉︎」

「テスト前日ギリギリまで勉強をすることに意味があるとは思えないわ。頑張ることは素晴らしいこと、でも、ギリギリで助かる経験を何度もすると、ダメ人間になってしまうわ。教室でテストに備えなさい」 

「はい.......」


やばいやばいやばいやばいやばい‼︎ギリギリまで勉強する僕の性格を知っていたかのようなやり方‼︎

どうする......瑠奈に書き終わったテストをこっそり見せてもらうか?

......ダメだ〜!テストの日は監視カメラがある!生徒会の僕がカンニングなんてしたら、校内の掃除どころじゃない!

寒空の中昇降口前に裸で放置されて、冷え切った体に辱めの為の文字をを焼き付けられる‼︎

いや、あの雫先輩のことだ......それでは飽き足らず、爪を1枚1枚剥いでくるに違いない!


「蓮?」

「瑠奈!目を覚ましたんだね!よかった!」


僕は瑠奈の両肩を掴み、笑みが溢れた。


「えっ、え⁉︎」

「瑠奈!僕には瑠奈が必要なんだ!」 

「ど、どうしたの⁉︎わ、私も蓮が必要!」

「今日、テストがあるらしい!テストまで30分しかない!勉強教えて!」

「わ、分かった!早く教室行くよ!」


蓮に悪気は無いが、瑠奈を勘違いさせて顔を赤くさせた。だが、蓮はそれどころじゃない。


僕達は教室に戻り、瑠奈はノートを広げて僕に勉強を教え始めた。


「それで、これがこうなるの!分かる?」

「......分かんないよ〜‼︎分かんないんだよ〜‼︎」

「蓮!落ち着いて?私が居るから!」

「頼むよ!瑠奈だけが頼りなんだ!オール100点を取らないと大変なことになる!」


カンニングさえしなければ掃除だけで済むが、蓮はパニックになりすぎて、オール100点取らなければ、さっきした被害妄想が現実になると思い込んでしまっていた。


「わ、私だけが頼り?」

「そうだよ!だから30分で全てを僕の頭に叩き込んで!」

「う、うん!」


そしてテスト5分前、中川先生が教室にやってきた。


「はーい!みんな席に着きなさーい。今日は急遽、明日する予定だったテストを今日やります」

「先生‼︎」

「はい、涼風くん」

「5分早いです‼︎職員室に戻ってください‼︎」

「はい?」

「見て分からないですか⁉︎僕は今、瑠奈に勉強を教えてもらってるんですよ!人生かかってるんですよ‼︎」

「はーい、席に着きなさーい」


瑠奈は今までで一番顔を赤くし、机に顔を埋めた。

(人生かかってるってなに⁉︎まさか......結婚⁉︎オール100点取って、カッコよくプロポーズ⁉︎もう!点数なんてどうでもいいのに、蓮のバカ!)


林太郎は机に顔を埋めてモゾモゾする瑠奈を微笑ましく見つめていた。

そしてテストが始まり、瑠奈がずっと蓮の背中を見つめて結婚の妄想をしているうちに放課後を迎えた。


「瑠奈......生徒会室行ってくるね......」

「うん!」


テストで燃え尽きた状態で生徒会室の扉を開けると、乃愛先輩はいつも通り「蓮〜!」と僕の名前を呼んで飛びついてきたが、僕はそのまま倒れてしまった。


「蓮?......雫大変‼︎蓮が倒れた‼︎」

「見れば分かるわよ」

「し、死んでる‼︎」

「い......生きてます」

「生ききてよかったわ。さぁ、監視カメラの確認をするわよ」


雫先輩以外のみんなに心配の視線を向けられながら、監視カメラの確認が終わった。


「今回もカンニングは無かったわね。今日は解散でいいわ。千華さんと梨央奈さんはゲームセンターを、結愛さんと乃愛さんはショッピングモールを見回りしてから帰ってちょうだい」

