会長のウサギパンツ?


「お待たせしました!」


生徒会室に入ると、雫先輩は外を眺めながら僕を待っていた。


「来たわね。校長室に行くわよ」

「お父さんでも来てるんですか?」

「それならどれだけ良かったことかね。瑠奈さんの退学の件について会議が行われたのだけれど、もう私の力じゃどうしようもないのよ」

「この学校で雫先輩の力は絶対なんじゃ」

「上には上がいるものよ。そこで蓮くん」 

「はい」

「最終手段として、貴方には情で訴えてもらうわ」 

「僕がですか⁉︎」

「そうよ、瑠奈さんと一番仲がいい人がやらなきゃ意味がないもの」

「無理です!」

「やりなさい」

「いやいやいやいや」

「やるの」

「お父さんに退学を取り消してもらえばいいじゃないですか!」

「学校のことは私に任せているのよ。本当、私一人の時は威張り散らかす情けない連中だから、蓮くん相手ならもっと大変かもしれないけれど」

「んじゃダメじゃないですか!」

「だけれど、蓮くんには人の心を動かす力がある。きっとできるわ」

「......できなかったら瑠奈は......」

「正式に退学が決定するわ。私は過去に、この戦いに負けた。もう、同じ思いはしたくないのよ」


あ......きっと、万引きで退学にさせたあの人のことだ......


「瑠奈のためでもあり、雫先輩のためでもあるってことですね」

「そうなるわね」

「成功した時の報酬、期待してます」

「そうね。期待していいわ」


僕達は校長室に向かい、堂々と校長室の扉を開けた。


「ほう。君が大槻瑠奈と一番仲のいい少年か」

「はい」


そこに居たのは一人の40代ぐらいのおじさんで、見た目がとにかく怖い。オールバックに鋭い目つき......裏の人じゃないよね⁉︎


「他の者は帰ってしまったが、この問題に関しては私が最高責任者であり、決定権を持つ。私一人で問題ないだろう」


雫先輩がソファーに座り、僕は雫先輩の隣に座った。


「さて、君の話を聞こう」

「えっと......瑠奈を退学にしないでください......」

「友達なら分かるだろ、大槻瑠奈は数回暴力沙汰を起こしている。もう見逃せない」

「でも、瑠奈は反省してます......」

「本人の反省など、なんの価値もない。起きてしまったことは変わらない、事実なんだ」


ダメだ......このままじゃ瑠奈が......

うるさい奴だけど、やっぱり居なくなるのは寂しいかもな......


「話は終わったようだな」

「待ってください!」

「なんだ」

「暴力沙汰が問題なんですよね」

「その通りだ」

「雫先輩、乃愛先輩や結愛先輩達のことも全部報告してるんですか?」

「してるわよ」


いける!


「それじゃ何故、瑠奈だけが退学なんですか!」

「数が違う」

「そんなことないです。瑠奈が暴れる時は決まって、生徒会の誰かが関わってます。瑠奈の暴力の数だけ、生徒会の誰かが瑠奈と喧嘩してます。貴方は......貴方は生徒会の誰かを退学にするのが怖いだけです!だから瑠奈一人を退学にさせて解決しようとしてる!」

