性的欲求


「花梨ちゃん!退院おめでとう!」

「どうも」


花梨は同じクラスの生徒に声をかけられたが、花梨からすれば友達になった覚えはなく、むしろ、自分みたいな人に何も知らずに寄ってくる人を信用していなかった。


「腕大丈夫?」 

「気にしないで」

「蓮先輩になにされたの?」

「は?」 

「え、だって、蓮先輩がなにかしたから飛び降りたんじゃないの?本当最低だよねー」

「分かるー。最低すぎ」

「一人になると何もできない雑魚は大人しくしてた方がいいよ」

「そ、そんなこと言わなくてもいいじゃん......」

「あー、花梨ちゃん、有紗のこと泣かせたー」

「ほら見ろ、さっきまで心配してたのに、泣かせたぐらいですぐ私を責める。最初から心配なんてしてないでしょ。心配してる私優しい〜みたいなのやめた方がいいよ」

「マジ感じ悪い、有紗、あっち行こ」


花梨がイライラを抑えられずに泣いてる生徒の背中に筆箱を投げつけると、そのタイミングで教室に蓮がやってきた。


「か、花梨さん?」

「あ?」

「え......」

「蓮先輩!今、花梨ちゃんが有紗に筆箱投げつけました!」

「そうなの?」

「うん、投げた」

「なんで?」

「ムカつくから。それと、良い子ちゃんぶってるアイツ、蓮先輩のこと最低とか言ってたよ」

「ぼ、僕はいいよ。それより、雫先輩が呼んでるから生徒会室に行こう」

「了解」

「蓮先輩、なんで怒らないんですか?筆箱を投げたんですよ?」

「きっと、君達にも問題があったと思うよ?みんな仲良くね。仲良くしないと、気づいた時には目の前に怖〜い会長がっ」

「怖い会長がなにかしら?」

「......」


なんでここに雫先輩が⁉︎


「呼ぶのにいつまでかかってるのよ」

「ク、クラスが分からなかったので......」

「会長!花梨ちゃんが有紗に筆箱を投げつけたんです!」

「なぜ投げつけたの?」

「一人じゃなにもできないくせに、蓮先輩を最低とか言ってムカついた」 

「そう、ならしょうがないわね。反省しなさい。行くわよ」


結局二人の女子生徒は、雫先輩の一言には反抗してこなかった。

三人で生徒会室に来ると、なぜか梨央奈先輩がニコニコしながら縄を持っていて、千華先輩に指示を出した。


「千華、押さえて」 

「はーい」


千華先輩は花梨さんの体を掴み、梨央奈先輩が縄で花梨さんの体を縛り始めた。


「な、なに⁉︎離してよ千華!」

「ごめんね?」

「意味わかんない!」


これ、僕が見て良いやつなのかな......


花梨さんは骨折している右腕以外の手足をガッチガッチに縛られ、身動き取れずに横たわっている。


「さぁ、口を開けなさい」

「なんなの⁉︎」

「開けなさい」


えっ、なんか、見ないでおこう。

僕はみんなに背を向け、音だけで楽しむことにした。


「梨央奈さん、花梨さんの顎を掴んでちょうだい」

「了解」

「ぬあっ!やめっ!」

「もっと舌を出しなさい」

「ひゃめふぇ!」

「なに言ってるか分からないわよ」


なっ......なにしてるんだ......