「了解」

「雫先輩、僕はどうしたらいいですか?」

「かなり疲れているようだし、今日は帰りなさい。明日、もっと疲れるはめになるかめしれないものね」

「あはは......帰ります」


教室に瑠奈を迎えに行き、瑠奈と一緒に帰っている途中、瑠奈は携帯を見ながら立ち止まった。


「どうしたの?早く帰ろうよ」

「ショッピングモールに駄菓子屋ができたんだって!しかも食べ放題!」

「今の時代に駄菓子屋?しかも食べ放題で利益あるのかね」

「行ってみようよ!1500円で全ての駄菓子が食べ放題!」

「ダメだよ。結愛先輩と乃愛先輩がショッピングモールで見回りしてる」

「あの二人なら大丈夫でしょ」 

「ダメだって、僕が怒られちゃう。明後日にしよ、土曜日だし」

「一緒に行ってくれるの⁉︎」

「いいよ。お金持ってきてね」

「分かった!」


二人が家に着いた頃、乃愛は駄菓子食べ放題の店を見つめていた。


「乃愛、今はダメだよ」

「えー」

「土曜日来よ」

「分かったー」


そして翌日、僕は学校に行くのが憂鬱だった。

僕達の学校は、テストの翌日には結果が出る......しかも体育館でオール100点の人は褒められ、成績の悪い生徒は晒し者にされるやり方で......


「はぁ......学校着いちゃた」 

「蓮?元気ないね、大丈夫?」

「テストの結果が心配で......」

「だ、大丈夫だよ!私が教えたんだもん!」

「そうだね......」


教室に荷物を置き、僕は体育館の後ろで生徒会メンバーのみんなと合流した。


「千華先輩、質問いいですか?」

「なに?」

「雫先輩がテストの結果が悪い生徒に与えた一番やばい罰ってなんですか?」

「えー、なんだろー......私がウワッって思ったのは、一週間、語尾にブヒを付ける罰かな!」

「悪趣味......」

「あれもヤバかったよね!」

「なんですか梨央奈先輩!なにがヤバかったんですか!」

「食用のサソリと幼虫とか、いろんな虫のスペシャルメニューを食べさせてた!しかも女子生徒に」

「悪魔そのもの......鬼じゃなくて悪魔ですよ!ちなみに、結愛先輩はなにか知りません?」

「全力のキス顔の写真を背中に一週間貼るとかかな。私なら絶対無理」

「このまま社会に出しちゃダメな人ですよ。乃愛先輩はなにが一番ヤバイと思いました?」

「お昼休みに、語尾をニャンにさせて恥ずかしい話を校内放送で喋らせてた!しかも男子生徒にやらせたんだよー」

「女子高生の皮を被った鬼!鬼になりすました悪魔!」

「雫に聞こえるよ?」

「あははー!千華先輩!雫先輩を悪く言うとか最低ですね!」

「蓮⁉︎」


ごめんなさい千華先輩。僕はまだ死にたくないんだ!


それから数秒後、すぐに雫先輩は体育館に入ってきて、ステージに上がった。


「おはようございます」

「おはようございます!」


全校生徒が大きな声で挨拶すると、雫先輩は数枚の紙を広げて喋り始めた。


「大槻瑠奈さん。立ちなさい」

「はーい」

「貴方、昨日のテストがオール0点だったわよ」



る、瑠奈が......オール0......嘘だろ......瑠奈に教わった僕はどうなる......