「私が怖がっているだと?」

「そうですよね。雫先輩のお父さんがいる時はペコペコしてるそうじゃないですか。その娘さんが束ねる生徒会に喧嘩を売るのが怖いだけじゃないですか?」

「貴様‼︎」


おじさんは怒りをあらわにして立ち上がったが、僕も負けじと立ち上がった。


「なんですか‼︎僕も生徒会のメンバーです!瑠奈を退学にするなら、僕のこともしてみてくださいよ!」

「お前のような男がこの学校の生徒会?笑わせるな。お前を退学にすることなど容易い」


すると雫先輩は立ち上がり、鋭い目つきでおじさんを睨みつけた。


「涼風蓮は生徒会のメンバーです。私が断言します。蓮くんを退学にさせますか?」

「......」

「どうしました?貴方にとっては容易いことなんですよね?それと、お父様が居ないところでは私に対して威圧的な態度を取ることはお父様に報告します」

「か、勘弁してくれ!」

「話は聞かせてもらったぞ」


廊下から聞き覚えのある声がしたと思えば、雫先輩のお父さんが校長室に入ってきて、雫先輩よりも怖い目つきでおじさんを睨みつけた。


「お、音海様......誤解です!」

「私の大切な雫に威圧的な態度を取ったとは許せることではない。だが、それはあくまで家族的視点からの意見で学校に持ち込むべき問題ではない」 

「心改めます!すみませんでした!」

「本人の反省など、なんの意味もない。自分で言った言葉だ。そして問題は蓮くんを脅したことだ」 

「脅しなんてそんな!」 

「お前を退学にすることなど容易い。確かに聞いたぞ」

「それは......」

「お前はもう必要ない。帰れ」


おじさんは絶望に顔を歪ませて校長室を出て行った。


「お父様、なぜ学校に?」

「海外での仕事が終わってね、頑張ってくれている先生達にお土産を持ってきたんだ」


雫先輩のお父さんは、おじさんが座っていたソファーに座って真剣な眼差しで僕を見つめた。


「座りなさい」

「は、はい!」

「瑠奈ちゃんが起こしたことは間違っている。その認識はあるね?」 

「はい......」

「でも君は瑠奈ちゃんを庇った」

「お父様、蓮くんには私から頼んだの」 

「雫は黙っていなさい」

「はい......」


雫先輩が圧倒されてるところなんて初めて見た......


「蓮くん......」

「はい」

「君は......」

「はい......」


雫先輩のお父さんは立ち上がり、笑顔で僕を指差した。


「パーフェクトだ‼︎」 

「はい......ん⁉︎」

「いいじゃないか!暴力沙汰はいけないこととはいえ、所詮は学生同士の揉め事!そしてその問題の全ては既に本人達の間で解決していることだ!そして蓮くんは友達のために戦った!話を聞いていたが、私がこの場にいなくても君の勝ちは確定していた!カッコいい!パーフェクト‼︎」

「あ、ありがとうございます!」

「学生って感じがしていいよ!青春だな!」

「ちなみに、あのおじさんはどうなるんですか?」

「今の仕事から足を引いてもらう。だがあの歳で無職は厳しいだろう。カラオケ店で働かせようと思う」


なんだかんだ見捨てないのは、雫先輩と同じだな。


「あの......」

「なんだい?」

「それじゃ、カラオケに行きづらくなります」

「んー、そうだね。君の部屋にカラオケの機械を買ってあげよう!」

「え⁉︎防音じゃないので無理です!」

「それは残念だ。それなら私の家に来るといい、カラオケだってなんだってできるぞ!」

「お父様、それは困るわ」

「どうしてだ雫」

「蓮くんはパーティーの日、勝手に私の部屋に入った前科者よ」

「雫先輩⁉︎」


雫先輩のお父さんは眉間にシワを寄せ、僕の目の前に来て胸ぐらを掴んだ。


「下着とか見てないだろうな」

「見てません‼︎」

「雫は子供の頃履いてたウサギのパンツを捨てられずに隠してるんだ。少しは気を使え‼︎」

「はい‼︎えー⁉︎」

「うはっ‼︎」


雫先輩は顔を真っ赤にしてお父さんのお腹を殴り飛ばした。


「わ、悪かった雫......」

「蓮くん、行くわよ」

「は、はい」


雫先輩と生徒会室に戻り、雫先輩は何も喋らずに外を見ている。


ウルトラ気まずい......でも、雫先輩がウサギのパンツをねー。いいこと聞いちゃった!


「また二人の秘密が増えましたね!ウサギのパンツ!」

「ま、まだ持ってるだけで履いてないわよ。勘違いしないでちょうだい」


本当に持ってるんだ。


「でも、雫先輩があんな表情するなんて驚きです!いいもの見れました!」

「蓮くん」

「は、はい......」


なんだ?恥ずかしそうな雰囲気が一瞬で消えた......


「人は頭を強く打つと記憶が消えるらしいの」

「僕帰りますね」

「待ちなさい」

「嫌です‼︎僕の記憶を無くす気ですよね‼︎」

「まだ言ってないわ」

「言わなくても分かります‼︎金属バットで殴るんですよね‼︎帰ります‼︎」

「ありがとう」

「ど......どういたしまして」

「後日、お礼はちゃんとするわ」

「分かりました」

「だ、だからウサギのことは......」

「言いませんよ?」 

「ありがとう」

「そ、それじゃ帰りますね」  

「さよなら」


そして蓮が生徒会室を出ると、雫は顔を赤くして自分の左胸に手を当てた。

(なんなのこの感じ......まだ話していたい......こんなのおかしい.......)


そのまま外を見ていると、蓮が校門を出る前に生徒会室を見上げ、笑顔で手を振ってきた。

雫はすぐに顔を逸らして窓際から離れて、しゃがみ込んでしまった。


(ダメ......もっと鬼にならなきゃ。私は幸せなんて望んではいけない人間......)


雫は立ち上がり、獲物を狙う鷹のような目つきで蓮を見下ろした。


「うわっ、怖っ」


僕は逃げるように早歩きで帰宅した。

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