「唾液を止めなさい」 

「むひぃ!」

「すごいヌルヌルじゃない」

「雫、優しくね」

「分かってるわ」

「ん〜!」

「ダメね、これを使うわ」

「いやぁ!」

「いくわよ」 

「いひゃい!いひゃい!」

「痛い?我慢しなさい」


ヌルヌル⁉︎何を使ったの⁉︎痛がってるよ⁉︎


「なかなか抜けないわね」


抜けないの⁉︎


「まわひゅ!まわひゅ!」

「回す?分かったわ。もっと舌を出して」

「だひゅから!」

「やっと取れたわ」

「みんな何してるんですか‼︎......あれ?脱いでない」


花梨さんが涙目になりながら唾液を垂らしてるだけの、少しエロい謎の状況だった。

そしてなぜか雫先輩はペンチを持っていた。


「蓮くん、脱いでないってなに?」

「り、梨央奈先輩は脱いでないなーって......あははー」

「脱いでほしいの?♡」

「はい、いや、雫先輩、なにしてたんですか?」

「本音言った後に話逸らすとかずるい」

「雫先輩、なにしてたんですか?」


ここは一度、梨央奈先輩は無視しよう。


「これよ」

「なんですかこれ」

「花梨さんの舌ピアスよ。校則違反だから取ってあげたのよ」

「な、なるほど」

「なんでいきなり‼︎気に入ってたのに‼︎」

「花梨さんが気に入っているかどうかは関係ないわ」

「雫先輩、話しながらさりげなく僕の制服で唾液拭かないでください」

「あら、ごめんなさい。突っ立てるだけだから雑巾かと思ったわ」

「雑巾は立たないですよ。てか、今会話しましたよね」 

「うるさいわね」

「はい、ごめんなさい」  


今日の雫先輩は理不尽だ!いや、いつもかもしれない。


「早く解いてよ!」

「梨央奈さん、解いてあげて」


花梨さんは縄を解いてもらい、ピアスを持って悲しげに教室に戻っていった。


それから、周りに馴染めないせいで、いじめられたりしないか監視するように雫先輩に頼まれたが、特にいじめられる様子もなく、学校でも問題はなにも起きないまま6月に入った。


「蓮」

「おはようございます乃愛先輩」

「おぱー」

「お、おぱ」

「今月ね、瑠奈とキャンプしたいねって話してて、蓮も林太郎誘って行かない?」

「キャンプですか?道具とかあるんですか?」

「全部キャンプ場でレンタルできる場所があるの!食材とかは自分で持っていかないとだけど」

「いいですね!林太郎くんに聞いときます!」

「了解!予約したいから早めに聞いといて!」

「分かりました!」


四人でキャンプかー、最近、瑠奈と乃愛先輩は仲が良くて、よく四人で遊ぶことも増えたし、楽しいかもしれない。


教室に行くと、すでに瑠奈が林太郎くんにキャンプの話をしていた。


「おっ、蓮」

「キャンプの話聞いた?」

「うん、蓮は行くのか?」

「僕は行きたいけど」

「やった!蓮も一緒!」

「なら俺も行こうかな」

「んじゃ、私から乃愛先輩に言っておく!」


瑠奈は相当楽しみなのか、嬉しそうに教室を飛び出して行き、その後すぐに雫先輩がやってきた。


「今月の体育祭の書類、まだこのクラスから出てないわよ」

「え⁉︎」

「それなら俺が持ってます」 

「提出日は三日前の放課後だったはずよ」

「すみません」

「林太郎くんは今から手を使わずに廊下の雑巾がけ。それとキャンプはいいけれど、男女で行くのだから、健全に楽しみなさいね」

「健全じゃないキャンプってどんなのですかー?」

「蓮くん?私にそれを聞かなくても分かるでしょ?生徒会一の変態なのだから」

「いやいや!1番は千華先輩です!いや、梨央奈先輩かもしれません!てか、雫先輩は性的欲求とかなさそうですよね」


雫先輩はポケットからメモ帳を取り出し、メモを取り始めた。


「6月1日、午前7時3分、涼風蓮のセクハラ発言。このメモは弁護士に送っておくわね」

「林太郎くん、セクハラはダメだよ」

「なに罪をなすりつけようとしてんだ」

「蓮くんも手を使わずに廊下を綺麗にしなさい」

「さっきも思いましたけど、どうやってですか」

「頭を使いなさい」


その後僕達は、雫先輩の言葉通り頭を使って雑巾がけをした。


「林太郎くん......僕、これでも生徒会に入ってるんだよ」

「哀れだな」

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