嫌な汗をかいて若干目眩がし、瑠奈と雫先輩の会話が篭って聞こえる。


「蓮くん?大丈夫?」


梨央奈先輩が僕を心配して背中をさすってくれた。


「瑠奈さんはこの後、生徒会室に来なさい」

「分かった分かった。行けばいいんでしょ、行けば」

「次に山本睦美さん、立ちなさい」

「はい」

「おめでとう。一般生徒で唯一のオール100点だったわよ。睦美さんに限り、今日は食堂や売店での買い物を全て無料にします」

「ありがとうございます!」


すごいな睦美先輩、雫先輩に心配かけないように、人間関係だけじゃなく、勉強も頑張ったんだろうな。


「当然ですが、生徒会のみんなはオール100点でした。今から合計600点以下の生徒の名前を読み上げるので、呼ばれた生徒はすぐに立ちなさい」


生徒会のみんなはオール100点......みんな⁉︎


「僕......まだ生きてていいんですね......」

「蓮、なに泣いてんの」

「千華先輩には分からないでしょうね。僕が抱えていた恐怖が」

「う、うん。なんかごめん。てか、瑠奈ちゃんが満面の笑みで見てるよ」

「あ、本当だ」


僕も満面の笑みで瑠奈を見て、グッドポーズを送ると、瑠奈は頬を赤くして嬉しそうに前を向いた。


それから雫先輩は30名の生徒を立たせ、しばらく何も言わずに一人一人に視線を送って恐怖心を与えた。


「さて、この30名の生徒への罰ですが、詳しいことは生徒会室で話します。この後すぐに来なさい」


そして公開処刑の時間が終わり、教室に戻って瑠奈にお礼を言おうと思ったが、瑠奈は生徒会室に呼び出されていて教室には居なかった。


その頃生徒会室では、瑠奈以外の生徒は廊下で待たされ、最初に瑠奈が雫と話をしていた。


「テストが全て白紙だった理由は?」

「ボーッとしてた」

「貴方は退学の危機なのよ?そこでテストを放棄してどうするの」

「悪いことしなければ大丈夫でしょ」

「人間っていうのはポイントで成り立っているの」

「ポイント?なんかの割引きに使えるの?」

「考え方次第ではそうね。私が今から言うことを想像してみて」

「分かった」

「毎日勉強を頑張り、みんなに優しく、とても真面目な高校。もう一人は髪を明るく染め、暴力沙汰の噂が絶えない高校生。この二人が同じ日に同じにコンビニに行き、その日のお客さんはその二人だけでした。そしてその日、そのコンビニでは万引き事件が起きました。どっちが犯人だと思う?」

「暴力の噂が多い方」

「犯人は真面目な高校でした」

「は?おかしいでしょ」

「そう。不真面目な生徒は本当に万引きをしていないのに疑われてしまうの。真面目な生徒は万引きをしているのに疑われることもなく助かった。何故だと思う?」

「分かりませーん」

「これが、日頃から積み上げたポイントの差よ。会社でもそう、日頃から売り上げもよく、テキパキ働く人は一度のミスを笑って許してもらえる。売り上げが悪く、怠けている人はミスをした時、これでもかと注意される」

「要するに、過去のことは学力で稼いだポイントでカバーしろってこと?」

「そうよ。貴方は頭がいいのだから、またオール100点を取れば、しばらく様子見てやるか程度には思ってもらえるはずよ」

「ポイントねー。悲しい世界だ」 

「同感ね。次は頑張りなさい」

「え、罰は?」 

「受けたいなら受けさせてあげるわよ?」

「ポイント稼ぎ頑張りまーす」


瑠奈が生徒会室を出て行くと、廊下で待機していた生徒は10名ずつ生徒会室に入り、恐怖と希望を植え付けられて生徒会室を後にしていった。


そして教室では、瑠奈が蓮のプロポーズを期待してソワソワしていたが、放課後になってもプロポーズはなく、明日一緒に出かけた時にしてくれるんだと勝手に思い込んで自己解決していた。


「お疲れ様でーす。今日の仕事は何ですか?」

「蓮くん、初めてのオール100点おめでとう」

「あ、ありがとうございます!」

「宣言通りの結果を出せたことは素晴らしいわ。罰を与えます」

「はい!......はい?」

「鬼ではなく悪魔だったかしら?女子高生の皮を被った鬼、鬼のフリをした悪魔、だったかしら?」

「喜んで掃除してまいります!」


この、妖怪地獄耳‼︎


「そう。そんなにしたいならしたらいいわ」

「はい!」

「ちなみに、私は鬼であり悪魔でもある。蓮くんは間違っていないわよ」

「んじゃなんで罰なんですか‼︎」

「無実の千華さんに罪をなすりつけた罰よ」

「それならいいよ!私は怒ってないし!」

「だったら二人でやりなさい」

「二人でヤルって♡雫のエッチ♡」

「蓮くん帰っていいわよ。全て千華さんにやらせるわ」

「あ、はーい。帰りまーす」


千華先輩、そんな真顔で見つめないで......


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